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2012-05-08

ライトノベルミステリの困難さ

この1年で『GOSICK』『ANOTHER』『氷菓』といったミステリアニメが放送されました。GOSICK富士見ミステリー文庫出身、ANOTHERはいとうのいぢの挿絵を入れて角川スニーカー文庫で発売、氷菓角川スニーカー文庫出身と、いずれもライトノベルと密接な関係を持っています。

 それでは、ライトノベルミステリの食い合わせは良いのでしょうか?

GOSICK―ゴシック (富士見ミステリー文庫)

GOSICK―ゴシック (富士見ミステリー文庫)

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

 一見すると、小畑健の表紙で刊行された京極堂シリーズや同人誌が大量に作られた北村薫作品のように「探偵萌え」が成立しやすく相性は良いように思えます。

 食い合わせについて言及したエントリは以前にもありました。

ミステリとライトノベルの相性について - 三軒茶屋 別館

 ここで指摘されているように、

・制約が多い

・イラストが足を引っ張る

 など実はライトノベルミステリとの相性は良いとはいえません。

 ライトノベルならではの要素であるファンタジーやSF要素はトリック構築を圧倒的に難しくしてしまうため、どうしても現実的な作風にならざるを得ないのです。(そこをなんとかしようとしたのが『JDCシリーズ』であり『事件シリーズ』であり『折れた竜骨』であり『六花の勇者』です)

 そして、現実的な作風にすると、能力バトルものや異世界ファンタジーと比べて「地味」「分かりづらい」とライトノベル読者へのアピールは弱くなってしまいます。

 そもそもミステリというジャンルそのものの宿命として、ある程度の読解スキルと注意力を読者に要求するというのがあります。これが「気軽に読み流せる」ライトノベルの魅力を大きく殺してしまっているのです。

 これの具体的な例が、富士見ミステリー文庫とスニーカーミステリ倶楽部です。

 富士見ミステリー文庫(以下富士ミス)は富士見書房設立したミステリ専門ライトノベルレーベルです。当初はその名の通りミステリ色の強い作品を刊行していましたが、ミステリばかり刊行するのはきつかったのか、売れ行き不振だったのか、突如として「恋愛=ミステリ」という宣言をし(いわゆる「LOVE寄せ」)、本格的なミステリライトノベルからは撤退していき、迷走の末廃刊します。(もちろん、桜庭一樹の『GOSICK』などミステリ色の強い作品も存在していましたが。こういった作品のほとんどは富士ミス廃刊後に角川文庫創元推理文庫など一般書籍に引き継がれていきます)

 一方、スニーカーミステリ倶楽部(以下スニミス)は最初から最期まで愚直なまでにストロング・スタイルを貫き通したレーベルでした。恩田陸乙一はやみねかおる西澤保彦など今となってはミステリ界の大物作家達をラノベジャンル外から多数集め、米澤穂信をデビューさせ、アンソロジーから書き下ろし新作まで幅広く揃えた本格的なものでした。しかし、挿画がアニメチックなものが少なく、あまりにも一般書籍志向すぎてラノベ読者からは受け入れられず暗黒へと消えていきました。

 ここでレーベルから作家へと視点を移してみましょう。講談社メフィスト賞清涼院流水汀こるものといったラノベ寄りミステリ作家から辻村深月といった大衆小説寄りミステリ作家まで幅広い志向性ミステリ作家を輩出する新人文学賞として知られていますが、このメフィスト賞の産んだ怪物というべき存在が西尾維新です。

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社ノベルス)

クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い (講談社ノベルス)

 西尾維新のデビュー作『クビキリサイクル』は綾辻行人-京極夏彦-清涼院流水といういわゆる「新本格ミステリ」の文脈をひき、ミステリ的文法に則って作られた小説でしたが、シリーズを重ねるうちに路線変更していき、ついには能力バトル物へと変わっていきます。ここには名が売れていくにつれて当初はミステリだった戯言シリーズライトノベルとして扱われていった背景があるのではないかと推測しています。実際、戯言シリーズは「このライトノベルですごい!」で1位を取った実績がありますし、西尾維新自身も戯言シリーズを「ミステリライトノベルの融合」と語っています。この「融合」を進めていくにつれ、ミステリ色は能力バトルへと置き換えられざるを得なくなったのでしょう。

