無い袖はノースリーブ Twitter

2017-12-31

2017往く映画・観た映画

f:id:ocman:20171230030509p:image
「年末、か……」
 確定申告に向けて溜め込んでおいた未整理の伝票箱をそっと開け、そして閉め、私は新年を迎えるためのコラ画像(タイトル:門松と四季)を作りパソコンをシャットダウンした。仕事納めだ。となればあとは、あの店に行くしかない。

「大将、また久しぶりになっちゃった。席ある?」
「どうぞ、いらっしゃいませ。いつものお席ございますよ」
「ここは変わんないね。どう、最近調子は」
「相変わらずでございますねえ。景気のほうがアレでして、今年も仕入れは少なめとなっております。でも毎年のアレはちゃんとご用意ございますので」
「そりゃ嬉しいね。今年はなんか変わった趣向はあるの?」
「一寸気が早いですが、お正月も近いのでおせち仕立てにしてみました」

マグニフィセント・セブン
f:id:ocman:20171231001125j:image
「やおいでございます」
「いきなりおせち設定を放棄した」
「やおいは森羅万象を包括する概念でございます。すなわち箸や器、いえ火や水のようなあらゆる料理、果ては生活全てに無くてはならぬ大切なエレメントでして」
「大将、顔が。顔が近い」
「しかもこちら、やおいの中でも人気の高い”死ぬと分かって共にゆく俺・お前”のダシが効いておりますので」

「これ、やおいが何種類も入ってるんだけど」
「メインキャストの男子が7人、つまり受攻固定とリバ全て合わせると63通りのカップリングがございますので、たいへんバラエティに富んだお味がお楽しみいただけます」
「ちなみに大将の推しは」
「……でございます」
「わかりやすい」

トリプルX:再起動
f:id:ocman:20171229205256j:image
「続きまして一の重は『トリプルX:再起動』でございます。主菜に銃弾と肉弾アクションをあしらいまして、パリピなサントラとゆるい脚本でおめでたい様子を表しております」
「ドニーさんが入ってる!」
「縁起物でございますから。トニー・ジャーもございますよ」
「景気がいいなあ。浮世の憂さもぱっと晴れそう」
「劇中人が死んだりシリアスな事が起こってもまったくシリアスさを感じさせないという小ワザを効かせております」
「しかしいろんなものがギチギチに入ってて味の想像がつかないんだけど……大将この具は?」
「こちらはトリプルXですね」
「じゃあこっちは」
「こちらもトリプルXでございます」
「トリプルXしか入ってないの?」

トリプルX:再起動 [Blu-ray]

トリプルX:再起動 [Blu-ray]

「召し上がった方もトリプルXになる趣向でございます」
「パンデミック物なの?」

新感染 ファイナル・エクスプレス
f:id:ocman:20171229222031j:image
「二の重はゾンビでございます。こちらは本当のパンデミック物ですね」
「年末年始なのに……。あれ、でも腐った匂いはあんまりしないね」
「こちら噛まれて三秒でゾンビ化という業界でも類を見ないスピーデーでフレッシュなゾンビとなっておりますので、できたて新鮮の味をお出ししております」
「新鮮でもゾンビじゃなあ」
「腐らず前向きに生きようという思いが込められてございます」
「大将それ絶対適当言ってるでしょ」
「いえいえこれが本当に人間社会の明暗を強火で煮込んだ濃い味の一品でして」
「捻りも斜に構えもせず直球で突き刺さる社会派味が凄い……。韓国映画のこういうネタ、何食べてもうまいしカロリー高いね」
「今年はゾンビの巨星ジョージ・A・ロメロ監督も鬼籍に入られましたが、理屈っぽいゾンビ映画の味はこうして受け継がれていくんでございますね」

「ま、それにおせち料理の由来なんてなだいたいが適当かダジャレでございましょ」
「ぶっちゃけた」

ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命
f:id:ocman:20151126110521j:image
「やっぱり正月はジャッキーだよな。『ファイナル・プロジェクト』とか」
「そちらのジャッキーではございませんが”邪気を祓う”とも申しますしこちらぜひ年の瀬におすすめしたい品でございます」
「ダジャレで繋いでくつもりじゃないだろうね。それに邪気を祓うどころかなんだか画面も音楽もえらく辛気くさいんだけど」
「そういうところがまたシビれますでしょ。伝記だけに」
「ぜんぜんうまくない」

