農家がエネルギーもつくる社会へ

就農以来、ずっと思い続けていた「農家が食べ物もエネルギーもつくる存在になればいいなぁ」という思い。実際には屋根に載せた太陽光発電以外はまだ実現できていないのですが、思いだけはずっと持っていて、その思いが広がる大きなイベントを実施しました。長くなりますが報告します。


使うエネルギー(電気と熱)をすべて再生可能なエネルギーでつくっているデンマークの小さな島、サムソー島。この壮大な挑戦を実現に導いたリーダー、ソーレン・ハーマンセン氏をデンマークから熊本にお呼びしたのです。せっかく呼んだのだから、と3つも勉強会等を企画しました。


さて、熊本に着いた日の晩は、ゆっくり温泉に入って、鍋をして、リラックスしてもらいました。デンマークと言えばレゴの国。子供たちは世界のソーレンからレゴをお土産にもらって一緒に遊んでもらうという贅沢な体験をしました。

そしていよいよ3連チャンの催しがスタート。会場に向かう途中であまりに天気&景色が良かったのでちょっと寄り道。農業女性のネットワーク「NPO法人田舎のヒロインズ」でも再生可能なエネルギーをテーマとした勉強会をこれから企画するのですが、そのお手伝いをしてくれることになったピチピチ農業女子ののんちゃんが今回もいろいろお手伝いをしてくたので、記念の1枚。


11月22日 午前 講演会@南阿蘇

サムソー島の取り組みについてたっぷりお話を伺いました。京都会議後に「脱化石燃料」を国家目標としたデンマーク。その具体的な形として、再生可能なエネルギー100%の島を目指す島を環境省が公募したのは10年前。手を挙げて採択されたのはいいものの、応募したことさえ知らなかった島民もいたので、まずは住民説明会から。

印象的だったのは、再生可能なエネルギーの普及を国家目標としてるデンマークでさえ「エネルギー事業」を前面に出すと当初は拒否反応があったということ。特に可能性として高いとみられていた風力発電には、「景観を壊す」「音がうるさいだろう」など、不安の声が大きく、ましてやそれに対して住民自分が出資してくださいなどとはとても言える雰囲気ではなかったとのこと。

そこでソーレンは工夫しました。もしこのまま何も手を打たなかったら、この島はいったいどうなっていくかを皆で考えようと言い出したのです。人口の流出、特に若い人たちは高校以上になると島から出ていき、雇用の少ない島には二度と戻ってこない。村から一番出て行っているお金は電気と熱にかかっているお金だということ。村がどんどん高齢化しているということ。すると少しずつ、最初は非常にゆっくりと、でも変わり出したらだんだんと加速度的に住民の意識が変わっていったのだそうです。

確かにこのままでは未来がない。再生可能なエネルギーは電力会社が買い取るので、売電により利益が生まれる。だから銀行が市民にも当たり前のこととしてお金を貸す。銀行への利子を払ってもなお、手元に配当が残る上、化石燃料を買うために村から出て行っていたお金が、木や麦ワラを燃料にすることで、村にとどまるようになる。得た利益をさらなる再生可能なエネルギー事業に出資する。その事業が利益を生む。こうして、島民たちは喜んで再生可能なエネルギー事業に取り組むようになっていったというのです。

そんなことしている島なら一目見てみたいという視察や観光客がどんどん増え、今では年間5〜6000人もの観光客や視察が訪れる状況。完全にプラスのスパイラルです。もちろん、途中、息切れしそうになったこともあれば、仲たがいをしそうになったこともあった。10年たって振り返ると、「成功したね」と自分たちでも言えるけれど、必ずしもラクな道のりではなかったこと。でも、何もしなかったら自分たちの島には未来がなかったこと。…そんなことをお話しして下さいました。


11月22日 午後 映画上映会&討論会@高森町

サムソー島を題材にしたドキュメンタリー映画「パワートゥーザピープル」を上映しました。その映画が終わると、主な登場人物として映画に出ていたソーレン氏が会場にいる。片田舎での出来事としては、なかなかインパクトがあったんじゃないかと思います。

ソーレンには、「課題となるのは技術じゃない。なんとかしようという住民自身の気持ちだ」という視点から、サムソー島でどのようにして輪が広がってきたかについて手短に話をしてもらった後、その話を受けての討論会。パネリストは、町長さん、若手農業者さん、老舗の酒蔵の次期社長さん、地元・熊本日日新聞社の高森支局長さん、環境エネルギー政策所というNPOの代表で自然エネルギーの普及に20年以上も取り組んでいる飯田哲也さん、そしてなんと!!先日訪れた北海道・音威子府村の村長さんが駆けつけて下さいました。


