子ども店長

みちくさ市無事終了。雨かと思われたが、なんと秋晴れの申し分ない天気。
5時過ぎに目覚めたのに、ぼんやりして外出するのが遅くなった。商店街に行くと、もうみんな準備を始めている。鬼子母神「手作り市」の客と、「みちくさ市」目当てのお客さんで、人の姿が絶えることがなかった。
ぼくはこの日よく売った。持参した新刊は昼過ぎにははけ、これが約1万円。古本も3万8000円以上売ったから、5万近い売り上げとなった。余は満足じゃ。
残った本は例によって、善行堂へ送る。
お客さんとのやりとりで印象に残ったことはいくつもあるが、書く元気がない。隣りの石原さんがジュニアを連れてきて、彼がまた声をあげて、客をうまく呼び込む。そのつど「子ども店長です」と言って笑いを誘う。
元気が出たら、続きを書きます。

この日、売っていておもしろかったのが、もちろんぼくのことなどまったく知らないお客さんが大勢きて、そのなかに「おじさん、おじさん」とぼくを呼ぶ若い女性二人組がいた。「いつも、ここに出てんですか」と聞くから、「明日は仙台、そのあとは青森だよ。これで全国回って稼いでるの」「へえ、すごい!」とやりとりをしたあと、「じつは」と、一番前に積んだ『あなたより貧乏な人』を指差し、「これはぼくが書いたんだ」と正体をばらして驚くのを喜ぶ。バカですねえ。
いかにも本を読みそうにない、長い髪の毛を染めた可愛い女の子が、これください、と差し出したのが吉行淳之介編『プレイボーイ傑作短編集』。「ふぇえ」と驚いていると、隣りで石原くんが「うちでは、かのじょ、長谷川如是閑を買ってくれたんですよ」と御注進。ううむ、見かけで人は決められません。
これは別の若い女の子。新潮文庫村上春樹海辺のカフカ』上下をじっと見ている。話しかけると、なんでも春樹が大好きで、でも「カフカ」は「上」しか読めなかった。どうしよう。「1Q84」もまだ読んでいない。好きすぎて、怖くて、読めないんだそうだ。「でも「カフカ」はよかったよ」と話しかけると、「じゃあ、せっかくだから続きを読んでみます」と言って買ってくれた。「上」は持っているだろうに、上下巻セットなので、二冊とも買ってくれた。これもいい感じの会話だった。
初めての人と、本を通じて会話する、というのは普通ちょっと考えられない。それだけ、一箱やみちくさが貴重な場になっている。
みなさん、お待ちかねの「ハ」くんもやってきた。彼のために用意した安岡章太郎の古い随筆集(風間完イラスト)をすすめる。500円だったが、学割にして300円で買ってもらう。もう一冊、シブい文庫を買っていった。
250円と300円を中心とした文庫をたくさん持っていったが、最初なかなか売れず、ちくま文庫を固めたり、村上春樹をくっつけたり、並べなおす。すると動き出した。
客の目になって、どうすれば、たくさんある本が、集中して見られるかを研究すべし。