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小田亮のブログ「とびとびの日記ときどき読書ノート」 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2009-10-03

[] 子ども手当に所得制限って、左翼小児病? 15:53

 民主党マニフェストの目玉の一つである「子ども手当」について、所得制限を設けるべきという声があがっているようです。政権発足後すぐに、与党である社民党福島みずほさんが、子ども手当には所得制限を設けるべきだと発言しましたし、自立生活サポートセンター・もやいの湯浅誠さんも、『毎日新聞』2009年9月8日夕刊の「特集ワイド」の記事でのインタヴューのなかで、所得制限のない子ども手当を「まるっと支援」と呼び、「一億中流は崩れたのに、階層の発想がない」と批判しています。

 再分配すべき財源が一定なのに、金持ちに再分配するなんて無駄だという左翼らしい発想ですが、このブログで「ベーシック・インカムを!」と提案している私としては、このような発想は困ります。「0歳から死ぬまで、金持ちにも貧困層にも、なんの区分・制限なしに、一人当たり一律月10万円支給」なんて言ったら、「なんで限られた財源から金持ちにまで支給するのか」「階層の発想がない」と言われることになるわけですから。

 ちなみに、『毎日新聞』2009年9月24日夕刊の「特集ワイド」での中堅・若手官僚へのインタヴュー記事のなかで、経済財政関連省庁のある若手官僚は、「子ども手当や高校無償化がなぜ年収1000万円以上の世帯にも必要かわからない。低所得者に手厚く配分するのが、国の役割では」と語っています。若手官僚のなかにも左翼がいることがわかって心強いかぎりなのですが、ミーンズ・テスト(所得や資産を調べて、受給資格を審査すること)なしの普遍的な支給が重要となる「ベーシック・インカムのある社会」を目指すためには、このような発想はやはり問題となります。

 ミーンズ・テストによる所得制限のどこが問題なのかは、ベーシック・インカムを論じたいくつかのエントリーに書きましたが、子ども手当に即して再論しておきましょう。問題は主に3つあります。

1) 「貧困の罠」

2) 「事務コスト」

3) 「受給のスティグマ

です。

 低所得者に厚く配分するという「階層の発想」で所得制限を設けるときには、前年度の所得を世帯ごとに調査して、たとえば500万円以下の世帯に支給するということになるのでしょう。「貧困の罠」というのは、共働きで前年度の世帯収入470万円、子ども2人という世帯が、翌年に年62.4万円の子ども手当をもらっているとして、ちょっとがんばって働いて世帯収入が510万円になりそうだとなったら、次の年から子ども手当をもらえなくなり、収入は減ってしまいます。となると、合理的な行動は、働くのを制限して、世帯収入が500万円を超えないようにするというものです。つまり、所得制限の社会保障支給があるために低所得から脱け出すことができないというのが、「貧困の罠」です。

 だったら金持ちだけを制限するために世帯所得1000万円以下に支給すれば、となりますが、今度はそれによって節約できる「無駄」はたいして多くありません。前年度の世帯所得を調べて審査するという事務コスト*1を考えると、節約にはあまりならないのではないでしょうか。

 最後に、「受給のスティグマ」について。これは経済学者がほとんど無視する問題ですが、社会学的には重要です。とくに日本社会のように、「自己決定・自己責任」論の強い社会では、低所得者層向けの支給を受けること自体が、低所得者に、「本当は、自分でなんとかしないといけないのに、自分は他人の世話になってしまっている」というスティグマを烙印してしまいます。

湯浅誠さんなら、生活保護を受けることなしにぎりぎりまでがんばってしまう貧困層を大勢みているはずなのに、「まるっと支援」を否定しているのはどうしてなのでしょうか。「まるっと支援」こそ、自己決定・自己責任論からくる「受給のスティグマ」を解消してくれる一つの道なのに。それが左翼の「貧困層に再分配を」という思想に反するからだというのは、左翼小児病と言われても仕方ないでしょう。

 先の若手官僚が「低所得者に手厚く配分するのが、国の役割では」と言っていることには賛成します。そして、金持ちに子ども手当が必要ではないというのも正しいでしょう。限られた財源では、そう主張したくなるのも当然かもしれません。それについてはどうしたらいいか。簡単なことです。ベーシック・インカムのエントリーでも書きましたが、金持ち減税を止めて、所得税累進課税を再び強化し、相続税も高くすればいいわけです。左翼ならば当然そう主張すべきでしょう。

 累進課税をやめて金持ち減税をしたときに、「がんばっている人に報いる社会」、「金持ち減税しないと海外に移住してしまう」、「一握りの金持ちが社会全体の経済を引き上げていく」といった、ほとんど根拠のない理由がもちだされていましたが、いまそんなことを信じている人もいないでしょう*2。しかし、財源を問題にするときに、いまでもマスコミや評論家は消費税の増税しかいいません。消費税は累進ではなく逆進性の税です*3。左翼までがそうなってしまっているとしたら、左翼小児病以前かもしれません。

