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2013-09-23

藤丸心太『サニー/レイニー/レインボー』

サニー/レイニー/レインボー

 KDP作品初のレビューとなります。

 KDPとはkindleで読める個人出版の本で、商業出版の書籍より値段が安く設定されているのが特徴です。

 なろうやエブリスタに比べ、まだ書籍化は盛んではありませんが、藤井大洋『GeneMappers』・十市 社『ゴーストノイズリダクション』のように大手出版社から書籍化されている作品も少数ですが存在します。

 それゆえにきちんと読めるものからとても読めたものではないものまで当たり外れが激しいのですが、本作『サニー/レイニー/レインボー』は久々に引いた当たりの青春小説でした。

 青春小説とはいっても、その軸には「同性愛」「ジェンダー」というテーマが据えられています。

 フィクションにおいて同性愛は、その問題をあっさり飛び越えてしまうか、もしくはギャグリリーフに使用されるか、単純にギミックとして使用されることが多いのですが、本作はこのテーマに真っ向から挑んでいます。

 主人公はゲイの高校生・能登。とあるウェブ漫画に勇気づけられ、彼が教室で自ら同性愛者であることをカミングアウトするところから物語は始まります。

 しかし、同級生は彼の告白をすんなり受け入れてはくれず、能登はからかわれ続け、時には辛辣な言葉を投げかけられることも。

 そんな理不尽な迫害に苦しみ自らの性に悩む能登を助けてくれたのは、弓道部の女子・羽咋。実は彼女は、能登の愛読していたウェブ漫画の作者だった……。

 この小説は、自分がゲイであることに誇りを持てるようになるまでの能登の成長を描いた作品なのですが、この他にも「男性/女性はかくあるべきだ」というようなジェンダーバイアスの問題や、自分が同性愛者なのではないかと怯える少年の姿も描かれており、立体的な構成となっています。まるで、バラバラになったピースが次第に繋がっていって大きな絵になっていくよう。

 中でも、男友達と性行為に耽りながらも、自分を同性愛者だと認めなくてそれを「友情の延長」だと信じ込んでいる七尾を陰の主人公に据えたのは良かった。能登が徐々に受け入れられていく影で、自分はゲイではないと思い込みつつも親友を激しく求め続け、そのやるせなさに苦悩する七尾はまさに陰の部分を一手に引き受けるキャラで、「マイノリティ=優しくて素直」というよくある単純なキャラ設定を突破しています。

 カミングアウトした同性愛者がだんだん受け入れられていくだけの「明るい物語」ではなく、カミングアウトしたことで苛められる能登に「お前が告白しなければこんな辛い思いはしなくても済んだのに」と憎しみの視線を向ける七尾の存在があるからこそ、この物語は深いのだと思います。

 同性愛者や両性愛者といったセクシャルマイノリティ自殺率は、そうでない人の6倍以上に跳ね上がっているといわれるように、世間的な「正しさ」から漏れてしまった人々の苦しみは深いわりになかなか理解されないところがあります。

 「人間は、異性と恋愛して、結婚して、子供を作って、家庭を築くべき」というような世間的な「正しさ」は未だ世界を覆っています。けれど、誰もがその「正しさ」を遂行できるわけではないし、遂行しない自由もあっていいのではないでしょうか。

 そういった世間的な「正しさ」に押しつぶされていく苦しみに悩む少年少女に光を当てたことだけでも、この本に意味はあるのだと思います。

 最後に下世話な話ですが、文章がいい意味でエロいですね。セックスシーンなんてそんなにないのに、凄くエロく感じた。エロさが男女問わず向けられているのも商業小説にはあまりなくて新鮮だった。

 

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