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2013-11-28

2013年ラノベ周辺総括

一般文庫に安住の地を見出したライトノベルミステリ

 キャラクター性とビジュアルを重視したライトノベルミステリは、文庫レーベルで多く出ました。

 この文庫ミステリ戦国時代ともいうべき事態はさらに加速し、今や角川・AMW・集英社・幻冬舎・宝島社など大手出版社がしのぎを削る状況になっています。

 角川文庫は、『レンテンローズ』などラノベレーベルでの執筆経験のある太田忠司『目白台サイドキック』や、一般文芸デビューが期待されていた河野裕『つれづれ、北野坂探偵舎』など人気作家による書き下ろしミステリを多数刊行し、「キャラクターミステリフェア」と銘打ってラノベミステリを盛大に売り出しています。

目白台サイドキック  女神の手は白い (角川文庫)つれづれ、北野坂探偵舎    心理描写が足りてない (角川文庫)

 メディアワークス文庫は、看板作品の『ビブリア古書堂の事件手帖』ヒット以来、同じ柳の木の下のドジョウを狙ったような(日常の謎系)ライトミステリの粗製乱造を危惧する声もありますが、電撃出身の峰守ひろかずによる大学ものオカルトミステリ絶対城先輩の妖怪学講座』が好評を博し、MW文庫初のイヤミス『黒百合の園』などバラエティ豊かな作品も。

絶対城先輩の妖怪学講座 (メディアワークス文庫)

 集英社からは、ポストビブリアの最有力候補と目される谷瑞恵『想い出のとき、修理します』の続刊が満を持して登場。その他にも文庫書き下ろし作品や、コバルトからのリバイバル作品も刊行されました。

思い出のとき修理します 2 明日を動かす歯車 (集英社文庫)

 幻冬舎は、なんかいろいろ混ぜすぎたようなタイトルの似鳥鶏『パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から』、珍しく挿絵があるSEミステリ(『なれる!SE』+『万能鑑定士Q』のような感じか)の『SE神谷翔のサイバー事件簿』、最後の富士ミス作家・彩坂美月のデビュー作文庫落ち作品『少女は夏に閉ざされる』などを刊行。急速にラノベ路線に走っています。

パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者からSE神谷翔のサイバー事件簿2 (幻冬舎文庫)少女は夏に閉ざされる (幻冬舎文庫)

 宝島社からは、表紙イラストを「GODEATER」で知られる曽我部修司が担当した『残留思念捜査』と結婚を巡り女性のバトルロワイヤルが繰り広げられるミス、テリ……?な『婚活島戦記』が隠し玉として登場しました。また、文庫落ち作品の『幻影館へようこそ 推理バトル・ロワイアル』『海鳥の眠るホテル』も容赦なくラノベ化。

残留思念捜査(サイコメトリー) オレ様先生と女子高生・莉音の事件ファイル (宝島社文庫)婚活島戦記 (宝島社文庫)幻影館へようこそ 推理バトル・ロワイアル (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)海鳥の眠るホテル (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

 新潮文庫からは、某叛逆の魔法少女SFを想起させられる衝撃的なタイトルが話題の謎の新人デビュー作『悠木まどかは神かもしれない』が登場しました。

悠木まどかは神かもしれない (新潮文庫)

 一方、ラノベレーベルのラノベミステリは作品数が少なく勢いがないように見えますが、江波光則『密葬 わたしを離さないで』は、「300枚の原稿」を上手くトリックに使っていてミステリとしても完成度の高い内容でした。

 また、森川智喜の三途川シリーズ三作目『踊る人形 名探偵三途川理とゴーレムのEは真実のE』は、ジュブナイル探偵小説のフォーマットを借りながらも人知を超えた存在と頭脳戦を繰り広げる能力バトルものの要素が盛り込まれた怪作。

 富士ミス作家であった田代裕彦の新シリーズ『魔王殺しと偽りの勇者』は、「魔王を殺した本物の勇者を見つけ出す」という『六花の勇者』を逆転させたような構図で、魔王勇者もののフォーマットとフーダニットを合体させたファンタジーミステリ

 イラストを「コードギアス 反逆のルルーシュ」で有名なCLAMPが担当するなど鳴物入りで登場した新人デビュー作『ロジック・ロック・フェスティバル』は、古野まほろからの盗作疑惑が持ち上がりデビュー早々騒動の火種に。(星海社は盗作を全面否定している。)

密葬 -わたしを離さないで- (ガガガ文庫)踊る人形 名探偵三途川理とゴーレムのEは真実のE (講談社BOX)魔王殺しと偽りの勇者1 (ファミ通文庫)ロジック・ロック・フェスティバル  ~Logic Lock Festival~ 探偵殺しのパラドックス (星海社FICTIONS)

さて、文庫ミステリといえば無視できないのが職業と絡めた謎解きを描く「お仕事ミステリ」です。

 代表例としては、『ビブリア古書堂の事件手帖』『珈琲店タレーランの事件簿』『ショコラティエ』『トッカン!』などサラリーマンではない変わった職業を取り上げた作品がありますが、今年登場した似鳥鶏『パティシエの秘密推理 お召し上がりは容疑者から』はビブリアとタレーランショコラティエと謎ディナを悪魔合体させたかのようなタイトルが目を引く一作。

 また、太田忠司『レストア オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿』は文庫化にあたってラノベイラストが付けられました。一見すると想修の二番煎じ臭いのですが、初出はこちらのほうが先。

 この他にも美奈川護×平沢下戸のコンビで送る『キーパーズ』(飼育員)、河野裕初の一般文芸作『つれづれ、北野探偵舎』(作家・編集者)といったお仕事ミステリが登場しました。

 こういった「お仕事ミステリ」の特徴としては、

・コージーミステリ寄り。

・大企業よりも専門性の高い中小企業や自営業が多く取り扱われる。

・仕事や推理と並行して、異性の上司や同僚との恋愛が描かれることが多い。

 などが挙げられます。

 とりわけライトな作風が求められるようで、今年ドラマ化されて社会現象となった『オレたちバブル入社組』のようなギスギスした作風のものは、「お仕事ミステリ」とは呼ばれない傾向にあります。

レストア: オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿 (光文社文庫)キーパーズ 碧山動物園日誌 (メディアワークス文庫)

