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2014-05-23

小栗虫太郎「完全犯罪」(春陽文庫)

 小栗の初期短編を収録したもの。1901年生まれで、若いころから秀才。19歳で結婚。21歳で亡父の遺産で印刷所を開業するものの4年で倒産。以後は働かずに小説を書き、ずっと売れないまま。一家は転々と放浪し、最初に売れたのが「完全犯罪」。結核で倒れた横溝正史の代わりに、小栗が投稿しておいた原稿を編集長の水谷準が取り上げたのだった(この原稿も甲賀三郎江戸川乱歩を移動したうえで「新青年」に持ち込まれた)。このとき小栗32歳。

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完全犯罪 昭8.7 ・・・ 苗(みゃお)族共産党に配属されたソ連共産党秘密警察のザロフ。ここに配属される前に「東洋語に専念した平和な三年を上海で送った」とされるが、1925年に上海で5.30事件(上海騒乱)が起きていたり(横光利一「上海」参照)、1928年第6回コミンテルン大会で中国への方針が変わったのを思い起こせば、彼の使命もおのずと明らかに。この設定だけでこの小説の異様さがわかる。なにしろ当時は湖南や江西省共産党国民党の覇権争いがあり、日本もまだ満州から中国南部への電撃戦は開始していないころ。まず日本人の行けない雲南省を舞台にしているというのがすごい(のちの「人外魔境」シリーズを想起すること)。そのうえで、中国共産党誕生ころから急速に英米人は中国から撤退したのだが、そこに一人残る中年婦人(しかも処女!)がいて、巡業サーカス団には東欧の孤児兼娼婦が登場するという次第。なるほど、こういう状況が当時はアクチュアルであったのだ。いまではこんな設定をした瞬間に、ファンタジー扱いになるだろう。密室で孤児兼娼婦が毒殺され、隣室で麻雀をしていた連中は男の野太い声を聞く。扉からも窓からも出入りができない。そして意外な動機(当時ならリアリティがあったのだ!)。自分は、新鋭・小栗がポー「モルグ街の殺人」にたたきつけた挑戦状とみた。それほどに設定が似ていて、しかし、まったくポー的ではない。このような設定や人物の新しさに加え、徹底的に翻訳口調の文体もまた当時には斬新であった、と付け加える。

 エドガー・スノー中国の赤い星」(ちくま学芸文庫)、アグネス・スメドレー「偉大なる道」(岩波文庫)で当時の中国の情報を得られる。

2018/04/06 エドガー・スノー「中国の赤い星 上」(ちくま学芸文庫) 1937年

2018/04/09 エドガー・スノー「中国の赤い星 下」(ちくま学芸文庫) 1937年

2018/04/10 アグネス・スメドレー「偉大なる道 上」(岩波文庫) 1953年

2018/04/12 アグネス・スメドレー「偉大なる道 下」(岩波文庫) 1953年


2014/05/16 小栗虫太郎「白蟻」(現代教養文庫) に感想の補足があるので、あわせてみてください。


W・B会綺譚  昭9.6 ・・・ 噺家がパトロンの紹介で西洋館(これが荒俣宏「目玉と脳の冒険」筑摩書房あたりで紹介される徳川伯爵の別荘を彷彿させる)の管理人になる。一室を除いて自由に使えるというものの、深夜その部屋から奇怪な物音が。幽霊譚が暗号譚に変わり、奇妙な結末に。「越川秋浪」「武侠会館」「斗南土留(トナン・ドル)」など遊びも充実。これは小栗の講談文体模写を楽しむに限る。

夢殿殺人事件 昭9.1 ・・・ 仏教系の新興宗教施設で死体が発見される。夢殿の密室の中で、両足義足の修行僧が血液を失って仁王立ちで死んでいる。死体には梵字と同じ刺し傷が残る。同じ夢殿の二階では尼僧が絞殺。付近には鳥の足跡が残り、どうやら孔雀法王が絵図から抜け出してこの事件を起こしたと見える。今回の自分の読みでは一体何が起きたのか、いったい何人の尼僧がいるのか、いったい法水は何を問題にしているのか、さっぱりわからなかった。まあいいや、とにかく建築物が事件を起こし、法水は事件を錯綜させるのが目的であるのがわかった。

コント(A) ・・・ 当時流行していたヴァン・ダインと心霊術をコケにする小品。

聖アレキセイ寺院 昭8.11 ・・・ 今度はロシア正教の礼拝堂が舞台だ(1891年に竣工した神田ニコライ堂は名所になっていた)。亡命白露人親子が管理する礼拝堂で、堂守で高利貸しのラザレフが死亡する。死亡時刻にはなぜか大きな鐘が鳴る(構造上、小さい鐘が先になるべきところ聞こえなかった)。この守銭奴には娘姉妹がいて、姉は禁欲的な戒律の一派に所属し、妹はまあ普通のお嬢さん。守銭奴の死んだ日の前には守銭奴は姉に結婚を強いようとしていた。例によって、なぜ法水が死体の異様さにこだわるのか分からないし、一種の遠隔殺人の手法もよく分からないし、変態心理の理由もよくわからない。書かれた時代と、容疑者は亡命ロシア人のみという奇妙さに酔いしれよう。あと、この事件が終わったところから「黒死館殺人事件」が始まるので、続けて読むのがよろし。