「これは幽玄とか怪奇みたいなちょっと古めかしい言葉がぴったりなニューロティック・ホラーだね。いやホラーと言っていいのか分からないけど……正直、かなり怖い……」
「夜暗い中ご不浄に行くのが嫌になるタイプのお品でございましょ。伝記だけに」
「天丼するな」

ザ・コンサルタント
f:id:ocman:20171231001540j:image
「次に大将がアサインしたのはこれか。どういうクライテリアとアクションプランでこのコンテンツにフォーカスしたの?」
「そういうコンサルタントではございませんで、こちら会計士が主人公の一品となっております」
「地味そうだなあ」
「結構なアクションシーンもございますよ」
「ほんと? アクションは大好物だけど……なんかアクションって色じゃなくない?」
「お召あがりいただければお分かりになるかと」

「お分かりって言われても……うん、確かにここはアクションで……いやここは違うな、何の味これ? ぜんぜん食べたことない味がする」
「普通のアクション映画ならこう来るだろうな、みたいなことがぜんぜん来ませんでしょ」
「来ない来ない。これはかなり好きな変さだわ。人がバンバン死んでるんだけど、なんていうか優しい味がする。胃に優しく胸に迫る」
「後口のさわやかさは本年随一でございましたね。毎日卵を3個食べると身体が強くなるという健康豆知識も込められております」

T2 トレインスポッティング
f:id:ocman:20171231041721j:image
「大将、これは……?」
「サブカルの古漬け、20年ものでございます」
「言っていい? 食べる前から辛いのが分かるんだけど。だって20年ってさあ……いや前作は知ってるよ。もちろん知ってるよ。貼ってたよポスター。みんな貼ってたでしょ。あのポスターに何がしかのメッセージを感じて俺は同じクラスの連中とは違うんだって思いながら子供部屋の壁に貼ってたやつが100万人はいたと思うよ当時。でも20年て……大将20年前何してた? こっちはね、学生だよ。ガキですよ。自意識がメントスコーラみたいに噴出してた時期ですよ。そのメントスコーラを数年間見つめてたわけなんだよね、壁のレントンが。あのさあ、何もこんな年末の差し迫った時にさあ、そんな、そういう昔のことをね、蒸し返さなくてもいいんじゃないかと思うんだけど!!!」
「ま、ま、どうか落ち着いて。こちら続編でございますから、前作をご存知の方にはぜひともお召し上がりいただきたい一品となっております」
「でもさ〜……20年……」

「死にて〜〜〜〜〜〜」
「でもその”死にて〜”は、自分からは死なないのを分かっているから言える死でございますよね」
「この20年人生の出口も終着駅も線路すらも見つけられなかったよぉ〜〜」
「つまりそれでも人は生きていかねばならないという、実は前向きな思いが込められているお品でございますよね」
「嘘だ〜〜〜〜つれ〜〜〜〜」

タレンタイム
f:id:ocman:20171231050027j:image
「では気分を変えてこちらのお膳はいかがでしょ。学生たちを中心に先生や家族や地域のみなさんを合わせた群像劇でございますが」
「学園モノとか子供が主人公の話はあんまり好みじゃないんだけど、まあ大将がおすすめしてくれるなら……」

Talentime

Talentime

「めちゃくちゃいい話だった……」
「おしぼりどうぞ。一見素朴に見えますが繊細な味わいでございましょ」
「そんなに派手なことも起こらない日常生活がえんえん続くんだけど、その一瞬一瞬が愛しすぎる。ずっと見つめていたい」
「月並みではございますが、やはり愛情や思いやりというものは尊いものでございますね」
「いやーこれは心が洗われたわ。あったかい気持ちで年を越せそうだよ」

アシュラ
f:id:ocman:20171231061246j:image
「では温まったところでこちらのお屠蘇をグイッと」
「いやいやいやお屠蘇じゃないでしょビールに焼酎入れてたでしょ見たよ今」
「まま、どうぞどうぞグッと」
「味の想像が付かないよなんなのこのいやげなカクテルは」
「ガラスコップごと噛み割ってお飲みください」
「無理だよ! 無理無理無理無理痛い痛い」

アシュラ [Blu-ray]

アシュラ [Blu-ray]