 「日常の謎」「お仕事ミステリ」の次にラノベミステリで流行りそうなのが、「ファンタジー+ミステリ」です。

 古くから相性が悪いと言われ続けてきたファンタジーミステリですが、ここ数年で『折れた竜骨』『六花の勇者』『図書館の魔女』『スノーホワイト』など、ファンタジー要素のあるミステリの話題作が続々と誕生し、さらに『魔王殺しと偽りの勇者』や上遠野浩平の事件シリーズの続刊が決定するなど勢いのあるジャンルです。

 これらの作品に共通しているのは、ファンタジー要素を、ミステリを阻害するものとしてとらず、むしろ積極的にギミックに取り入れていくスタイルです。

接近する時代小説

 時代小説は、年末に富士見書房がstyle-F以来となる本格的な一般文芸レーベルとして「富士見新時代小説文庫」を送り出しました。

 ライトノベルの手法を取り入れた時代小説レーベルとなり、男性向けのアクションものと女性向けのほっこりものを中心にリリース、イラストレーターも一般文芸で活躍する人気イラストレーターを起用しています。

 さらに時代小説レーベルとしては珍しく、電子書籍と紙書籍の同時刊行を宣言しています。

 今年はこれ以外にも、時代小説とライトノベルの接近が見られました。

 モノノケ文庫は、イラストを前面に押し出した妖怪テーマの時代小説専門のレーベル

 角川文庫も、「ぽんぽこ」シリーズなどライトノベルに通じる時代小説をコンスタントに刊行しています。また、冲方丁の最新作『はなとゆめ』は、清少納言を主人公とした平安もの。

 こうしたラノベ系時代小説は妖怪・忍術といったファンタジー要素を含んだものが多く、時代小説とファンタジーの親和性の高さが再評価されているようです。

はなとゆめ (単行本)

 ライトノベルレーベルにおける時代小説はミステリ・SFに比べると数少ない状況が続いていますが、和風世界で繰り広げられるサイバーパンクアクション『幻圀戦記CROW』、背景に平安時代戦国時代のニンジャソウルが暗躍する『ニンジャスレイヤー』、戦国時代に突如美しすぎる異星人が降臨するという、2013年最大の奇書といっても過言ではない『王子降臨』など時代小説とニアする作品も存在し、今後は昨今流行中の戦記ものファンタジーとのクロスジャンルも期待されます。

和製サイバーパンクの興隆

 ライトノベルSFは「ラノベ新人賞において、SFは問答無用で落とされる」という浅井ラボの発言に代表されるように、不作と思われています。

 しかし、本当にそうなのでしょうか?

 ライトノベル作家を多数起用する早川書房からは、新鋭・ベテラン問わずラノベ作家の文庫書き下ろし作品が多く発表されました。

 直木賞候補作家・宮内悠介から絶賛された野崎まどの『know』と、ホビーアニメ風美少女カオスアニメを何故かジェンダー的テーマや太宰治を絡めてノベライズした『ファンタジスタドールイヴ』。

 挿絵が導入された榊一郎『蒼穹騎士』とゆずはらとしゆき咎人の星

 サイバーパンクラノベの藤間千歳『スワロウテイル』シリーズ

 『シュピーゲル』シリーズへのオマージュ作品『パンツァークラウン フェイセズ

 など、チャレンジブルな作品が続々刊行される年となりました。

know (ハヤカワ文庫JA)蒼穹騎士: ボーダー・フリークス (ハヤカワ文庫JA)咎人の星 (ハヤカワ文庫JA)スワロウテイル/初夜の果実を接ぐもの (ハヤカワ文庫JA)パンツァークラウン フェイセズIII (ハヤカワ文庫JA)

 ラノベレーベルからは、

 シュールな文体とハードな内容が人気を博す『ニンジャスレイヤー

 巻を重ねるごとに男キャラが増えていくスーパーロボットものの九岡望『エスケヱプ・スピヰド

 クトゥルフ擬人化ラブコメかと思いきや意外にも本格的な言語SFだった黒史郎『未完少女ラヴクラフト

 忍法帖ものに量子力学をミックスした五代ゆう『幻圀戦記CROW

 紙の本が失われた世界を舞台にしたサイバーパンクSFである紅玉いづきサエズリ図書館のワルツさん

 デビュー作『シュガーダーク』以降沈黙を保ってきた新井円侍の世紀末ロボットSF『巡幸の半女神

 新人デビュー作で怒涛の鬱展開が話題を呼んだハードロボットもの『代償のギルタオン

 MF文庫らしからぬ男性だけの表紙が話題を呼んだスチームパンク+多元世界SF『クレイとフィンと夢見た手紙

 スチームパンクシリーズの桜井光と『東京レイヴンズ』のすみ兵のコンビで送るクトゥルフサイバーパンク殺戮のマトリクスエッジ

 といったSF作品が刊行されました。

ニンジャスレイヤー 荒野の三忍 (キョート殺伐都市 # 3)エスケヱプ・スピヰド 伍 (電撃文庫)未完少女ラヴクラフト 2 (スマッシュ文庫)幻國戦記CROW -千の矢を射る娘- (GA文庫)サエズリ図書館のワルツさん 2 (星海社FICTIONS)巡幸の半女神 (講談社ラノベ文庫)

代償のギルタオン (スーパーダッシュ文庫)クレイとフィンと夢見た手紙 (MF文庫J)殺戮のマトリクスエッジ (ガガガ文庫)

全体的な傾向としては、『know』『スワロウテイル』『幻圀戦記CROW』『サエズリ図書館のワルツさん』『ニンジャスレイヤー』『アクセルワールド』『パンツァークラウン』などサイバーパンクものが活発な年となりました。

 こうした和製サイバーパンクの特徴としては、

法律や倫理に束縛されないアウトローなヒーロー 『ニンジャスレイヤー』『パンツァークラウン』『マルドゥック』『幻圀戦記CROW』『殺戮のマトリクスエッジ』

人生そのものまで見通すような監視社会 『パンツァークラウン』『シュピーゲル』『know』『アクセルワールド』『殺戮のマトリクスエッジ』

災害・戦争後の世界 『サエズリ図書館のワルツさん』『スワロウテイル』『ニンジャスレイヤー』『エスケヱプ・スピヰド』

人間を一つのソフトウェアハードウェアとして見做すような世界観 『know』『スワロウテイル』『サエズリ図書館のワルツさん』『殺戮のマトリクスエッジ』

が強烈に意識されていることが挙げられます。

 『マルドゥック・スクランブル』『ブラックロッド』に代表されるように、90年代〜ゼロ年代のラノベSFが和製サイバーパンクに大きく貢献しているのも一要因かと思いますが(あとは伊藤計劃神格化ムーブメント)、スマートフォンやSNSの普及にみられるようなユビキタス社会の到来によって、サイバーパンク世界が現実社会の延長線上に存在しているような感覚があるのも見逃せないところです。