コント(B) ・・・ 明治終わりのころ。人力車が迷路に紛れ込んで性も根もつきたとき、太った客は窒息死。そこにまかり出でたるは名刑事落葉拳三郎。涙香のパロディとみるもよし、講談の名調子とみるもよし。

後光殺人事件 昭8.10 ・・・ さて法水が挑むのは仏教寺内の枯山水風の庭の中。不審な足跡が見当たらない中、修行僧が絶命している。いわゆる盆の窪に、鉄心が打ち込まれていたらしい。さて、この修行僧は新しい奥さんを迎えたものの、まだ三角関係が清算されていないなど家族の状況が妖しい。それになぜか寺には画学生も住んでいるし。問題は殺された夜に、仏像に後光がさしているのが見えたという複数の証言があること。庭にほとりには被害者以外に喫煙者はいないのに、すいさしの煙草が見つかっている。1990年以降に、寺や僧院が舞台になった日本産ミステリが書かれているが、これはその嚆矢となるもの(かしら)。例によって、どういう人物がいて、どういう証拠物件があがったのか、よくわからない。

寿命帳 昭8.11 ・・・ タイトルを現代風にすると「デスノート」。広津という将来を嘱望された理学士があろうことか角倉財閥の婿になる。実は、広津は親の敵をとるために、角倉一族抹殺をたくらんでいたのだった。殺害予定者は6人。本来はこの復讐が完結するまでを書くはずであった(もちろん最後の一人を追い詰めたところで失敗するのだろうが。ぜひともそれは日本海に面した断崖絶壁の上であって欲しいものだ)。あいにく最初の被害者を出し、法廷闘争の場面で終了。自分の妄想では、著者が晩年に構想した「社会派探偵小説」はこういうものになるはずだったのでは、と。あてずっぽうだけど。

失楽園殺人事件 昭9.3 ・・・ 中島河太郎編「日本ミステリベスト集成1戦前編」(徳間文庫)に書いたので省略。


 このころの小栗の試みというのは、

1.「本格」探偵小説 ・・・ 「」付なのは、本人もいっているように、普通の探偵小説とはずれているから。この短編集に収録された法水ものは「黒死館殺人事件」で再び物語られるので、注意しておこう。死体が後光/燐光に覆われるとか、鐘突きの部屋で事件が起きるとか、失血した死体が暗室の中で見つかるとか。

2.伝奇小説 ・・・ 冒険やスリルが主題になるもの。

3.講談調コント ・・・ 戯作趣味みたいなもので、語り口の面白さに注力

あたりになるのだろう。1の「本格」探偵小説「黒死館殺人事件」で頂点とデッドエンドの両方を極め、次に進めなくなってしまった。伝奇風なストーリーと疑似科学の混淆が「二十世紀鉄仮面」「人外魔境」などに向かったといえるし、「源内焼六術和尚」「倶利伽羅信号」のような戯作ものちに書かれる。その点では、この短編集は彼の可能性の知るのに便利。そのかわり、戦争中の協力小説と批判小説が読みにくい状況になっている。あまり表に出したくない話なのだろうが。

 あとは法水シリーズの感想。

・犯罪の原因は人の妄執にあるのではなく、建物・館そのものにあるのではないか、と。どうも館が「犯人」になれる人物を見つけると彼の意識を「変態」心理化させ、まるで現実的ではない方法で人を殺害させるとみえる。法水の推理も人物よりも建物の変態意識を分析しているような。東雅夫編「ゴシック名訳集成」(学研M文庫)の「竜動鬼談」を参考。

・法水の論理の基礎になるのは、当時の骨相学に人類遺伝学に変態心理学に錯視・錯覚の心理学など。それに悪魔学と文献学が加わる。今となっては、どれも疑似科学とされるもの。今の読者には科学的な前提が誤っているのがわかる分、奇妙な、不思議な、不可解な、トンデモない小説と思うことになる。

・法水のわけのわからない議論を外すと、事件の描写は意外なほど常識的。「寿命帳」の法廷や警察内部の描写は非常に具体的。「黒死館」は意図的にその種の描写をなくしている。

・にもかかわらず読み進めることになるのはいったいなぜか。いったいなにに自分は魅了されているのか、よくわからない。文章の背後にある作者の意気込み、熱意などに打たれるのかしら。

完全犯罪―他8編 (春陽文庫)

完全犯罪―他8編 (春陽文庫)

