odd_hatchの読書ノート

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ハーマン・メルヴィル「白鯨 下」(新潮文庫)-ダイジェスト3 太平洋上で白鯨情報をキャッチ。執拗に追いかけるエイハブによって世界は狂気に染まっていく。

 15分でわかるハーマン・メルヴィル「白鯨」ダイジェスト(3)。
2016/09/29 ハーマン・メルヴィル「白鯨 下」(新潮文庫)-2 1850年 の続き。
 太平洋にでて、白鯨情報をキャッチ。執拗な追跡が開始されます。

第99章「ダブロン金貨」 ・・・ マストにくぎ打ちされたスペイン金貨。「この船の臍」。それを見てエイハブ、スターバック、スタブ、フラスク、クィークェグ、ピップの順にひとりごとを言う。

第100章「脚と腕――ナンターケットのピークオッド号、ロンドンのサミュエル・エンダビー号にあう」 ・・・ イギリスの捕鯨船と遭遇。船長はかつて白鯨をとらえようとし、腕をなくした。エイハブは、最後に白鯨を見たのは東だと聞いてすぐにピークォド号に戻る。

第101章「デカンター(酒壺)」(捕鯨船) ・・・ イギリスとオランダ捕鯨船が積載する食糧について。アメリカの船より美食なのは短期間航海であるのと、北方の海で操業するため。ちなみに日本沖の捕鯨が始まったのは1819年の調査捕鯨以来(なので、ペリーが日本を補給場所にするために来航し開国を迫った)。

第102章「アルサシードのあずまや」(鯨学) ・・・ 鯨の骨格について。アルサシード(アーサシドとも:架空の王国)で測定したときの話(幻想とも)。

第103章「鯨の骸骨の計測」(鯨学) ・・・ 鯨の完全標本をみたときの測定値(たぶん当時は完全標本を見るのが困難だったのだろう)。

第104章「化石鯨」(鯨学) ・・・ 鯨の化石について。きわめて古い時代、人類以前から鯨はいた。(1850年ではダーウィンの進化論はまず知られていない。リンネやキュヴィエらの分類学博物学の基礎知識。)

第105章「鯨の大きさは縮小するか?――鯨は絶滅するか?」(鯨学) ・・・ 章題のような疑問に対し、イシュマエルは縮小(退化)しない、過去も巨大であった、絶滅しない(当時の捕鯨法では)と考える。(自然史を考えるとき、アダム・イブ・ノアの存在は当然であると考えていたらしい。ただし、アダムより前の人類のいない時期が長かったとも考えていたらしい。生物は複雑なものから単純なものに落ちていくというのは当時の一般的な考えだった。ジャン・ラマルク「動物哲学」(岩波文庫)-1 1809年のエントリーを参照。)

第106章「エイハブの脚」 ・・・ 出港以前にエイハブは鯨の義足で鼠蹊部を激しく打ち、苦しみに耐えていたことがある(それが出港前後の引きこもりの理由らしい)。エンダビー号との交歓で義足の調子が悪くなったので、エイハブは大工と鍛冶に新しい義足をつくらせる。

第107章「大工」(捕鯨船) ・・・ ピークォド号の大工について。万能ナイフ(この時代からあったのだ!)のような多芸多才と、非妥協的な抽象性。

第108章「エイハブと大工」 ・・・ 作業中の大工の無内容なモノローグ。仕事を命じたエイハブの唯我論のようなモノローグ。

第109章「船長室のエイハブとスターバック」 ・・・ 台湾とバシー諸島を目指して航行中。油樽に漏れが見つかる。スターバックはエイハブに修理を進言するが、エイハブは銃を突き付けて拒否。スターバックは「エイハブはエイハブに気をつけろ」と言い残す。部屋を出た直後に、エイハブはスターバックの進言通りに修理を命じる。

第110章「棺桶のなかのクイークェグ」 ・・・ 樽の入った船倉の清掃中、クィークェグが熱病にかかる。死を覚悟したクィークェグは棺としての丸木舟をつくるよう命じる。それにはいってふたもしてもらったのち、クィークェグの容体がよくなる。「人間が一度生きようと決心すると、病気ぐらいでは殺せるものではない。鯨とか嵐とか、乱暴な始末に負えぬ破壊者でなければ」。狂ったピップが丸木舟をみて、クィークェグと自身の死を幻視する。

第111章「太平洋」 ・・・ 神秘の海、太平洋。(思えば1850年アメリカ西部のフロンティア開拓時代で、西海岸の人口はきわめて少なく、遠洋漁業のできる企業はなく、大陸横断の鉄道も未完成であった。)

第112章「鍛冶屋」 ・・・ 船の鍛冶屋パース。腕のいい職人が酒で身を持ち崩して、妻子を失い、流浪の果てに捕鯨船に乗るまで。

第113章「ふいご」 ・・・ エイハブはパースにお前はなぜ狂わぬと詰問する。そのあと、鍛冶屋パースに蹄鉄の古釘を渡し銛をつくらせる。剃刀を渡し捕鯨用の刃をつくらせる。クィークェグ、タシュテゴ、ダグーの血で焼きを入れる。古材を探して銛と刃の柄にする。

第114章「めっき師(または「金箔の海(ギルダー)」)」 ・・・ 日本沖で操業。たまの休みに凪の金箔をはったような海を見る。「私」とスターバックとスタブの独白。

第115章「ピークオッド号、バチェラー号にあう」 ・・・ 空前の豊漁になったバチュラー号とすれ違う。陽気にバカ騒ぎをするバチュラー号と、気難しげで陰鬱なピークォド号。

