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odd_hatchの読書ノート このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2014-09-18

ジョン・ディクスン・カー「死者はよみがえる」(創元推理文庫)

 ロンドンから一時間ほどの田舎ノースフィルドにある由緒ある館。当主が飲んだくれのため逼迫し、売りに出した。買い取ったのは、政治家ゲイ卿。引退したので友人の若い政治家や実業家を呼んではたのしんでいる。ある夜、そういう連中が宿泊したさい、何者かが侵入して政治家ロドニー・ケントを絞殺した。元の館で見つかったのは、館の前の持ち主べローズ。逼迫して左腕が麻痺したあげく、酒を飲んだくれていたのだ。彼が言うには、ロドニーの部屋にホテルの従業員の制服を着たものが侵入したのだという。もちろん最重要容疑者のため、すぐさま警察に拘置された。

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 その家にはいられないというので、未亡人と若い政治家たちはロンドンのロイヤル・スカーレット・ホテルの7階の一翼を借り切った。その夜、今度は未亡人がホテルの一室で絞殺されていた。奇妙なのはこういうことだ。当時、ホテルは日夜のエレベーター工事。そのため作業員が7階のエレベーターと階段を監視していたが、不審な侵入者はいない。たまたま犯行時刻あたりに部屋に戻ってきた宿泊客は、ホテルの従業員がいるのを目撃している。しかし、支配人が調べたところ該当者はいない(ここでチェスタトン「見えない人間」を思い出すことにしよう)。それに首にはタオルを巻きつけてあるが、実際の凶器はトランクだ(フェル博士らは「鉄の処女」と呼ぶ)。

 被害者の女性は小説の冒頭ですでに死んでいる。そのため、この女性がどういう性格なのかは関係者の証言によってしかわからない。政治家の若い美しい妻、南アフリカの富豪の娘で、ほとんど国から出たことがない、貞淑で物静かな女性というイメージが植えつけられている。それが関係者の証言でしだいに覆される。明らかになるのは見かけとは違って、男を誘惑し、手玉に取ることを楽しんでいたということ。1930年代のハリウッド犯罪映画にでてくる女性たち(ヴァンプ)に似ている。タイトルは、被害者の未亡人が死の前日に友人に語った言葉に由来。「あたしのことをつつきまわると、死人を呼び起こすことになるよ」(意訳)から。ある意味、亭主の死はこの女性のためであるといえて、「運命の女(ファム・ファタール)」なのだよな。

 プロットを再構成すると上記の通り。しかしストーリーは、南アフリカの作家ケントが上の若い政治家ダンとロンドンまでヒッチハイクでこれるかという賭けのシーンから。そこで未亡人の死体を発見し、進退きわまってフェル博士に助けを求めた。ケントはフェル博士につき従って、事件の捜査を逐一見物し、報告書を書くことになった。ケントが事件に巻き込まれたときにはすでに事件のすべてが終わっている。ドラマのクライマックスが完了してからストーリーが始まる。ここはカーの工夫したところ。それまでの探偵小説は、「殺されるかもしれない、助けてください」と探偵が依頼されて、館やオフィスの乗り込むところから始まるものだった。まあ、ヴァン=ダインや初期クイーンの常套的な始まりを思い出そう。それが形式的に確立した10年後にはこんなふうに形式を解体するのが試みられている。とおおげさにいってみたが、このようなヒッチコックの巻き込まれ型サスペンスは1930年代頭にはもうあったよな。

 そういうストーリーとキャラクターの書き方がカーの作品では珍しいと思った。バンコランものや「魔女の隠れ家」「帽子収集狂事件」「赤子家の殺人」のような典型的な探偵小説だったのが、10年を経ずして書き方を変えていったのがおもしろい。とはいえまだまだ試行錯誤の最中で、ストーリーテラーにしてはぎくしゃくしたはこびなのは、そのせいか。終わりを決めてから、キャラクターを配置し、ストーリーを作るという人工的な小説にだった。

 あと、意外な犯人にこだわった。ここではふたつの「意外な犯人」の趣向を凝らしている。それを詳述するのはできないが、あいにくアンフェアぎりぎりの設定になってしまった。なので、監視下にある「準密室」という魅力的な仕掛けは、謎解きで肩透かしをくらうことになる。

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