『用心棒』

「午前十時の映画祭」にて、黒澤明の『用心棒』を観ました。かつてビデオで、あるいはLDで何度も観た作品ですが、こうして映画館で観るのは初めてです。

殺伐としてリアルな世界観、描写、殺陣。それと対を為す、戯画的に描かれる登場人物たち。

しかし、今回、初めて映画館の大スクリーンで観て、それに当てはまらない人物がいることに気づきました。三船敏郎演じる主人公の桑畑三十郎と、東野英治郎演じる飯屋のおやじです。

戯画的に描かれたのは、小さな宿場町の権力闘争に明け暮れた連中で、彼ら彼女らは皆死にました。

生き延びたのは、強靭な心を実際の行動で表すことが出来る主人公と、人としての真っ当な心根を持った飯屋のおやじ。

また、仲代達矢演じる敵役が素晴らしかったです。冷徹で頭脳明晰。力自慢ばかりの連中のなかで、色気漂うスマートさが際立ちます。彼だけが、死に際して、その描写に尺を与えられています。それは、彼だけが、自らの生き方に殉じて死んでいく自分を意識していたからでしょう。

痛快娯楽作としての評価が高い作品ですが、それだけではありません。その作品が謳う人間賛歌は、ちと厳しい。

ますます大好きになった一本です。