2014-05-22

小栗虫太郎「黒死館殺人事件」(現代教養文庫) 黒死館殺人事件1

 1934年の雑誌「新青年」に連載された小栗虫太郎の畢生の大作。多くの人が混乱し、困惑した作品。これで4度目の読み直し。章ごとにメモを取って、細部を忘れないようにして読むことにした。これが正しい読み方かどうかは置いておくとして、行ってみようかGO。

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 まず、登場人物を把握しておこう。ほかにも警官、私服、使用人も登場するが、顔と名を持たないので不要。

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序篇 降矢木一族釈義 ・・・ ボスフォラス(トルコイスタンブールにある海峡のこと)以東には唯一というケルトルネサンス様式(ルネサンス建築イタリアに限定されるというのが一般的な見解で、ケルト地方まで波及したものではない)の洋館「降矢木」邸、通称「黒死館」が紹介される。おそろしく圧縮された中にたくさんの情報が書かれていて、

・降矢木家は、16世紀イタリアのカテリナ・ド・メディチの末裔ビアンカ・カペルロと天正遣欧少年使節千々石ミゲルが密通してできた子供が始祖であるとされる。嬰児が天正遣欧使節とともに本邦に送られて、降矢木を名乗る。千々石ミゲル松田毅一「天正遣欧使節」(講談社学術文庫)でみると、そういう可能性はないのだけどね。

・前主・算哲はドイツ留学中にウイチグス呪法典ほかの魔術書、呪法書を収集。呪術を実践できるまでの修行を実行。

・犯罪素因遺伝説を唱え1年間にわたり八木沢博士と論争中、突然沈黙。

ウェールズ人ディグスビイ設計で「黒死館」を作ることにしたが、途中ですべて破棄し、自分の設計で再建築。算哲は一度も黒死館に住まなかったが、そこでは3人の不審死が起きている。

・事件の10か月前に算哲は自殺している。これにより当主不在になったので、姪の津多子を当主にする。旗太郎は妾・岩間富枝の息子。

・黒死館には門外不出の弦楽四重奏団イタリア、東欧、ロシア生まれの4人)がいて、40年間、黒死館から外出したことがない。

・最初の事件は第一提琴奏者のグレーネ・ダンネベルク夫人の死である。

以上の情報が事件の謎を解く鍵であるかはわからない。

第一篇 死体と二つの扉を繞って

栄光の奇蹟 ・・・  ・・・ 1月28日。黒死館に到着。外観と内装の説明。重要なのは、十二宮ステンドグラス、おびただしい西洋甲冑。「腑分図」「ペスト死」などの陰惨な絵画の複製。階段踊り場の二つの甲冑(手にする旗が入れ替えられていて、弥撒と英町が虐殺と読める)。ユダヤ人の風貌をもつダンネベルク夫人は青酸による毒殺だが、死体から光が輝いて全身を包み、こめかみにはフィレンチェ市の紋章と同じ傷がついている。

テレーズ吾を殺せり ・・・ ダンネベルク夫人の毒殺の様子。前日の夜9時に夜食で自室に持ち込んだオレンジを食べたらしい。そこに青酸が仕込んであった。夫人は梨が好きで、皿には梨もあった。自筆で人形のテレーズが犯人であるとメモ。人形室を捜査しようとすると鍵がない。なかには人身大の人形があり、部屋の鍵は内部から締められていた(小栗は「メトロポリス」「プラハの大学生」「巨人ゴーレム」などの自動人形ロボットなどが登場する映画を見たのかなあ)。鍵穴に水を注ぐと中の毛髪が収縮して扉を開ける仕掛けがあるのを発見する。法水は召使は喧噪のために聞こえないはずの音響を聞いていると謎めかす。

屍光故なくしては ・・・ 図書係・久我鎮子(50歳くらい)の訊問。前日に神意審問なる魔術をほかの居住者と一緒に実行。絞死体の手のミイラに絞死体の脂で作った蝋燭を点し、光がさした人が次に殺されるというもの。光はダンネベルク夫人を指し、夫人は「算哲」と叫んで卒倒。その部屋は算哲の自殺した部屋(上と矛盾しているが気にしない、気にしない)。久我が出したのは算哲の遺書のようなもので、居住者6人がそれぞれ異なった方法で殺されるべしと図解入りで書いてある。テレーズが死者を黄泉路に送る船(エジプト神話から)であるとされる。

第二篇 ファウストの呪文

Undinus sich winden (水精よ蜿(うね)くれ) ・・・ 引き続き久我の訊問。ここで久我は夫人の部屋で見つけたメモを提示。書かれていたのは章のタイトルと同じドイツ語。これはゲーテファウスト」のものであるが、久我は知らないといいはる。アインシュタイン、ド・ジッター、ヒルベルトなどの数学者物理学者の名前。死体は消滅しても宇宙を一周した光が過去の映像を映すという法水の説。若い神谷伸子もハープを弾くという情報。久我が退場した後、車椅子にのった執事・田郷真斉登場。彼は史学者であり、下半身は不随で電動車椅子に乗っている。

