2010年度(第5回)素粒子メダル奨励賞

というのを頂戴できる事になりました。(当該プレプリント論文Erratum

追記あり)

受賞理由

 素粒子標準模型に内包する問題であるゲージ階層性の問題の有力な解として余
剰次元を持つ模型が提唱され、盛んに研究されてきた。とりわけ、物理の基本ス
ケールがテラスケールにある場合には衝突型加速器実験でブラックホールの生成
が起こりうることが指摘され注目を集めた。しかしながら初期の研究においては、
極めて単純な仮定に基づいたブラックホールの生成が議論されていた。
 本論文において尾田氏らは、4次元ブレーン上での場の方程式を解析すること
によりホーキング幅射のスペクトルを世界に先駆けて具体的に求め、さらにブラッ
クホールの生成・蒸発における角運動量の役割を議論した。特に、生成されたブ
ラックホールは一般に大きな角運動量を持つこと、その場合のホーキング幅射は
大きな異方性を持つことを発見したことは、先行研究による単純な描像に大きな
変更をもたらし、その後のこの分野の研究に大きな影響を与えた。本論文は、素
粒子論グループ非会員との共同研究であるが、尾田氏の果たした役割は高く評価
でき、受賞に値する。

 

総評
 今回は素粒子論委員会の様々な応募促進策のおかげで応募件数は大幅に増え1
6件に達しました。選考委員会では、各応募作品に対し「抜きんでいる、賞に推
したい」、「優れている、賞に値する」、「良い、賞の可能性はある」、「今一
歩、今回は見送るべき」、「賞にふさわしくない」の5段階評価を行い、その後
全員で意見交換を行って受賞候補者を絞り込みました。応募論文は何れも力作ぞ
ろいで、ほとんどの作品が「良い、賞の可能性はある」以上の評価を受けました。
受賞件数を上限の3件以内におさめるのに大変苦労しましたが、選考委員会とし
ては受賞理由に述べた観点から今回の受賞作を選びました。今回惜しくも選に漏
れた方々もその力量は高く認められていますので、更に優れた研究を行い、再度
応募して頂く事を期待しています。


これからも精進して、このさき受賞者としてこの賞の権威を高められるような研究成果を出していきたいです。


卑近な話ですが賞をいただけて素粒子論業界の外の人に対しても目に見える結果として残るのも大変ありがたいです。今のところの任期があと1年5ヶ月なのでなんとか次のジョブ・ハンティングに活かしたい。(だれか採ってくれw)


追記

このような事情により盟友ソンチャンも一緒にもらえることになりました。(書かれているとおり井田っちの貢献も高く評価されているが、彼は単に素粒子論グループのメンバーじゃないので外れている、という事です。)

第5回(2010年度)素粒子メダル奨励賞選考結果報告書(訂正版)


先日、第5回素粒子メダル受賞者を(3件、4名)の方に決定したと報告しました
が、その後尾田欣也氏の共同研究者Seong Chan Park 氏が素粒子論グループ会員
であることが判明しました。そのため、第5回素粒子メダル奨励賞は3件、5名の
方に授与されることになりましたので、改めて報告いたします。


2010年度素粒子メダル奨励賞選考委員会
五十嵐尤二、大野木哲也(副委員長)、東島清(委員長)、福間将文、前川展
祐、山口昌弘


受賞者氏名:


1. 尾田欣也(おだ きんや)、Seong Chan Park
"Rotating black holes at future colliders: Greybody factors for brane fields",
Physical Review D67 (2003) 064025 Erratum Physical Review D69 (2004) 049901.


2. 駒 佳明(こま よしあき)、駒 美保(こま みほ)
"Spin-dependent potentials from lattice QCD",
Nuclear Physics B769 (2007) 79.


3. 衛藤 稔(えとう みのる)
"Static interactions of non-abelian vortices,"
Journal of High Energy Physics 0802 (2008) 100.


受賞理由
1. Daisuke Ida, Kin-ya Oda, Seong Chan Park
"Rotating black holes at future colliders: Greybody factors for brane fields"
Physical Review D67 (2003) 064025 Erratum Physical Review D69 (2004) 049901.