 いつでも・どこでも情報を参照でき、インターネットから初めて出会った人のプロフィールを確認できる……そういう十数年前までは「サイバーパンクSFの中でしか有り得なかった」技術が当たり前になったがために、電子葉やIRC端末といったサイバーパンクお馴染みともいえるギミックが身近に感じられるようになったのではないでしょうか。

 実際、『パンツァークラウン』や『スワロウテイル』で登場する技術はフェイスブックスマートフォンがベースになっており、現実の技術や問題意識と密接に関係しながら和製サイバーパンクが語られていることが窺えます。

ライトノベル化する一般文庫

 今年の一般文庫は「ライトノベルとの融合」が最大の命題だったように感じます。

 文庫書き下ろし作品が時代小説・SF小説以外にも波及し、これまでライトノベルの十八番と思われてきたイラストや文庫書き下ろしシリーズものを取り入れる作品の急増など、ライトノベルの利点を組み込もうと模索した動きが見られます。

 文庫書き下ろし作品は最早一か月に数点は確実に出ているほどになり、『想い出のとき、修理します』『ホーンテッド・キャンパス』といったヒット作を続々と輩出しています。

 また、『蒼穹騎士』(イラスト:藤城陽)、『SE神谷翔のサイバー事件簿』(イラスト:ヒコ)など、本文挿絵が導入された一般文庫も少数ながら存在しています。

 さらに、こうした「文庫の力」の高まりに伴って、これまで「ラノベレーベル→単行本」という形で成されることの多かったラノベ作家の一般文芸への「越境」が、「ラノベレーベル→一般文庫」という形へと変化しつつあります。

 今年「ラノベレーベル→単行本」で越境した作家が杉井光くらいしかいなかった反面、「ラノベレーベル→一般文庫」という形式で「越境」した作家は河野裕、野崎まど、響野夏菜などが存在します。

 現在、ライトノベルと一般文庫のあわいに位置するとみていいレーベルとしては

  このミス文庫 タレーランのヒット後、イラストを前面に押し出したライトミステリへ路線変更。

  角川文庫 『少年陰陽師』『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』などのラノベ文庫化に積極的なほか、『万能鑑定士Q』『ぽんぽこ』などラノベに接続する文庫書き下ろし作品を多く揃える。

  角川ホラー文庫 「キャラクターホラー」をコピーに、イラストを前面に押し出した能力バトルものやラブコメディなど、怖いだけのホラーからの脱却を図っている。

  幻冬舎文庫 古野まほろや彩坂美月など、ラノベ系ミステリ作家の起用が目立つ。

  ガガガ文庫 ライトノベルレーベルでありながら、『鳥葬』『カクリヨの短い歌』など一般文芸に近い内容・装丁の作品をコンスタントに刊行しだした。

  星海社文庫 マイナーなラノベレーベル講談社BOXからの文庫落ち作品が非常に多い。

  ピュアフル文庫 児童文学と一般文芸とラノベにまたがるレーベル。toi8イラストの『陰陽屋へようこそ』はレーベル初の地上波ドラマとなった。

  MW文庫 ライトミステリを多く刊行している。最近は女性向けにシフトしており、ケータイ小説ネット小説との接続も見られる。

  富士見新時代小説文庫 ライトノベル作家を大量起用し、イラストは一般文芸で人気の高いイラストレーターを採用している。

  NMG文庫 戸梶圭太・仙田学など一般文芸からの起用が目立つが、創刊2ヶ月で音沙汰なし。11月のリニューアルで一般文芸指向のレーベルとなる予定。

  TO文庫 ホラー系ラノベを多く出す。挿絵はないものの、よりイラストを前面に押し出した表紙カバーのアニメイト限定版が存在する。

  タソガレ文庫 ホラー系ラノベ専門レーベル。純粋なホラーからバトルもの、ほっこりミステリまで存在する。

  モノノケ文庫 時代小説専門レーベル。妖怪ものが多いが、ホラー作品よりも人情ものや剣豪もの、ミステリが多くを占める。

  徳間文庫 デュアル作家の文庫書き下ろし新作やノベルス作品の文庫落ちのほか、『BLOODLINK』『竜宮ホテル』など他レーベル作品のリバイバルも存在する。

  ハヤカワ文庫JA 野崎まど、榊一郎などライトノベル系作家の起用に積極的。今年は『ヘンたて』など非SF系ラノベ作品も登場した。

 などが存在します。この他にも集英社文庫や創元推理文庫の一部もライトノベル系の作品刊行に精力的です。

ノベルスの拡散と文庫への継承の果てに

 ライトノベル専門ノベルスが減少しているのは、幻狼ファンタジアノベルスや徳間ノベルスの廃刊を例に挙げて上半期でも指摘しました。下半期ではさらに、講談社ノベルスの系譜を継ぐ講談社BOXの編集部が文芸編集部に吸収合併されるなど「ノベルスの冬」を思わせる出来事もありました。

 今年はノベルス作品が数多く文庫・ソフトカバーラノベに移行していきました。

 『翼の帰る処』は廃刊になった幻狼ファンタジアノベルスからソフトカバーラノベに移行。

 また、『皇国の守護者』などのCノベ作品の文庫落ちも開始されました。当初の三作はイラストを一切あてがわずデザインを統一した味気ない表紙でしたが、『ドラゴンキラーあります』からはイラスト路線に戻った模様。 

皇国の守護者1 - 反逆の戦場 (中公文庫)煌夜祭 (中公文庫)ドラゴンキラーあります (中公文庫)

 文芸部門へのBOX編集部吸収合併に伴い、『丸太町ルヴォワール』『キャットフード』『夜宵』など講談社BOX作品の文庫落ちも本格化。

キャットフード (講談社文庫)夜宵 (講談社文庫)