鐘鳴器(カリルロン)の讃詠歌(アンセム)で…… ・・・ 算哲の死去した部屋で、法水は事件は内惑星軌道の原理で起きたと説明する。カーペットのたるみを電動車椅子の動力でいっきにうごかして、算哲のバランスを崩して、云々。もちろんはったりである。結局、真斉は算哲死去に関する新情報(テレーズが覆いかぶさっていた)ことを告白する。当日はディグスビイの命日で神秘四重奏団の演奏が聞こえる。続けてカリルロンでオルランド・ディ・ラッススのアンセムが演奏される。最後の音が鳴らなかったことに気付いて、易介が死んでいると法水はつぶやく。

易介は挾まれて殺さるべし ・・・ 具足室に向かうと一つの具足に易介が入って死んでいるのが発見される。易介はこびとで傴僂の佝僂病者。首を切られているが、それは死後につけられたもの。ここで、法水の易介殺害の仮説が語られるが、ある召使の証言で瓦解。鐘楼に上ると、カリルロンを演奏していた神谷伸子が鎧通しをもち、のけぞって失神している。扉には「風神(ジルフス)よ、消え失せよ」と書いてあり、法水、支倉、熊城は慄然とする。

第三篇 黒死館精神病理学

風精……異名は? ・・・ 伸子の失神した体形と椅子のねじの向きが一致しないのはおかしい(椅子のねじは全部回されていてそれは右まわしなのに、伸子の回転方向は左まわし)。カリルロンの倍音の謎をとくために、法水が持ち出したのは、西洋中世錬金術師の詩篇に、洋楽器の共鳴現象に、幽霊の楽器演奏など。易介死亡時のアリバイ調べの結果、伸子を除いた全員がそれぞれを見ているかいっしょにいたことがわかる。

死霊集会の所在 ・・・ 「易介は挾まれて殺さるべし」の章で、私服の一人が持ってきた見取図の中に写真乾板の破片を発見(1930年代にはフィルムが一般的に使われているので、乾板は相当に古い)。図書室にいき神秘四重奏団の演奏していた鎮魂曲の作曲者を調べるとなんとディグスビイ。所有する医学書、犯罪書、神秘思想書、魔術書などの羅列。何冊かの本を借り出す(タイトルに注目。「真相」に肉薄する内容)。裏庭に出ると複数の足跡が残っている。算哲の埋葬されたカタファルコ(棺龕のルビだが、いずれも小栗以外の使用例が見当たらない)を見に行く。キリスト教異端のシンボルのたくさんついた不可思議な形。雪が降り、次第に強くなる(ここの光景は著者之序によると、モーツァルトの葬式を模しているとのこと)。法水は初期キリスト教サンスクリットの薀蓄を語る。

莫迦ミュンスターベルヒ! ・・・ 執事・田郷を尋問。神秘四重奏団が集められ館から出ない理由と算哲の遺言を説明する。すなわち帰化後降矢木家の養子になり、財産相続の権利を得ている。ここでポープシェイクスピアハムレット)、ミルトンなどの引用合戦。旗太郎が呼ばれる。ストラビンスキーの「ペトルーシュカ」(命を吹き込まれた人形が人を恋して、ライバルに惨殺される話。まあ、テレーズや自分自身のメタファーだな。1923年グーセンスが初録音。1928年に作曲者が録音、これ、後者をLPでもってる、カットと別バージョンフィナーレで30分に満たない)を口笛で吹くわ、父をメフィストフェレスとヴォータンに例えるわと17歳にしては早熟。家の陰鬱、孤独を訴え、算哲の遺志に逆らい難いことを述べる。遺言は他言できず、父が生きている可能性を示唆した。神秘四重奏団の3人、クリヴォフセレナ、レヴェズが来て、テレーズを焼くように法水に要請する。クリヴォフ夫人が前夜に何者かが寝室に侵入したと証言し、その姿かたちが旗太郎に似ていた。ミュンスターベルヒは19世紀末から20世紀初頭にかけての犯罪学者。乱歩の作品にも名前が見える。プロジェクト・グーテンベルクでも復刻されていないみたい。

ヒューゴー・ミュンスターバーグ - Wikipedia


2014/05/21 小栗虫太郎「黒死館殺人事件」(ハヤカワポケットミステリ) 黒死館殺人事件2

2014/05/20 小栗虫太郎「日本探偵小説全集 6」(創元推理文庫) 黒死館殺人事件3

2014/05/19 小栗虫太郎「黒死館殺人事件」(河出文庫) 黒死館殺人事件4 に続く。



 最初のキーワードは圧縮。乱歩の序にあるように、豊富な素材が惜しげもなく投入されている。のと同時に、記述も圧縮。たいていの作家であれば、400字から800字くらいかけて詳述することがらをわずか一行で済ませてしまう。

