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2017-10-17

昭和のキャラノベ 獅子文六『箱根山』

箱根山 (ちくま文庫)

箱根山 (ちくま文庫)

先日私の手元に一冊の本が舞い込んできました。

表題に『箱根山』とだけ書いてあるその本は、表紙こそキャラノベチックではあるものの分厚く、帯文には「冒頭が退屈」とまで書かれていました。

この世の中において「冒頭が退屈」と言い切ってしまうとはよほどの本に違いあるまい。

そんなよく分からない怪しげな古い小説を読んでみたのであります。

「退屈だ」と断言された冒頭は、箱根の交通を巡る抗争の模様が描かれています。

抗争とはいっても会議を舞台に、軽妙な文体でちゃきちゃきとした論戦が繰り広げられるのです。

シン・ゴジラ』に近いものでしょう。

ちなみにここでは大量の会社の重役と官僚が矢継ぎ早に出てきますが、その大半は話に絡まないので忘れて結構です。

……あれそんなに退屈ではない。

お堅い小説かと思いきや、意外や意外、キャラノベとして出しても通用するような面白さがあることに気付いてしまいました。

会議シーンが過ぎると物語の舞台はいよいよ箱根山に移り、第三勢力として野心を抱く氏田観光の北条、互いに火花を散らす老舗旅館玉屋と若松屋の面々が登場してきます。

箱根山に構える2つの旅館の栄衰と、旅館の対立関係に挟まれてしまった乙夫と明日子のラブコメが語られていきます。

旅館の栄衰、というとやっぱりこうドロドロして重厚な感じ……と思ってしまいますが、実際はテンポ良い丁々発止の掛け合いや旅館よりも先住民族の研究に没頭する明日子の父、女主人として辣腕を振るう玉屋のお里など強烈なキャラクター達もあいまってホームドラマ的面白さがあります。

生真面目なハーフの乙夫と自由奔放な明日子のロミオとジュリエットのような恋愛模様は、甘酸っぱくキュンとくる。

明日子が乙夫のことを「使用人」呼ばわりしているのも面白いですね。ファミ通文庫ネクストから出ていてもおかしくない感じです。

わかりますか皆さん。1960年代の小説で主人公がヒロインに下僕扱いされるんですよ。これはちょっとした衝撃でした。

ここで少し著者の獅子文六について紹介しておきましょう。

獅子文六は昭和戦前から活躍していた作家で、『金色青春譜』で小説家デビュー。岸田國士久保田万太郎と共に文学座を創立し、『海軍』で朝日文化賞を受賞。

太平洋戦争をモチーフとした作品を多く描いていたためか戦後は「戦争協力作家」として迫害されるも、精力的に作品を執筆しました。

2017年には代表作の『悦ちゃん』がテレビドラマ化されています。

本作は1961年に新聞掲載され、乙夫の出自箱根の文化描写など戦後まもなくの時代を感じさせるところもありますが、それでもなお新鮮さを失っていない隠れた名作といえます。

分厚さにおののかず、キャラノベとして手に取ってみてください。

2017-09-26

柾木政宗『NO推理、NO探偵?』

NO推理、NO探偵? (講談社ノベルス)

NO推理、NO探偵? (講談社ノベルス)

メフィスト賞とは何か。その答えは未だ定まっていない。

作中でたびたび言及されるよう、メフィスト賞=変わった作品という認識も強い。

本作はそういう点でいえばメフィスト賞の王道を往くミステリである。

物語は短編連作形式で、推理する力を失ってしまった女子高生探偵アイと、彼女に何とか探偵してもらいたい女子高生助手ユウが各地で織りなす「日常の謎」「アクションミステリ」「旅情ミステリ」「エロミス」「安楽椅子探偵」事件を描いている。

この作品の特に好みが分かれるであろう部分はラノベっぽいメタギャグだろう。

登場人物が読者に話しかける・地の文を捏造るなどは当たり前で、そこに面喰う感想も多かった。

その癖展開はハチャメチャで、ヤンキーものや官能小説の文脈が突然ぶち込まれるためにミステリなのかどうかすら怪しくなってくる。

しかし、本作はやはりミステリである。愚直なまでにミステリである。

それは最終話まで読めば分かるので諦めないで読んでほしい。

これまでのエピソードで覚える違和感を昇華させ、作家人生一度しか出来ないトリックを繰り出す衝撃の展開。

一見奇をてらっているようにも見えるが、結構誠実な作りにはなっていると思う。ライトミステリ新本格をおちょくったような荒唐無稽な事件の展開に反して、最終的には論理的な解答が示されるし、最終話のトリックにしても伏線はきっちり撒いてある。

