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2013-01-01

頑固な人

大晦日は独身中年の友人知人がうちに来て年越し宴会をするのが、この6、7年の習わしだった。しかし今年は、初めてたった一人で年末年始を過ごすことになる私の母を気遣って、夫が「おまえんちに行こう」と言い、私もそれに賛同して、二人で実家に行く予定にしていた。父の入院、介護施設入所といったバタバタで疲れた母を慰労したいと思った。


その話をした当初、母は「一人で大丈夫だからいい」だの「布団が足りない」だの「家の回りは駐禁が厳しいから」だのと固辞していた。前から何事につけて遠慮がちな母の内心を忖度した夫に、「お母さんがいいって言っても、行く約束しなよ。年寄りが大晦日にポツンと一人きりでいるなんていかんよ」と言われていたこともあって、「私たちが行きたいんだから一晩くらいいいでしょう。料理作って持っていくからお母さんは何もしなくていいし」と説得し、母もとうとう承諾したのだった。

夫は「じゃあ鮨はいつものとこに頼もう。俺は黒豆煮る」と張り切り、私も母の好きそうなものを何品か作り、私たちの酒の肴と一緒にお重に詰めていこうと、計画を立てていた。


ところが一週間くらい前になって、「悪いけど、やっぱり一人で過ごしたい」と母が言い出した。ええ〜どうして? 「こっちは二人とも楽しみにしてたんだけど」と思わず不満を漏らすと、母は言った。

「気持ちはとても有り難いと思ってる。でも大晦日は一人で静かにこの一年を振り返ってみたいの。一人でいろいろ反省したいし。アルバム見て、昔の思い出にも浸ったりしたいしね」「でも淋しくない?」「全然。心配ないない」。

何をどう言っても考えは変わらぬという態度だった。私の思っていることを見透かしたように母は、「私って一度こうと決めたら、最後は絶対その通りにしないと気が済まないの。案外頑固なのよ」と、ニコニコしながら言った。

そのことを夫に話すと、「なんだぁ」と少しがっかりしていた。「別に遠慮じゃないみたいだよ。ああいう人なんだよ、うちの母」「そうか‥‥」。

じゃあ夫の実家に行く?という話にもなりかけたが、「お袋が張り切り過ぎるから厭だ」「こないだ行ったばかりだしまぁいいか」ということで、結局家での年越しとなった。


長年生活を共にした夫と別々の暮らしになった年老いた妻にとって、子ども夫婦が大晦日に泊まりに来ることは嬉しいことなのだと、私たちはハナから思い込んでいた。老人にとって一人の大晦日は淋しいものだ。特にそれまで夫婦暮らしだった人なら尚更。

でも母の考えは違った。二人でいたのが一人になったら、一人の気楽さを楽しむ。一人でいる寂しさに慣れる。大晦日であろうと正月であろうと、子どもには極力甘えない、頼りにしないという考え方だ。

娘の立場で言えば、親がそういう自立した考えをもっているのは有り難い反面、少し淋しい。そこには、これまで親孝行らしいことを何もしていないので、遅ればせながらだがささやかなことでも喜んでもらいたいという気持ちも混じっている。でもそれは子どもの側のエゴなのかもしれない。


母が私たちの訪問を断ったのは、「一人で過ごしたいから」だけでなく、介護施設で過ごしている認知症の父のことを考えているからだろう。

もちろん年末年始も変わらず介護スタッフがついているのだから、父が一人きりになるわけではない。しかしその場所に馴染めないまま何もわからなくなってしまった父の孤独を、母は想像してしまう。娘夫婦と過ごしていても、「今頃お父さんどうしてるかな」と頭のどこかで思っているから完全には楽しめないだろう。

これまで散々我がままで頑固な父のために苦労したわけだから、父から手が離れた今は思い切り羽を伸ばしてほしいと私は思っているのだが、母にはそれができないのである。


私は長い間、専業主婦として生きてきた母には「自分」というものがないと思っていた。母が「自分の考え」を主張する場面を見たことがほとんどなかったからだ(父は「自分の考え」を主張しない場面がなかったが)。だから今回も最初は、この人は主婦と母親の役割を果たすことだけに生きてきたから、自分の楽しみを優先できないんだと思った。

だが後で、そういう見方も少し違うんじゃないかという気がした。母の中にも「どうしても譲れない」というものが常にある。それは、自分のことはいつも後回しにしてきた母の生き方と相反するかたちではなく、重なり合うかたちで存在している。

世間ではそういうのを「損な性分」と言う。たしかに外から見ればやたらと遠慮がちな人だけれども、母の「我がままで頑固」な「自分」はおそらく、「自分の個性」や「自己主張」を奨励されて育ってきた世代である私の「自分」などより、ずっと頑強なのではないかと思った。



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