若者はなぜ3年で会社を辞めるのか?

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)

若者はなぜ3年で辞めるのか? 年功序列が奪う日本の未来 (光文社新書)

概要

年功序列というシステムが若者を切り捨てている理屈を分かりやすく論じている.筆者は元富士通の人事であり説得力がある.


年功序列の本質はねずみ講である.企業が成長し続ける間はそれが保障されるが,一度停滞すればあとは若者から搾取するだけのシステムとなる.そのはけ口が派遣制度である.若者が軟弱になったのではなく,将来やりたい仕事ができるわけでもないのに,下積みでつまらない作業を延々する事に嫌気がさしただけだ,と論じている.

内容

第1章 若者はなぜ3年で会社を辞めるのか?

昭和的価値観…銀行マンが社会的地位・品行方正・高学歴と三拍子そろって見える、社会的知名度のある大企業の”社会的信用”,朝鮮よりも安定性を重視する風潮.そして何よりもあるシステムに乗っかっているかということ,すなわち年功序列である.


年功序列では若いうちの待遇は良くないが,長い目で見れば元が取れる.また,誰でもたどり着けるゴールは魅力的なものである.優秀な人間はのちのち人並み以上に出世する(e.g.「かつて偉大な開発を成し遂げた技術者」はビジネスとは直接関係の無い好待遇ポスト,技術顧問やフェローが与えられる→ソニーの木原研究所).


年功序列では自分の資産を定期預金するようなものである.したがって勤続年数が伸びるほどよい.これが年功序列と終身雇用がセットで語られる理由だ.この昭和的価値観は二極化の中,より強まっている.


しかし,そんなチケットを手にした若者が数年でやめてしまうことがある.大卒3年以内で36.5%(2000年)である.転職市場の成熟という要因もあるが,若年転職者が会社を辞めたいと思ったのは事実である.


採用する側は希望と業務内容のミスマッチを理由に挙げる.また,最近の若者はわがままで忍耐力がないとも考えている.企業で最初からやりたいことができるなどという考え方が甘いということである.「わがまま」「忍耐不足」が辞める若者のキーワードになるが,これは採用側の人材に対する考え方が一変したことにある.


「わがまま」:かつては本人の能力よりも勤続年数が重要であるため「なんでもやります」という新入社員が必要だった.しかし,90年代後半からは大量採用が厳選採用となり,事業部ごとの採用などに変化してきた.すなわち,専門性のある人材が必要とされ始めたのだ.そこで学生は自分が何をしたいのか,どう成長したいのかを考え始め「自分探し」を始める.しかし,そのせいで「仕事に対する意識」が高くなりすぎ,入社後にギャップがあった場合に強いフラストレーションを感じる.


「忍耐不足」:学生に高いハードルを課すにもかかわらず,大半の若者は一生その能力を発揮する機械などないかもしれない.年功序列では給与が序列順に決定する.しかしこのシステムが機能するには組織が一定の成長を維持しなければならない.定期昇給も見送られる今,ポストを手に入れなければ昇給は得られない.しかしそのポストは増えることはない.昇給がなければ退職金も少なくなる.したがって半数以上の若者は「働き損」となり,やり場のない徒労感しかない.


日本では伝統的に職能給が導入されている.これは横並びで給料が上がるシステムだ.業務の切り分けがあいまいで,長時間労働の原因とも考えられる.業務は上から順番に決定度が高く,末端はただの作業を長時間おこなうだけである.年功序列であればいずれはそのようなやりがいのある仕事をできるようになるかもしれないが,崩壊した今,一生下働きで終わる可能性もある.お金という観点同様に,やりがいのある仕事という観点でも若者は報われない.逆に外資系企業で多いのが職務給であり,仕事の切り分けが明確である.


外資系コンサルでは日本企業でのキャリアを「本質的にマックのバイトと同じ」であるとして評価せず,日本企業では外資系の人間を「優秀だが即戦力ではない」という.ここで言う即戦力は作業主体の実務をこなせる人間であって,頭の必要な管理職はすでに余っているのが現状だ.ビジネスマンとサラリーマンの違いである.また,若者の忍耐力が足りないと思う人は「いい大学を出て有名企業に正社員として入社したのにポテトを30年揚げる仕事」だとどういう気分かを考えると良い.