作中のセリフで挿絵が指定されるとちゃんと挿絵が入るのもストーリー的に誠実だろう。

ふざけているようで、案外愚直なまでにきちんと書かれたラノベミステリだと思った。

だから、ラノベミステリが好きな人はかなり好みの小説なのでおすすめします。

女子高生探偵萌えものとしても結構いけるし、過剰なまでのジャンル言及とおちょくりもライトノベルのようである。挿絵があるからラノベでいいんじゃないかこれ。

もう一つのメフィスト賞受賞作は講談社タイガから出るのだが、何故これはタイガから出なかったんだ。

講談社の闇は深い。

2017-09-12

碌星らせん 『黄昏のブッシャリオン』

カクヨム(twitter小説)から放たれた新たなイロモノSF

人々の善行から発生する徳をエネルギーとして動く兵器群(!)とその暴走による人々の大量解脱による徳カリプス後の世界を生きる人々の物語。

ここまででとてもカロリーの高い文章になってしまっているが、あとがきを読めば分かる通り「フィクションで見られる人の感情から産まれるエネルギーがあったらどうなるのか」「人々が善なる行為をすれば世界は平和になるのか」というテーマに迫った実は大真面目なSFで、徳エネルギーとは一体なんなのか?徳カリプスは何故引き起こされたのか?といった謎を孕みながら物語は展開されていく。

北斗の拳マッドマックスのような荒れ果てた大地を巨大仏像が闊歩するという衝撃的な世界観とは裏腹に正統派の冒険SFで、主人公コンビのガンジークーカイ、そして謎の美女舎利ボーグノイラのとぼけたやり取りはトライガンのようでもある。

世界観一点突破なだけの話かと思っていたが、次第に壮大な展開へと変化していく様は非常に面白かった。

「徳」というキーワードからここまでパンパンに小説を膨張できるとは。

読む前は『ケイオス・ヘキサ』『シャングリ・ラ』のようなオカルトパンクのラインにある作品だと思っていた。(そのラインにあることは事実である)

ところが実際はこれバリントン・J・ベイリーや手代木正太郎のようなワイドスクリーンバロックでもあるよ!

イロモノといって敬遠するのは実にもったいない作品。

古典SF好きにこそ勧めたい一作。

2017-08-22

キャラ文総選挙結果発表!

キャラ文総選挙の結果が突然発表されました!!!

中間発表の上位作品がどこも同じだったり突然AKB総選挙のツィートをした後沈黙したりと香ばしい部分が多かったキャラ文総選挙だったが、無事に結果が出たことを、まずは祝おう。

結果は以下の通り。

第10位 僕は君を殺せない・終電の神様

第9位 僕はまた、君にさよならの数を見る

第8位 京都寺町三条ホームズ

第7位 東京すみっこごはん

第6位 ぼんくら陰陽師の鬼嫁

第5位 天使は奇跡を希う

第4位 春となりを待つきみへ

第3位 そして、君のいない九月がくる

第2位 天国までの49日間

第1位 君は月夜に光り輝く

自分の推し作品とは全く被りませんでした!

ので、あまり言う権利はない……。

とりあえず中間発表の順位から大きく変動していて、八百長疑惑が晴れたのは良かった。

これだけだとなんなので、自分が今年読んで面白かったキャラ文芸をランキングにしていくぞ。

1位 すもうガール

すもうガールズ (幻冬舎文庫)

すもうガールズ (幻冬舎文庫)

火ノ丸相撲百合を組み合わせたらどうなるか、ということを実行した作品。

そう、女子高生の相撲を描いた百合ノベルなのだ。

相撲の天才と、彼女に唯一追いつける才覚を持つが相撲を辞めた2人の少女の熱く、リリカルなぶつかり合いがとにかくクる。

百合好き・火ノ丸相撲好きには絶対におすすめ。

2位 ヤキトリ

自称ヘビーノベルの『幼女戦記』の作者によるライトノベル

宇宙軍の兵士の成長を描いたゴリゴリのミリタリーSFなのですが、緊密とした内容・単なる戦場ものではないストーリーに引き込まれていく一作。

3位 キネマ探偵カレイドミステリ

引きこもりの天才大学生が、映画に関する謎を解いていく短編連作ミステリ

こう書くとあやかしカフェのほっこり事件簿的なものを想像しがちだが、実際はかなりハードで猟奇殺人が起きる。

書き手ミステリ愛が伝わってくる、読まず嫌いはもったいないキャラノベ。

4位 裏世界ピクニック

都市伝説の存在が跋扈する裏の世界をサバイバルする百合ホラー。

ホラーの設定を借りたいちゃいちゃ百合ものではなく、ホラー部分もしっかり作り込んであるのが良かった。

5位 名探偵は嘘をつかない

名探偵は嘘をつかない

名探偵は嘘をつかない

転生もの裁判ミステリ

とにかく分厚く2000円超えの大ボリュームなのだが、転生もの裁判という奇抜なジャンルにふさわしく次から次へと巻き起こる驚愕の展開にページをめくる手がとまらなかった。