自分の知っているところに即して言えば、「ラッサスのアンセム」という一句があって、これにはまずオルランド・ディ・ラッスス(ラッソー)という16世紀イタリア作曲家がいて、彼の作品がおもにミサにマドリガルであり、いっぽうアンセムという形式の宗教曲がイギリス正教会にあり、たとえばパーセル、ギボンズ、バードというイギリス作曲家に作品があるというのが最低限の知識になる。そこを書かずにいきなり「ラッサスのアンセム」とあるので、読者は面食らう。まあ、アンセムという形式はイギリスのものなので、ラッススがアンセムを書いたとは思われない。

 それらしいのは「ダヴィデ懺悔詩篇曲集」。本文にも「ダビデの詩篇第九十一篇」とあるのだが、あいにくラッススの「ダヴィデ懺悔詩篇曲集」は詩篇91篇を使っていない。取り上げているのは6、31(32)、37(38)、50(51)、101(102),129(30)、そして142(143)篇の7曲。

ラッソ:ダヴィデの懺悔の詩篇(コレギウム・ヴォカーレ・ゲント/ヘレヴェッヘ) - HMC901831.32 - NML ナクソス・ミュージック・ライブラリー

 ラッススのミサ曲ではミサ「あなたがた娘のなかで」Missa Entre vous fillesが好き。

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 レクイエム弦楽四重奏のために作曲するのはディグスビイの生存期間中はありえないが、この編成に編曲するのはあった。

モーツァルトレクイエム(弦楽四重奏版) クイケンカルテット

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 カリルロンで検索しても小栗のこの作しか引っかからない。そうすると、カリヨン(カリロン:Carillon)で検索するとよい。メカニズムはだいたい小栗の記述のとおりみたい。CDを聞くとホモフォニーの編曲はあるが、アンセムのような多声音楽を演奏できないのではないかなあ。

 カリヨンの演奏風景は

Sarabande Haendel-Carillon Castelnaudary 35 cloches

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"Memorial Chimes" for the War Memorial Carillon Loughborough

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 カリヨンの構造がわかる動画。

Carillon 85th Anniversary - Mayo Clinic

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das Erfurter Carillon

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※ 後半で「チューブラー・ベルズ(エクソシストのテーマ)」を演奏


 ストラヴィンスキーペトルーシュカ」の戦前自作自演レコード(1980年代の復刻)。

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 それが中世神秘思想に異端思想、初期キリスト教に、中世ドイツの古文献に天正遣欧使節、19世紀の犯罪学に生理学に遺伝学、紋章学やら古代の時計に武具に甲冑にと、多種の薀蓄が注釈なしに書き連ねてあるとなると、これはもう読者の頭は痛くなる。まあ、今の目から見るといい加減というか間違いを自信をもって書いているところもあって、それもまた愛らしいとは思うのだが。あるいは作者の仕掛けた虚構が実在の書物や事物と混同されて、判別できなくなっていくような。

 ともあれ、圧縮が技法であり、一度書いたことは二度繰り返されることはなく、たとえば算哲と八木沢博士の論争など序章で書かれてから最終章まで一切触れられないという仕儀になる。なので、すくなくともここに書いたくらいのノートをとっておかないと言葉の迷宮にさまよいこんで、自分のいる場所がわからなくなる。

2014-05-21

小栗虫太郎「黒死館殺人事件」(ハヤカワポケットミステリ) 黒死館殺人事件2

2014/05/22 小栗虫太郎「黒死館殺人事件」(現代教養文庫) 黒死館殺人事件1 の続き

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第四篇 詩と甲冑と幻影造型

古代時計室へ ・・・ 乙骨耕案医師による伸子診察の報告。失神は故意か内発であり、目覚めた時に自分の名前を書かせたら「降矢木伸子」と書いた。法水は同様の状況で殺人犯の名を書いた事例を紹介する。再び田郷を尋問。算哲の墓を開けることを宣言する。ここでは館のいくつかの秘密が暴かれる。甲冑を移動した際に、なんかいろいろあって(よくわからん)、二つの絵(処女受胎と十字架)が重なり、マリアが十字架にかかっているのを錯視する。それに非常な影響を受けるのは女性であって(マリア信仰が云々)、しかも背が低くないと見えないから、夫人=津多子であると推理。な、なんだって!! 前の章の引用合戦は法水流の心理試験(江戸川乱歩の同名作を既読であることが暗黙の前提)であるという。な、なんだって!! まあ日常からドイツ語ラテン語で物事を考えられるという連中なのだ。これらの推理から法水は津多子がダンネベルク夫人より先に殺されているとして、古代時計室を開けることにする(この部屋の鍵の持ち主は算哲と田郷のみ)。

