小説☆ワンダーランド このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2017-03-28

諏訪錦『線引屋』


ぼく、間久辺比佐志はある日、新作の深夜アニメに触発されて、その舞台そっくりな近所のガード下へと足を運んでみた。いわゆる聖地巡礼だね。そこでアニメに出てくる魔法陣をスプレーで描いていたら、不良に絡まれちゃいました。とにかく逃げろ、と駆け込んだ公園で、自称・正義の味方に助けてもらったんだけど、翌日のウェブ記事によると、落書きをした人が不良チームを潰したことになってるらしい。…それってぼくのことじゃないか?そういえば学校で、ぼくの天使こと加須浦さんがギャルの石神さんと、そんな話をしてたような。「正体不明のライター、悪を討つ」だっけか。なんだか照れちゃうな…って、そんなこと言ってる場合じゃない気がするんだけど。案の定不良に捕まり、彼らのためにグラフィティを描くハメになったぼく。いったいこの先どうなるんだ!?とりあえず―アニメ見てていいですか?

アルファポリスから発売されたヤンキーもののネット小説です。

アルファポリスといえば、異世界転生ものやMMORPGものなどなろう系の王道をバンバン出している出版社で、エンターブレインあたりから出てきそうなこういう変わり種を出してきたことには驚きました。

ネット小説といっても、ファンタジー要素やチート要素があるわけではなく、本当にヤンキー漫画的な世界観で繰り広げられる物語です。

気弱なオタクがヤンキー同士の抗争に巻き込まれていく中で、グラフィティの才能を開花させていき、いつしか仲間達を守るために覆面のヒーローとして自らも抗争に飛び込んでいくというお話。

メインはヤンキーバトルなのですが、主人公が自らの正体を隠しながら戦い続け、やがてダークヒーローのような立ち位置になっていくのは「ナイトヒーローNAOTO」や「デアデビル」のようでもあります。

ネット小説とはいえ、まともなヤンキー経験値をハイローとガチバンユニバースくらいしか経験していないので大丈夫かな……と思っていましたが、想像以上に面白かったです。

気弱なオタクとストリートを騒がせる覆面グラフィティアーティストの二重生活はアメコミヒーローのようでもあり。

考え方も住む世界も対照的でギクシャクしていたオタクとヤンキーが、いろいろな災難を乗り越えてバディとなっていく展開も面白かったです。

特に終盤の、間久辺がアーティストとして抗争に身を投じることを決意するシーンはとても熱かった。

勢力争いという舞台設定はあれど、あまりハイローみはない話なのですが。

ただ、最強ヤンキーとしてアカサビというキャラが登場するのですが、この第3勢力的なポジションや「圧倒的に強くてヤバい」という描写がハイローの雨宮兄弟でいいですね。

あと、イラストレーターはハイローファンアートでもおなじみの巖本英利氏が担当しており、主人公のイラストが村山みを感じるのでやはりハイローのオタクは買って損はないかと思います。

2017-03-18

ライト文芸雑語りへのリファレンス

最近、ライト文芸/キャラクター文芸/キャラノベへの間違った理解が目立ちます。

ライトノベルへの偏見を批判する者であっても、ライト文芸に関しては「あやかしカフェのほっこり事件簿しかない」「多様性がない」と認識してしまっていることも多く、大変つらいです。

ということで、そういった偏見をなくそうと思って、よく見るライト文芸への偏見とその反例としての作品を挙げました。

先回りしておきますが、ハヤカワ文庫JAとノベルゼロはキャラノベです。

ライト文芸には性描写がない

君の膵臓をたべたいジャバウォック 真田邪忍帖 (Novel 0)咎人の星

ライト文芸には村ものミステリがない

ぐるりよざ殺人事件  セーラー服と黙示録 (角川文庫)露壜村事件    生き神少女とザンサツの夜 (角川文庫)臨床真実士ユイカの論理 文渡家の一族 (講談社タイガ)

