昔の友人がお薦めしてくれたジャズのCD(ピアノ中心)

ジャズは古臭いと思ってるあなたに捧げる10曲 - AnonymousDiary
■( ・3・) クラシック好きの上司がジャズを聴きたいと言いだして - AnonymousDiary
■( ・3・) クラシック好きの上司がジャズを聴きたいと言いだして・続 - AnonymousDiary
(追記:また出た)
ジャズで食ってる俺がジャズ聴き始めたい人にオススメするTOP 10 - AnonymousDiary


どれにも凄い数のブックマークがついていて、「ジャズ聴きたいけどどれから聴いたらいいの?」「詳しい人のお薦めが知りたい」と思っている人は多いんだなと思った。
私もかつてそうだった。幸い身近にマニアがいて、ものすごく丁寧に教えてくれた。ジャズ好きで教え好き。いや、ジャズ好きは大抵教え好きなのか。
この人は遠いところに行ってしまって今は交流がないが、当時よくやりとりに使っていた内輪の掲示板に私宛に書き込んでくれた彼のテキストが、パソコンに保存してあった。共有して良さそうなとても親切な内容なので、紹介したい(増田記事より初心者向け。長いです)。
特にピアノが聴きたい人向けのセレクトになっている。後半に定番も。このうちの何枚かはもちろん今も愛聴している。

●「Places/ブラッド・メルドー

なんてとてもいいCDです。メルドーは白人のピアニスト。まだ若い人らしいです。
そのメルドーが各地に旅した印象を曲にして演奏しています。
曲想は美しく、演奏はとてもシャープです。きれいなんだけれど、感傷にひたった甘い感じがなくて、とても好きです。
最近のジャズで感動したのは、何よりこのアルバムなのですが、それだけではつまらないでしょうから、古いCDを紹介します。


でも、僕の場合、マニアックな人ですから、あんまり今現在の好みを書いても参考にならないと思うので、僕がはじめて聞き始めた頃に感動したアルバムを中心にあげます。
どれも古い録音です。新しくても1960年代の録音になります。
とりあえず、ご注文は
「ピアノ中心(プラス他の楽器)」と「モンク」と「軽快なやつ」ってことでしたね。
役に立てるかどうかわかりませんけど、いくつか挙げておきます。


   ●


【ピアノトリオ】
●『ポートレイト・イン・ジャズ』(ビル・エヴァンス
●『ワルツ・フォー・デビー』(ビル・エヴァンス


「ピアノ中心で他の楽器も」ってことですが、まずジャズの場合、「ピアノトリオ」というバンド形式が基本になります。つまり「ピアノ+ベース+ドラム」の組み合わせです。この「トリオ」の上に、サックスだとかトランペットとかの管楽器が乗っていくわけです。
実は僕はあまりピアノトリオが好きではないので、あんまり聴きませんが、とりあえずビル・エヴァンスだったら、有名な「枯葉」が入っている
●『ポートレイト・イン・ジャズ』
ってアルバムか
●『ワルツ・フォー・デビー』
がオススメ。どちらもピアノ・トリオの名作です。
黒人っぽいノリはありませんが、どちらもとてもキレイな演奏。
タワーのフェアにも、どちらかは入っているはずです。
買ってソンした気分にはならないはず。


【ピアノトリオ+管楽器】
●『スタイリングス・オブ・シルバー』(ホレス・シルバー
●『ソング・フォー・マイ・ファーザー』(ホレス・シルバー
●『ミーツ・ザ・リズムセクション』(アート・ペッパー
●『カインド・オブ・ブルー』(マイルス・デイヴィス
●『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』(マイルス・デイヴィス


この組み合わせは無限にあります。大部分は「トリオ+管楽器」という組み合わせ。
「トリオ+管楽器1本」の四重奏なら「カルテット」。
「トリオ+管楽器2本」の五重奏なら「クインテット」と言います。