Salamander soll gluhen (火神よ燃え猛れ) ・・・ 津多子が毛布にくるま睡眠薬で眠らされて凍死寸前であるのを発見。収容の後、階段踊り場(3枚の絵と2体の甲冑がある)の明かりを順次消すと、背後の鋼鉄扉にテレーズの顔が浮かび上がった。点描法と照明のなせる技で、ディグスビイの仕掛けとみなす(彼の設計は破棄されたはずでは、う〜む)。ここで第1日終了。翌日は引きこもり、第3日に法水は易介の死因を発表。その後、速達で「サラマンダーよ、燃えたけれ」の手紙が届く。ちなみに、法水の書斎には1668年作の「倫敦大火之図」の銅版画がかかっている(別の短編で言及されている)。

第五篇 第三の惨劇

犯人の名は、リュッツェルン役の戦歿者中に ・・・ ここは力が入っている。法水の書斎で支倉、熊城と事件のまとめを行う。まず事件の骨格はゲーテファウスト」に模せられる。犯人と思しきメッセージに登場するサラマンダー、ジルフィーなどは「ファウスト」の主要なキャラクター。算哲はメフィストなどに類推できる。法水はダンネベルグ夫人毒殺事件はリュッツェルン役の戦歿者中にあるといいだす。すなわち、この戦闘の史書を紐解くと、ダンネベルグ、セリナ、レヴィズの三名が被害を受け、その犯人がクリヴォフであると書いてある。300年前の古文書に現在の殺人が予言されているというわけだ。伸子の失神はヒステリー症状で、カリルロンの鍵盤が譫妄状態を起こしたという仮説が提出される。館にある十二宮ステンドグラスに隠された暗号を解く。これが占星術にカバラー数秘術フリーメーソンの出てくるという豪華な布陣。そこにクリヴォフ負傷の報が届く。

宙に浮んで……殺さるべし ・・・ クリヴォフ夫人は2階武具室で読書中にフィンランダー式火術弩を撃たれる。矢は直撃しなかったものの、髪の毛を巻き込んで夫人をとばした。矢は桟に食い込み、頭髪が絡んで宙釣りになった。私服が部屋を警護しており、出入りは不可能。その直前に、驚愕噴水(ウォーター・サプライズ)が水煙を上げているが、微風すらないのに水の飛沫が武具室に届いている。セレナとレヴィズが津多子を尋問しろと要求する。クリヴォフ夫人負傷のアリバイを調べると、伸子のみない。

第六篇 算哲埋葬の夜

あの渡り鳥……二つに割れた虹 ・・・ ダンネベルグ夫人の寝室で失神から回復した伸子を尋問。23−4歳の目のクリクリしたフランドル派風の美人。カリルロンはレヴェズが弾くことになっているが、そのときは彼の命令で伸子が弾いた。とても力がいるので、2曲目で体力を使い果たし、3曲目には朦朧。そのとき屋根にコウモリとガを見つけた。「エテ公」「死を願う」とクリヴォフへの嫌悪を隠さない。クリヴォフが被害にあったとき、アリバイのなかったのは、本館左側の樹皮亭(ボルケン・ハウス)に閉じ込められていたため。事件のころ、武具室に透明な気体が中に入っていくのを目撃する。法水が同情的になると、歓喜と法悦(まあエクスタシーです)になり、踊りださんばかり。久我が来て、津多子を擁護。久我と伸子は算哲を「ハートの王」と呼ぶ。法水はそこからトランプの絵に連想を働かせ、算哲は心臓が右にある奇形ではないかと推理(自殺したとき、彼は左の胸を傷つけた)。な、なんだって!! 田郷によると、算哲は早期埋葬防止装置を墓に備えていた(ポオ「早すぎた埋葬」恐怖症)。埋葬の翌日、装置が作動していたが途中に障害があって連絡は届かなかったのを発見。

大階段の裏に…… ・・・ 午後5時30分。十二宮暗号にあった「大階段の裏(ビハインド・ステアズ)」を調査。千々石ミゲルの持ち帰ったクラヴィ・チェンバロ(発明されたのは18世紀初頭なので、時代があわない。まあ、ピアノのことなんでしょう)の音が聞こえる。開けるとそこには16世紀のホルバイン「死の舞踏」の稀覯本があるだけ。ディグスビイの自筆書き込みがあり、擬古文の要領を得ない文章。押鐘博士と旗太郎の歓談に割り込み遺言書作成の模様を聞く。前年3月12日に2通作成。直後に1通を破棄し、1年間開封厳禁とされた。無理に開けると、旗太郎と神秘四重奏団員に等分にわけるという平凡な内容。伸子の部屋に行き、ダンネベルグ夫人が伸子に悪罵を浴びせていたことを聞く。部屋をでた法水が振り返ると、レヴェズが監視していた。


