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2012-03-06

言い張れば通るという感覚 

大学の講義関係で出くわした例について今までも何回か書いたが、今回はこの10年で一番驚いたケースについて。*1


ある時、単位認定レポートの中にネット上にある映画の感想文からの剽窃を数件発見し、不可にして成績表を提出した。証拠としてそれぞれのアドレスも添付。

成績発表日、教務から電話がかかってきた。剽窃で不可になったうちの一人が、自分のレポートのコピー(必ずコピーを取っておくように言ってある)を持って「自分はやってない」と言いに来たという。レポートの半分以上を剽窃したテキストで埋め、ところどころ語尾を変えたり単語を入れ替えたり言い回しを変えたりしていた学生である。無駄な小細工のせいで、却って日本語が不自然になっているところが幾つかあるが、9割方同じだった。やってないなんてことはあり得ない。『七人の侍』と『荒野の七人』くらいあり得ない。いやそんないいものではない。

教務の人曰く、「提出して頂いたネットのアドレスがリンク切れになっているんですが」。ギョッとして、取り急ぎ手元にあるその学生のレポートの表紙に記載したのを確認したら、教務に出した紙に一文字間違えて写していた。あースミマセン。その旨をメールで送り、一件落着。


と思っていたらこれで終わらず、翌日また教務から電話がかかってきた。リンク先のページと学生のレポートを照合したのだが、学生は「そのページは確かにレポートを書く前に見た。でも写した覚えはない」と言い張って聞かないというのである。

「覚えはないって‥‥‥見りゃわかるじゃないですか!(笑)」

俄には信じ難い現実を突きつけられると、人間は思わず笑ってしまうものだ。目の前に確固たる「証拠」が提示されていながら堂々と否認できる”大物”ぶり。それともこういう学生は珍しくなくて、こんなに驚いていてはいけないのか。

四年生で案の定、卒業がかかっていた。でも追試はしないことになっている。学生は頑として剽窃を認めず、押し問答のようになってしまったらしい。どうしても引き下がらない構えの学生に職員も困り果て、とりあえず「成績評価への質問書」というのを書かせて帰した。それをメールで送ったので、悪いが回答をもらえないかと。


「回答を」と言われても。もう剽窃だと証拠を提示してあるんだし、これ以上何をどう説明せよと……と思いつつ、一旦電話を切ってメールを見ると、学生の質問書には「自分はレポート課題に相応しいものを選びたいと思い、ネットでいろいろ調べてその映画を見つけた。その時にテキストに目を通しただけ。どこからも引用はしていない」というようなことが書かれていた。

その映画、私が授業でおすすめしたものだが、それはそれとして。論拠も何もなくても言い張って駄々を捏ねて話を聞いてもらえるのは、幼稚園までである。もしかして、駄々を捏ねているのではなく、「引用」(コピペのまま)はダメだが少しでも手を加えればOKという理屈を捏ねているつもりだろうか。それで通せると踏んでいなければ、こんな自信満々の態度にはなるまい。


「舐めとんのか」という言葉が思わず口をついて出たが怒っていても仕方がないので、ネットのその箇所をコピペし、一文ずつに分けて文の冒頭に○を付け、その下に上の文章をもう一度コピペし冒頭に●を付けてから、学生のレポートを見ながら細部をチマチマ書き変えて対応関係を作った。

○ネットのテキスト(1sentence)

●学生のテキスト(1sentence)

  ↑このセットが20個くらい

実際にやってみると、コピペしてから改変したということが改めてよくわかった。中には読点の位置が違うだけでほとんど同じ文章もあった。

最後に「ネットから丸ごと「引用」して一字一句手を加えていない文章だけが剽窃ではない。同じ言葉を多用した、同じ意味内容の、ほぼ同じ構造の文が元のテキストと同じ順番で並んでいれば、剽窃と見なされる。あなたのレポートの半分以上でそういうことがなされているので、やっていないという主張は認められない」ということをもう少し丁寧に書いて、回答として送った。私にはこれ以上の対応は不可能である。


卒業がかかっているなら、特別に追試をしてあげればいいのにという意見もあるかもしれない。

実は講義をもって間もない頃、別の授業で(出席数不足に)「何とかしてクダサイ」と泣きつかれ、追加課題を出して通した。今の授業でも一回だけ(内容的に不可に対して)「何とかして(やって)クダサイ」と教務と学生二人がかりで泣きつかれ、追試をしギリギリのレベルで通したことがある。

学生が「卒業がかかっているのでそこを何とか」と相手の温情に訴えるのは、心理的には理解できなくもないが、まあ卑怯な手段である。懇願されればされるほど、こちらには「気の毒かもしれないな」という情が湧いてくるし、「これで落としたら相当恨まれるだろうな」と思わざるを得ないからだ。就職だって決まっているかもしれないのだ。「だったらどうして‥‥」と言いたくなるわけだが。

