教育目的利用〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(4)〜

登録商標一覧?〜著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(1)〜
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050324#1111595733
著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(2)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050406#1112753849
著作権等の知的財産権関連の質問とその回答(3)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050410#1113141421

シリーズ化してます。「はてな」の質問への回答。
実は、回答することよりも、これを素材にいろいろ分析したいだけなんですけどね。
(あとは見解の相違では済まされない、明らかに誤解した回答に対する注意喚起。)

 大学で授業する際の、資料の利用等に関して、著作権に対する配慮をどのようにすれば良いか、知りたいと思っています。 特に、教育機関での経験者の方の見解、教育機関の公式見解等が分かれば大変ありがたいです。 宜しくお願いいたします。

回答の必須としては、第35条第1項。
まずは、著作権法第35条(昭和四十五年五月六日法律第四十八号)。

(学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条  学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

まぁ、第35条第2項も最近新設されましたが、インターネットを講義をする場合の規定なので、今回は割愛したいと思います。
ということで、第35条第1項について。
この点については、回答でも紹介されているURLを確認すれば、おおまかなことはわかります。
http://osaka.yomiuri.co.jp/nie/tebiki/040210.htm
作花教授の解説なので、かなり無難なところです。
http://www.cric.or.jp/qa/cs01/cs01_2_qa.html
もCRICのものでかなり無難なところ。
このへんを確認しておけば実務レベルではまぁ、いいんじゃないでしょうか?
ただ、大学の場合大きな問題は、

大学は講義によっては何百人の授業もあり、論者によっていろいろな解釈が示されている。2百、3百部では35条の範囲を越えるという学者もいれば、40、50部を越えれば、大学でも35条違反だという論者もいる。
http://osaka.yomiuri.co.jp/nie/tebiki/040210.htm

という点。
大学はダメだという議論は法文からしてどうかと思うが、
例えば、加戸守行『著作権法逐条講義四訂新版』255頁(著作権情報センター,2003)は、
「大学教授の講義の受講者が300人いるから学生用にそれだけの部数を印刷するということも認められません。」としている。
受講生に1人1部ずつであれば、受講生が多いからというだけで、本条にいう複製とは認められない、
というべきではないように思われる。
そうはいっても、初等教育機関に比べて大学で、どれほど教授がわざわざ文献を複製して配布する必要があるのかは疑問だが、
(学生は配ってくれた方がありがたいと思っているが…)
分量については、市販の演習本を複製してを配るような場合には、ごく限られたページであって、
継続的に利用する場合には、原則購入させるべきだろう。
一方、希少な医学書とか、海外文献などは、多くのページをコピーしても問題ないと考えられる。
田村善之『著作権法概説第2版』237-238頁参照(有斐閣,2001)
最終的にはケースバイケースだが、大学での許容性は、小中高教育向け解説よりは厳格になってもやむを得ないかもしれない。
ちなみに、厳密にいえば、この条項は複製行為だけを許容しています。
複製物を公衆に頒布する行為は、

(複製権の制限により作成された複製物の譲渡) 
第四十七条の三  第三十一条第一号、第三十二条、…第三十五条第一項、第三十六条第一項、…の規定により複製することができる著作物は、これらの規定の適用を受けて作成された複製物(…)の譲渡により公衆に提供することができる。ただし、第三十一条第一号、第三十三条の二第一項、第三十五条第一項、…の規定の適用を受けて作成された著作物の複製物(…)を、第三十一条第一号、…、第三十五条第一項、…に定める目的以外の目的のために公衆に譲渡する場合は、この限りでない。

により許容されます。ただし、35条で複製したものを授業の目的外に頒布してはいけません。


なお、

(翻訳、翻案等による利用)
第四十三条  次の各号に掲げる規定により著作物を利用することができる場合には、当該各号に掲げる方法により、当該著作物を当該各号に掲げる規定に従つて利用することができる。
一  第三十条第一項、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十四条第一項又は第三十五条 翻訳、編曲、変形又は翻案

ということなので、翻訳や翻案をして複製利用できる。
ただし、大学教育であることからすれば、翻案の際に問題となる同一性保持権は、初等教育に比べ厳格に解されよう。


板書も複製であるが、35条により許される。
また、テキストの音読は口述、語学の授業でテープを再生するのは演奏であり、

(営利を目的としない上演等)
第三十八条  公表された著作物は、営利を目的とせず、かつ、聴衆又は観衆から料金(いずれの名義をもつてするかを問わず、著作物の提供又は提示につき受ける対価をいう。以下この条において同じ。)を受けない場合には、公に上演し、演奏し、上映し、又は口述することができる。ただし、当該上演、演奏、上映又は口述について実演家又は口述を行う者に対し報酬が支払われる場合は、この限りでない。

により認められる。


教育利用についてはいずれきちんと書きたいが、せっかく質問にあったので、少しだけ。
細かい部分はおいおい。
引用については、論文等書くのに知っているはずなので、ここでは割愛。
教育目的もそうでなくても、「引用」は「引用」なので、なんら差異はありません。
引用と35条の話は別の話で混同されないようにご注意下さい。
ちなみに、出所明示については、

(出所の明示)
第四十八条  次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一  第三十二条[引用]……の規定により著作物を複製する場合
二  (略)
三  第三十二条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合又は第三十五条[教育目的の複製]、第三十六条第一項、第三十八条第一項、……の規定により著作物を利用する場合において、その出所を明示する慣行があるとき。
2  前項の出所の明示に当たつては、これに伴い著作者名が明らかになる場合及び当該著作物が無名のものである場合を除き、当該著作物につき表示されている著作者名を示さなければならない。
3  第四十三条の規定により著作物を翻訳し、編曲し、変形し、又は翻案して利用する場合には、前二項の規定の例により、その著作物の出所を明示しなければならない

とありますので、
引用して複製する場合には義務的、引用して複製以外の場合や35条の場合などは「慣行」により必要となります。


作花教授のいわゆる教科書
加戸氏と同じ行政官僚系だけど、教授もしているだけあって、加戸逐条より好感持てます。
ちょっと判例がニックネーム索引などが許せませんが…。
最新版だけ、以下に掲載しますが、初版(2000)第2版(2002)もあります。

詳解著作権法

詳解著作権法

一応教育向けにこんなのもあります。

教師のための著作権法入門

教師のための著作権法入門

※加戸守行氏の『著作権法逐条講義四訂新版』(著作権情報センター,2003)のISBN
 書籍の奥付では、4-88526-046-Xなのに、ネットでは4-88526-040-X。
 どちらが正しいのでしょう?