ものすごく豪華な顔ぶれでの討論会は、行政リーダー2人の力強い姿勢や行動力、若手農業者さんの「ここを守っていくのは自分」という熱いメッセージ、「エネルギーには正直あまり興味がなかったが、お酒をつくるためにたくさんの熱を使っているので、経営改善のためにも、大きなヒントをもらった」という地元の酒蔵さん、「ここはポテンシャルが非常に高いところだから、たとえ小さな取り組みでもそれを加速させるような記事を書いていきたい」という支局長さんのお言葉がそれぞれ印象的でした。聞いている人が「よし、自分も何かはじめよう」と思うエネルギーが湧いてくるような、そんな討論会になりました。かなりブレている可能性がありますが、一応記録も撮ってあるので、何とかして多くの皆さんに聞いて頂けるようにしたいと思います。

懇親会にも町長さんや村長さんがご参加下さり、たくさんの情報交換をしました。全国に先駆けて「エネルギーを自給する村」を目指していらっしゃる音威子府村の村長さんは、あと1,2年後には実現したいと語られ、それを受けて高森町長さんも刺激を受けているようでした。隣の町ですが、同じ南阿蘇。これから盛り上げていきたいと思います。


11月23日 シンポジウム「エネルギー兼業農家のススメ」@熊本市

繁華街の中華料理屋さんで開催、という意外なロケーションが、「こういうところでエネルギーの話ができるようになった」という意味でも斬新でした。オーナーさんが趣旨に賛同して、パーティー会場を使わせて下さったのです。新聞やテレビで事前告知をして頂いたこともあり、連休の中日でありながら、100名ほどの参加者が集まってくださいました。それだけでも「ヤッター!」と叫びたいほどでした。肝心の農家さんよりは、農家以外の方の方が多かったのですが、それでもたくさんの方に来て頂けてうれしかったです。


会場の都合で、シンポジウムの進め方としては異例のパネルディスカッションからスタート。後半で事例発表をして頂きました。このパネルディスカッションも超豪華な顔ぶれ。世界をリードするソーレン・ハーマンセンさん、日本をリードする農水省の信夫さん、熊本をリードする小野副知事、熊本の農業界をリードするマルチタレント果樹農家の西田さん、実際に「エネルギー兼業農家」をしている新潟の遠山さん。いや〜、スゴイ。


再生可能なエネルギーを増やすための法律をつくった農水省
地域でそれを進めるための枠組みや条例や「県民発電所」をつくった熊本県
循環型農業を形にしつつ、自社の売り上げを再エネによって伸ばした遠山さん。
古い倉庫を取り壊したところに太陽光パネルを置いて売電している西田さん。
そしてローカルな取り組みが世界的な評価を受けてひっぱりだこのソーレン。

それぞれの立場から「どうすれば広めていけるか」という点について、たくさんのヒントを頂きました。一農家としての取り組み、そして地域としての取り組み。どちらもすでに「実践例」があるわけですから、どうすれば自分の経営や地域でも取り入れられるかを考えるだけ。そのための法律や制度もあるのですから、「やらない方が損」という社会に早くなればいいなと思います。熱気むんむんの会場。

サムソー島でも最初はこうした呼びかけから始まったことを思うと、今回の一連の企画は、阿蘇や熊本において再生可能なエネルギーを広めるための大きな一歩になったのではないかと思います。一番聞いて欲しかったそこに住んでいる方や若い農家さんたちの割合が低かったのがすこ〜し残念ですが、正直言って予測通り。それでもいいんです。地域にお金をとどめること。それが農業や農村にとっての未来につながること。意識が変われば農家の立場も地域経済も強くなっていくこと。そんなことが社会的に「当たり前」と思われ始めたら、農家だってもちろんそれに応えるはずですから。ソーレンも言っていました。「地元と農家が最後に変わるよ」と。そんな中で、地域のリーダーやたとえ少数でもエネルギーを生み出すことに可能性を感じている若手農家さんたちにソーレンの話を聞いてもらえただけでも、非常に意味があったと思っています。テレビ局が3社、新聞社が4社も来てくれましたから、いかに社会的な関心が高まってきているかが分かるというもの。道のりは長いですが、闇ではありません。今回のできごとをステップに、どんどん再生可能なエネルギーが増えるよう、働きかけていきたいと思っています。最後に、今回の一連の企画を中心になって回した立役者のコーキと空港にてスリーショット。本当に本当に充実した連休でした。


おまけ。
私がセミナー等に集中できるよう、連休中は夫が子供たちをキャンプに連れ出してくれていました。とにかく楽しかったみたいで、キャンプから戻った子供たちは堰を切ったように話し、挙げ句に「絵を描いてあげるね!」とのこと。テントで寝たり、魚釣りをしたり、貝殻や椰子の実や流木を拾って楽しかったそうな。ありがたい夫のサポートに感謝!