また,日本における成果主義は従来の年功序列のレールの上で繰り広げられる.成果主義の第一ステージは末端社員の選抜,第二ステージは序列へのメス,第三ステージはキャリアの複線化である.

第2章 やる気を失った30代社員たち

最後のバブル世代に着眼する.当時,内定者たちには飲めや食えやの信じられないほどの待遇を与えた.採用される側も仕事の内容については考えていなかった.レールの上を走るのでキャリアは会社が与えてくれた.しかし,入社数年で車内の空気は変わった.レールが終わったのだ.


バブル世代は温室育ちと揶揄されるが,実は彼らが一番被害を被っている.一番伸びる時期にはレールのせいで押さえつけられ,これからレールの旨みを味わうときに成果主義に切り替わったのだから.


銀行神話も崩壊した.名ばかりの管理職に出世させることでコストダウンを図っている.経営者は給与をかつての6割程度の水準にしたいようだ.国有化されれば退職金がなくなる,上の世代は若者を犠牲にしたのだ.成果主義は名ばかりで若手の抜擢などありえない.一生希望もなく楽しくない仕事を続けるのは苦痛でしかない.先の見えないレールを歩かされるデスマーチである.それでも会社は逃がさないように人生プランまで押し付けてくる.踏み絵だ.


技術者の状況は深刻だ.年功序列では若い頃の報酬を将来の出世で支払われる.しかし,その暗黙のルール,空気のような価値観がなくなった.会社に言われたキャリアを積んでも人材の価値が上がるとは言えない.長い下積みの先には職種転換・早期退職が待っている可能性がある.


会社を相手に元技術者が起こした訴訟例

社名 内容
東芝 半導体フラッシュメモリ関連
味の素 人工甘味料アスパルテーム関連
キヤノン レーザープリンター関連
日立製作所 光ディスク読み取り技術関連
三菱電機 半導体フラッシュメモリ関連


メンタルヘルスも30代が圧倒的に多い.「30代が壊れていく」.原因はモチベーションの消失だ.1980年代と比較して,キャリアパスは早い段階で打ち止めになる.給料も上がらない.つまらない仕事も将来したいことができるという気持ちがあってこそできるのだ.しかし,一生つまらない仕事が続くのに,それを耐える意義はなくモチベーションは日々下がる.

年功序列制度は,組織の方針を信頼し,将来を託すという意味で,一種の宗教に似ていなくもない.写経を続ければいずれ極楽へ行くことができると信じられるからこそ,人は写経するのだ.出口のない地下牢の奥で毎日数字を書きなぞっていれば,心身に変調をきたしても無理はない気がする.

第3章 若者にツケを回す国

労働組合が強い国は若者が失業する.フランスが良い例だ.フランスの25歳以下の失業率は20%だ.日本も社員をカットできないため,バブル後は新規採用の抑制で調節をしてきた.しかし,下っ端の仕事をする人間は必要だ.


そこで白羽の矢がたったのが派遣社員である.ちなみに,経団連の派遣に関する要望を審議した組織には派遣業なども含まれており,自分たちで自分たちのプランを審議したこととなる.派遣は賃金を上げる必要もなく,いつでも首を斬ることができる.企業にとっては便利な存在だ.また,非正規雇用の8割が30歳以下の世代に集中している.


労働組合はより年功序列型である.若者の意見は通らない.

  • 「若い人間は必要だ」(経営者)
  • 「でも,リストラや賃下げは絶対に認められない」(労働組合

この妥協の産物が非正規労働の増加である.


企業の対応は株主利益のため,労働組合の対応は組合費を払う従業員の利益のためという観点では仕方が無いのかもしれない.しかし品らい広く国民のために働かなければならない政治家までもが若者を見捨てた.国家公務員の新規採用削減がその例である.国民の雇用を守ると言いながら新規採用削減をしているのは偽善以外のなにものでもない.


新規雇用を削減し,非正規雇用でまかなうと企業が老化する.非正規社員は2年に満たない勤続年数であるので技術が継承されない.また,非正規でも若者がいるのはまだマシで,そうでないと増える管理職の給料をまかなうために少ない若手社員がこき使われることとなる.


