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急がば回れ、選ぶなら近道

2016-04-24

ビットコインとブロックチェーンと分散合意

先日、分散システムをいろいろやっているメンバーで集まって、話題のブロックチェーンとかビットコインやらの勉強会をやってので、まとめておく。

いろいろ意見はあると思うけど、勉強会では問題意識は大体、共有できたと思う。まずは、キーノートやってもらったS社のMさんに感謝申し上げます。すごくわかりやすかった。やはり分散系をやっている人からの解説は、視点とか問題意識が同じなので参考になる。

以下、自分の個人的見解。合っているかどうかはシラン。

1. 現状の「ブロックチェーンとビットコイン」(以下オリジナルとする)は、そのままでは分散合意とは関係ない。

これはクリアだと思う。端的にいうとビザンチン将軍問題とは「まったく関係ない。」 だから「ブロックチェーンとビットコイン」がビザンチン将軍問題の解決になっているという話は、まずは「まとはずれ」だと思う。現状の「ブロックチェーンとビットコイン」は、分散合意は提供も担保もしない。

そもそものトリガーはMarc Andressenのpostが引き金だと思う。
http://blog.pmarca.com/2014/01/22/why-bitcoin-matters/
Bitcoin is the first practical solution to a longstanding problem in computer science called the Byzantine Generals Problem.」って言ってるけど、これは少なくともオリジナルについて言及しているのであれば、200%間違っている。

まずブロックチェーンの仕組み自体は手段でしかない。改ざん防止を強固に提供しているに過ぎない。それを使って合意システムを作るというのであればわかるが、ブロックチェーン自体が合意の仕組みを提供しているわけではない。実際、ブロックチェーンを利用した文書改ざん防止のソフトウェアは、従前から提供されているが、別に合意の仕組みを提供してわけではない。まさに単純な改ざん防止の提供しているだけである。(どの部分の改ざん防止なのか、たとえばコンテンツなのか、通信経路なのか等々についてはいろいろあるとは思うけど。)

次に、ブロックチェーンのアプリケーションである、ビットコインは合意の仕組みを提供しているか、という話であるが、これは結論としては提供していない。より長いチェーンが登場した段階で、短いものについては常に反駁される可能性は理論的には排除できないので、合意は理論的には成立しない。

たとえば、思考実験的に考えてみる。

・あるビットコインの系とその系を構成する部分系Aが存在する。
・その部分系Aとそれ以外の部分系!Aとの通信がA->!Aの単方向にのみ天文学的に無制限に遅延するとする。
・その部分系Aの内部だけで高速にチェーンをつくられるとする。
で、
・それ以外の部分系!Aで作られたTxが一部分岐して、間違った(syntaxとlocalのsemanticsは整合しているがglobalなsemanticsが不整合のような)Txが部分系Aに流れたとする。例によくでるdouble spendingなどがこれに当たると思う。
で、
・天文学的に時間が流れたあとで、なぜか一時的に単方向遅延が解消したとする。
すると、
・かなりの確度でその以外の部分系!Aのチェーンは否決される。(各ノードのlocalなsemanticsが整合している場合は単純にチェーンが長い方を採択するルールによる)
・遅延が解消した時点で合意とか勘違いする人は、天文学的な時間を無限(かならずいつかは到達はするが、時間は無限)とするともっとわかりやすいかもしれない。非同期の分散合意理論では普通に措定される仮定である。

こういうモデルは今のビットコインでは成立することができる。

基本的にビットコインは非同期モデルであり、しかも合意を提供しているわけではない。(合意を提供しない段階で、sync/asyncもへったくりもないのだが、系全体を統括するバリアーがないという意味でasyncに近い)。現実を考慮すれば、単純に、自分のノードの値が否定される確率が時間の経過とともに限りなくゼロになる仕組みと言える。ただしゼロにならないので、(ゼロになるということは、その系で参加している全ノードが同一の値をもつということであり、これが合意(consensus)になる。)よって、合意ではない。

また、確かに障害の種別としてビザンチン障害的なものを想定していて、それを克服?しているように見えなくもないが、そもそもビザンチン障害はすべての障害を含むので、当然にcrashやomission(含む遅延障害)も含む。これらを全部克服しているわけではない。

要するに「ブロックチェーン/ビットコイン」はビザンチン将軍問題を解決もしていなければ、ビザンチン障害も克服していない。そもそもまったく関係がない。

注)改ざんがなければ、最終的に合意する(できる)という間違いについて
ブロックチェーン系の論文で良く見かけるのが、系の中でメッセージの正当性・正確性が明確であれば、最終的には合意できる、という主張だ。場合によってはeventually consistentだといういい方すらある。これは明確に間違いで、まず分散合意はある一定の時間内でどのノード(processes)も同一の値を出力するというのが原則だ。この時間は無限・無制限ではない。必ず(非同期系であっても)定義される。そもそも遅延やcrash障害が各ノードで発生しても、そういったfaulty processesを検出して、non-faultyなprocessesは「すべて」同一の値(またはvector)を出力することがconsensus(合意)であって、それ以上でも以下でもない。「なんかしらんが最終的に合意する」というのは、そんなものは合意でもなんでもない。仮に「いや、でも値は一つしかないのであれば、手続きはどうであれ最終的には合意できるはずだ」という方は、各ノードがそれぞれ遅延とか故障とか起こすとして、であれば「どのようなステップ」で、そのような合意の状態に至るのかを明確にすべきだろう。実は、これが分散合意の理論そのものであり、何十年も研究・試行錯誤されている課題である。そして、ある条件下でなければ合意は担保できないということが証明されている。