ライト文芸には百合がない

ノノノ・ワールドエンド (ハヤカワ文庫JA)裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル (ハヤカワ文庫JA)少女妄想中。 (メディアワークス文庫)

ライト文芸には女騎士がいない

皿の上の聖騎士〈パラディン〉1 ― A Tale of Armour ―<皿の上の聖騎士〈パラディン〉> (NOVEL 0)

ライト文芸にはバラバラ殺人がない

魔獣調教師ツカイ・J・マクラウドの事件録 獣の王はかく語りき (Novel 0)きみの分解パラドックス (富士見L文庫)

ライト文芸には中世ファンタジーがない

魔導の系譜 (創元推理文庫)砂上の剣―イーハの少年剣士 (メディアワークス文庫)

ライト文芸には時代小説がない

桜花忍法帖 バジリスク新章 (上) (講談社タイガ)鬼狩りの梓馬 (角川ホラー文庫)

ライト文芸にはロボットものがない

ティターンズの旗のもとに〈上〉 ADVANCE OF Z (角川文庫)

ライト文芸にはSFがない

螺旋時空のラビリンス (集英社オレンジ文庫)バビロン 2 ―死― (講談社タイガ)

ライト文芸アニメのような表紙ばかりだ

ヒーローズ(株)!!! (メディアワークス文庫)書店男子と猫店主の平穏なる余暇 (集英社オレンジ文庫)

ライト文芸には挿絵がない

魔界探偵冥王星O―ペインのP (メディアワークス文庫)裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル (ハヤカワ文庫JA)天久鷹央の推理カルテ(新潮文庫)

以上です。

ライト文芸は決して女性向けの妖怪日常の謎学園恋愛ミステリしかないわけではありません。

これをきっかけに、ライト文芸の奥深さを味わっていただければ幸いです。

2017-03-02

宮澤伊織『裏世界ピクニック ふたりの怪異探検ファイル』

『ウは宇宙ヤバいのウ』でSFマニアからの注目を集めた宮澤伊織の最新ラノベ百合SFです。早川は定期的に百合ラノベを出さなければならない呪いにかかっているのか。

こういうことを言うと必ずといっていいほど「これはラノベではない」と反論されそうですが、なんとこの本には挿絵があるので、これを見せれば「ラノベだ」と思ってもらえることでしょう。

内容ですが、くねくねや八尺様、きさらぎ駅などの都市伝説をモチーフに、怪異が跋扈する「裏世界」に足を踏み入れた2人の女子大生百合!が描かれます。

一応SFということで、怪異にSF的解釈が加わっているのが特徴。しかしホラー要素も結構強く、グロテスクな描写も若干あります。ハヤカワ文庫よりも角川ホラー文庫から出そう。

とはいってもそこまで緊迫した内容ではなく、闇の百合でもなく、日常から一歩足を踏み外した二人の少女の友情と青春を描くある種のほほんとした作風ですのでガチガチのホラーがダメでも安心してください。

解説にもある通り、ここで登場する怪異には元ネタがあるので、それらを知っているとニヤリとできる部分があります。そこまでネタバレになっていないと思うので、先に解説に挙がっている怪談を読んでおくとより楽しいでしょう。

サブタイトルでなんとなく勘づくかもしれませんが、本作における怪異の解釈や異世界の設定などは「コワすぎ!」「カルト」などの白石作品に近いものがあります。特に怪異の解釈および百合要素から「貞子vs伽椰子」を彷彿とさせます。

なので、この百合ラノベが気に入ったらさだかやを観ると(二つの意味で)オススメです。

2017-02-07

古野まほろ『おんみょう紅茶屋らぷさん 〜式神のいるお店で、おかわりをどうぞ〜』

メディアワークス文庫より刊行されている、キャラノベ作家古野まほろのキャラノベシリーズ第二巻。

古野まほろのもう一つのキャラノベシリーズであるユイカシリーズもこれと同月に2巻が出ており、内容もユイカシリーズとのクロスオーバーが密接にあるものとなっております。

