福田和也『日本綺人物語』/カント『視霊者の夢』

晴。
音楽を聴く。■ベートーヴェン弦楽四重奏曲第九番(ジュリアードSQ)。確かにテンポは速く、アンサンブルは完璧すぎるかも知れない。これはベートーヴェンではない、という人もいよう。しかし、これはこれで一つの世界であることも、また確かなのだ。それに、緩徐楽章を聴けば、彼らが深い音楽を創り出せることは明らかである。■ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲第十二番(ボロディンSQ)。 ショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲は、ベートーヴェンのそれと並んで、弦楽四重奏曲の金字塔である。ボロディンSQの演奏は、そのオーソドキシーだ。ここでも、この重苦しい曲のエートスを十全に引き出している。個人的には、まだショスタコーヴィチ弦楽四重奏曲をしっかり自分のものにしたという感じはない。これからも聴いていこうと思う。
2012年秋・冬_31
ネッツトヨタで6ヶ月点検。カルコス。

福田和也『日本綺人物語』読了。近代日本の「綺人」たちを描いた小伝集。どこまでが史実でどこまでが空想なのかわからないような、一種創作風の書き方だが、これが面白くて読ませる。滋味の滲み出る、福田和也ならではの芸だとも云えよう。じつに豊かなもので、薄っぺらな現代では、ちょっと見かけない文学的実力である。文芸批評と共に、こうしたものをもっと書いて貰いたいなあと、勝手に思うのだ。

日本綺人物語 (廣済堂新書)

日本綺人物語 (廣済堂新書)

カント『視霊者の夢』読了。原題は「形而上学の夢によって解釈された視霊者の夢」。この有名な論文が文庫で読めるとは! 『純粋理性批判』以前の著作で、これの成立に大きく寄与したらしいが、皮肉っぽいというか、意外に軽いタッチの文体で書かれているのは驚きだ。もちろんカントの文章だから、大いに面倒なのは間違いないが。内容はスウェーデンボリ批判というか、超常現象を不適切に扱うことに対する批判で、『純粋理性批判』における、理性が往々にして間違うことへの指摘に繋がっていくわけである。しかしカントは、スウェーデンボリの異常な能力そのものに関しては、確かに否定していないのである。それを証拠立てる、「シャルロッテ・フォン・クノープロッホ嬢への手紙」が本書に収録されているのは有難い。この手紙も有名で、スウェーデンボリの「千里眼」の否定できない発現が書かれた、とても面白いものである。いやもう、文庫化感謝!