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odd_hatchの読書ノート このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2017-11-09

筒井康隆「全集13」(新潮社)-1972年の短編「万延元年のラグビー」「俺に関する噂」「デマ」他

 1972年の短編。

万延元年のラグビー 1971.12 ・・・ 桜田門外の変井伊直弼が暗殺された。どうやら井伊家が牛肉の輸入を禁止したので恨みを買ったらしい(笑)。が、首が行方不明になり、井伊家は葬儀を出せないので困る。急遽、忍者チームにラグビーを教え、首奪還作戦を開始する。「ずべらぼ」「ふぐむが」「どべらっ」「と、わ」の擬音、発声が見事。参考「ジャズ大名」。大江健三郎「万延元年のフットボール」のタイトルにインスパイアされたとみえる。桜田門外の変のシリアス版は岡本喜八「侍」をみよう。

侍[東宝DVD名作セレクション]

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騒春 1972.01 ・・・ 敗戦あとの中学生の青春。まったく今日的でないので、レビューなし。

注釈の多い年譜 1972.02 ・・・ 蛹山一族の短い生涯。年譜はそのときの現在だけで、注釈で、「後世の歴史家銀河英雄伝説」による歴史的遠近法で編集された過去が書かれる。その間の齟齬の面白さ。参考「レオナルド・ダ・ヴィンチの半狂乱の生涯」、バラード「索引」

ヤマザキ 1972.04 ・・・ 本能寺の変から山崎の合戦までを秀吉視点で書く。史実に忠実であろうとしているうちに、新幹線やタクシーで移動するしまつになり。秀吉「『説明』をもとめておるのじゃろ。だが、あいにく『説明』はないのじゃ」。参考「きつねのお浜」

空飛ぶ表具屋 1972.05 ・・・ 鳥人幸吉の飛行機実験一代記。感動作になりそうなのが、平賀源内青木昆陽・前田良沢など当時の知名人、文化人が反権威を標榜する権威主義者で、無責任に騒ぎを大きくする連中で、幸吉は唆されて飛び、事故を起こしたとされるところ。当時、飛行機事故が続発していたからなあ。参考、真崎守「ホモ・ウォラント」1971

乗越駅の刑罰 1972.07 ・・・ 故郷に帰る駅で、無賃乗車だったのがわかった。料金を払おうとすると、駅員はそれを頑強に断り、なぜ無賃乗車したかを執拗に尋ねる。かつてはエスカレートする理不尽に笑えたものだが、もういけない。ヘイトスピーチは駅員のような理不尽をマイノリティに押し付けていて、論理がそっくりだから。イラストレーター和田誠の監督作品「怖がる人々」第3話で実写化。

俺に関する噂 1972.08 ・・・ 会社員の「おれ」が突然ニュースになった。日常茶飯事が報道されて大いに迷惑になる。報道されてから報道価値が決まるなんていうマスコミの駄弁批判があるのだろうが、このあと1980年代に、同じことをある刑事事件の容疑者にやっているのだ。

ホルモン 1972.09 ・・・ ホルモンの発見と普及の様子を新聞、雑誌記事の引用で描く。少しの事実と大部分の創作。まあ昨今のニセ科学みたいなできごとがホルモンにあったわけですな。「ビタミン」も併せて読もう。

村井長庵 1972.06,09 ・・・ 歌舞伎演目「勧善懲悪覗機関(かんぜんちょうあくのぞきからくり)」の主人公で極悪医者、村井長庵のエピソード江戸にいられなくなった長庵、五島列島からさらに離れた鼻島で極悪の限りを尽くす。非道の極みである(読んでいて胸糞がわるくなるほど)のに、ページを繰るのが止められないのは、暴力や不正の権化である長庵がトリックスターとして、世の汚わいや悪を一身に背負って破滅するところか。参考「ジーザス・クライスト・トリックスター」。こういう極悪人の一生を描いたとされる「人がみな狼だった時」を長編にすると「本の森の狩人」に書いていたと記憶するが、今のところ見当たらない。

デマ 1973.02 ・・・ 連合政府太陽系植民地との戦争のきっかけになったデマの流布を検証した。面白いのは、通常のかき方ではなくフローチャートになっているところ。参考「上下左右」。なお、21世紀のデマの流布はこのチャート通りにならないことがある。少人数の扇動者が同じ内容を繰り返し発信することで周囲を巻き込んでいく方が多いらしい。


 昭和40年代なかばの作品。作品の背景になる社会の規範とかモラルとかルールとか、いろいろ変わって、21世紀にはどうにも読めない作品もちらほら。強姦、、レイプした男が罰せられず、反省もしない小説を読むのはつらいわ。

 エントリータイトルに載せた3篇がお気に入りで、今でも面白い。


 以下はジュブナイル

三丁目が戦争です 1971.04 ・・・ 団地の子供と住宅の子供の喧嘩がエスカレートして、戦争になる。ウーマンリブ揶揄したような前半が今読むにはちょっと。

ミラーマンの時間 1973.08-12 ・・・ 顔に黒あざがある高校生。自意識過剰であるがコミュニケーションは苦手。あるとき鏡に半身が溶けて、痣のない体になり、宙に浮かべるようになった。おれはスーパーマンになれたと喜んだが、スーパーエゴが強すぎて社会正義を実現できない。一方、痣をふたつもつパンダマンが現れ、こちらはイドの怪物になって暴力をふるいだす。事件は高校生の日常、半径30m以内のもの。ミラーマンは同時期の円谷プロ制作の同名番組から。ヒーローであることを悩むのは「スパイダーマン」あたりの影響か。

ジャングルめがね 1977.12 ・・・ 幼稚園にかようしんすけくんは、ジャングルめがねをかけて、他人が動物にみえるようになった。わるいおとこがよっちゃんを連れ去ろうとするのを見つける。

 ジュブナイルでティーンエイジャーや幼児を対象にしても、後味の悪い作品を書くというのは、作者の姿勢の表れとみた。意地の悪いおじさんを演じているのだろう。でもすまん、ジュブナイルであれば辻真先眉村卓都筑道夫の方が面白かった。

筒井康隆全集〈9〉ビタミン.日本列島七曲り

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おれに関する噂 (新潮文庫)

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三丁目が戦争です (講談社青い鳥文庫)

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