クラシック・イン第1巻 490円

内 容(EMI原盤)

  1. モーツァルト/ピアノ協奏曲第20番 ニ短調 K466
  2. モーツァルト/ピアノ協奏曲第26番 ニ長調 K537「戴冠式」
  3. モーツァルト/ピアノ・ソナタ第11番 イ長調 K331より 「トルコ行進曲

 会社の近所に法人向けがおそらく主な生業と思われる小さな本屋があり,私の会社でも,ここの本屋に専門書などは注文をしています。そのため,ほとんど毎週営業のオヤジ(60歳くらいでしょうか。本屋というのに,何故か「耳にタバコ」「もう10年近く着ていると思われる緑色のブルゾン」がトレードマーク)が廻ってきます。私も音楽之友社レコード藝術の定期購読をこの本屋に頼んでいます。
 この本屋,商売が上手で,その人が欲しそうな本を,勝手に売りつけるというとんでもないことをするのです。普通の本屋じゃ考えられませんが,その本の選び方たるや見事なもので,客の心理をきっちり把握しており「お客の好みに合うような本を選ぶため,まず返品されない」とのこと(オヤジ:談)です。
 今回紹介する,「クラシック・イン」も私が,外から帰ってきたら,ぽつんと机の上に置いてあった一冊です。
 ご丁寧に紙袋に入って机の上に置いてあった(いつもは,無造作に商品丸出しで机の上に置いてあるのです)ので,「むむ,またあのオヤジにヤラレタ」と思いましたが,見れば,バレンボイムモーツァルト協奏曲,それもイギリス室内管弦楽団との共演ということから,おそらく以前から買ってみようかと思っていたバレンボイムのピアノ協奏曲全集(旧盤)に収録されている曲と一部同じかも,と思い,試聴で新品で解説付きで490円なら安いか…と変な妥協をしたうえに,解説書には新婚旅行で行ったザルツブルグの風景が沢山載っていて逆に気に入る事態に…そして,本屋の思惑どおり,やはり返品しませんでした。

 通勤鞄の中に入れて持って帰ろうと思ったのですが,パッケージが立派すぎて,いろいろゴチャゴチャと入っている私の通勤鞄の中に入りません…そのため,CDと解説書のみを取り出し,外側のパッケージは職場で捨ててしまいました。
 CDを手に入れると,早く聞きたくてウズウズしてしまうので,鞄の中には常にポータブルCDプレーヤーを入れてあります。また私は,ごく普通のサラリーマンで,六畳二間のアパートに,カミサンと小さい子供で,しがない暮らしをしているため,平日の音楽鑑賞の場は必然的に通勤のバスの中です。通勤時間は40分ほどで,狭く曲がりくねった坂道を多く通るため,立った姿勢ではいささか苦痛に感じるときもありますが,音楽のおかげで楽しい時間を過ごしています。

 肝心のCDですが,モーツァルトのピアノ協奏曲第20番と戴冠式という,我々初心者にとっては渋い選曲(小学館では「はじめての方ももっと深く聞きたい方も」というキャッチコピーを使ってますが…)。はじめは第20番。いきなりモーツァルトのピアノ協奏曲というのに「短調」の曲を聴かせるという賭けを小学館&EMIがしたわけですが,これは結構「当たり」かも知れません。「モーツァルト長調だけじゃ無いんだぞ!」という私達への「宣戦布告」とも受け取れます。いや,逆に「日本人は短調が好き」というところを突いた戦略なのかもしれません。どちらにせよ,この第20番,詳しい解説は,クラシック・インの解説にお任せするとして,全体の雰囲気は「美しく悲しい」。第2楽章は,殊に美しく,映画「アマデウス」にも使われています。
 クラシックのマニア度が進めば進むほど,「モーツァルト短調曲」に惹かれていくとか。その美しさ故,一度ハマったら抜けられないことをいうのか,モーツァルトの音楽を,こう形容する人もいました…「悪魔」。
 第26番「戴冠式」は,一転して明るめ。某王様の戴冠式式典に合わせて作られたので,この名がついたようです。この曲にもウンチクがあるようで,左手パートがすっぽ抜けてる(つうか作られてない)箇所がたくさんあるとか何とか…そうした話に興味がある方は,こんな本をお薦めします。



 「モーツァルトはどう弾いたか丸善ブックス/久元 祐子



 さて,バレンボイムの演奏ですが,実にノビノビ爽やかに2曲とも弾いていますが,いたずらにメロメロになったり,おちゃらけたりした風がなく,感情移入しやすい各々の第2楽章も,結構ドライに弾いてます。男性的演奏,といったらいいのでしょうか。録音状態も良いので,お勧めできるCDだと思います。

 ますます,バレンボイムのピアノ協奏曲全集(旧盤)を手に入れてみたくなりました。ちょっと財布と相談しようかと思います。

協奏曲【きょうそうきょく】とは

Wikipediaから
「(concerto〔伊・英・仏〕、Konzert〔独〕)は、今日では主として一つまたは複数の独奏楽器(群)と管弦楽によって演奏される多楽章からなる楽曲を指す。」

〜なんとなく判ったようなわかんないような…なので,十年ぶりくらいで絵を描いてみました。

↑こういうヤツです。協奏曲。
 しっかし字と絵は下手なのはいけませんな…一応,どこかの名門楽団と有名指揮者とスーパーピアニストっつう設定でお願いします。
 「主として一つまたは複数の独奏楽器」っていうのが,上図でいうところのピアノ&ピアノ弾きです。この絵ではピアノ1台だけですが,これがピアノだったり,バイオリンだったり,チェロだったりしまして,さらに1台とも限らず,バイオリンとチェロ,なんてのもあります。
 んでもって「管弦楽によって」の管弦楽が,上図で「オーケストラ」です。指揮者も図には入れておきましたが,このクラシック・インの演奏は,「(P&指揮)」と書いてありますので,ピアノを弾きながら指揮します。
 普通「弾き振り(ひきぶり)」と言っているようです。弾き振りするときは指揮棒は普通持たないそうです。そりゃそうか…ピアノが弾けなくなっちゃいますからね(バイオリンで弾き振りするときは,バイオリンの弓(ボウ)を指揮棒代わりにしちゃっているようです。2005年のニューイヤーコンサートで,指揮者のロリン・マゼール(LORIN MAAZEL)がちょこっとやってました)。

 なんで「弾き振り」なんてものがあるのでしょうか…

古典派の作曲家にとって協奏曲は主要な活動分野であった。作曲と演奏の両方をこなす音楽家が多かったこの時代に、特にピアノ協奏曲の初演は作曲者が独奏楽器を受け持って行われることが意図されたためでもある。(Wikipediaから)

 要は,モーツァルトベートーヴェンの頃は「当然初演は自作自演でしょ」と考えて作られていたということになるようです。「自分も売って,曲も売って」ということなのでしょう。

 バレンボイムも,どう思ったかどうだかわかりませんが,自作自演を意図して作られた曲ならば,その意図に従おう,ということなのでしょうか。
 ただ,「指揮をしながら演奏する」というのはトンでもなく大変なことだと思います。何十人といるオーケストラをまとめ上げ,自分の考える演奏を指示し,おまけに自分も弾いて…お遊びレベルなら楽しいでしょうが,人様に聞かせるわけですからね。
 それに,ピアニストやバイオリニストみんなに弾き振りされたら…
 …指揮者の仕事が減ってしまいます…。