しかし件の学生の場合は、不可の理由が不正行為である。人の文章を写したのだからカンニングと同罪だ。普通は停学(4年なら留年)。大学によっては、その期に取得した単位全部が取り消しになる。その上、嘘をついているのがバレバレなのに主張を翻さなかった。自分の「不正」を「正」として相手に無理矢理認めさせようとしていた。それがわかった時点で私の中のなけなしの情は消えた。

専門課程の方は「真面目」な学生らしく、この大学はあくまで専門重視なので、卒業認定を巡って教授会で問題になったかもしれない。非常勤なのでその後のことは知らない。


学生の態度を教務の人から聞いていて思い出したのは、『オレ様化する子どもたち』(諏訪哲二、中公新書ラクレ、2005)の中に出てくるあるエピソードである。

高校の女子生徒が試験の答案用紙の下にカンニングペーパーを隠していたのを、挙動が不審だったことから教師に発見された。しかし彼女は、それは暗記のために作ったのでカンニングのためではないとその「意図」を否定し、さらにそれを見て答案を書いたという「行為」を否定したという。そこにカンペがあったのは直前まで暗記のために見ていて、仕舞い忘れたのだと。カンペの内容と答案との一致という「状況証拠」を示してもダメだった。

これを読んだ時は「こういうのはモンスター・スチューデントと言った方がいいな」と思ったが、まもなく同じような学生が自分の前に現れたのだった。


諏訪氏はこうした例をいくつか挙げ、自分の内面に絶対的な基準を持つ傾向が、80年代後半以降の子ども(追記:80年代後半以降に生まれた子どもではない。諏訪氏がその時期以降に出合った生徒という意味)の中に現れてきたとしている。

その時代以降の子どもは、共同体の「生活主体」「労働主体」として立ち上がる前に、既に「個」を「消費主体」として自立させている。その結果、子どもにとって学校の教師との関係は共同体的な「贈与」関係ではなく、市民社会的な「交換」関係となった。子どもは「生徒」ではなく「個」として教師に向き合い、自分が学校に来ている見返りとして「自分に合った」「自分にとって不快ではない」対応だけを望むようになった。そして学校は、子どもを「社会化」するという機能を著しく衰弱させたと。

この本では「社会化」を、(フロイトの言う)「去勢」とほぼ同じ意味で使っている。学校はもともと、子どもの全能感を砕き、自分の主観の通用しない客観世界(学問から社会規範まで)に子どもを向き合わせる場所ということだ。初等〜中等教育がそれを担うものとされていたが、役割を果たせなくなった。

それで、最近は大学でやらねばならないはめになっているのね。


オレ様化する子どもたち (中公新書ラクレ)

オレ様化する子どもたち (中公新書ラクレ)


●付記

「ネットからの剽窃」を指摘された際にどうやったら言い逃れできるかを、学生の立場になってちょっと考えてみて、「これは私が書いたものなんです」と言い張る(剽窃先が匿名や性別・年齢のわからないHNのテキストの場合に限る)てのを思いついた。「これは○年前に私が書いて投稿した文章です。その時のテキストがパソコンに保存してあったので、一部だけ変えて書いたんです」と。同一人物である証拠は出せないが、相手もそれが同一人物ではないという証拠は出せない。 剽窃行為がグレーで、内容が基準に達していたら、落とせない。

というわけで、今は授業の最初に「一度どこかに書いたものを使ってはダメ」と言っている。


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*1:こういう記事を挙げると、また「学生の許可なしに学生の言動を晒している」などと非難する人々が湧いてくるかもしれないが、いつも学生の匿名性は確保しているので「晒し」ではない。

nasu0001nasu0001 2012/03/07 10:46 剽窃元のサイトのタイムスタンプより前のスタンプにして自分のレポートをアップしちゃう。
で、「あのサイトは自分の文章を剽窃したものなんです!」……というのはどうだろうか。

「一度どこかに書いたものを使ってはダメ」っていうのに対抗する手段はなかなか思いつかないですけど(笑)

ohnosakikoohnosakiko 2012/03/07 11:32 なるほど。悪知恵いろいろ出てきますねw 
まあ「未発表に限る」でいいかなと思います。

oda yoshitomooda yoshitomo 2012/03/07 12:31 ご無沙汰してます。
この学生を納得させる必要って、そもそもあるんですか?

ohnosakikoohnosakiko 2012/03/07 12:50 どもご無沙汰です。
「納得させる必要」はないと思います。納得するか否かとかいうレベルの問題ではないですからね。
「言い張れば通る」ということはないのだとはっきり示さねばならないということ自体、異常だと思っています。

oda yoshitomooda yoshitomo 2012/03/07 16:12 なるほど。
駄目な箇所を明示するなんていう、
手間のかかることをする羽目になったわけですね。
ずいぶん細やかに対応なさっているのですごいなあと素朴に感心しました。
「先生らしい」と思います。嫌味じゃないです。

decscidecsci 2012/03/07 17:26 いやはや、教務課がもう少し仕事して欲しいですよね。こういう案件って。どう考えても、教員の業務の範囲外のレベルだと思います。

ohnosakikoohnosakiko 2012/03/07 18:08 >oda yoshitomoさん
細かい対応関係を見せられて「どのくらい酷似しているか、もう一度自分の目で確かめよ」と書かれれば、少しは恥じる気持ちが生まれないだろうかという希望的観測もありました。無力かもしれませんがしないよりはした方がマシかと。