1940年代の「ビ・バップ」なら「アルトサックス+トランペット」、50年代〜の「ハード・バップ」なら「トランペット+テナーサックス」という組み合わせが多いようです。
「ビ・バップ」はそれなりにカッコいいものなのですが、はじめて聴くには敷居が高いかもしれないので、とりあえず「ハード・バップ」期の名盤をあげましょう。僕が大好きなのはホレス・シルバーというピアニストです。とにかくノリが良くてメロディが唄う。中でも一番好きなのは
●『スタイリングス・オブ・シルバー』
というアルバムですが、タワーのフェアには入っていないかも知れないです。
●『ソング・フォー・マイ・ファーザー』
ならたぶんあるはずです。これもとてもいいです。


ちなみに、この形式で僕が一番好きなのは、アート・ペッパーという白人アルト・サックス奏者の
●『ミーツ・ザ・リズムセクション
です。
これはスゴい。ピアノ・トリオとペッパーのアルトの4人(カルテット)なのですが、ピアノ・ドラム・ベースは、元マイルス・クインテットの連中。ピアノはレッド・ガーランド。最高です。演奏は「軽快」かつ「切実」。
僕がジャズを聞き始めた頃に買った時には、「なんだ、普通のジャズじゃん」と思いましたが、聴けば聴くほどその深みがわかってくる。ちょっと渋めですが、一生聴けるアルバムです。
どんなに明るい曲を演奏していても、切実な情感があります。
興味があったら買ってみてください。
たぶんフェア商品。


マイルス・デイヴィスなら普通は
●『カインド・オブ・ブルー』
が一番の名作とされています。ピアノがビル・エヴァンス、テナーサックスにジョン・コルトレーン、アルト・サックスのキャノンボール・アダレイというすごいメンバーです。
これは「軽快」っていうよりは「内面性」を大事にしているアルバムかもしれないが、大好きです。
もし、『カインド・オブ・ブルー』をN君に借りて、聴いているのなら、次には
●『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』
という1964年のライブ盤もおすすめ。これはキレイでカッコいいです。
ハービー・ハンコックのピアノ、ロン・カーターのベース、トニー・ウィリアムスのドラムがいい感じで、聴くたびにどこかに連れて行かれそうな気がします。
たぶんフェアには入らないだろうけど、日本盤が1800円くらいで出ています。
マイルスのアルバムはどれもみな、とても映像的で美しいです。


【モンク】
●『セロニアス・ヒムセルフ』
●『ブリリアント・コーナーズ』


セロニアス・モンクは、ヘンなピアニストです。メロディがねじくれてる。アドリブもヘン。でもとても美しいピアノを弾きます。とっつきにくいといえばとっつきにくいが、ハマればこれほどハマる人もいないです。
残念ながらモンクにはピアノ・トリオの名作はあまりありませんが、ソロ・ピアノで弾いた
●『セロニアス・ヒムセルフ』
というとてつもない名盤があります。「軽快」な感じは少しもありませんが、内省的な演奏にはシビれます。ちょっとモタモタしてるけれど、正直な感じがします。
管楽器が入っているのならやはり
●『ブリリアント・コーナーズ』
がオススメ。これほどヘンテコで美しいアルバムは知りません。
どちらもフェア対象商品だと思いますよ。


【定番】
ジャズでは「定番」ってのがいくつかあるのであげておきます。
名作中の名作で、ロックでいったら「サージェント・ペパーズ」、画でいったら「モナリザ」とか「ゲルニカ」、即席ラーメンでいったら「出前一丁」か「サッポロ一番みそラーメン」に匹敵するものです。
まあ、ハズレはないです。


