私的録音補償金制度について

このブログは、著作権について触れることは多いけど、あまり立法論は触れていない。
個人的な興味は解釈的なところにあるからなのだが、私的録音録画補償金ついて少し触れる。
もととなる参考記事は、

2005/07/28 21:21 更新
速やかに「iPod課金」を――音楽関係7団体が強く要望
http://www.itmedia.co.jp/lifestyle/articles/0507/28/news106.html

である。
この記事での記述をもとに、その主張の妥当性を考えてみたい。

日本音楽著作権協会ら音楽関係の7団体は7月28日、都内で記者会見を実施。iPodなど私的録音補償金制度の対象にされていないHDDオーディオについても、政令指定によって同制度の対象に含めるべきと強く訴えた。
会見に出席したのは日本音楽著作権協会のほか、日本音楽事業者協会音楽出版社協会日本芸能実演家団体協議会日本レコード協会、音楽製作者連盟、日本音楽作家団体協議会。この制度の対象はDAT/DCC/MD/CD-R/CD-RW/DVCR/D-VHSDVD-RWDVD-RAMの各メディアと対応機器で、iPodなどHDD/フラッシュメモリプレーヤーは含まれていない。得られた補償金は権利者団体を通じて各権利者へ分配されるほか、著作権制度についての教育や助成事業などにも使われている。
著作権法第30条では私的複製を認めているが、極めて零細な使用に限られている。(複製の完全禁止と無制限の複製許可のどちらでもなく、利用者によって有益な)私的複製のバランスを保つために用意されているのが補償金制度であり、音楽の創作サイクルのため、必要であると考えている」「政令指定をしないまま現状を放置することは、文化芸術の振興を妨げる。対象となる機器と記録媒体について、速やかに政令指定すべきであると考えている」

確かに、30条の趣旨のひとつとして「極めて零細な使用」だから、というころをあげることができる。
しかし、デジタルがアナログに比べて複製が容易だからといって、その利用が「極めて零細な使用」でないとはいえない。
今までカセットに録音していたのを、MD、iPodにいれるのとどのような違いがあるのか?
何の違いもない。いずれも「極めて零細な使用」である。
この点を強調しても、なんら補償金を導入するべき理由とはならないのである。
また、「政令指定をしないまま現状を放置することは、文化芸術の振興を妨げる。」というが、本当か?
筆者は、このような複製を認めていろいろな側面で個人的に利用することが文化の発展であると考えている。
科学技術の発展における文化享受の幅が広がったのである。
にもかかわらず、これに補償金を課金するのは、むしろこれを阻害する行為ではないかと思うのである。
主張するのは勝手であるが、この主張には、合理的な根拠がないと言わざるを得ないであろう。

日本音楽著作権協会吉田茂 理事長はこう述べ「私的複製の制限については、ベルヌ条約著作権に関する国際条約)にも記載されており、日本でHDD/フラッシュメモリオーディオなどに関する補償金制度がないのは条約違反ですらある」と、iPodなどを私的録音録画補償金制度の対象に含めるよう、強く主張した。

おそらくここでいうベルヌ条約規定は9条(2)である。

文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約
第九条 〔複製権〕
(1) 文学的及び美術的著作物の著作者でこの条約によつて保護されるものは、それらの著作物の複製(その方法及び形式のいかんを問わない。)を許諾する排他的権利を享有する。
(2) 特別の場合について(1)の著作物の複製を認める権能は、同盟国の立法に留保される。ただし、そのような複製が当該著作物の通常の利用を妨げず、かつ、その著作者の正当な利益を不当に害しないことを条件とする。
(3) 録音及び録画は、この条約の適用上、複製とみなす。
http://www.cric.or.jp/db/z/t1_index.html

確かに制限は書いてあるが、その制限をどう具体化するかは、各国の立法裁量である、と、
少なくとも地裁判決は解している。

まず、ベルヌ条約九条(2)の規定と著作権法三〇条一項との関係をみると、同法三〇条一項は、同条約九条(2)本文が特別の場合に著作者等の複製権を制限することを同盟国の立法に留保していることを受け、右複製権の制限が認められる一態様を規定したものということができるから、同条約九条(2)との関係においては、同法三〇条一項が同条約九条(2)ただし書の条件を満たすものであることが必要である。しかしながら、具体的にどのような態様が右条件を満たすものといえるかについては、同条約がこれを明示するものではないから、結局のところ、各同盟国の立法に委ねられた問題であるといわざるを得ない。そして、右のような同条約九条(2)を具体化するものとして規定されている同法三〇条一項は、それが同条約九条(2)ただし書の条件に沿うものであるとの前提の下で、前記(一)のような要件の下における複製を複製権に対する制限として認めることを規定しているというべきである。したがって、著作権法によって認められる私的使用のための複製であるか否かを論じるに当たっては、同法三〇条一項の規定に当たるか否かを問題とすれば足りるものであって、同条項の背景となるベルヌ条約の規定を持ち出して、その規定に当たるか否かを直接問題とするまでもないというべきである。したがって、原告らの前記主張は、その立論の前提において誤りがあるといわざるを得ない。
東京地判平成12年5月16日(スターデジオ事件)
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/Listview01/5008B40986875AE549256A77000EC427/?OpenDocument

