眠る

 ヒトは寝ている間に体を心身とも回復させると言います。しかしまあこれは生物共通のことでしょうからヒトに限ったことではないのですが、ヒトはことさらこの“眠る”ことに神経を使う生き物であることは間違いないようです。
 眠りに誘う様々なグッズがあります。中でも枕はあーだこーだと諸説があって、材質、形状、色調と多様なものが用意されています。その価格もピンからキリで、オーダーメイド枕というものさえ販売されている有様です。抱き枕という、文字通り抱いて寝るための、枕と言うよりは添い寝布団のようなものまであり、横を向いて寝るときに手足を絡ませて使うと楽な姿勢で寝られるらしく、かなりの愛用者がいるようです。
 しかし何といっても寝る道具の中で一番重要なものと言うと、布団、もしくはベッドとなるでしょう。私はベッド派ですが、畳の上の布団に拘る人もまだ多いようです。噴火前年の御嶽山に登った折に泊まった山小屋で、板の間の上に布団を敷いて寝たのですが、夜中に何度も目が覚めました。背中や体のあちこちが痛んで目が覚めるのです。私も子供の時は布団で畳の上に寝ていたのですが、習慣というものはオトロしいものと思いました。
 夜中に何度も寝返りを打ち、文字通り大の字で眠る、そんな寝方ができるのは子供のうちだけのようです。何も考えずに上を向いてスヤスヤ眠れる時代はもうとうに過ぎ去り、腰が痛くならないように横を向いたりうつぶせになったり、あるいは悶々として寝返りを打ち返すという、眠ることにも大変な労力を強いられる、おまけに毛玉の主が足元に寄りかかって寝るしで、寝返りすらままならない夜が少なくないのです。
 「七月ばかりに 風いたうふきて 雨などさわがしき日 おほかたいとすずしければ 扇もうちわすれたるに 汗の香すこしかかへたる綿衣のうすきを いとよくひきて着て昼寝したるこそをかしけれ」(枕草子 四十四)
 こんな風に寝てみたい。

寝ることについてはこの方に敵わない