●『サキソフォン・コロッサス』(ソニー・ロリンズ
テナーサックスの巨人、ロリンズの普通すぎるほど普通のジャズ。
  いいアルバムだとは思いますが、ちょっと変化がない。
●『モーニン』(アート・ブレイキー
  ドラム名人の名盤。
  トランペットがリー・モーガンというむちゃくちゃカッコいいプレイをする人です。
  実は僕、このアルバムをちゃんと聴いたことありません(笑)。
●『クールストラッティン』(ソニー・クラーク
  ソニー・クラークという日本でしか人気のないピアニストの名盤。
  本屋「ヴィレッジ・バンガード」の看板になってるジャケットのやつです。オーソドックスな
  ハードバップで、ちょっと泣きのメロディ。
●『枯葉』(キャノンボール・アダレイ
  マイルスが演ってます。しんみりします。
●『バラード』(ジョン・コルトレーン
  テナーサックスのコルトレーンがバラードだけを演奏したもの。
  むちゃくちゃ泣けます。
  僕の学生時代には「下宿に女の子が来たとき用」として、一人一枚この「LP」を持っているのがルールみたいなもんでした(笑)。
  これは買ってもいいかもしれないですよ。


【ジャズの楽しさ】
ロックなんかでは、「曲」を聴きますが、ジャズは「演奏」を聴きます。
例えば「枯葉」一曲でも、演奏する人によってぜんぜん表情が変わってくる。
それが楽しさなわけです。
それにはやはり、メンバーひとりひとりが何をやっているのかをきちんと聴かないと、よくわからないです。一個のメロディをどんどん変奏していく様子を楽しむ。
そのためには一度は、BGMみたいに流さないでスピーカーの前でひたすら演奏を聴く、ってことをしてみてください。
没入してはじめて聴こえてくる音がありますから。


ちなみに、ジャズをオトクに楽しむコツはただひとつ。
「固有名詞をなるべく覚える!」
ってことです。演奏者や、曲名や、レーベル名はなるべく覚えておく。
別に知識をひけらかして自慢するわけではないですよ。


たとえば、あるアルバムを聴いて「あ、今、このトランペット、いいメロディを吹いたな」と思ったら、そのトランペッター名を覚えておく。
で、次にCDショップに行った時に、そのトランペッターがメンバーに入っているCDを買えばいいわけです。
または、イイ曲だな、と思ったら、その曲を他の誰かがやってるCDを聴いてみる。
そういうことを繰り返していくと、だんだんどれを選んだらいいのかのカンが身に付いてきて、無駄なお金をつかわずに済みます(笑)。
でも、楽しいのは、スカをつかまされたり失敗したりすることなので、いろいろ試してみるといいですよ。
とりあえず最初の10枚くらいは、いろんな人に一番好きなアルバムを尋ねて買ってみて、それから何となく自分のカンを働かせて選んでみると面白いよ。


本屋によく「ジャズ名盤100」の類の本が出ているけど、どれも評論家が自分の好みを押しつけようとしてる感じがするので、読まなくていいと思います。それよりは、CDショップでタダでくれるカタログを集めて、いろいろ想像したほうが楽しめます。みんなが誉める演奏や、評論家絶賛の演奏もいいですが、自分にしかわからない音を見つけるのも楽しいです。
男選びといっしょですね。
誰もが好きなキムタクに熱をあげるより、「私だけのあの人」を見つけたほうがいいようなもんです。


【最後に】
いろいろ入門編っぽいのを列挙しましたが、
もし僕が無人島に一枚だけ持っていくのなら
●『ミーツ・ザ・リズムセクション』(アート・ペッパー
ですね。
ただし、その島に電源とCDプレイヤがあるとしての話ですが(笑)。
3枚まで許してもらえるなら
●『カインド・オブ・ブルー』(マイルス・デイヴィス
●『スタイリングス・オブ・シルバー』(ホレス・シルバー
を追加です。
●『バラード』(ジョン・コルトレーン
も隠し持って行くかも知れない。


楽しんでもらえればうれしいです。


実を言うと、ジャズファンっていうのは、こういうオススメをするのがとても好きな種族なのです。
だから、ムチャクチャ長くなりました。すみません。


もし、上の中で一枚でも聴いたら感想を聞かせてください。
「聴いてみたけどつまんなかったぜ、ゴラァ! 金返せ!」てなことにならなければいいと思います。


Places

Places

最初にお薦めされて聴いたブラッド・メルドー『Places』。当時精神的にキツい時期だったが、このCDに随分救われた。