 夢枕獏『キマイラ』(朝日ノベルス)は、角川文庫から新装版が発売されました。

キマイラ    3 餓狼変 (角川文庫)

 反面、これまでノベルスが主戦場と思われてきた戦記ファンタジーものが今年になってラノベ文庫レーベルでブームを巻き起こしているのも見逃せません。

 水野良『グランクレスト戦記』は一見、リプレイ主導型TRPGの『レッドドラゴン』後追い企画のようですが、大好評となりこのラノに滑り込みランクインを果たすほどに。早くもこのラノ2015有力作と目される内堀優一『グラウスタンディア皇国物語』は発売後即重版がかかる人気ぶり。

 舞阪洸は『夜姫と亡国の六姫士』『落ちてきた龍王と滅びゆく魔女の国』『ロムニア帝国興亡記』の三作を同時展開。

 『烙印の紋章』の杉原智則最新作となる『聖剣の姫と神盟騎士団』は、ダーティな戦法をとる一筋縄ではいかない主人公が登場。

 諸星崇『時渡りの〈紅女神騎士団〉』は戦記ものに歴史改変要素を組み合わせた作品。変わり種としては、ドラゴンと航空機の空中戦を描く田代裕彦『蒼天のサムライ』が登場しました。1巻にしてヒロインが戦死するという衝撃的展開が話題に。

グランクレスト戦記  1 虹の魔女シルーカ (富士見ファンタジア文庫)グラウスタンディア皇国物語1 (HJ文庫)蒼天のサムライ 第一部 端琉島脱出戦 (オーバーラップ文庫)

 エログロ満載の『七王国の玉座』のテレビドラマが日本で放映されるなど、ライトノベル外にも飛び火しつつある戦記ファンタジーブーム。七王国の玉座のようなハード路線に向かうのか、無双系ファンタジーと結合したライト路線が多くを占めるのか、読者の注目は熱いです。

 さて、ノベルス新作ですが、江波光則初シリーズ作となった「魔術師スカンクシリーズ」(星海社)、多崎礼の第三長編『八百万の神に問う』(Cノベ)、『BEATLESS』のredjuiceがイラスト担当のメフィスト賞受賞作『眼球堂の殺人』(講談社)などが注目作。単行本で発売されていた乙一『銃とチョコレート』、上遠野浩平『私と悪魔の100の問答』も、ノベルス化しました。

ストーンコールド 魔術師スカンクシリーズ 1 (星海社FICTIONS)八百万の神に問う1 - 春 (C・NOVELSファンタジア)眼球堂の殺人 ~The Book~ (講談社ノベルス)

90年代読者狙い撃ちのソフトカバーラノベ 

 ラノベ作家の文芸単行本は、桜庭一樹東京創元社の単行本から『少女には向かない職業』を刊行したり有川浩が電撃の単行本で『海の底』を刊行したりして一般文芸進出への足掛かりをつくる「一般文芸への登竜門」という意味合いが強かったのですが、そういった役割は一般文庫にシフトしたとみてよいでしょう。

 ゆえにラノベ作家の文芸単行本の数は少なくなってきています。代わりに、ソフトカバーネット小説やボカロ小説の勢いは未だ健在で、そういったソフトカバー本の専用コーナーを設ける書店も増加しています。

 下半期ソフトカバーラノベ最大の注目作はなんといっても、王様のブランチで特集が組まれた壁井ユカコ2.43』でしょう。

 発売後即重版がかかり続編が決定するなど好調な売れ行きを記録しており、少女の鬱屈した心と性の揺らぎを描くことの多かった壁井ユカコが、作風を一転させてバレーに打ち込む高校生男子の青春群像を爽やかに描き出したことにも注目です。

 他には、誹謗中傷騒動直前に出された杉井光『神曲プロデューサー』、唐辺葉介久々の小説作品『電気サーカス』、セーラー服と黙示録シリーズ第二弾となる古野まほろ背徳のぐるりよざ』、アダルトゲーム会社出身の新人作家・市川哲也によるミステリウォッチメンめいた『名探偵の証明』などが登場しました。

2.43 清陰高校男子バレー部神曲プロデューサー電気サーカス背徳のぐるりよざ  セーラー服と黙示録 (単行本)名探偵の証明

 こういった文芸単行本、後述するボカロノベル・ネット小説に続いて、もう一つ今後盛んになるであろうソフトカバーラノベの形態が登場したことも忘れてはなりません。

 それが、富士見書房の大人向けラノベ単行本です。

 2013年後半から富士見書房は、昔のファンタジア文庫作品の復刊や秋田禎信と榊一郎のシェアードワールド作品「メックタイタン」など、社会人となった90年代の読者向けのソフトカバーラノベを精力的に刊行しはじめました。

メックタイタン ガジェット  虐殺機イクシアント (単行本)メックタイタン ガジェット  巨甲闘士グランアース (単行本)

 他の出版社には見られないソフトカバーの使い方なのですが、歴史のあるスニーカー文庫電撃文庫がこうした流れにのってくる可能性はなきにしもあらず、といったところ。現に、スニーカー文庫は『ロードス島戦記』『楽園』といった旧作の復刊に意欲を見せ始めています。

 こうした動きから、文庫とソフトカバーという二つの「大人向けラノベ」の特徴が見えてくることでしょう。

 文庫

 安価であり、配本数も単行本に比べると多いので手軽に入手できる。

 本にそれほど金をかけられないライトユーザー・中高生向け。

 「ちょっと変わったラノベが読みたい」「ラノベからステップアップしたい」「軽いタッチの一般文芸を読みたい」というニーズにこたえる。

 一般レーベルから出ていることが多く、ラノベかそうでないかをレーベルで区別している学校図書館読書感想文のラノベ禁止制限をかいくぐれる。

 単行本

 高価であり、配本数は少ない。

 本に金をかけられるマニア・社会人向け。

 大判であり、文庫より装丁の自由度が高い。

 「復刊本を読みたい」「本をファンアイテムとして所有したい」というニーズにこたえる。

 文庫の利点の「学校規制の回避」は内容が内容だけにあまり公にはできない感がありましたが、ハヤカワ文庫がラノベ系作品(『スワロウテイル』など)を「ラノベで読書感想文を書ける」という売り込みでアニメイトでキャンペーンを行うなど、出版社側も自覚してきてはいるようです。

