山崎まさよしの「区役所」という秀逸な歌に「日陰の雪が残っている」という一節があるが、その通りの雪後の日。午前中に、レギュラーのサン毎原稿を送り(綿矢りさ『意識のリボン』ほかを取り上げる)、外出。日陰の道は雪が凍結し、ガリガリと凍って危ない。慎重に。
少し早く出て、本当にひさしぶりに「ギンレイ」。イラン・フランス映画「セールスマン」を見る。最初から最後まで、予測を裏切る展開で、むむむと惹き付けられる。ジャンルで言えば、サスペンスとなろうが、夫婦間の微妙な意識の違いを描いているあたり、短編小説の味わいがある。最初っから、コンクリート建築のアパートの住人が、「逃げろ」「急げ」と言い出して、みんな取るものも取りあえず、階下へ降りていく。すわ地震か、と思うが、どうやら隣接する空地をコンベアが掘り返し、それでアパートの壁に亀裂が入る等の支障をきたしたということらしい。何があったかと思ったが、このアクシデントが、全編の行方を暗示している。何気ないシーン。ぎゅうぎゅうに定員ぎりぎりで乗ったタクシーの後部座席で、主人公格の小劇団の俳優にして教師の男性の隣りに座った、スカーフをした女性が、「くっつかないで、前の人と座席を替わって」と、言い出すシーンがあり、何事成らんと思ったら、どうやら、イランのタクシーは相乗りが基本ということらしい。
いろいろ刺激を受けるサクヒンに堪能して外へ出て、15分かけて九段下まで歩く。一山超えるという感じか。けっこうな運動量。武道館を前に、九段下まで歩き出すと、ハルキ事務所の懇意にしている編集者Nくんとばったり、言葉を交わす。「また、一杯やろう」と言って、彼の場合は社交辞令にならず、実現する仲である。サン毎で本選び。前回、うかつなことに、選書した本に集英社が複数重なり、最後、調整に四苦八苦した。今回は、意識して、バラけるよう心がける。この選書作業が楽しい。帰り、荻窪下車「ささま」へ。均一、店内ともに、一冊も拾えず、こういうこともあるのかと思う。年明けから再読してた大原富枝の洲之内徹伝、車中で読了。洲之内徹とは、生涯のつき合いになりそうだ。夜は、昨夜発作的にタマネギを炒めて仕込んだ父カレー、丸一日寝かせて家族で食べる。ぼくと娘が少量お代わりをして食べ切る。水600リットルだと、食べ切る感じになるのか。
週末、大阪行きの往復新幹線の指定切符を取る。創元社の仕事の打ち合わせ当日、午前からの始動となるので、前乗りでホテルを取ってもらった。よって、乗り込んだ日に「古通」用の古書店取材をついでにする。移転したなんば「天地書房」、上本町「一色文庫」へ行けば、なんとか一回分書けそう。夜は高校時代からの親友Sと京橋あたりで、飲み、食い、歌う予定。
こう書くと、忙しく、実入りもいいように思われるかも知れないが、各種税金を滞納し、払えないでいる。ついつい酒量が増える。