そういえば1巻も「講談社との和解」という歴史的ファクターとなったユイカ1と同月刊行でしたが、これは偶然ではなく、らぷさんとユイカで表と裏を成す作品となっている仕掛けの一つでしょう。

「人の嘘を判別できる」という特殊能力はあれど、「犯人当て」「殺人事件」「読者への挑戦状」など探偵小説の王道をいくユイカとは対照的に、らぷさんは殺人事件や犯人当てはなく、店に来る客の悩みを解決して能力バトルを繰り広げる「あやかしカフェのほっこり事件簿」という色が強いです。

しかし、その中においても悩みの解決は十分にミステリ的な手法をとっており、天帝シリーズでも見せた紅茶雑学やオタネタもあいまって非常に楽しめる作品となっています。

1巻はだいぶキャラノベ的で古野まほろ初心者に向けたようなつくりでしたが、2巻では物語で暗躍する悪の陰陽師との対決やユイカ・正朝姉弟の陰惨な過去などが語られ、だいぶきな臭くなってきました。特にシリアス回である3話はユイカシリーズの根幹を成す設定が語られています。

そのため、初心者よりは古野まほろ作品を読んでいるファン向けの内容といえなくもありません。

同じく陰陽道が登場する天帝バースとはまた別のバースの話ですが、ユイカシリーズが刊行されている講談社の中断シリーズである探偵小説シリーズと「陰陽師」が共通していること、また本作の陰陽師は「次元を移動する力を有する」ことを踏まえれば、天帝バースとのクロスオーバーも、ありえなくは……ないかも。

「あの古野まほろがあやかしカフェのほっこり事件簿を!?」と驚いたものですが、実際は講談社と和解した古野まほろの新境地ともいうべき試みが堪能できる作品となりました。

2017-01-01

昨年読んで面白かった本

シャーロック・ノート2

シャーロック・ノートII: 試験と古典と探偵殺し (新潮文庫nex)

円居挽の学園裁判ミステリ

探偵養成学校で起こる事件と、それを解き明かす探偵候補生の対決を描いた作品。

短編連作のかたちを取りながら学校で教鞭をとるレジェンド級探偵の登場と活躍を描き、最終的にそのすべてが大事件のカギを握るという構成と、過去に傷を負った少年少女の苦悩と再起を描く青春小説としての完成度が高い。

とはいえ、これをベストにしたのは別の理由があって、それは作中でさらっと明かされるとんでもない事実にある。それは「キューバ危機を回避できず第三次世界大戦が勃発したパラレルワールドである」ということで、これはもしかしたら学園裁判ものではなく歴史改変SFなのではないか!?と、劇舞台に突然ダンプが突っ込んできたような衝撃があった。

今のところあまりメインストーリーには絡まないものの、もしこれが存分に活かされることがあればラノベミステリ史とSF史に名を残すとてつもない作品になるという予感がある。

ストライクフォール

ストライクフォール (ガガガ文庫)

本年度の実質ガルパンその1。ロボットはいいぞ。

双子の片割れがロボットバトルの天才で、その兄は弟が天才であることに鬱屈としていたのだが、急死した弟に代わって急遽ロボットバトルに出ることになって……という要するにロボット版「タッチ」なんですが、やってることは「タッチ」というよりもガルパンに近い。

変態が出てきたり安保闘争が出てきたり超高度AIが出てきたりしてドロドロになる長谷作品にしては、恐れるほど爽やか。が、そこかしこで不穏すぎる設定が顔を出しているので、終盤はいつもの長谷作品っぽくなりそう。

青の数学

青の数学 (新潮文庫nex)

本年度の実質ガルパンその2。数学はいいぞ。

数学の天才高校生同士がひたすらに数学バトルするというデビュー作『天盆』路線のお話です。

いちいち出てくるキャラが天才と実力者のオンパレードで、自分の使える手を駆使して難問を乗り越えていく様がやっぱりこれもガルパンに近い。

数学というどうやっても地味な個人的戦いにならざるを得ない題材を、濃いキャラと緻密な文章演出でうまく料理して超ド級エンターテイメントに変えた逸作。

個人と国家

個人と国家 人魔調停局 捜査File.02<人魔調停局 捜査File> (NOVEL 0)