名作海外SFをオタクに売るっていうこと

 ディズニーコミケ進出で話題となった『エンダーのゲーム』ですが、映画版に併せ新装版が刊行されています。

 新装版の表紙自体は旧版と同じくラノベとは程遠いデザインなのですが、表紙全体を覆う特大帯という形で、メディアワークス文庫での挿絵経験のある秋赤音によるメインビジュアルが載っており、アニメイトを中心としたプロモーションが行われました。

 特筆すべきは、「発売から時間が経った翻訳SFを(今の)オタクに売る」プロモーションが行われたところです。先行例として、後述するアニメ「サイコパス」との連動キャンペーンがありましたが、こちらの表紙は従来のものと変更はありませんでした。

 翻訳の、しかも新作ではないSFとライトノベルなどのオタク文化はかけ離れているようですが、『ビブリア古書堂の事件手帖』『サイコパス』で『ニューロマンサー』や『たんぽぽ娘』が取り上げられたことが話題になったり、パンストチームの最新作『キルラキル』がバリントン・J・ベイリーの『カエアンの聖衣』をベースにしたりとにわかに注目が集まっている状況です。

 新作海外ラノベでは、依然としてハヤカワ・創元・Cノベが積極的。SF・ファンタジーでは『辺境星区司令官、着任!』、ミステリでは『アイリーン・アドラーの冒険』などが登場しました。

辺境星区司令官、着任!  海軍士官クリス・ロングナイフ (ハヤカワ文庫SF)おやすみなさい、ホームズさん 上  (アイリーン・アドラーの冒険) (創元推理文庫)

 

リバイバルブーム到来

 上半期では『星界シリーズ』と『十二国記』、『タイタニア』の久々の新刊が立て続けに出て大盛り上がりとなったのは記憶に新しいところですが、リバイバルラノベ(昔の作品の復刊・リブート)は下半期も盛況を見せました。

 廃刊レーベルからは『ビスケット・フランケンシュタイン』(メガミ文庫→講談社BOX)、『ヤクザガール ミサイルハート』(ゼータ文庫→星海社文庫)、『少女は夏に閉ざされる』(Style-F→幻冬舎文庫 『未成年儀式』から改題)がリバイバルされました。さらに、『レディ・ガンナー』シリーズは角川スニーカー文庫から角川文庫に移管されることが決定しました。

ビスケット・フランケンシュタイン〈完全版〉 (講談社BOX)少女は夏に閉ざされる (幻冬舎文庫)ヤクザガール・ミサイルハート (星海社文庫)

 旧作シリーズでは、『BLOODLINK』(ファミ通文庫徳間文庫)、『ロケットガール』(富士見ファンタジア文庫ハヤカワ文庫)が復刊されました。

BLOODLINK 1: 獣と神と人 (徳間文庫)女子高生、リフトオフ! (ロケットガール1)

 また、『魔法少女禁止法』(一迅社文庫エンターブレイン 『アンチマジカル』から改題)はリブートが決定し、続編の執筆が決定しました。

魔法少女禁止法1

 下半期もっとも熱かったのは90年代作品の復刊で、『ロードス島戦記』、『ドラゴンズ・ウィル』、『スレイヤーズVSオーフェン』、『神仙酒コンチェルト』など90年代スニーカー・ファンタジアの名作が、単行本で続々リバイバルされました。さらに電子復刊では、長らくプレミアが付いていた長谷敏司の初期2作が復刊し話題となりました。

ブートレガーズ  BOOTLEGGERS (単行本)【豪華版】ロードス島戦記    灰色の魔女 (単行本)

 先に述べた富士見新時代小説文庫や90年代ファンタジア作品の復刊に見られるような「かつてのファンタジア読者」のリターンを狙った動きは、これまでハイターゲット層獲得には消極的な姿勢をとっていた富士見書房が出した、ひとつの大人向けラノベへの解答なのかもしれません。

作家性を前面に押し出したノベライズ

 単なるファングッズという意味合いの強かったノベライズですが、近年はオリジナリティを重視したノベライズ単体でも読める作品や原作ファンの意表をついた作品が登場してきています。

 西尾維新舞城王太郎成田良悟ら人気作家を起用したジャンプ系ノベライズ(『VSJOJO』、『BLEACH』)の成功を口火に、作家とのコラボレーションが前面に押し出された作品が多く刊行されました。

 北山猛邦ダンガンロンパ霧切』は、歌い手バッシングが激しい中EDを歌い手が担当し、同じアニメスタッフの直近作であるデビルサバイバー2が原作ファンから不評だったことからアニメ版の出来が不安視されていた「ダンガンロンパ」の、霧切を主人公に据えたスピンオフ作。ダンガンロンパテイストよりも北山テイストが前面に出ており、本格ミステリ作品としても堪えうる出来。

ダンガンロンパ霧切 1 (星海社FICTIONS)

 野崎まど『ファンタジスタドールイヴ』は、原作がカオスカードバトルアニメだったのに一つもアニメイラストが収録されず、その上何故か『人間失格』を下敷きにしたハードSFになっている衝撃の一作。

ファンタジスタドール イヴ (ハヤカワ文庫JA)

 このように、原作とテイストを変えてしまうノベライズが注目です。

「粗製濫造」というイメージを持たれがちなノベライズですが、『ジョージ・ジョースター』『ダンガンロンパ霧切』『ファンタジスタドールイヴ』など作家性を前面に押し出したノベライズからは、それを乗り越えて新たな文学ジャンルとして根付く可能性が見えてくる一年となりました。

 さらにもう一つの注目が、「フリーゲームレトロゲームノベライズ」です。上半期は『アトランティスの謎』『いっき』といったレゲーや『青鬼』『ゆめにっき』といったフリーゲームノベライズが多数登場しました。

 なんと来年からはMF文庫Jが『シロノノロイ』でフリーゲームノベライズに参入することが決定し、これを機にしてレトロゲームフリーゲームノベライズが大手レーベルに波及していくのではないでしょうか。

ウェブ小説書籍化戦争

 さて、ラノベ内での最大のトピックと云えば、大手出版社が人気ウェブ小説を次々と書籍化していく「ウェブ小説書籍化戦争」を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