2. それでも「合意が」という議論について

総じて、ビット・コイン/ブロックチェーンの現状の議論は、分散システム屋から評判が悪い。たいていの人は「なんだか違和感がある」というのが普通だと思う。

これは、たぶん、「ビットコイン/ブロックチェーン」のオリジナルと、そのalternativeといわれるそのほかのフレームワークとの違いの混同によるものだと思う。現状の「ビットコイン/ブロックチェーン」が合意の仕組みを提供しない以上、普通に考えれば、合意の機能はユーザとしてはほしいし、alternativeにしてもオリジナルに対して、技術的にも優位な機能に見える。

なので、alternativeは、「合意」仕組みの提供に血道を上げるし、そういうアピールをしている。確かに合意が提供できれば「ブロックチェーンをベースにしたビットコインalternativeが、ビザンチン障害を克服し、分散合意の問題をも解決した次世代の仕組みを提供する」という言い方は筋が通るし、実際にできれば画期的でもある。

この時点で、初めて「ビットコイン/ブロックチェーン」はByzantine agreementを相手にすることになる。ということで、メンバーシップどうするんだとか、failure detectorどうするんだとか、遅延どーすんだとか、まぁ数十年にわたり、決めてのない問題を処理する羽目になる。現実には低遅延の仕組みですらそこそこ制限がかかってなんとか合意できるのが現状の技術水準であり、インターネッツのように遅延が大きようなケースでは、制限なしでは不可能というのが現実だ。

ところが、良くある議論は、オリジナルとalternativeをごっちゃにして、おなじ「ビットコイン/ブロックチェーン」として語っていることが多い。それはそうだろう。「ビットコイン/ブロックチェーン」の実績という意味では、alternativeはほとんど実績がなく、現実に影響力をもっているのは、オリジナルの方なのだから。これらを切り離して整理した途端に、実績という意味では、alternativeはメッキが剥がれることになってしまう。

オリジナルは合意は形成せず、しかし、alternativeは合意を売りにしている。合意の有無は、分散システムを少しでも囓ったことがある人には自明だが、javajava scriptほど違う。その意味で、オリジナルとalternativeは、同じ「ビットコイン/ブロックチェーン」と称しているが、実際はまったくの別物だ。分散理論では、非同期の分散合意は制限がない場合は理論上できないことが証明されている(FLP定理)。合意をとるのであれば、現実的には、同期モデルにして各種のfailureに対応することが必須であり、かなりの制約が発生する。普通は、信頼性の低く、かつ、高レイテンシーでの系では現実的には絶望的にスケールしないのが普通だ。

要するに、alternativeは、閉鎖した低レイテンシーの環境下ならともかく、インターネッツでは実績がでるどころか、そもそもちゃんと機能して、ある程度の低レイテンシーを維持しつつ、スケールするかは怪しいと思う。しかし、もはや、かなりのお金が「ビットコイン/ブロックチェーン」には動いてしまっている。いろんなところの株価にも影響してしまっている。いまさら、alternative勢は後には引けない。意図的にオリジナルとごっちゃにしていかにも実績があります、という風に見せる以外に逃げ延びる道はない。なので、わざと議論を混乱させるキライがある。(さらに、「改ざん防止をちゃんとやれば、合意しますよね。」というように合意の問題を改ざん防止に巧み置き換える議論もよく見る。これは意図的だと思う。)

そもそも、オリジナルの「ビットコイン/ブロックチェーン」の面白いところは、分散合意の困難さの解決を、むしろ結果として積極的に放棄するところにあると思う。「合意できない」というデメリットを逆手にとって、「最終的に反駁できる可能性がきわめて低い」という形に利用している。これはP2Pの一つの「形」のように思える。確かにこの方法は、ある一定のセグメントでは有用に思える。(そして、これは多分意図した結果ではない。たまたまハマったという風に見える。その意味でも非常に面白い。)金融のように、とにかくシステムで一意に担保する、ということが必要な仕組みであればまったく役には立たないが、ざっくりでいいので「100%の保証ではないけれど、ある程度、値の担保ができればよい」というものには役にはたつと思う。他方alternativeはこの奇貨をむしろスポイルする方向に見える。しかも、技術的な難易度は非常に高い。はてさて・・・

3. おまけ:オリジナルの「ビットコイン/ブロックチェーン」については過度に政治的なものになっているようにも見える。

ついでの話だが、上記の例では思考実験ということにしているが、実はモデルがある。以下は個人的には面白いなと思っている。

・部分系Aを中国とする
・そのほかの系!Aを欧米・日本とかの金融機関とする
・現状Minerの大半が中国である、ので、中国内部では活発にBitCoinが志向されているのは明らか
・で中国当局は、自国の金融商品通貨の持ち出しは規制したいとする
中国当局はインテーネッツとか人力で制限できるとする。

んで、どうなるかってのが、個人的な興味である。基本的にasyncであるので、中央集権的に否定することは理論上できない。今の中国国内の「お金持ち」が何を考えるか?は容易に想像はできるが、・・・・実際はこういう話ではないと思うけど、思考実験としては面白いなと思っている。すくなくとも、現在のMinerの大半が中国というのは、いろいろ考えると興味深い。

・・ま、いずれにしろ、「ビットコイン/ブロックチェーン」はいろんな意味で確実にババヌキの展開になっていると個人的には思う。
(以上は自分の個人的な見解なんで。読んでる人は各自自分でちゃんと考える事をお勧めします。コレを機に分散合意についていろいろ調べるといいかもしれません。・・とにもかくにも、合意(consensus)の話がいつの間にか改ざん防止の話になっていたら注意したほうがいいとは思いますよ。)

以上です。