また,年功序列少子化を生んだ.正社員と同じ仕事なのに給料は増えず,レールもない,疲れ切った非正規社員が手を抜いたのは仕事ではなく子育てだ.扶養家族もないなら賃金が安くていいという意見は,すなわち低い賃金の人間は子どもを作る権利すらないと主張しているのと同じだ.リストラをすれば首を吊る人間がでるかもしれない.しかし,生まれるべきであった命もまた絶たれているのだ.団塊の世代が受け取る莫大な退職金は正社員の半額以下で使い棄てられる若者たちの犠牲の上に成り立っている.社会は子供を生む代わりにリゾートマンションが売れることを選択したのだ.


社会保険料給付金は老人向けが7割以上なのに対し,少子化向けの予算はたったの3.7%だ.そして,社会は年金においても若者を踏み台にした.年功序列のレールを歩む彼らは問題を先送りすることで自分たちの既得権を守れる.国債についても同様の発想だ.

若い世代に「心配しなくても将来出世するから」といって負担させる時代はとっくに終わっているのだ.

第4章 年功序列の光と影

年功序列は人にやさしかったと懐かしむ人がいる.本当にそうなのだろうか.既卒という言葉がある.理由はどうあれ,新卒で就職できなかった若者を一括でそう呼び,彼らは就職活動において門前払いされる.年功序列では給与は年齢で決まる.つまり,既卒を雇うと給与体系にアウトサイダーが生じるという理由で雇われない.修士以上が採用されにくいのも同様の理由である.本来2年程度の差など,定年までのスパンで考えればたいした問題ではないにもかかわらず.


転職において企業が見るのは正社員として何を何年こなしたかである.でなければコストが釣り合わないからだ.人にやさしいはずの制度はこうして若者を切り捨てていく.


また,不景気によって中高年も被害にあっている.45歳以上の社員はいらないのだ.そのために早期退職制度を設けつつ,裏では不要な人間をリストアップしている.さらに,転職の上限は事務職で35歳,営業で30歳,開発は40歳とされる.基本的にプレーヤーの上限は35歳で,それ以上はマネージャーだが,そもそもマネージャーは余っている.


国家公務員は最も強固な年功序列組織である.しかし,組織は拡大していない.そのため,ポストを準備するために天下りを用意している.天下り団体への補助金は2005年の段階で4兆円を超えている.しかし,そんな天下り先もなくなる方向にある.これにより有名校の学生の人気がなくなった.長い下積みでつまらない作業をし続けても報われない可能性が高いからだ.


年功序列の本質はねずみ講である.若者は先輩を養うために使われる.

「大丈夫,いまはきついけど,将来は楽になるから」と騙してこき使い,人生の折り返し地点を過ぎたあたりで「ああ,自分は騙されたのか」と思い知らされるようなシステムは,一度ぶち壊してしまったほうがマシだろう.

「自分たちは若いうちに頑張ったのだから,その分の報酬をいま受ける権利がある」と,年長者は言うかもしれない.そしてそのためには誰かに貧乏くじを引かせてもかまわないという論理だ.

なら逆もまたしかり.若者もまた,そんなものを背負わされる義務などないのだ.


企業が年功序列を捨て,成果主義に走ったのが格差社会の原因であるという人がいる.しかしこれは,矛盾している.年功序列が崩壊して若手〜中堅の昇給をおさえるツールとして成果主義を導入しただけだ.しかも格差否定論者は同世代間の格差には敏感でも,世代間格差は気にしない.

もし,心から格差をなくしたいと願うのなら,それは当然,年功序列の否定をともなわねばならない.新人から定年直前のベテランまで,全員の給料を一度ガラガラポンして,果たす役割の重みに応じて再設定し直すべきだろう(もちろん,その結果,やはり年功序列になる企業もありうる).そうすることで,若者を派遣として使い捨てたり,中高年だけを放り捨てたりする必要はなくなるのだ.

もし,それでも年功序列の維持に固執人間がいるのなら,彼が本当にしがみついているのは制度云々の議論ではなく,単なる自分の既得権に違いない.