 ウェブ小説文庫ラノベ化の『ソードアートオンライン』『魔法科高校の劣等生』『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』の大成功を契機として、「小説家になろう」「アルカディア」「エブリスタ」といった小説投稿サイトの上位作品を根こそぎ書籍化していくことが大流行しました。

 電撃文庫角川ビーンズ文庫メディアワークス文庫・GA文庫・ファミ通文庫スーパーダッシュ文庫・MF文庫・HJ文庫など数多くのレーベルが書籍化に参入し、投稿サイトと出版社が提携した新人賞さえ登場しました。

 そうしたやり方を「焼畑農業的だ」「既存の新人賞の意味がなくなる」と批判する声も強いながらも、ウェブ小説は「1巻目から一定の読者(ウェブ版ファン)を確保できる」ことを強みに破竹の進撃を続けています。

 一方、一般文芸のウェブ小説書籍化の新たな潮流として期待されているのが、KDP(KindleDirectPublishing)です。amazonの電子書籍ストアで自作小説を販売できるシステムで、早川書房から『GeneMappers』が、東京創元社から『ゴーストノイズ(リダクション)』が書籍化されるなど注目が集まっています。

 KDPがラノベより一般文芸で注目されているのは、なろうやアルカディア、エブリスタとは違って、有力作品の多くが有料(『GeneMapeers』も『ゴーストノイズ(リダクション)』も400〜500円前後で販売されている。)であるがゆえにユーザーの年齢層が比較的高いからなのかもしれません。

 年齢層といえば、今年後半に創刊されたメディアファクトリーソフトカバーラノベレーベル・MFブックスは、メインターゲットを20代後半〜40代の社会人に設定しています。このレーベルは主に、異世界転生ファンタジーやMMORPG中心の、いわゆるなろう系ウェブ小説を書籍化するレーベルです。

プレスリリースによると、

 この新レーベルの想定読者は「学生時代にアニメ、ゲーム、コミック、ライトノベルに青春をささげた」20代後半から40代の社会人。そのため「キャラクターノベル」という位置づけではあるものの、中高生向けの「ライトノベル」とは一線を画し、「萌え」や「恋愛」より、読みごたえのある「ストーリー」を重視した作品ラインナップとなっている。

 かつて、ゲーム、アニメ、コミック、ライトノベルに青春を捧げた現代社会の「オトナ」たちは、世の中に満ちる「閉塞感」や「無力感」、そして「退屈」を相手に、日々それぞれの戦場で戦っています。

「きっかけさえあれば、自分はもっと本気になれる。」

「100%の自分になれる世界が、どこかにきっとある。」

そんな想いを抱く、孤高の兵士たちへ「物語=夢」を届けることで、彼らを支援したい――。

 と書かれていますが、(なろう系ソフトカバーの)ウェブ小説が本当に社会人に届いているかというと少し疑問が残ります。

 プレスリリースの文章によると、MFブックスの作品は「ストレスフルな社会にいる社会人の現実逃避としての小説」を意識しているように思えます。

 確かに、ブラック企業問題や、就職できないまま大学を卒業してしまいフリーター/ニートとなることを余儀なくされている就職浪人、さらにはワーキングプアの急増など、現代日本の若者をめぐる労働環境が良いものとは決して言えません。

 しかし、ウェブ小説はそういった就労問題に直面している人々よりも、中高生に受けている気がします。

 SAO・劣等生・ダン待ちといったウェブ小説の人気作のほとんどは中高生が揃えやすい価格帯の文庫レーベルから刊行されていますし、ソフトカバー中心のアルファポリス系作品も続々と文庫落ちしています。1000円を超えるソフトカバー作品で受けているのは『ログ・ホライゾン』『まおゆう』といった橙乃ままれ作品や『ニンジャスレイヤー』で、これらはウェブ小説のメインストリームとなっている異世界転生・MMOものとは少しずれた作風になっています。

 『ポストヒューマニティーズ』で、飯田一史はウェブ小説の読者年齢層を作品ごとに位置づけていましたが、そこでは『SAO』などのメインストリームをいく文庫作品は10代の低年齢層に、『まおゆう』『ニンジャスレイヤー』といった若干尖った作風のソフトカバー作品は30〜40代の高年齢層に配置されていました。

 ただ、ここでソフトカバー=高年齢層という構図を呈示したいわけではありません。

 ソフトカバーが圧倒的に多いボカロ小説の主な読者層は女子中高生であり、ケータイ小説と同じような感覚でボカロ小説を買っていく光景も見られます。(ただし現在では、『カゲロウデイズ』やMF文庫ボカロノベルのヒットから文庫にシフトしつつある)

 しかし、1000円を超えるソフトカバーに比べて、ヒーロー文庫やSAOやダンまちといった文庫作品が強力なのは無視できないことだと思います。

 ソフトカバーのボカロ小説を低年齢層が買うのは、文庫化が盛んになりつつあるウェブ小説に比べると文庫作品が非常に少ないからで、実際文庫で出されている『カゲロウデイズ』『終焉ノ栞』は発売後即重版がかかるほどの人気があります。

 大人向けのライトノベルを志した競合レーベルとしてはMW文庫やこのミス文庫、角川文庫書き下ろし作品が存在します。

 しかし、こういったレーベルの作品はファンタジー要素の薄い現実寄りのライトミステリや妖怪もの時代小説が多く、作風は180度違っています。

 さて、MFブックスですが、創刊3作のあらすじを見る限りウェブ小説のメインストリームに近い印象を受け、メインターゲットである社会人男性よりも中高生に受けが良さそうな感じ。今後はオリジナル作品も刊行していくということで、アルファポリスやヒーロー文庫といった先行他社とどう差別化していくのか注目です。

文庫化するボカロノベルとパロディ

 ボカロノベルは文庫にシフトする動きを見せました。

 多くの出版社が参入し、ボカロノベルの代表的存在である『カゲロウデイズ』はボカロノベルとしては初めてアニメ化することが決定するなど勢いのあるジャンルとなりました。

 角川ビーンズ文庫は『スキキライ』で少女小説レーベルとしては初となる参入を決定。その後も、タイトルだけ大賞にノミネートされた話題作『脳漿炸裂ガール』を刊行。

スキキライ (角川ビーンズ文庫)脳漿炸裂ガール (角川ビーンズ文庫)