MF文庫Jから「萌え0%」とかいうどっかで聞いたことのあるようなコピーをひっさげ現れたファンタジーラノベの続編。

モンスターのいる世界で、テロリストと戦う警察官の話なのだが、警察要素が抜かれてその代わりにどう見てもアメリカソ連がモデルの2大国冷戦移民問題がテーマのポリティカルサスペンスになり、「異世界ファンタジーでメタルギアソリッドをやる」という様相と化した。

さすがにこれをMFでやるのはきついと判断されたのか、大人向けキャラノベレーベルのノベルゼロに移籍しましたが、移籍した途端話の内容が過激になるわメインヒロインがおっさんになるわで凄まじい内容だった。

図書館ドラゴンは火を吹かない

図書館ドラゴンは火を吹かない

アリュージョニスト界隈で人気のなろう小説。

少年とドラゴンの冒険と交流を描くおねショタ異種族のラブストーリーで、童話的な語り口と世界観にのせて繰り広げられるのがなんとも魅力的。

よくイメージされるなろうファンタジーのようなゲーム的要素や転生はなく、初期紅玉いづき作品に近い心温まる感動のいちゃラブ童話ファンタジーなので、一般文芸として、こう、膵臓とかに滑り込ましてアリュージョニスト界隈以外にめちゃくちゃに布教していきたいというのが抱負です。

魔獣調教師ツカイ・J・マクラウドの事件録

魔獣調教師ツカイ・J・マクラウドの事件録 獣の王はかく語りき (Novel 0)

本年度キャラノベの思わぬ拾い物。

天才イケメン魔獣調教師が魔獣絡みの事件を解決したり人を殺したりするゴシックファンタジーミステリ

ちょっとビターなファンタジーかと思いきや、いろいろと趣向を凝らしたミステリ

話は結構暗い(大人向けキャラノベレーベルなので濡れ場もある)のですが、こちらの予想を上回る展開が全てのエピソードにおいて用意されており、読んでいて非常に楽しかった。

ステージ・オブ・ザ・グラウンド

ステージ・オブ・ザ・グラウンド (電撃文庫)

ロウきゅーぶ!』の作者によるイケメン野球ラノベ。今年の電撃に多かった「何故メディアワークス文庫で出なかった」案件ですね。

どこかで壁をバリバリ破って幼女キャラが出るかと思ったら、まったくそんなことはなく圧倒的イケメンバディ素子を大量吸引して終わってしまった。

挫折経験のある男と天才肌で誰にもない能力を持つ男のバディと、それが結実する野球シーンの駆け引きが面白くてたまらない。

魔導の系譜

魔導の系譜 (創元推理文庫)

創元ファンタジー新人賞。あらすじとイラストのラノベっぽさが創元のファンタジーなのに何事だ!と一部を怒らせましたが本当に90年代のラノベだった。

魔法が使えない少年が国を揺るがす戦乱に巻き込まれていくというプレステRPGまんまな展開が逆に結構新鮮で面白かった。具体的にはサガフロンティア2と幻想水滸伝です。

月とライカと吸血姫

月とライカと吸血姫 (ガガガ文庫)

HiGH&LOW2期8話の脚本家による社会主義+宇宙+ファンタジーラノベ。宇宙を目指す落ちこぼれ候補生と、実験のためロケットに乗せられることになった吸血鬼の恋愛を描く。

発売前の宣伝では「ポスト飛空士狙ってるっス!」みたいな文言があって、「今更飛空士フォロワー!?」と思った。が、実際は濃密に社会主義要素(言論統制や暗殺が平然とある)があり、『耳刈ネルリ』『約束の国』などロシアラノベ系譜に連なる作品だった。

それを抜きにしても、扱いや生まれで周囲から蔑まされる人々が、明日死ぬかもしれないと分かっていても宇宙を目指す姿にはそれでもグッときた。特に終盤の熱さはすごい。