 何十年にも渡ってライトノベルが挑んできたミステリジャンルへの挑戦はことごとく失敗に終わっています。

 もっと根本的なことをいうと、オタク文化自体ミステリに親しみがない。

 ミステリと並ぶ一大ジャンル小説であるSFは昔から、先輩から後輩に受け継がれていく部活の伝統のごとく、オタク文化の中で生き延びてきました。SFアニメやゲームなどで作り手が発信したSFの知識と作法は受け手に伝わり、昔受け手だったオタクが作り手としてかつて学んだSF作法を再び次の世代に発信していくように。

 ところが、ミステリオタク文化に流入することはほとんどありませんでした。そうなると当然ミステリ作法が次の世代のオタクに伝わらず、オタク文化ミステリの距離は遠ざかっていきます。

 SFが現代日本から中世風のいかにもなファンタジーまで(科学的な理由があれば)舞台やガジェットを問わない柔軟性があるのに対し、ミステリは舞台・ガジェットを規制してしまうのもあるでしょう。

 根の部分からオタクミステリは馬が合わないのです。

 そんな中、果敢にも「ミステリ・マガジン」は毎号ライトノベルミステリレビューをやっています。

 バックナンバーを調査し、レビューされた作品をリストアップしてみると、


・? “菜々子さん”の戯曲 小悪魔と盤上の12人(角川スニーカー文庫

2011年4月 子ひつじは迷わない2(角川スニーカー文庫

2011年5月 レンテンローズ(幻狼ファンタジア

・6月 ビブリア古書堂の事件手帖メディアワークス文庫

・7月 光の楽園(Cノベルス)

・8月 アリシアの三姉妹講談社BOX)

・9月 サムシング・フォーメディアワークス文庫

・10月 黒揚羽の夏ピュアフル文庫

・11月 嘘月講談社BOX)

・12月 未来方程式講談社BOX)

・2012年2月 子ひつじは迷わない4(角川スニーカー文庫

・2012年3月 死体泥棒星海社FICTIONS)

・4月 探偵失格(電撃文庫

・5月 判決はCMの後で(角川ソフトカバー

・6月 双子と幼馴染の4人殺し2(GA文庫)

(境界型レーベルは太字表記。ここに載っていない月はバックナンバーが見つからず調査できず。また、ミステリマガジンでレビューを担当なさっている蔓葉様が一部情報提供してくださいました。)

当然というか文庫形式でのライトノベルレーベルから刊行されたものは少なく、代わりに講談社BOXメディアワークス文庫など一般文芸とライトノベルの中間に位置する境界型レーベルからの作品が多いのがわかります。作者・レーベルともに一切ライトノベルとは関係のない『黒揚羽の夏』や一般書籍の『判決はCMの後に』はライトノベルなのかどうかいまいち不明ですが、それだけライトノベルミステリが枯渇しているのでしょう。

丸太町ルヴォワール (講談社BOX)

丸太町ルヴォワール (講談社BOX)

 先ほど挙げたメディアワークス文庫講談社BOXともにミステリ色の強い作品はかなり多いです。メディアワークス文庫なら『ビブリア古書堂の事件手帖』のほかノーブルシリーズや野崎まど作品、講談社BOXミステリ界から注目と絶賛を浴びた『丸太町ルヴォワール』を筆頭に存在します。

 境界型レーベルからミステリが多く刊行されているのは、ライトノベルミステリの融合を阻害していた、現実的な世界観を強要するという問題をなんなくクリアでき、かつライトノベル読者以外の注目を集めやすいからだと推測します。

 実際、アニメ化された『氷菓』『GOSICK』『ANOTHER』のいずれもライトノベルとの関連性が強いと同時に一般文庫からも刊行されています。

 『ビブリア古書堂の事件手帖』はメインヒロインの栞子さんの萌え要素古書関連の薀蓄を絡めた謎解き・栞子さんと大輔の恋愛などオタク層からミステリ読者まで楽しめるつくりになっていますし、『GOSICK』はミステリであると同時に世界大戦を巡った冒険小説としても読めるようになっています。

 ミステリの「読み込む楽しさ」とライトノベルの「気軽に読める楽しさ」という強みを併せ持った作品が今後は多く登場するのではないでしょうか。