 錯綜した議論が続くので、たぶんわけがわからなくなってくる。そこに読解の方法を見出すとすれば、ここで問題にされているのは2つの事件であるということ。ひとつは現在進行中のダンネベルグ夫人毒殺事件、易介窒息死事件、伸子失神事件、津多子拉致事件、クリヴォフ傷害と殺人事件、レヴェズ失踪と縊死事件。いずれも不可能状況というか死体が不可解な様相を呈しているわけ。ここらの摩訶不思議な状況に法水の饒舌と錯乱の論理が組み合わされる。そこに不具者や子供や淑女など探偵小説では犯人になりやすい典型的な人物も配置されている。これも作者の仕掛けたレッド・ヘリングなので、注意深くなること。

 もうひとつは、40年前の算哲・ディグスビイ・テレーズの三角関係と、算哲・八木沢博士の論争。これがどのような顛末になったのか、いずれも現在の事件のころには死亡しているわけだが、過去の出来事がいかに現在の人々を拘束し束縛されているかに注目。新維納心理学派としてフロイトの説が紹介・強調されているのだが、無意識が言語に反映される(抑圧している隠し事がことばのはしばしに現れる。言い間違えや夢など)。法水は心理試験としてそれを使うのであるが、すなわち現在の人々が過去にとらわれていることを明らかにしているのだ。ここに注目すること。

 2か所の暗号解読がある。本文を読んでもちんぷんかんぷんなので、「白蟻」(現代教養文庫)の長田順行の解説か同じ著者の「暗号」(現代教養文庫)を読むべし。

黒死館殺人事件 (ハヤカワ・ミステリ 240)

黒死館殺人事件 (ハヤカワ・ミステリ 240)


2014/05/20 小栗虫太郎「日本探偵小説全集 6」(創元推理文庫) 黒死館殺人事件3

2014/05/19 小栗虫太郎「黒死館殺人事件」(河出文庫) 黒死館殺人事件4

2014-05-20

小栗虫太郎「日本探偵小説全集 6」(創元推理文庫) 黒死館殺人事件3

2014/05/22 小栗虫太郎「黒死館殺人事件」(現代教養文庫) 黒死館殺人事件1

2014/05/21 小栗虫太郎「黒死館殺人事件」(ハヤカワポケットミステリ) 黒死館殺人事件2 の続き

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第七篇 法水は遂に逸せり!?

シャビエル上人の手が…… ・・・ レヴェズとの対話。レヴェズがダンネベルグ夫人と恋仲にあったこと、夫人死亡後は伸子に秋波を送っていたことを法水は暴露。クリヴォフ夫人が射られたとき、階下で虹とシャボンをつくっていたのを告白。それは伸子への告白でもあるが、同時に仕掛けを施した火術弩に冷えた空気を送ることで、自然と矢を発射させたのであった。な、なんだって!! もちろん法水のはったり。レヴェズが去ったあと、地霊のメッセージがあることを示唆する。津多子(40歳くらい。元女優)と対話。古代時計室に閉じ込められていたが、法水は「シャビエル上人の手が」動いて、田郷と算哲以外に鍵のありかを知らない扉が開いたという。シャビエル上人はフランシスコ・ザビエルのことなのだろうなあ。

光と色と音――それが闇に没し去ったとき ・・・ 津多子が毛布にくるまれていた不自然が解かれる。鍵をかけたのはようやく実現可能なトリック。まあ、仕掛けが見つからない理由とかどうやって中に入ったのかが不明なままだが。動機は医院のラジウム紛失にあるそうな。この時期放射能の危険性はほとんど知られていない。伸子の部屋の机に地霊のカードが見つかり熊城に執拗な尋問を受ける。そのときに薬物中毒症状がでて緊急搬送。館の薬草園で、薬物をもつ植物の葉が六枚欠けているのがみつかる。再度、三人で事件のまとめ。クリヴォフ夫人による傷害であると推理される。続いて、ディグスビイの自筆による暗号の解読。神秘四重奏団の年一度の演奏会。突然、灯りが絶え、法水の推定犯人であるクリヴォフ婦人が殺されているのを発見。

第八篇 降矢木家の崩壊

ファウスト博士の拇指痕 ・・・ 舞台ではハープ四重奏曲を演奏。客席から見て左から旗太郎(第1ヴァイオリン)、セレナ(第2ヴァイオリン)、クリヴォフビオラ)、伸子(ハープ)の席順(類例が思い当たらない非常に珍しい編成)。クリヴォフ夫人の死因は背後から心臓を刺されていたこと。明かりが消えたのは外部スイッチと思われたが、配電室の仕掛け。そこに水が流れ蒸気がもうもう。その奥の控え室ではレヴェズが縊死。しかしカラーを外すと拇指紋があり、ディグスビイのものと一致した。久我の半生が判明し、神秘四重奏団の集められた理由、久我が図書係である理由が語られる。あわせて、第五編「犯人の名は、リュッツェルン役の戦歿者中に」で法水が行った推理が見当違いであったこともあきらかになる。