>decsciさん
仰る通りです。

いるかいるか 2012/03/07 23:36 学生とのこういう「バトル」も大学教員の醍醐味ではないでしょうかね

ohnosakikoohnosakiko 2012/03/08 09:54 「バトル」ではないし、「醍醐味」でもないですね。

456kyoto456kyoto 2012/03/08 12:58 教員も試験問題はおろか講義プリントをネットからそのまんま引いてきてます。もちろん出典明示なしです。

ohnosakikoohnosakiko 2012/03/08 13:37 それは拙いですね。
ご当人に誰かが注意をしたり、問題にしたりしているのでしょうか。

六文銭六文銭 2012/03/09 23:10  私も文章を書くとき、よくウィキなどを参照し、それを引用したり(その場合はカッコで表示)、あるいは自分の全体の文脈に合うようリライトしたりします(その場合は引用先を示さないこともあります)。
 後者の場合にはそれを参照しながらも、もともとあった自分の主張の裏付けに使うわけですから、問題はないように思います。
 Ohnoさんが相手にする学生さんも、自分なりの論旨があってそれを肉付けするための引用なら許されると思うのですが、どうもそうではないようですね。

ohnosakikoohnosakiko 2012/03/10 11:06 自分の主張自体がないようです。数行であれば見逃しますが、全体の半分以上ですからねぇ‥‥。
剽窃する学生は今までもいたし別に驚かないのですが、見つかって不可になっているのに否認する学生は初めてで、そこが一番驚きでした。
不正をしても否認した方が「合理的」とか「得」だというブックマークコメントがいくつもついたのも驚きでしたが。
そういう人々がいる限り、こういう学生が出てくるのも当然かと思っています。

普通の人です普通の人です 2012/04/05 20:48 近所の子供を怒るおじさんが居なくなったように、大人が子供に譲り過ぎるとあるべき位置関係が崩れます。理由はどうであれ、「先生がダメならダメ」というのが普通の位置関係だと思うのですが、教務レベルで毅然とした態度がとれないのは残念な学校です。しかし、映画の感想くらい自分で書けないというのが一番不思議・・・

ohnosakikoohnosakiko 2012/04/05 20:59 「学生さんはお客様」でそうなっている学校は、私立だとあるのではないかと思います。モンスター・スチューデントに対応せねばならない教務課の人に私はやや同情的ですが、二度とこういう問題をこちらに回してくれないようにお願いしました。
映画の感想は書こうと思えば書けるのです。書く手間を惜しんでいるだけだと思います。

普通の人です普通の人です 2012/04/05 22:00 学生=お客様=金だと、学生を突っぱねるのは難しいんですね。商売人にとってはお客様は神様・・
世の中が「近所の子供を叱るおじさん」と「悪さをする子供」をどのあたりのバランスで許容するかが威厳の質量という感じでしょうか。

ガッツガッツ 2012/05/21 23:02 はじめてコメント書きます。私も大学教員です。元の文章と学生が書いた文章を並べて盗作したと証明するのですか。
参考になりました。数年前は、ウィキペディアから同じ個所を引用した学生が20人くらいいました。ウィキペディアから
引用してレポートを書くのが悪いというコンセンサスが出来ていない時期だったので、全員単位は与えましたが。
最近は、親がモンスターペアレンスみたいにテスト問題の内容にも口出ししてきます。
少子化で大学が学生に媚びる姿勢はよくないですね。

ohnosakikoohnosakiko 2012/05/22 10:10 ガッツさん、はじめまして。
ウィキペディアが適当かどうかは置いといて、「引用」そのものは可ですね。引用元を明記してあれば。
私も、文献などから引用する場合は必ず最後に出典を示すように言っています。もちろん、引用だけでレポートの多くを埋めるのは不可ということも。
問題は引用なのに自分の文章であるかのように見せる剽窃ですね。
やはり最初のコンセンサスは重要だと思います。

ガッツガッツ 2012/05/22 16:13 こんにちは。
数年前のことなので、引用元が記してあったかどうか記憶が定かでないですが、示した人もいたし示していない人も
いたと思います。最近は、ウィキペディアからの引用は減っています。
レポートの分量は、A4用紙1枚にに40字×40行 合計100行以上としておきましたが、大きな図やグラフを貼り付けて分量を稼ぐ学生がいました。
図やグラフがあるとしても常識的な範囲だろうと想定していたので、大きな図やグラフを貼り付けてきた学生をどうするか悩みましたが、
明確にそういうことはダメだと禁じていなかったので、合格としました。
以後、図やグラフの分量をどこまでと明確にするのは面倒なので、そうした規定を設けず学生の良識に任せておりますが。

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