逃げちゃダメだ

人の世はあまりに複雑怪奇で、わけがわかならいと嘆きたくなるとき、弱気な心は“正解”を与えてほしいと願います。そして、その“正解”に求められるのは「わかりやすさ」です。

その最たるものが「サイクス=ピコ協定」。著者は、それを(現在の中東の混乱を説明するに際して)「単純明快な答えを見つけたような気にさせてくれる万能のマジックワード」と評します。

その陥穽にはまる愚を犯さないためには何が必要でしょうか。それは何よりも“わかりやすさ”に逃げ込まない勇気です。

その勇気とは、わからないことを自分はわからないのだと素直に受け入れ、謙虚に学ぶ姿勢です。

では、何に学ぶか。その一つに歴史があります。

ある集団が独立して自分たちの国を作りたいと考えたとき、それは当事者同士だけの問題ではあり得ません。その当事者たち、域内の大国、域外の大国も含めた多くの思惑やパワーバランスの総合的な結果として物事は決着をみると著者は指摘します。

それは、この国際社会で利害が衝突したときも同様で、この本で取り上げられている中東のことに限りません。例えば東アジア。日本が日本のことだけを考えて、アメリカがアメリカの都合だけを斟酌して、中国が中国の利益だけを追い求めて、日本もアメリカも中国も自分たちが望む姿になることは出来ないのです。

【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)

【中東大混迷を解く】 サイクス=ピコ協定 百年の呪縛 (新潮選書)