*1:私にはどれくらいになるのか、想像もつきませんが。そういうことを計算するのが官僚の役割なのですが。

*2法人税増税だと企業は拠点を海外に移すことはあるでしょうが、個人の所得のばあい、人間関係を含めて環境依存度が高いので簡単に海外に行って同じだけの所得をえられる人はそんなにいないでしょう。さらに言えば、高収入の人は、インフラ整備など自分の仕事の環境が整えられているという形で、社会や国からかなりの再配分を得ているわけです。それを、「自分個人の能力で稼いでいるのであって、社会や国から支援されているわけではない、がんばらずに社会保障など再分配されているのはけしからん」と言っているのはどうかと思います。

*3:逆に子ども手当のような一律支給は累進性の性格をもちます。

元文化史学科元文化史学科 2009/10/06 02:41  ベーシック・インカムを公約に掲げる田中康夫さんが代議士になったので、少しでもこの手の議論がなされる事を願っております。しかし、今の社会が火の車な状況では、こういう根源的な内容をじっくり話し合うのは難しいかもしれませんね…。

 今回のエントリーで一番共感したのは、註釈の2です。「自分の能力のみで稼いでいる」と思っている人、悪い意味で図々しいと思います。(最近やたらのこの手の主張を聞くので、辟易します…)
 どんな商売でも有形無形の社会的支援の上に成り立っているのは明白です。例えば、一個人が自らの資金や自らの肉体的労働のみで全国をネットする道路を敷設するのは無理です。そういった共有財産を利用する事によって商売が成り立っている事を考えれば、納税するのは当然の義務だと思うのですが…。(事業税の課税根拠も、確かこのような考えに則っていたと記憶しております)

oda-makotooda-makoto 2009/10/12 20:45 元文化史学科さん、コメントありがとう。返事が遅れてすみません。

>「自分の能力のみで稼いでいる」と思っている人、悪い意味で図々しいと思います。(最近やたらのこの手の主張を聞くので、辟易します…)

「自分の能力のみで稼いでいる」というセルフ・リアイアンス(独立独歩)の神話に最も取り憑かれているのは、1950年代以降のアメリカ合衆国の「白人中間層」です。
彼らホワイトカラー労働者は戦後の経済成長で、郊外にマイホームを建て、電化製品に囲まれた生活をするなど、生活水準の向上を味わいました(戦後の日本人がアメリカのホームドラマを見てあこがれた生活です)。彼らは、「自分の能力」でそれを達成したと強く思っています。

しかし、アメリカの歴史家であるステファニー・クーンツは、『家族という神話』(筑摩書房、1998年)のなかで、「アメリカ現代史の中で1950年代の郊外住宅地に住む家族ほど、いわゆる『下層階級』よりはるかに多くの政府からの施し物に依存していた例を見出すことはできない」と言っています。郊外のマイホーム購入は、直接的な形で国庫に依存していた。それは政府による助成金の拡大によって可能となった固定金利での住宅ローンと安く抑えられた頭金のおかげだったし、確かに郊外住宅地を開発したのは民間の不動産業者であり、それを買ったのは個々の家庭であるけれども、郊外住宅地へと延びる新しい幹線道路と下水道整備、電気、ガス、交通網整備計画などの完備(これらなしには郊外に住めませんからね)は国民一般の税金によってまかなわれました。

クーンツは、郊外住宅地への助成に税金がつかわれる一方で、貧困層が住む都市中心部の路面電車やバスや鉄道といった公共輸送機関に税金が使われることはほとんどなく、こういった輸送機関は次第に廃止されていき、中心部にする貧困層はますます追い込まれることになったといいます(たとえば、1946年から1980年の間に、政府の幹線道路への助成は1030億ドルに達したが、鉄道への助成は60億ドルにとどまっています)。さらに、1960〜70年代に行われた社会福祉政策でも、ミドルクラスや裕福な人々は、政府から、貧しい人たちよりもずっと多くの助成金を受け取っていたといいます。

にもかかわらず、1970年代後半に景気が悪くなり、政府の赤字が増えると、アメリカの経済問題や社会問題の悪化は、政府がセルフ・リアイアンスの伝統(こんな伝統はなかったのですけれどね)を捨てて、貧困層のための寛大すぎる助成金制度を設けたことに原因があるという議論を出したり支持したりしたのは、「史上最も政府からの施しを受けた」かれら白人中間層とその子どもたちだったのです。

kyunkyunkyunkyun 2009/10/22 00:45 はじめまして。

「自分の能力のみで稼いでいる・・・」
ベーシック・インカムの考え方には、カルチュラルヘリテージ (文化的遺産) という
考え方があるのですが、先日から放送が始まったTBSのドラマ 『JIN -仁-』 の中で、
とても共感するセリフがありました。
http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=GN&action=m&board=1000003&tid=a5ya1bca57a5ca5afa1a6a5a4a5sa5aba5e0a4ka4da4a4a4f&sid=1000003&mid=117

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