ランペドゥーサの『山猫』

山猫 (岩波文庫)

山猫 (岩波文庫)

本小説は、イタリア統一戦争を背景に、シチリアの高貴な名門貴族の没落を華麗に描き出した傑作である。そのあざやかなデカダンスは、澁澤龍彦の書評に見事に論じられているとおりなので、これ以上書く必要もないものだが、バロック的な豪奢な比喩がふんだんに用いられる文体の魅力は、指摘しておく価値があるだろう。熟れた果物のようなほの甘い訳文には、まったく魅了させられた。
 訳者のあとがきに拠ると、主人公のモデルが著者の曽祖父であるらしいように、著者もまたシチリアの貴族であり、ほぼ本書一作の作家らしい。土地を切り売りしながら生活ということに煩わされず、一生文学三昧を送った、誇り高き貴族だったようだ。本書は、作者の生前にはさまざまな事情で出版されず、死後出版されてベストセラーになり、今ではイタリア人の最も愛する小説のひとつになっているという。ヴィスコンティによって映画化もされた。
 あと、意味ある連想かどうかは分らないが、本書を読んでいて、スーザン・ソンタグの『火山に恋して』がなんとなく思い出された。こちらはイギリス公使であり、舞台はナポリではあるが。恐らく、その華麗、また、ヒロインたるアンジェリカとエマのイメージが、どことなく重なり合うからでもあろうか。
火山に恋して―ロマンス

火山に恋して―ロマンス