宇宙ゲー Kerbal Space Program R.A.P.I.E.Rエンジンの性能を調べてみた

Kerbal Space Programについて


今年のSteamサマーセールで安かったので買ってみました。
それまでもちらほらとセールのタイトルに上がっているのは見かけていたんですが、どんなゲームなのか皆目わからなかったので特に気にもしていませんでしたが、リアリスティックな物理演算の環境下で、宇宙船を飛ばすロケットを組み立てたりその宇宙船の軌道を設計したりするシミュレータ的なゲームだと知って、プレイしてみることにしました。
やってみるとこれが大変面白い。
ロケットはパーツをマウスのドラッグ&ドロップでつなげていくだけで簡単に組み立てられ、すぐに飛ばせるのでサクサク楽しめます。打ち上げ後は宇宙船や乗組員をアクションゲームやフライトシュミレータとか3Dシューティングのように操作するので直感的です。しかし、ロケットの加速や空気抵抗、重力や、機体に負荷が掛かったときの振動や捻じ曲がりなどがリアルに計算されていて、燃料が足りないとか軌道の設計が甘かったりして目標地点にたどりつけず永久に宇宙を漂うはめになったり、あまりに不安定なロケットだと打ち上げ直後に空中分解してしまったりします。しかしそこが面白い。
実際の打ち上げの事例やアポロの月面着陸などをネットで調べて参考にしたり、天体の軌道の物理について調べているうちにだんだんと上手く飛ばせるようになってきました。今は火星の類似惑星であり大気の存在する惑星Dunaに有翼機で滑空して水平着陸しようと挑戦中です。
類似惑星という言い方をしましたが、このゲームの舞台は現実の太陽系ではなく、架空の太陽系によく似たKerbol系という恒星系です。地球に相当するKerbinという惑星があり、Kerbalという緑色をした知的生命体が住んでいます。そしてKerbalの科学者や宇宙飛行士が働くKerbal宇宙センターがこのゲームの中心地であり、プレイヤーはこの宇宙センターを運営し、この宇宙センターからロケットが打ち上げられます。
実はこのKerbinは現実の地球よりも小さく、地表での重力加速度は地球と同じですが、第一宇宙速度は2400m/sくらいです。さらに、搭乗するカプセルが全長1mくらいであることから考えると、Kerbal人の身長は地球人よりかなり小さいようです。なので有人飛行でも宇宙船は軽く小さくなっていますし、軌道に乗るための速度が超音速ジェット機で到達できる速度に近いのでスペースプレーンで宇宙へ行くことが実現しやすくなっています。現実よりもプレイヤー有利に出来ていますが、ゲームを始めたばかりのときには特にそういったことを意識させられることはなく、「やってみたら意外に上手くいってしまった」という成功体験からプレイヤーをゲームに引き込む上手いカラクリになっていると思います。しかし、スケールは小さくとも宇宙は宇宙、他の天体に着陸するなどの挑戦をすれば難易度は上がっていきます。(現実の地球と同じスケールに変更するMODもあるようです。)

このゲームはまだ開発中で、リリースされているのは有料のテスト版、Steamでは早期アクセスタイトルとなっていますが、現段階でも十分楽しめる内容です。


ロケット組み立ての様子

宇宙ステーションも作れる

スペースプレーン

このゲームではロケットだけでなく、翼を持ち揚力で大気圏を飛び回る航空機も組み立てることができます。翼の揚力で大気圏を飛ぶことができ、かつ宇宙まで行くことができる航空機をスペースプレーンと呼ぶようです。特に、ロケットのような使い捨ての下段部がなく、それ単体で軌道に乗ることができるものをSSTO(Single-Stage-To-Orbit;単段式軌道往還機、単純に訳すと「1段で軌道まで」という意味ですが。)といいます。これは各国で計画されていますがKerbinとは異なる環境の地球ではまだまだ技術の飛躍が必要だそうです。1番実現が近いと言われているのがイギリスのスカイロンという航空機で、これは空気中・宇宙空間両用の2方式エンジンを持ち、大気圏中でジェットエンジンの方式でマッハ5以上まで加速し、その後、宇宙空間用のロケットエンジン方式に切り替えて軌道に乗る計画みたいです。Kebalでも、燃費のよいジェットエンジンで大気圏中で出来る限り加速するほうが宇宙空間に出てからの燃料が残り有利かと思います。

Duna上空まで到達したスペースプレーン

Kerbalの空宙両用エンジン、R.A.P.I.E.R.

Kerbalにもスカイロンに使われるような2方式エンジンが登場します。R.A.P.I.E.R.エンジンというのがそれです。(ちなみにスカイロンに搭載されるのはS.A.B.R.E.エンジン)このR.A.P.I.E.R.、ゲーム中の組み立てシーンで表示される性能値は純粋なジェットエンジンロケットエンジンに比べるとイマイチなので、スペースプレーンを飛ばすようになってからしばらくは敬遠して、ジェットエンジンロケットエンジンを別々に搭載するようにしていました。しかし、Dunaに水平着陸するためにはなるべく軽い機体にしてDunaの薄い大気で得られる弱い揚力でも安全に着陸できるゆっくりな速度で飛べる必要があります。そこで、軽量化のためには2種類のエンジンを別々に搭載するよりR.A.P.I.E.R.単発機のほうが有利なのではないかと考え使ってみることにしました。
ところで、プロペラで風を切ったり、空気を取り込んで燃焼ガスを吐き出したりする航空機用のエンジンは推力が機体の速度によって変わるという特性があります。Kerbalに登場する他の2種類のジェットエンジン、Basic Jet EngineとTurbo Jet Engineについては検索すると最大推力とそのときの速度についての情報が見つかりましたが、R.A.P.I.E.R.については見つからなかったので、自分で調べてみることにしました。
ゲーム中で見られる性能の数値は次のようになっています。