伸子よ、運命の星の汝の胸に ・・・ 算哲の墓を開ける。死体は腕を上方にあげ苦悶したポーズをとっていて、ヤマガラの骨が口に押し込まれている。柩には「パテル・ホモ・スム(父よ吾も人の子なり)」のサインが残されている。すなわち算哲は埋葬後、意識を戻したが、早期埋葬防止装置は作動せず、苦しみながら死んだのであった。また今は使っていない主人用のベッドの上にある松毬(マツカサ)に注目する。ダンネベルグ夫人のこめかみの紋章は遺言書の封蝋と一致していた。となると、遺言書発行の3月12日に机に何かを仕掛け、紋章の型をとったと見える。伸子を尋問すると、前日にレヴェズから求婚され、諾のアレクサンドライトを身につけていたという。神意審問会で使った死蝋の手には微細な穴があり、そこから出た蒸気がダンネベルグ夫人の視界を惑わしていたと説明する。伸子はあとで証言するといって、場を離れる。

父よ、吾も人の子なり ・・・ 旗太郎、セレナ、伸子を招いて、レヴェズの死の真相を語る。レヴェズは、伸子のアレクサンドライトの黄色に照明があたって求婚の否であるルビーの赤と見間違えていた。そのあと、伸子は自室で射殺されているのが発見される。翌日、法水は館に赴く。ダンネベルグ夫人がオレンジだけを取った理由と、身体が栄光に包まれた原因が説明される。な、なんだって!! と驚愕する説明。そして真犯人が明かされ、最後の降矢木家の秘密も暴露される。この国の探偵小説でもっとも有名な結句で締めくくられる。

「―――閉幕(カーテン・フォール)」


 ダンネベルグ夫人毒殺事件、易介窒息死事件、伸子失神事件、津多子拉致事件、クリヴォフ傷害と殺人事件、レヴェズ失踪と縊死事件と多数の事件があったわけだが、いずれの事件も「解決」している。これは過去の読書ではわからなかったなあ。もちろん犯行方法は、読者のいるこの世界では実現可能であるとはとうてい思えず、太陽をはさんだ地球の対蹠点にあるという反地球であればどうにか可能であるというような代物ではあるのだが。たぶん自分を含めたたいていの読者は、真犯人の名が明かされたあとの解決編がわずか数ページ、それもダンネベルグ夫人の死についてのみ語っているというところにあっけにとられるのだろう。そうではあっても、こうしてサマリーを作り、前の章の記述を読めば、全部の事件の解決があり、真犯人の動機もそこに書かれている(まあ、断片的な記述から再構成しないといけないのだが)ことに気がつく。

 どこかに書かれていたのだが、この事件は支倉と熊城の警察組織の常識的な捜査であれば、これほど錯綜したものにはならなかっただろう。法水の多弁を一切無視して、実証的な証拠と証言を積み上げていけば、「事件」は解決するはず。その通りだろう。フレンチやメグレが担当したらどうなったかしら。そのように書かれた「黒死館殺人事件」が読書の快楽をもたらすかは保証できない。

 一歩引いた視点でみれば、法水は事件の「共犯」者であるのだよな。かっこ付にしたのは、法水が真犯人の犯行をサポートしたわけではないから。主人公は黒死館という場所であって、そこに込められた怨念(設計者と施工主のそれ)が事件を招いたともみることができる。現在の事件の真犯人ですら、このような怨念というか執着に囚われた被害者であるということができるのだから。その意味では、この事件は、超越の意思をもつ個我がおこしたというわけではないということで、ゲーテファウスト」には当てはまらない。その時代の小説であれば、古城の怨霊と神意が事件を起こすウォルポール「オトラントの城」のほうが近い。ただ、本邦作では、不条理を全て引き受けるマンフレッドにあたる人物はいない。誰か一人がスケープゴートになり、世界を清浄に導く人はいない。そのため、世界の汚れは等しく全員に振りそそぎ、家と場所の豊穣さは失われることになる。法水の役割は、世界=館の汚れの理由を解き明かすこと。彼は館の怨念を代弁して、すこしずつ瘴気というか執着というか館の無意識というか、貯められたエネルギーを放出する。いわばイタコであり、霊能者であるわけだ(「オトラントの城」では僧侶がその役目を負う)。彼の饒舌やペダントリーも館が語らせたとみる。でも悪魔祓いはできない。

日本探偵小説全集〈6〉小栗虫太郎集 (創元推理文庫)

日本探偵小説全集〈6〉小栗虫太郎集 (創元推理文庫)

2014/05/19 小栗虫太郎「黒死館殺人事件」(河出文庫) 黒死館殺人事件4