中井久夫『私の「本の世界」』/宇野常寛『日本文化の論点』/志賀浩二『数学という学問3』

晴。
プール。
音楽を聴く。■モーツァルト:ピアノ・ソナタ第一番(アラウ)。モーツァルトの最初のピアノ・ソナタ(二十歳頃の作曲)であるが、既に完璧だ。本当にいい曲で、時々たまらなく聴きたくなってくる。アラウのピアノは、第一、第二楽章は言うことなし。第二楽章は、アラウならアダージョくらいのテンポで演奏するかと思ったら、ちゃんと指示通りアンダンテ。終楽章も悪くないが、ほんのちょっとテンポが遅い。技術的にもさすがに苦しい。でも、全体としては名演と云うべきだ。

中井久夫『私の「本の世界」』読了。自分は長いこと著者の書物を読んできたが、最近、何となく心離れるような気がしてくるようになった。たぶん、こちらの問題なのだと思う。本書も、貪るように読んだ部分もあれば、索然とした気分で読んだ部分もあった。何もかも、著者に及ばないことはわかっているのだが。それにしても、まったく、著者は信じられないような読書家である。読書量も、読む書物のレヴェルの高さも、読解の繊細さも、語学力も、記憶力と読解力も、並外れている。第一級の知識人とは、氏の如きを云うのであろう。見事である。

宇野常寛『日本文化の論点』読了。これが若い世代を代表する評論家ですか。読んでいると鬱になりそう。修行になるなあ…
日本文化の論点 (ちくま新書)

日本文化の論点 (ちくま新書)

志賀浩二『数学という学問3』読了。傑作シリーズ最終巻。あまりにも面白かったので、つい夜更しをした。本巻の構成はほぼ歴史順で、カントルの集合論、無限論に最初の四章を使い、詳しく述べている。カントルの主要な業績が、これほど見通しよく、簡潔にして丁寧に解説されている本を、自分は他に読んだことがない。これだけで興奮物である。次いで、有名なヒルベルトの一九〇〇年の講演を一瞥した後、ボレルの測度論とルベーグ積分が解説される。個人的には、著者の『ルベーグ積分30講』(なお、この本を初心者向けの安易な本と決めつけている文章をネット上で読んだことがあるが、よほど俐いのでなければ馬鹿である)を読んで間がないので、これも面白かった。第七章の積分方程式論は、本書でここだけ、自分にはちょっと敷居が高かった。第九章の、ハウスドルフ『集合論概要』の紹介は、この辺りの歴史的経緯が語られることはこれまで殆どなかったから、じつに新鮮だった。ここで論じられる位相空間論は、もちろん現代数学の土台である。また、本書の最後の方は、現代数学ユダヤ人の不思議な関係をも点綴している。
 本書は、一般向けとは云え、現代数学に関して多少の馴染みは必要かもしれない。しかし一方で、現代数学というのは根底的であるがゆえ、高校までの数学の知識がなくても、理解できないこともないのである。実際、信じられない人は、集合論から簡単な位相空間論を勉強してみられるとよいのではないか。逆にいうと、高校まで数学ができた人でも、現代数学はまったく見慣れない学問だと感じてもおかしくはない。そこらあたりにも、本シリーズはきっと役に立つと思う。(AM2:09)