 そしてラノベ最大手の電撃文庫も『覚醒ラブサバイバー』でついにボカロノベル参入。

 この他にも、MF文庫Jの『終焉ノ栞』『ミカグラ学園組曲』、一迅社の『初音ミクの終焉』など文庫でのボカロノベルが数多く登場してきました。

 来年には富士見ファンタジア文庫も参入することが決定しています。

 奇特なのはネット小説界では大手のエンターブレインファミ通文庫えんため大賞受賞作のPVの楽曲をボカロPが制作する、という他とは一線を画したコラボレーションを開始する予定です。

 PHP研究所は、風刺曲が物議を醸すことが多いほぼ日Pの『シンキロウプロジェクト』を刊行。同曲をモチーフにしつつも、表紙からあらすじまで『カゲロウデイズ』を徹底的におちょくったメタな内容で「今までにない感じで面白い」「カゲプロのパクり。じんさんに謝れ」などと賛否を呼びました。

シンキロウプロジェクト

 「ボカロノベルに対する自己言及的な作品」は、楽曲の補完がメインだったボカロノベルに波紋を呼ぶのでしょうか。


ライトノベルが電子書籍に期待するものはなにか

 ライトノベル電子書籍が活発になった一年でした。

 「BOX-AIR」「GA文庫マガジン」「小説屋Sari-Sari」といった電子書籍オリジナルでのラノベ雑誌も登場し、また講談社ラノベ文庫は電子出版限定という形で打ち切り作品の完結を行うという手段に打って出ました。

 さらに、絶版本の電子復刊も盛んとなり、特に長らくプレミアのついていた長谷敏司の初期作品が復刊されたことはマニアの間で話題となりました。

 また、電子版限定でイラストを付ける(『BEATLESS』『光圀伝』『はなとゆめ』)・イラストをフルカラー化する(『東雲侑子』『ハイスクールD×D』)など、紙書籍にはないサービスも行われています。

 しかしその反面、長いときには半年に渡る独占配信、本を特定ストアにしか配信しないストア差別や売り逃げ・手抜きとも思える電子書籍の粗悪な出来(イラストなどを告知なしで削除する)など問題も山積であり、気軽に手を出して幸せになれるものではないと言わざるを得ません。

この問題については「ここがヘンだよ電子書籍 - 小説☆ワンダーランド」で詳しく述べていますので、ここで長々と書くのはやめておきましょう。興味がある方は、こちらの記事も是非お読みください。

ライトノベル評論・研究の現在

アカデミックな場でのライトノベルは文学よりも社会学の(ロスジェネやゼロ年代批評、ポストモダンの)文脈で語られることが多いように感じていましたが、文学の側からライトノベルにアプローチした評論・研究が今年は多く登場しました。

 波多岡景太『ラノベの中の現代日本 ポップ/ぼっち/ノスタルジア』は、ライトノベルに浮かび上がる「ぼっち」像を、村上龍や村上春樹らポップ文学と比較しながら論じた評論。

ラノベのなかの現代日本 ポップ/ぼっち/ノスタルジア (講談社現代新書)

 『ライトノベル・スタディーズ』は、これまでライトノベル研究ではさほどウェイトが置かれてこなかった一般文芸とライトノベルとのあわいにスポットを当てた研究書です。

ライトノベル・スタディーズ

 自身もライトノベル作家であり、twitter上での少女小説についての発言が激しい賛否を呼んだ大橋崇行によるライトノベル形式研究入門書ともいうべき『ライトノベルは好きですか?― ようこそ! ラノベ研究会』も刊行されました。

ライトノベルは好きですか?― ようこそ! ラノベ研究会

 ほかにも筒井康隆論でありながらラノベ論の側面を有する(『ビアンカ・オーバースタディ』についての言及もあり)藤田直哉『虚構内存在』、伊藤計劃を中心に日本SFを整理しなおした『ポストヒューマニティーズ――伊藤計劃以後のSF』、少女小説ジェンダーの視点から分析した久米依子『少女小説」の生成』が周辺評論として存在します。

 作家論としては、『ゴーストハント読本』に文学研究者・一柳廣孝の小野不由美論が掲載されています。

虚構内存在――筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉ポストヒューマニティーズ――伊藤計劃以後のSF「少女小説」の生成: ジェンダー・ポリティクスの世紀

まとめ

ボーダーレス化する「男性向け/女性向け」

 少女小説レーベルビーズログ文庫が男性をターゲットにしたキャンペーンを行ったことが話題となりました。男性には馴染みの薄い少女小説を「ヒロイン萌え」で読んでもらおうというもので、近年盛んな『流血女神伝』『少年陰陽師』といった少女小説の一般文芸化とあわせて、少女小説の読者層の多様化が進行しているといえます。

 また、男性向けラノベの側からも、『東京レイヴンズ』『ニンジャスレイヤー』『魔法戦争』など女性向け漫画誌でのコミカライズが展開されている作品が目立ちました。どれも男性キャラメインのコミカライズで、特に『ニンジャスレイヤー グラマラスキラーズ』は全ニンジャが美形化されているという衝撃の漫画。

 また、女性層取り込みに積極的なのがMF文庫J。

 MFといえば「白地バックに美少女が立った表紙のラブコメ」という印象が強かったのですが、今年はそういったイメージを覆すような動きを見せました。『クレイとフィンと夢見た手紙』、『化魂ムジナリズム』、『マカロン大好きな女の子がどうにかこうにか千年生き続ける話』といった異色作をコンスタントに刊行し、ボカロノベルも数多く展開、アニメ化に人気男性声優を数多く起用した『魔法戦争』はコミックジーンコミカライズ開始と女性向けを強く意識したメディアミックスもしています。

化魂ムジナリズム (MF文庫J)マカロン大好きな女の子がどうにかこうにか千年生き続けるお話。 (MF文庫J)

  『うたの☆プリンスさま』『free!』『黒子のバスケ』といった女性向け作品の大ヒットで女性ファンの購買力が注目されるようになった一年ですが、これを単なる一過性の「腐女子バブル」と捉えてよいものなのでしょうか。

 むしろ、「女性向け・男性向け」というジャンルの境界がなくなりつつある証左ではないでしょうか。

ライトノベルはあらゆるジャンルの交差点として機能するか

 大手ラノベレーベルが続々と参入しているウェブ小説とボカロ小説を、もはやラノベと切り離して考えることはできないでしょう。従来のラノベと形態が異なりながらも、パッケージングはほぼ同じこの2つが、どのように発展していくかが今後の注目点といえます。

