キンドルに青空文庫の「漱石全集」を入れている。昨日、出かけるのにキンドルを持参、たまたま未読の「道草」を読み始めた。これが結構面白くて帰宅してからも読み続け、今日読了。何がそんなに面白かったのか、多分漱石の赤裸々な自伝というところであろうか。複雑な生育環境とか金銭的な俗な人間関係とか夫人とのややこしい感情のもつれとか物語の中心をなすものはこの三つぐらいかと思うが、夫婦間の話が一番興味が持てた。要するに文豪の夫婦といえども世間と似たりよったりのものだということで夫婦喧嘩の馬鹿馬鹿しさを端から見返す面白さがあった。もっとも吉本(隆明)さんにいわせると「作品にでてくる主人公夫婦は、やはりたいへんすざましいなあ」ということで、すざましいところに目をやれば確かにそうなのだが、あまり言うと藪蛇だが世間並の行き違いもまた多い。
漱石がどうしてこういう自伝的な告白的ともいう小説を書いたのか。これに対して吉本さんは「一種の自己浄化の作業」ではないかと言っている。この作品の後、「明暗」へと「漱石的な世界の総ざらいがちかづきつつある」という事実がある。四十九歳、若い没年であった。
木枯や海に夕日を吹き落す 夏目 漱石
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