素粒子標準模型に内包する問題であるゲージ階層性の問題の有力な解として余
剰次元を持つ模型が提唱され、盛んに研究されてきた。とりわけ、物理の基本ス
ケールがテラスケールにある場合には衝突型加速器実験でブラックホールの生成
が起こりうることが指摘され注目を集めた。しかしながら初期の研究においては、
極めて単純な仮定に基づいたブラックホールの生成が議論されていた。
本論文において尾田氏・Seong Chan Park氏らは、4次元ブレーン上での場の
方程式を解析することによりホーキング幅射のスペクトルを世界に先駆けて具体
的に求め、さらにブラックホールの生成・蒸発における角運動量の役割を議論し
た。特に、生成されたブラックホールは一般に大きな角運動量を持つこと、その
場合のホーキング幅射は大きな異方性を持つことを発見したことは、先行研究に
よる単純な描像に大きな変更をもたらし、その後のこの分野の研究に大きな影響
を与えた。
本論文の共著者である井田大輔氏は素粒子論グループの会員でないため授賞対
象にならないが、選考委員会は井田氏の貢献を受賞者と同様に高く評価すること
を付記する。


2. Yoshiaki Koma and Miho Koma
"Spin-dependent potentials from lattice QCD",
Nuclear Physics B769 (2007) 79.


クォーコニウムの物理は、近年、様々な実験による新しいデータの蓄積と理論
の進展をもとに、理論の予言と実験値の比較が盛んに行なわれ急速に発展してい
る。
本論文はクォーコニウムのfine-splittingの予言に必要なスピンに依存したポ
テンシャルをクェンチ近似による格子QCD計算を用いて決定したものである。
この研究は有効理論「Potential-NRQCD」に基づき理論的に不定性なく定義さ
れたポテンシャルを著者らが開発した独自の計算手法(スペクトル表示)を用いて
クォーコニウムの記述に重要な0.5fm近傍の領域を含めて高い精度で決定した点
で特に優れている。
この結果は、クォーコニウムの物理の分野で最も信頼度の高い結果として高く
評価されており、今後クォーコニウムにおける非摂動効果の寄与の定量的評価な
ど、クォーコニウムの物理の解明に役立つと期待される。


3. Robert Auzzi, Minoru Eto and Walter Vinci,
"Static interactions of non-abelian vortices,"
Journal of High Energy Physics 0802 (2008) 100.


nonabelian ゲージ理論における vortex 解の研究は、これまで超対称性のあ
BPS ソリトンに関するものが主であり、超対称性がない場合でもソリトン
単体の場合に限られていた。
本論文は、超対称性がない場合の nonabelian vortex 間に働く力を初めて一
般的に解析したものである。とくに、vortex が持つ内部自由度の相対的向きに
依った力がvortex 間に働くことを数値的手法も用いながら初めて示し、vortex
が十分離れた場合の相互作用の振る舞いについて系統的な分類を行った。
また、この研究結果は、現在では、高密度 QCD 中の渦紐や宇宙弦の解析にお
いて重要な役割を果たし始めている。このように、衛藤氏らによるこの野心的な
研究は、より現実的な模型におけるソリトンの解析を大きく進めるきっかけとなっ
たものであり、高く評価される。


総評
今回は素粒子論委員会の様々な応募促進策のおかげで応募件数は大幅に増え1
6件に達しました。選考委員会では、各応募作品に対し「抜きんでいる、賞に推
したい」、「優れている、賞に値する」、「良い、賞の可能性はある」、「今一
歩、今回は見送るべき」、「賞にふさわしくない」の5段階評価を行い、その後
全員で意見交換を行って受賞候補者を絞り込みました。応募論文は何れも力作ぞ
ろいで、ほとんどの作品が「良い、賞の可能性はある」以上の評価を受けました。
受賞件数を上限の3件以内におさめるのに大変苦労しましたが、選考委員会とし
ては受賞理由に述べた観点から今回の受賞作を選びました。今回惜しくも選に漏
れた方々もその力量は高く認められていますので、更に優れた研究を行い、再度
応募して頂く事を期待しています。