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odd_hatchの読書ノート

2017-05-26

宮島喬「ヨーロッパ市民の誕生」(岩波新書)

 クシシトフ・ポミアン「ヨーロッパとは何か」(平凡社ライブラリ)の記述は1970年代で終了。本書(2004年初出)の主題は、前掲書の記述が終わった後のヨーロッパを、とくにシティズンシップからみようというもの。

 シティズンシップの考えの背景にはロック「市民政府論」からの民主主義自由などに関する膨大な議論が詰まっていて、それも勉強するべき。大学の政治学の教科書を読むのがよいだろう。自分は知識が不足しているので、以下は勉強用のメモ。


なぜシティズンシップなのか ・・・ シティズンシップ市民権公民権などと訳されるが、それだけでは不十分な多義的な概念。国籍であり、言語に結び付いた諸権利であり、諸共同体個人がかかわる行為やアイデンティティなどである。共同体社会において、個人がフルメンバーと自認する/認められる、諸権利を正当に行使する、諸義務を遂行するなどで形成される。アメリカでは移民の受け入れという歴史、草の根民主主義の伝統などで「アメリカ市民」になるという考えがあって「外国人」概念は希薄(911以後はそうでもないと思う)。一方ヨーロッパは1930-45年の体験で戦勝・敗戦国とも徹底的な民主化が必要であり、国民国家の半生や相対化が行われた。国民国家概念は、マイノリティの存在、旧植民地出身者・契約型労働者難民の受け入れなどで常に問われ、シティズンシップもこれら国民国家の「外部」によって問われ、変容している。

アメリカヨーロッパ民主主義は、思想や方法が異なるというのは、1980年代にバイオエシックスの本を読んでいた時に知ったこと。その内実は当時はわからなかったが、これで輪郭がつかめた感じ。)

再生するネーション ・・・ 国民国家ネーションステート)は言語・文化の統一を目指していたので、少数言語や文化は排除された。それがEC、EUなどができることで、国家が相対化され、地方自治権が拡大し、分離独立よりも言語や文化の尊重を目指す運動になっている。

(ここも日本ではわかりにくいところ。ネーションはエスニシティであると思われるし、民族の尊重は分離独立とされる。)

言語、アイデンティティシティズンシップ ・・・ 非国家語を公用語とするカタラーニャ語の例。アイデンティティと言語使用の差異、年代による差異、他地域出身者・移民たちとの差異など。

新しい移民大国ヨーロッパ ・・・ 世界屈指の移民割合の多いヨーロッパ人種差別撤廃からシティズンシップの実現へと運動が拡大(主には自国民による運動)。多文化容認アプローチ(種々の支援策込)。デニズン(永住者的地位、居住、就業の自由があるが、選挙権のみ欠いている外国籍の市民:例はこの国の在日コリアン)という概念。デニズン化する移民が増えている。アイデンティティにかかわる自発的理由と差別他へのあきらめの消極的理由。2000年以降は移民難民制限に移りつつある。

どのようにシティズンシップを保障するか ・・・ とくに外国人参政権について。70年代からEC各国で実施。違憲とされた場合は外国人会議(議決権のみなし)を制定するなどの動きも。外国人参政権付与によって政治家レイシズムを許さない雰囲気がつくられる。外国人の能力の向上エンパワメントが必要。議員NGO、第二世代移民などが参加(同化政策と見られないように注意が必要)。

EUシティズンシップの理想と現実 ・・・ EU設立後に、ユーロピアン・アイデンティティができ、人・地域によっては国民国家アイデンティティより強い。障壁になるのは、国ごとの国籍要件の違い。EUニゾンには帰化しない選択をする。

移民とローカル・シティズンシップ ・・・ 一方、移民や第二世代以降はEUや国家へのアイデンティティを持つモチベーションは低い。就職、言語、その他の差別や格差による疎外感などのため。むしろ集住する地域や共同体へのアイデンティティになりやすい。そこで彼らの帰属や社会参加の意欲を持たせる取り組みも行われている。帰化の手続きが面倒であったり、出身国の国籍を抜くことが帰化の条件(ドイツ)になっているのが理由のひとつ。

