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2017-07-23

遍柳一『平浦ファミリズム』

平浦ファミリズム (ガガガ文庫)

平浦ファミリズム (ガガガ文庫)

家族がいれば、それでよかった。

五年前、ベンチャー企業の社長である母を亡くした平浦一慶。残されたのは、喧嘩っ早いトランスジェンダーの姉、オタクで引き籠りの妹、コミュ障でフリーターの父だった。かく言う一慶も、高校にもろくに通わず、母から受け継いだエンジニアとしての才能を活かし、ひとりアプリ開発に精を出す日々を送っていた。

そんな一慶をなんとか更生させようと、毎日のように電話をかけてくる担任の天野小春や、優等生であるがゆえ嫌々ながら彼にからんでくるクラスメイトの千条真理香。それぞれのエゴを押し付ける周囲に辟易しつつも、親のためにも高校くらいは卒業しようと中途半端に学校に通い続ける一慶。

そんなある日のこと、一慶は、いじめられていた小学生の女の子を偶然救ってあげたことが誤解を生み、児童暴行未遂の嫌疑をかけられ、学校側から退学処分を言い渡されてしまう。家族、教師、クラスメイト、様々な想いが交錯する中、一慶はずっと胸の奥底にひた隠してきた自分自身の心に、もう一度向き合わざるを得なくなる……。

BLACK LAGOON』の著者・広江礼威氏も絶賛した珠玉の青春小説。第11回小学館ライトノベル大賞・ガガガ大賞受賞作品。

あまりにも生々しいあらすじから「何故ライトノベルとして出たのか」と議論されていたガガガ大賞受賞作。

実際には非現実的な奇想やオタクカルチャーが登場し結構ライトノベル(キャラノベ)色が強く、青春ものラノベとしてきっちり仕上がった逸品です。

しかし本作を異様にしているのは青春ラノベに絡みつく強烈な神話であり、いってみれば「無謬の神の一族が、神たる自己と神ではない他者の関係性を見つめ直す」現代神話といって過言ではないでしょう。

この物語でクローズアップされるのは平浦家という一つの家族です。

平浦家は「天才」と謳われたベンチャー企業の社長である母親、学校に行かずともなんでもできる神がかったエンジニアの一慶、絵がとてつもなくうまい妹、キャバクラで働く腕っぷしがとてつもなく強いトランスジェンダーの姉、普通の父親で構成されています。

見ての通り、平浦家は女系の家族です。母親は世間を騒がせた時代の寵児であり、その才能(神性と言い換えてもよいでしょう)を3人の子供が受け継いでいます。唯一外部から来た父親のみ才能がないことからも、平浦家の軸が神たる母親にあることがわかります。

主人公の一慶はそんな平浦家に固執し、家族以外の他者を信用せず、他者から差し伸べられる手を拒絶します。

それは「プログラミング可能であればよいのに」と思うほど他人は不出来であり、家族以外に愛情は存在しないと考えているからです。

本作では一慶は勉強もスポーツもなんでも出来る万能超人として描かれていますが、他人に触れることができません。

神であっても、他人の心や体までは操れないしわからないのです。

だからこそ他人を恐ろしく思い、心を固く閉ざしていきます。

しかし、そんな彼は家族に降りかかる事件の中で大きく変わらざるを得なくなります。

無謬の神の才を受け継いでしまった少年が、いかにして自分と世界の関係性を再構築していくのか。

それが丁寧に、美しく描かれていることに驚きました。

また、その過程で平浦家という一族の過去が挿入され、神の一族のサーガのようにも読めるという構成になっています。

よくよく考えてみれば家族の誰も非現実的な話なのですが、このあたりのリアリティからの解放感と文字がぎっちり詰まっているにも関わらずドライブ感のある文章が本作を「舞城王太郎佐藤友哉っぽい」と感じた要因でしょう。

本作の感想には「既存の「ライトノベル」というカテゴリーの枠を取り払った」、「一般的なラノベレイアウト以外を受け付けられない人は読むのがやや苦痛」、「ラノベ?と思う内容」、「ラノベ分野に留まらない課題作」というような「これはライトノベルではない」というものがあるが、これはライトノベル新人賞受賞作であるからこそ表現しえた内容であると、読後思いました。

2017-07-14

上半期ラノベベスト

屈折する星屑 (ハヤカワ文庫JA)

屈折する星屑 (ハヤカワ文庫JA)