Basic Jet Engine
  • 最大推力:150.0kN
  • 最低推力:0.0kN
  • 海面比推力:2000s
  • 真空比推力:1000s
  • 重量:1.0t
Turbo Jet Engine
  • 最大推力:225.0kN
  • 最低推力:0.0kN
  • 海面比推力:800.0s
  • 真空比推力:1200.0s
  • 重量:1.2t
R.A.P.I.E.R. (AirBreathingモード)
  • 最大推力:175.0kN
  • 最低推力:0.0kN
  • 海面比推力:800.0s
  • 真空比推力:1200.0s
  • ピーク比推力:2524.332s
  • 重量:1.2t

真空比推力の数値はありますが実際に真空中で動作するわけではなく、真空に近付くにつれてその値に近付く、という意味だと思います。あと何故かR.A.P.I.E.Rだけピーク比推力の記述があります。

測定

前置きが長くなりましたが、ここからが本題です。実際にゲーム中で各種エンジンを搭載した機体を飛ばして、パーツを右クリックすると表示される情報を出したままにして録画してデータを取りました。

その機体。Duna着陸艇の試作機のうち実用に至らなかったものを改修して、中央にR.A.P.I.E.R.を1基、左右にBasic Jetをそれぞれ1基搭載しています。フルスロットルで離陸し、徐々に高度を上げながら加速していき、最終的に高高度で空気が薄くなり全てのエンジンが吸気不足で停止するまでデータをとりました。高高度のほうが空気抵抗が少なくより速度が伸びるためです。また、R.A.P.I.E.R.をTurbo Jetに換装してそちらのデータも取りました。

測定中の様子。極超音速で赤熱している。
その結果の、機体速度に対する推力のグラフです。

ごく低速の範囲は離陸したてでエンジンが温まりきってないようであまりあてになりませんが、Turbo Jetについては調べた数値どおり1000m/sに最大推力の225kNに達し、その後は徐々に低下していきます。現実のラムジェットエンジンのような挙動でしょうか。Basic Jetについても、速度が上がるほど推力が落ちていくのは調べた情報どおりです。
問題のR.A.P.I.E.R.ですが、Turbo Jetと同じ1000m/sで最大推力175kNに達してその後は同様にゆっくりと低下していきます。しかし、この低下率がTurbo Jetより小さく、同じ機体速度であればTurbo Jetよりも大きな推力を得られる範囲がありました。これが何か気圧とか速度以外のものの影響でないとすれば、R.A.P.I.E.R.のジェット方式のときの性能は単純に純粋なジェットエンジンに対して劣っているとは言い切れないかもしれません。高高度での加速がよくなれば大気圏脱出までに掛かる時間が減り、もしかしたら燃料消費量で有利になるかもしれません。
高速領域で推力が単調減少している範囲で、Turbo JetとR.A.P.I.E.R.の推力が少しだけピョコっと上がっているところがありますが、これは推力がゼロになったBasic Jetを手動でシャットダウンしたタイミングに一致します。Basic Jetが停止して割り当てられる空気吸入量の配分が増えたためじゃないかなと思います。このことから、インテークエアの量も推力に影響しそうです。
燃料消費については、比推力の数値のほうが重要なので、それもグラフにしてみました。比推力というのは、エンジンの性能を表す数値のひとつで、要するにこれの値が大きいほど燃費がよいということになります。ロケット全体の性能を表す数値にΔVというものがあり、これはロケットが全ての燃料を使い切るまでにどれだけ速度を(方向転換も含めて)変えられるかということを表しています。最初の重量と燃料を全て使い切ったあとの重量の比が同じならば、ΔVは比推力に比例するので、比推力が大きいことはより遠くへ行くことができることを意味しています。
これについては機体速度依存なのか高度依存なのか分からなかったので、ゲーム中のパーツ情報では地表(海面)での比推力と真空中の比推力の2つが示されていることから、高度と比推力のグラフにしてみました。

Turbo JetとR.A.P.I.E.R.の比推力変化はほぼ一致しました。

まとめ

ということは、燃費の点ではR.A.P.I.E.R.はTurbo Jetに劣るところはなく、最初は推力が低いので高高度に達するのにTurbo Jetよりやや時間が掛かるかもしれませんが、高高度ではTurbo Jetに勝るか、すくなくとも遜色のない推力が得られるようなので、大気圏脱出に際しては十分有効な選択肢となりそうです。どうしても真空中でより高い比推力が必要なのでなければ、軽量なスペースプレーンでは積極的に使っていこうと思います。

では、大体の特性は分かったので、R.A.P.I.E.R.エンジン単発の軽量スペースプレーンでDunaへの水平着陸に挑戦してきます。この記事を読んでも、なんのことやらさっぱり分からないような記事になっているかもしれませんが、とにかく今まさに熱を上げている最中のこのゲームについて何か書きたいという一心で書きました。もしご興味を持たれたら、このゲームをプレイされてみてはいかがでしょうか。デモ版もあるようですよ。

月面着陸や宇宙遊泳もできる
なお、この記事を書いたときのゲームのバージョンは0.24.2.559です。また、表示情報追加MODのKerbal Engineer Reduxを使用しています。