『二都物語』

ディケンズの『二都物語』はフランス革命を舞台とした物語です。

この物語を読みながら、豊浦志朗の『硬派と宿命』と船戸与一『砂のクロニクル』の、それぞれの序文を思い出さずにはいられませんでした。

現時点での最良の政治システムとして民主主義が規定されている世界で、フランス革命の価値、その「自由・平等・友愛(博愛)」の精神は絶対です。

しかし、それは歴史の大きな流れの一ピースとして捉えた場合であり、何事であれ、現場の個々人にとっては、どこまでも個人的で泥臭い出来事に過ぎません。

虐げられた人々の、その反動としての復讐劇。そこに、罪を憎んで人を憎まずという諦観はありません。殺せ、わたしたちにはそうする権利がある。

その“正義感”の嵐の中、人は気高くあることが出来るのか。

この物語が示してくれた美徳は、泥沼に咲く一輪の蓮の花の如きものかもしれません。それでも、それは救いです。

別の視点から、気がついたことを一つ。この物語は第一部と第二部で溜めに溜めて、第三部で大きな盛り上がりを見せます。この構成は、大藪春彦の『戦士の挽歌』と同じです。

ディケンズを読んで大藪春彦船戸与一と関連づける自分に苦笑いを浮かべつつ、この二人の作品を読んでいて良かったと思います。

二都物語(新潮文庫)

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