家族、ジェンダー、平等 ・・・ 人種、民族以外のシティズンシップとして、LGBT事実婚、ひとり親家族などの家族にかかわるものがある。ジェンダーにかかわるものとして女性議員の増加を促す運動もある。シティズンシップは平等性(斉一性)をもとめるが、多様性や公正を実現するものでもある。

逆風とチャレンジ ・・・ 2000年以降の傾向は、愛国ナショナリズムの台頭、ヘイトスピーチヘイトクライムの発生、移民難民排斥の表面化、移民の市民化が進まないことへのいらだちなど。シティズンシップに制限を加えるバックラッシュが起きている。

エピローグ ・・・ ヨーロッパ第二次大戦のあと国民国家に対する問い直しを続けてきて、分権化、文化的多元化、超国家コミュニティの創出などを通じて、統合を模索している。一方、それに対するバックラッシュも進行している(2004年現在)。では、翻ってこの国ではどうか。ナショナルマイノリティの存在を認めず、分権化・文化的多元性も進まず、東アジア地域の統合のてがかりもつかめない。日本人イメージが狭く、血統(生物学的イメージ)を重要にすることから、国籍変更も進まない。

(ほかにも多数の問題があるが、ここでは割愛。2004年に指摘された日本の問題は10年たっても改善されない。帰化難民認定、入管、外国人参政権他国出身者へのエンパワメントヘイトスピーチ規制など。この本では2002年のワールドカップ日韓共催(および同時期の韓流ブーム)で日韓の親善が高まると期待されたが、実際はここから愛国ナショナリズム排外主義の主張が広がった。 安田浩一「ネットと愛国」(講談社)など)


 ヨーロッパ19世紀までは移民を出す側だった。20世紀になって移民を受け入れる側になる。一方、第二次大戦マイノリティへの攻撃や虐殺を行った。その反省からシティズンシップの拡大とエンパワメントが行われた。1980年代から進行したが、90年代からの経済停滞と無差別テロの発生で、バックラッシュが起きている。この本がでた2004年時点では、著者の見通しは明るかったが、十数年たった2017年からみると事態は厳しい。イギリス国民投票EU脱退を決めたり(2016年)、ギリシャほかの債務超過国にたいする支援の不満が高まったり、フランス大統領選極右政党の候補が決選投票まで残ったり(2017年)、中東難民に対するヘイトクライムが起きたり、特に東欧諸国で難民に対する壁をつくったり(2016年)、統合と人権尊重の施策が攻撃されている。

 シティズンシップは6つの要素を持つ。1.平等な成員資格、2.意思決定への参加の保障、3.社会的保護と福祉の保障、4.共同体への公認の帰属、5.義務の履行、6.共同体の正統性の観念の共有。さらに個人は複数の集団に所属するので、シティズンシップは多元的、複数的になりうる。ヨーロッパではEU(超国家統合体)の、国民国家の、地域共同体へのシティズンシップ個人にある。日本やアメリカではこの感じはわかりにくく、上にあるような少数者や「外国人」の存在で問われ、重要さが確認される。差別移民難民、民族・人種、ジェンダーなどのマイノリティの問題はシティズンシップという共通性を持つのだろう。自分はなぜ反差別のひとが、移民LGBTなどの問題にも関心を向けるのかわからない時期があったが、ここを読んで氷解。

 シティズンシップは複層的、多元的であるが、実際の施策は平等性、斉一性を求めることが多い。そこが同化主義ともみられかねないわけで(この本では移民他国出身の定住者への言語文化教育がそうみられないように注意していることが言及される)、ここには平等といっしょに公正の概念も入れる必要があるだろう。

ヨーロッパ市民の誕生―開かれたシティズンシップへ (岩波新書)

ヨーロッパ市民の誕生―開かれたシティズンシップへ (岩波新書)

参考エントリー

2016/07/7 アマルティア・セン「人間の安全保障」(集英社新書) 2006年