江波光則の越境2作目であるヤンキースペースオペラ

反知性的なアメリカの田舎のようなスペースコロニーを舞台に、エアバイクレースに興じる若者の刹那的青春を描き出しながら、最終的には壮大なスペースオペラへと転じる。

ヤンキーものからスペースオペラへとジャンルが変わり、壮絶な結末まで引き込まれてしまう。

ダウナーでありながら情熱的な快作。

座敷牢に幽閉された少女ツナは、怪談を好む。ぼくはそんなツナのために、怪談を探して十年以上彼女のために読んでいる。

ツナの解放を願うぼくの気持ちが禁忌を解いてしまうとは知らずに……。

実話怪談系のラノベSFホラー。

ゾッとするような怖さがありながら、爽やかでもある不思議な作品。

怖さを求めるクチにもキャラノベを求めるクチにもおすすめできる。

無気力な高校生・永瀬はある朝、同じクラスの生徒である雨宮翼が飛び込み自殺する瞬間を目撃してしまう。そんな永瀬はあやしい友人深井から「過去に戻れる」カプセルを渡される。

永瀬はそのカプセルを使い過去に戻り、雨宮の飛び込み自殺をやめさせようとするが……。

講談社ラノベ文庫のキャラノベ路線のパイロットフィッシュと思われる作品。

一見『君の名は。』のようなループものSFかと思いきや、その実はダウナーな暗黒青春小説

キャラノベ系でよくある恋愛系ループものだと思って油断していると足元を掬われる衝撃の展開にも注目。

女子大生・紙越空魚は現実から一歩外れた裏世界で、仁科鳥子と出逢う。

研究、金、大切な人のため、二人は魑魅魍魎が待つ非日常へと足を踏み入れる。

百合ラノベホラー

かわいい妖怪がたくさん出てくる日常の謎ゆるゆる百合ものかと思いきや、八尺様やきさらぎ駅などのガチの都市伝説を下地にした異世界サバイバルホラーであり、

不気味なクリーチャーや世界観と百合を堪能できる。

名探偵は嘘をつかない

名探偵は嘘をつかない

冷酷非情な名探偵・阿久津透は日本初の探偵弾劾裁判にかけられた。彼が関与した複数の事件で証拠を捏造し自らの犯罪を隠蔽したという疑いは果たして真実なのか。

混迷する法廷劇に現れるは、なんと神の力で死後転生した被害者だった!

新月お茶の会出身作家による転生×法廷×多重解決ミステリ

悪辣な名探偵の解き明かした事件をめぐり、刑事・探偵・転生者が繰り広げる白熱の法廷戦。

400P越えの大ボリュームだが、次々と起こる驚愕の展開に飽きることなく読み進めることができる。

今年のラノベミステリの収穫。

2017-06-11

海老名龍人『自殺するには向かない季節』


講談社ラノベ文庫がキャラノベに参入するというニュースが発表されましたが、それに先駆けて刊行されたのがこの『自殺するには向かない季節』です。

無気力な少年がタイムリープできる薬を手にいれて、死にたがっている少女の自殺を手助けするうちに情が沸いてくるという、一見「君の名は。」のような内容です。

実際、他のラノベレーベルからも君の名はフォロワーとおぼしき作品がちらほら出ているのを見るに、これもまた意識したところは・・・あるんじゃないんでしょうか。

ところが、それに騙されてはいけない。

生死を取り扱っているから当然といえば当然なのですが、あらすじとは裏腹に内容はかなりダウナーで、援助交際している姉やら家庭間の不和やらいじめやらがどんよりじっとりと描かれていきます。

そして、ループものということでなんとなくオチが読めてきたかな、というところで訪れる衝撃の展開。

これがラノベかどうかは判断にまかせますが、ラノベであることを抜きにしてもかなり尖った作品です。

こんなエッジの効いた作品が甲羅から出るとは思っていなかった。

また1人、注目の新人が現れました。

2017-05-24

ラノベとキャラノベの断絶

ライトノベルレーベルから出るライトノベルに対し、「ラノベっぽくない」という感想が散見される作品群があります。


書店側でも、あえてラノベを文芸コーナーに置くところも存在しております。

現在『君の名は。』『君の膵臓を食べたい』のヒットにより青春恋愛もののブームが巻き起こっており、そういったものはラノベでもキャラノベでも出ています。

が、そういうものを書くラノベ作家がキャラノベに移動したりこうした作品がキャラノベリバイバルされるということは少ないです。

ラノベとキャラノベは繋がっているように見えて、実は断絶しているのではないでしょうか?