第5章 日本人はなぜ年功序列を好むのか?

日本の若者がつきた仕事は第1位は公務員である.これは効率的に知識を詰め込み,引き出すことに特化した教育システムに問題がある.

「与えられるものはなんでもやれるが,特にやりたいことのない空っぽの人間」を量産できるシステムだ.

大名が家臣を囲い込むシステムで”奉公構い”というものがある.同様に大手企業同士が流出を防ぐために転職させないような取り決めを行うケースがある.家を買わせてローンを組ませるなどと言うのもその一つだ.逃げ道をふさいで企業が圧倒的な立場に立つのである.これによりサービス残業裁量労働をはじめとする莫大な労働量を確保できる.

こんなむちゃくちゃな労働環境でも黙々と働く日本人は,確かに勤勉には違いない.

だが,それを美徳と呼ぶには強い違和感をおぼえる.たとえるなら,羊のような従順さのようなものだ.

羊を逃がさないようにするには二つの方法がある.一つは逃げられないように鎖でつなぐこと.
もう一つは,そもそも逃げようという気を起させないことだ.


新入社員が持っていた「〜をやりたい」という気持ちはいつのまにかなくなっている.動機がレールを進む行為にすり変わっているのだ.まさに「サラリーマン道」である.


年功序列は技術力を蓄積し,日本製品が世界を席巻した.また均質で従順な労働者を量産した.しかし,成長の時代が終わるとリヴァイアサンは暴走する.自らを延命するために若者を搾取し始めた.

「日本も欧米のように移民を認めろ」

「もっと(労働派遣法改正などの)規制緩和を」

「従順で勤勉な若者を育てろ」

これらの叫びは,私にはまるで,老いたリヴァイアサンの断末魔の叫びに聞こえる.

第6章 「働く理由」を取り戻す

「定年まで無難に勤め上げる」という目的は動機にはならない.飯を食いねぐらを確保するという動物と変わらないものだからだ.自分の動機に気付く前に転職すると失敗する.転職で期待することが「組織から与えられる役割」だからだ.自分が感じている閉塞感の原因を突き詰めることが必須である.


感想

年功序列も新卒至上主義も非常に強力である.新卒で就職した会社が沈没船であっても,一緒に沈むか一生派遣になるしかないそんな勢いである.内定取り消しをされた学生など,乗船する前に海に捨てられたようなものである.


会社が沈み,転職もできず,ドクターに戻ったところで自分の希望が満たされるはずがない.わかってはいたが,ここまでダメージが大きいとは思ってもいなかった.もはやエンジニアになれる気もしない.やりたいことも何もない.


文句を言っていてもはじまらないのはその通りである.しかし,少なくとも人並以上には努力してきたとは思う.その26年の努力が一瞬にして無に帰すこの制度を赦す気には到底なれない.


会社セミナーで面談をした三菱重工社員の言葉「はっきり言ってこんな経歴じゃ雇えない.英語なんてできてもしょうがない.営業でもなんでも3年やれば?」.

困ったら相談に乗るよと言いながらいざとなったら冷酷に斬り捨てた三菱東京UFJ銀行支店長の言葉「常識的に考えて1年やそこらでやめるような人間,信用できない」.

あっそう,そうですか.あなたがたは奴隷として文句ひとつ言わず会社に隷属できた立派な人間なんですね.社会に適合できないクズですいませんでした.


学歴など,就職して1日でも働けば意味がなくなる.学生の時からどれだけ技術を研鑽しようが,会社で技術営業と言う部署にいながら開発力を生かしてシステムを作ろうが,無視される.そんな社会だとわかっていて,いまさらドクターで何をする事があるというのか.卒業できても30歳.就職なんて絶望的だろう.アピール材料にすらならないことも分かっているのに,めんどくさい論理設計の仕事だの,プログラミングの仕事などやる気も起こらない.そんなもの,もう興味がない.


いや,そもそも学部・院の時にはすでに興味などなかったのかもしれない.しかし,自分にはこれしかないと言い聞かせ,無理矢理やっていた気がする.


もう,やらなくていい.だからといって他にできる仕事もない.お疲れ様です.