2017-08-08

カルロ・ゼン『ヤキトリ1』

ミリタリーSFというジャンル、あるいはスペースオペラというジャンルはSFの中で「文学性がない」「価値がない」「パルプフィクションである」として、ときどき(切断処理されて「SF文学」の植民地にされた一部以外は)蔑まされている。

それどころか、SFの中に入らないとされることすらある。

一昨年、アメリカSF文壇においては「サッドパピーズ」と呼ばれる「マイノリティの人種、女性、同性愛者への公正さを重んじるリベラルな政治性を優先して選ばれている」「文芸的な作品が重視され、娯楽的なSFが無視されている」という批判を掲げる者による騒動が起きた。

大統領選の波乱を予兆していた、米SF界のカルチャー戦争 | 渡辺由佳里 | コラム&ブログ | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

日本においてこれが注目されたのはもっぱら前者の「リベラルな政治性」という点ばかりだったが、真になんとかしなくてはならないのは「文芸的な作品が重視され、娯楽的なSFが無視されている」というところではないだろうか。

円城塔宮内悠介のような思弁的なSF文学ももちろんいいだろう。しかし、SFというのはもっと混沌としていて、俗なものであってもいい。

そのような混沌としたSFが、ライトノベルの世界から登場した。

一応ハヤカワから出ているが、どうせタニグチリウイチ氏がラノベSFのコーナーで紹介するのだからライトノベルでいいだろう。

作者カルロ・ゼンといえばアニメ化された『幼女戦記』で有名で、「ライトノベルではなくヘビーノベルだ」とも言われていますが、これがヘビーノベルかはどうかはさておいてライトノベルといって過言ではないでしょう。少なくとも、キャラノベライト文芸/キャラ文芸でしょう。

高度な文明を築く異星人に実質的に支配されている未来の地球

それぞれに思惑を持った地球人達は喰えない「調理師」パプキンの誘いに乗って異星人の手駒である傭兵となる。

しかし、そこにはパプキンのとある野望が絡んでいて……。

1巻丸々訓練に費やされていますが、何を考えているのか分からない部隊の人間、強制される意味不明な訓練などソリッドシチュエーションのような先の読めない面白さがあり、グイグイ引き込まれていった。

現時点ではどちらかといえば『SAW』や『HUNTER×HUNTER』に近い作風なので、ミリタリーSFに馴染がなくともすんなり楽しめる。

タイトルは無惨に使い捨てられる新兵の意味であって決してグルメものではありません。

軍事教練の垣間に見える世界観は退廃的。

マクドナルドが高級レストランとして扱われている、といえばその荒廃ぶりが伝わるはず。

この世界において、地球人は異星人に支配され、家畜や動物のような認識で使い捨てられています。

異星人は地球人のことを良くて野蛮な原始民族くらいにしか思っておらず、あたかも貴族のように政治的ゲームを繰り広げています。

犬や猫型の宇宙人が現れ、宇宙には戦艦が何隻も浮かぶ未来であれど、妙な居心地の悪いリアルさを感じてしまうのはどうしてだろうか。

『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』のヒューマンデブリを彷彿とさせる設定ですが、不思議とそこまで暗さがないのは、ひとえに主人公がとにかくガッついて目の前の状況を諦めずに打開していく性格だからでしょう。

一見ヒネた作品のように思えますが、ストーリーのカギは「諦めない」こと。

蓋を開ければ、仲間とともに危難を乗り越えていく王道の戦記ラノベなのです。

確かにこの作品は政治的に正しいわけではないかもしれない。(事実、国家や民族を侮辱する人物たちがいっぱい出てくる)

でも、荒唐無稽なミリタリーSFのようでありながらも、抜身の刃のような生々しい切れ味とエンタテイメントとしての楽しさを兼ねそろえた本作は、SFの持つエネルギーをじかに体感できる作品だ。