まず理由として考えられるのが、(少女小説を含まない)ライトノベル→男性向けでキャラノベ→女性向けというイメージが付いてしまったということです。

ライトノベル作家の越境の流れを汲んでいたキャラノベは「一般文芸のラノベ色の強い作家(似鳥鶏青柳碧人など)」「キャラノベレーベルデビューの作家(野崎まど綾崎隼など)」「ネット小説発の作家(太田紫織住野よるなど)」が参入し、ライトノベル一般文芸を繋ぐものからそれ一つのジャンルに独立しました。

そして、ラノベから独立したキャラノベが発掘した読者層は、コージーミステリを好む女性層でした。

そのせいでメディアワークス文庫などが当初構想していた「ライトノベル一般文芸」「一般文芸→ライトノベル」という導線は上手く機能せず、一般文芸側の作家の流入やキャラノベネイティブの作家によってキャラノベライトノベルの客層が分離してしまった。

そのために男性向けキャラノベ・女性向けライトノベルが少なく、そういった作品は「マニア向け」にならざるを得ない状況になっています。

青春恋愛ものは確かに「君の名は。」を機にしてキャラノベラノベで同時に流行ったが、ファミ通恋愛枠など先にライトノベルにそういう流れがあったため、いかに作風が一般文芸的だと評されようともラノベ内だけで消費されているのではないでしょうか。

ただし、ファミ通恋愛枠から独立したキャラノベレーベル?のファミ通文庫ネクストや、チャレンジングな作品を多く出す講談社タイガオレンジ文庫など「壁」を越境しようとする動きは今後活発になっていくことも予想されます。

2017-05-21

大人のためのエンタメ小説

ラノベコンテストで「異世界転生NG」の縛り広がる ネット民「これは朗報」と歓迎 | ニコニコニュース

ノベルゼロの異世界転生禁止法がメラメラと燃えていますが、案の定キャラノベ雑語りが見られたのでキャラノベ天狗が出撃します。

まず、ノベルゼロとはどういうレーベルなのか。

判型は文庫判で、表紙は単色1色のみ。ただし、巨大帯にイラストがあり、カラー口絵が付属しています。

作家陣はMF文庫で活躍していた作家に加え、ハヤカワで活躍するラノベSF作家も参加しています。

書店では講談社タイガとか新潮文庫nexの横に置かれることが多く、ラノベというよりキャラノベ扱いされています。

ただ、作風的にはキャラノベレーベルよりハヤカワJAやガガガ文庫講談社ノベルスに近いものがあります。

大人向けなので、グロや濡れ場もあります。

レーベルコンセプトは以下の通り。

レーベルコンセプトは、「大人の生き様」です。

強大な敵に対し強く在りたい。逆境を打開したい。

社会に抗い、誰にも恥じない生き様を見せたい――。

大人の男であれば誰もが求める「逆転感」を持つ痛快な物語を描き、提供する。

「格好いい大人の生き様」をレーベルの唯一のテーマ・矜持とします。

創刊当初から「大人の生き様」をテーマとしているので、大人のためのエンタメ小説をカクヨムで募集するのは間違ってはいません。

現在「大人向けラノベ」には3つの方向性があると考えております。

ライトファンタジー(いわゆるなろう系のストレスなく軽く読める本。カドカワBOOKSやMFブックスなど)

女性向けライトミステリ(そこまで難しくなく読めるミステリ。MW文庫やL文庫など)

マニア向けジャンル小説クオリティ独自性にこだわった作品群。タイガやノベルゼロ、ハヤカワJAなど)

ノベルゼロが求めているのは一番下であり、そうした者を好む読者にとって上2つは邪魔に感じるのでしょう。

「大人向けラノベ」という定義が定まらない中で、そうした作品を弾くために異世界転生を禁止し「成人男性」を推奨するというルールを設定したのではないでしょうか。

で、ここからは私の考えなのですが、別に異世界転生であっても高校生主人公であっても「大人のためのエンタメ小説」は作れると思います。

異世界転生であることや高校生主人公であることが作品のクオリティ相関関係があるかと言われれば首を捻らざるを得ないですし、そもそも異世界転生はストレス社会で生きる大人がよく買っているジャンルなのですよ。

だから異世界転生であってもいくらでも話も人物も作りこめるし大人も読めるから、「大人のためのエンタメ小説」という枠組みから異世界転生を外すのは創作の豊かさを狭めてしまう行為だと思います。

あと、「異世界転生以外であれば何でもOK」とのことなので、魔法と魔物とダンジョンなどが存在する並行世界の中世ヨーロッパに転生した主人公が幼女になって無双する話はレギュレーション違反ではないと思います。(中世ヨーロッパは異世界ではないし、中世ヨーロッパ社会には子供という概念がなく「小さな大人」として見做されていたため)












異世界転生小説です:幻想再帰のアリュージョニスト