第116章「死にゆく鯨」 ・・・ フィリピン沖で4頭を仕留める。夕焼けの下で死にゆく抹香鯨を見ながらのエイハブの独白。

第117章「鯨番」 ・・・ 仕留めた一頭を監視するためにエイハブはボートで夜を明かす。フェダラーによるエイハブの死の予言。「死ぬまでに2つの棺を見る。殺すのは麻糸」。

第118章「四分儀」 ・・・ 船の位置を確かめる作業。エイハブは太陽を賛美し、四分儀を呪い踏みにじる。出航の指示。スターバックとスタブの独白。

第119章「燭」 ・・・ 台風にあい、マストが折れそうになる。深夜、船の帆がすべて裂けたとき、聖エルモの火がともる。エイハブ、自身の銛を持ち、天に挑みつつ崇拝する。エイハブのボートが破壊される。水夫がうろたえるのを見て、エイハブは手に持った銛の聖エルモの火を自らの手で消す。

第120章「甲板、初夜直の終わりに近く」 ・・・ スターバック、帆桁を下すよう進言。エイハブ拒否してさらに帆を張らせる。

第121章「深夜−前甲板舷墻(げんしょう)」 ・・・ スタブとフラスク、錨に補強の綱を張る。「この錨を二度と使わないつもりのよう」

第122章「深夜の檣頭−雷鳴と稲妻と」 ・・・ タシュテゴが帆を張る。

第123章「小銃」 ・・・ 台風の風が順風になる。スターバック、報告のために船長室にいきエイハブが突き付けた小銃を見つける。狂った船長へ向けた独白。エイハブの寝言を聞いて、小銃を片づけて甲板に戻る。

第124章「羅針」 ・・・ 東南東に進んでいるはずが夜明けの太陽を背にしている。前日の荒しで羅針が壊れていた。エイハブは羅針の代わりに、帆布の縫い針を使う。(航海士の権威が無くなり、船長の独裁になる象徴)

第125章「紐つき測程標」 ・・・ 古い測程標を投げ込むと綱が切れる。老水夫「世界の心棒が抜けたようじゃ」。エイハブ、狂気の道化になったピップを船長室に迎える。(四文儀、羅針、測程標などが壊され、エイハブ手製のものに置き換えられる)

第126章「救命浮標」 ・・・ 深夜に岩礁近くを通った時、子供の鳴き声のようなものが聞こえる。翌日、前檣頭に登った水夫が海に落ち、救命ブイが投げられるが、ブイごと流される。クィークェグ、棺を救命ブイにしようと申し出る。大工は棺の周りに30個の命綱をつける。

第127章「甲板」 ・・・ エイハブ、ブイをつくる大工を褒める。

第128章「ピークォド号、レーチェル号に会う」 ・・・ レーチェル号が前日白鯨を見たという知らせをもたらす。船長の倅二人が海上で行方不明になったので捜索を願いたいと申し出るも、エイハブは断固として断る。(ここから場所の記述が無くなる)

第129章「船室にて」 ・・・ エイハブは自分にまとわるピップを拒み、船長の椅子に座れと命じる。ピップの独白。

第130章「帽子」 ・・・ レーチェル号と別れて3,4日たち、白鯨は見つからない。エイハブは彼に唯一反抗したスターバックを甲板の見張りにして、檣頭に上る。黒鷹が来てエイハブの帽子を奪い、遥か海上に捨てる。すでに船の全員が寡黙になり、エイハブに従う。エイハブは唯一フェダラーを恐れる。

第131章「ピークォド号、「歓喜(デライト)」号に会う」 ・・・ 白鯨と闘って破損した歓喜号とであう。死んだ水夫の葬礼が行われようとし。ピークォド号は急いで離れる。しかし、死体が水没する音が聞こえる。

第132章「交響」 ・・・ 赤道付近の海の朝。穏やかな水面、さわやかな風。追憶と幻想の内にエイハブはむせび泣き、涙を一滴太平洋に落とす。スターバックが帰還を懇願するが、狂気のエイハブは聞き入れない。

第133章「追撃−第一日」 ・・・ 朝、エイハブが白鯨を発見。妖しい静謐なモービー・ディック。エイハブはボートを出す。白鯨深く潜って、ボートの底から垂直に上がって襲う。エイハブのボートは砕かれる。破損したボートを前に、スターバックがいさめる。エイハブ聞かず。「スターバックは裏返したスタブ、スタブは裏返したスターバック。おのれら二人は全人類の代表。ところがエイハブは一人で地上に立っている」

第134章「追撃−第二日」 ・・・ 昼、白鯨は挑発行為で大きくジャンプ。正対してボートに襲い掛かる。鯨索がもつれ、その中を白鯨が襲い、ボートは砕ける。その際にフェダラーがいなくなる。エイハブの義足が折れる。本船が生き残りを収容。

第135章「追撃−第三日」 ・・・ 夕方、白鯨を発見。エイハブのボートは鮫に囲まれる。白鯨の体にまとわりついた幾多の鯨索にフェダラーの死体がある。白鯨はボートを壊し、本船に体当たりする。エイハブ、銛を投げるも、鯨索が首に絡まり、姿が消える。沈む本船(フェダラーの予言が実現する)。タシュテゴの槌でエイハブの旗ごと鷹が巻き込まれ、悲鳴をあげながら沈む。すべてを飲み込む大渦。

エピローグ ・・・ ボートから投げ出されたイシュマエルはクィークェグの棺、いまは救命ブイにしがみつき、2日後レーチェル号に助けられる。

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Moby Dick 1956 Action Scene
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