月の光

夜中に起きて、ふと庭を見ると霜が降りたように白い。「疑是地上霜」と詠んだ李白の“静夜思”を思い起こさせる八月の満月でした。夕方まで雨の降っていた八ヶ岳西麓では、夜半過ぎから空が澄み渡り満月が出ていたのです。
 青白い月の光はそれだけでも艶めかしいのですが、雨上がりの草や木に残った水滴に反射する光はいっそうに妖艶です。洋の東西を問わずに人は月を観て様々な思いを巡らしましたが、周りに人工の光の無い中で観る満月の明るさと美しさは、まさに“値千金”にふさわしいものです。都会ではもはや不可能となったこの美しさに見とれる楽しみを、心行くまで堪能した週末の夜だったのでした。
 桂離宮を引き合いに出すまでもなく、私たちの国は月に寄せる思いは並々ならぬものがあります。美しい月を観るために様々な工夫を凝らしてきました。月見台、月の光を反射させる白い庭石、水面に映る月のための池など、きっと数え上げれば切りがないほどの細工、意匠があるのでしょう。月を観るためにススキを飾りお団子を供えたりする国民は世界でも珍しいのではと思います。子供のころは「お月見」の良さも何もわかりませんでしたが、年齢とともに感慨が深くなっていくようです。「竹取物語」はSFチックで今でも人気のあるお話ですが、あそこでは月が「死」の世界という設定となっています。やはり私も一歩ずつ近づいているのですねえ。
 

スーパームーン