 また、一般文庫ラノベやリバイバルラノベなど高年齢層を狙った作品や、女性層を取り込んでいこうとするメディアミックス展開などの急増により、これまでライトノベルの想定読者層とされてきた「10代男子」が意味のないものになりつつあります。

 「最近のライトノベルは画一化・粗製乱造化している」という批判をしばしば見受けますが、むしろ昨今のラノベシーンは、いろいろな年齢・性別の読者を取り込んで、かつてないほど多様化しているといって過言ではありません。

 ライトノベル・及びその周辺に位置するキャラノベの実写化も盛んとなり、ドラマでは『トッカン!』『ビブリア古書堂の事件手帖』『陰陽屋へようこそ』『真夜中のパン屋さん』『戦力外捜査官』、映画では『AllYouNeedIsKill』『赤×ピンク』『僕は友達が少ない』が公開予定となっています。

・注目作家

 早川書房で精力的に作品を発表する野崎まど

 忍法帖+ワイドスクリーンバロックSFというカオスなデビュー作『王子降臨』で読者の度肝を抜いた手代木正太郎

 『ヴァンパイアサマータイム』で一般文芸デビューの可能性が見えてきた石川博品

 東京創元社からの一般文芸デビューが確定した久住四季

 現実のボカロ界隈を皮肉ったボカロノベル『シンキロウプロジェクト』を執筆したほぼ日P

「ラノベレーベルデビューではないのに作品がラノベ扱いされる作家」たち(ex.仁木英之、青柳碧人、似鳥鶏、二宮敦人、青崎有吾、あさのあつこ、黒史郎、古野まほろ、芦辺拓、太田忠司、櫛木理宇、喜多喜久)

・一般文芸でブランド化するイラストレーター

 ライトノベルの「絵師買い」が一般文芸に波及しているのは見逃せません。

 一般文芸においても、表紙を描くイラストレーターは作品人気に少なからず貢献しており、人気の高いイラストレーターはブランド化してきています。

 くまおり純、庭などライトノベルと一般文芸の両方で活躍するイラストレーターも増えてきており、作家だけでなくイラストレーターも「越境」しつつあります。

 一般文芸でよく見かける、人気の高いイラストレーターは以下のとおり。

 toi8(『陰陽屋へようこそ』『まおゆう』)

(P[あ]4-1)よろず占い処 陰陽屋へようこそ (ポプラ文庫ピュアフル)

 ワカマツカオリ(『ノーブルチルドレン』東京創元版『インディゴの夜』)

まつるひとびと-奇妙奇天烈奇祭譚 (双葉文庫)

 丹地陽子(『黒猫』)

黒猫の遊歩あるいは美学講義 (ハヤカワ文庫JA)

 中村祐介(『謎解きはディナーのあとで』)

謎解きはディナーのあとで

 庭(『文化祭の夢に、おちる』『サマー・ランサー』)

さいとう市立さいとう高校野球部

 redjuice(『眼球堂の殺人』『BEATLESS』)

双孔堂の殺人 ~Double Torus~ (講談社ノベルス)

 平沢下戸(『踊る人形』『目白台サイドキック』)

踊る人形 名探偵三途川理とゴーレムのEは真実のE (講談社BOX)

 遠田志帆(『はなとゆめ』『竜宮ホテル』)

竜宮ホテル (徳間文庫)

 さやか(『少女七竈と七人の悪い大人たち』)

少女七竈と七人の可愛そうな大人

 くまおり純(『密葬』『丸太町ルヴォワール』)

夏の王国で目覚めない (ハヤカワ・ミステリワールド)

 ヤマウチシズ(『ホーンテッド・キャンパス』)

ホーンテッド・キャンパス (角川ホラー文庫)

 ヒコ(『SE神谷翔のサイバー事件簿』)

マイワールド (星海社FICTIONS)

 越島はぐ(『ビブリア古書堂の事件簿』『ウラミズ』)

ウラミズ (角川ホラー文庫)

 usi(『天帝シリーズ』)

リライト (ハヤカワ文庫JA)

・新たなメディア・新たな技術とのクロスオーバー

 大胆なスマホ連動ギミックを、いち早く小説の世界に取り入れたのはライトノベルでした。

 今年は、スマホアプリで挿絵をかざしていろいろな仕掛けが楽しめるAR技術を導入した作品が登場しました。宝島社から刊行された『クラッキングウィザード』は、本文挿絵をアプリでかざすとキャラの3Dモデルが飛び出す仕掛けが盛り込まれています。

 また、名門・京アニ初の女性向けスポーツアニメということで注目されるも、スポーツマンシップを蔑ろにしたともとれる最終回が激しい賛否両論を巻き起こした「free!」の原案小説であるおおじこうじ『ハイ☆スピード』(KAエスマ文庫)は、表紙をアプリでかざすとキャラが動き出すつくりに。

クラッキング・ウィザード ~鋭奪ノ魔人と魔剣の少女 (このライトノベルがすごい! 文庫)ハイ☆スピード! (KAエスマ文庫)

 こうしたデジタルとアナログを組み合わせた仕掛けは現時点ではまだ試験的ですが、今後様々な作品に適応されていくのではないでしょうか。そのとき、こうした作品が果たしてライトノベルに含まれているかは別として。

・無視できない社会人読者層と巨大な怪物

 一般文庫のラノベ化、ラノベの一般文庫化、レトロゲームノベライズ、復刊ブーム、実写化……こういった現象の背景には、ラノベと一般文芸の境界があいまいになったことで「ラノベからの卒業」が形骸化しつつある現状があるのではないでしょうか。

 つまり、ライトノベル側が、ライトノベル卒業生を手厚くアフターケアしている。

 ここ数十年間、ライトノベルというジャンルは、ハイターゲットのみならず、SFやミステリ少女小説などあらゆる領域を取り込んでの拡大を指摘され続けてきました。

 そして今や、その全体像を俯瞰することが困難なほど巨大な怪物となっています。

 ライトノベルという「怪物」がこれからの日本をどう駆け抜けていくのか。

 サブカルチャー/メインカルチャーという枠組みすら破壊してしまうのか。

 もはや「何が飛び出すか誰にも分からない」状態なのだと実感しました。