「血反吐の味がする……あと後悔と恨みと恫喝と暴力と汚い金と裏切りとフルチンの味もする……」
「血反吐に始まり血反吐に終わる本年トップクラスの大出血サービス品でございます」
「これのどこがおめでたいおせちなのよ」
「容易に長いものに巻かれてはいけないという教訓がこめられておりますね。来春からの新社会人の方にもおすすめさせていただいとります」
「それはやめたほうがいいと思う」

ムーンライト
f:id:ocman:20171231064332p:image
「また随分きれいなお重が出てきたね」
「幼年期、少年期、青年期の海鮮三段重ねとなっております」

「…………」
「いかがですか」
「言葉が出ない。というか、喋ろうとすると感想だけじゃなくて自分のことまで語りだしちゃいそうで。色々思い出しちゃったな、昔のこと……」
「非常にパーソナルなお重ですので、逆に召し上がるとご自分のパーソナルな感情も引き出されるお客様も多ございますね」
「この辛い味も切ない味もときめき味もないまぜになっているの、見てるだけで涙が出そう。しょっぱいのはそのせいかしら」
「海の味でございますよ、海の味」
「ラストもいいなあ。バッドエンドじゃもちろんないし、でもハッピーエンドと言うような陽気さでもないし、しみじみいいラスト。侘び寂びすら感じる」
「年の瀬でございますので、しんみり来し方を振り返っていただくのもよいでございましょう」

イップ・マン 継承
f:id:ocman:20171231151614j:image
「では最後のお重でございます。年をおさめ新年を迎えるのにふさわしいお品でございます」
「ドニーさんだ!」
「縁起物でございますから。タイソンもございます」
「タイソンまで! これは大アクション絵巻が期待できるね!」
「ささ、どうぞ冷めないうちにお召し上がりください」
「おせちってだいたい冷えてるもんじゃないの?」

イップ・マン 継承 [Blu-ray]

イップ・マン 継承 [Blu-ray]

「熱っ! そしてこの熱さ、アクションだけの熱量じゃない……?」
「はい、ずばり……”愛”でございます」
「愛……!」
「振り返れば2017年いろいろなことがございました。つらい話や世を儚みたくなるような話も多ございましたが、やはり愛だけは忘れず心に持っていたいという想いを込めてこちらお出しさせていただきました」
「凄い……いつも通り、いやシリーズ中最も激しいくらいのアクションの連続なのに確かに愛を感じる……」
「一挙手一投足に詩情を込められる稀代の武打星の煌めきあってこその味でございます」
「葉問2でドニーさんにスクリーンで再会してからもう7年近く経ったのか……。色々あったな。でも、考えてみれば人生の決断の場にはいつもドニーさんの映画があった……。『孫文の義士団』観たテンションで会社辞めたし、『捜査官X』観て次の仕事も辞める元気が出たし、その後の公開作も無職の心を慰めてくれた……。ここまでやってこれたのも、ドニーさんの”愛”があったからなのかもしれないな……」

「そういえば大将、今年は配信がコースに入ってなかったね。やめたの?」
「いえ、逆に仕入れが増えてきましたんで、そちらは年明けの初売りにお出ししようかと思いまして。よろしければぜひおいでください」
「あ、そう? じゃまた来年もお世話になるかな」
「はい、お待ちしております。それではよいお年をお迎えくださいまし」
 大将に手を振り店を後にした。帰宅したらドニーさんのフィギュアを祀ってある部分だけでも綺麗に掃除しよう。神や仏は信じていないが、愛は信じているから……。

゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――゜+.――

 インターネットのみなさま、本年もお疲れ様でございました。今年はだいたいずっと家にいて、映画はあんまり観れなかったんですがそのぶん配信でいろいろ観たのでそっちのベストはまた年明けにやりたいと思います(時間切れ)。
 そして家にいたのでなんとか年明けに新刊が出せることになりました。今まで出した本とはまたちょっと毛色が違う小説(短編集)ですが、面白いです。断言しちゃう。下記リンクに試し読みもございますのでぜひお手にとっていただければ幸いです。ではみなさまよいお年を〜〜〜わたしはこれから年越しスターウォーズ観てまいります。

王谷晶『完璧じゃない、あたしたち』紹介ページ

完璧じゃない、あたしたち

完璧じゃない、あたしたち

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/ocman/20171231/1514705780