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odd_hatchの読書ノート このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2010-12-01

ジョン・ディクスン・カー「魔女の隠れ家」(創元推理文庫)

チャターハム牢獄の長官をつとめるスタバース家の者は、代々、首の骨を折って死ぬという伝説があった。これを裏づけるかのように、今しも相続をおえた嗣子マルティンが謎の死をとげた。〈魔女の隠れ家〉と呼ばれる絞首台に無気味に漂う苦悩と疑惑と死の影。カー一流の怪奇趣味が横溢する中に、フェル博士の明晰な頭脳がひらめく……!

魔女の隠れ家 - ジョン・ディクスン・カー/高見浩 訳|東京創元社

 ああ、自分は勘違いしていた。ゴシックロマンス型の探偵小説はウィリアムスン「灰色の女」が最後かと思っていたら、まだこんな時代(初出は1933年)にも残っていたのだった。英仏海峡沿いの街、チャターハムにある牢獄。19世紀初頭に作られ、そこでは囚人の死刑が見物できるようになっていて、犯罪者の末路を見せしめるために、周囲に堀を作り、死体をそこに投げ込んでいた。初代長官は厳格な人物で、子孫に莫大な遺産を相続させる一方、財宝を別に隠している。どうやら彼の下手な詩が謎を隠しているようなのだ。長官は首を折られて死んでしまい、その子孫には首を折られて死んだ人が多い。しかも現在の相続者の父もまた首を折られて死んでおり、市の直前になぞめいた文書を書いていたが、それは見つからない。おりしも、「相続を終えた嗣子マルティンが謎の死をとげた」。という具合に、古城、謎の文書、因縁めいた謎の死の継続、子文書、怪しげな弁護士、古風な牧師、若い男女のロマンス、深夜の牢獄の調査、事件が起こるたびに点るろうそくの灯(牢獄の長官室)、とゴシックロマンス意匠が散らばっている。こんなにサービスゆたかな設定をしてくれた探偵小説もめったにない。結末の意外さやトリックの斬新さには劣るとしても、途中3分の2までのおもしろさったらない。ヘイクラフトはカーの最高傑作にあげたそうだが、少しはその心情はわかる。

 フェル博士の初登場作ということがこの小説のポイントだと、言われているのであるが、むしろカーの小説の書き方の転換点になったことに注目してよい。フェル博士というコンメディア・デ・ラルテの人物が出たことによって、文章は明るくなり、しかも男女のロマンスを加えたことで、物語のスピードがまし、読者の興味がわく。それまでの古風な怪奇小説の文体も消え、ドタバタが描かれるようになり(とりわけフェル博士の妻のどたばた、あわてんぼうぶり、饒舌が笑える)、後のカーらしさが存分に発揮されてる。

 そうなんだ、読みながらデジャ・ブーを何度感じたことか。冒頭、ロンドン駅のプラットホームでの若い男女の出会いは「連続殺人事件」?、過去に事件のあった部屋に深夜閉じこもらなければならないというのは「赤後家の殺人」?、古文書暗号を解くというのは(あれカーにあったかな)黒岩涙香「幽霊塔」?(←初出順が違うって!)、事件を遠隔地で目撃するというのは「皇帝の嗅煙草入れ」?

魔女の隠れ家 (創元推理文庫 118-16)

魔女の隠れ家 (創元推理文庫 118-16)

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