結局は、補償金制度が著作者の正当な利益を不当にすることになるのかどうかということに尽きる。
なぜ条約に違反するのかということを主張する必要がある。


このようにざっとみると、iPod課金の合理性がないばかりか、
そもそも補償金制度の合理性自体、権利者側の主張からは疑わしい。
本稿では、itmediaの記事からの考察しかしていないが、
このような理由(のみ)で私的録音録画補償金制度が維持されているとすれば、
賢明な国民の判断としては、そのような制度は不要であるという判断に至らざるを得ないのでは?と思う。


そもそもの勘違いは、著作権法の趣旨は、著作権ここでは複製権を保護することにあるのではない、
ということである。
あくまで文化の発展のために、著作権という財産権を創設したところになる。
これをどのような局面で保護するべきかは、1条の目的に即して判断するべきなのである。
権利者団体が、「権利を保護しないことが文化の発展を阻害する」と主張している時点で、
著作権を誤解しているとしか思えない。
このような誤解をしている人間が権利者団体にいる間は文化の発展は望めないように思う。
以上あくまで記事を読んでの感想である。

棋泉vs米長邦雄訴訟(8)第2回口頭弁論は延期?非公開期日?

棋泉vs米長邦雄訴訟
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050520/1116520052
棋泉vs米長邦雄訴訟(2)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050521/1116607505
棋泉vs米長邦雄訴訟(3)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050523/1116786786
棋泉vs米長邦雄訴訟(4)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050525/1116955919
棋泉vs米長邦雄訴訟(5)/法律書の発行差し止め(2)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050526/1117047990
棋泉vs米長邦雄訴訟(6)第1回口頭弁論(2005.6.21)
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050622/1119381587
棋泉vs米長邦雄訴訟(7)訴状要旨と答弁書公表
 http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050630/1120062959

第二回口頭弁論があったような、なかったような?

今日は第二回口頭弁論なのですが 投稿者:マリオ 投稿日:2005/07/26(Tue) 11:23 No.8273
マリオは今日は館林でTVの仕事があり、第2回口頭弁論の傍聴に行けません。
いつもですと、傍聴に来てくださる方に裁判資料のコピーをお渡ししているのですが、後でマリオ武者野のホームページで公開しますのでご了承ください。
待った専門さん他傍聴の方、様子を聞かせてくださいませ。

                                                                                                                                              • -

Re: 今日は第二回口頭弁論なので... まった専門 - 2005/07/26(Tue) 18:41 No.8301
今日は開廷されず延期となったようです。
裁判所に確認せずに出向いた私が悪いのですが、本日の東京地裁民事47部は午後1時半からの1件があるだけでした。延期はよくあることですが、延期された理由は何でしょうか。裁判所に確認すれば良いのですが、延期となった期日を教えて頂ければ幸いです。

                                                                                                                                              • -

Re: 今日は第二回口頭弁論なので... ? - 2005/07/26(Tue) 19:57 No.8304
こりゃあいったい、どういう事?

                                                                                                                                              • -

Re: 今日は第二回口頭弁論なので... マリオ - 2005/07/27(Wed) 03:25 No.8317
いやあ〜ビックリ。
午後1時頃に弁護士さんと「仕事があり、いけませんがよろしく」というやりとりをしたばかり。その時点では弁護士さんも延期については何も触れていませんから、東京地裁には行ったと思いますよ。
昼になったら延期に至る事情を聞いてみます。
ちなみにマリオ武者野HPの雑記帳を更新しましたので、よろしければご覧ください。

                                                                                                                                              • -

米長被告の実刑判決は? YY - 2005/07/27(Wed) 13:01 No.8324
米長被告の著作権侵害の罪による実刑判決の日程は、スケジュール的に、いつ頃になるのでしょうか?
よろしくおねがいします。

                                                                                                                                              • -

Re: 今日は第二回口頭弁論なので... マリオ - 2005/07/27(Wed) 13:17 No.8325
記者会見や公判が終わりますと、代理人の弁護士に浴びせられる質問で一番多いのがこれですね。
それらの問答を総合すると「今回の訴訟は被告が『(互いのソフトが)ほぼ同一であることを認める』など比較的争点の少ない案件ですので、通常ですと半年以内には和解勧告が出ると思います。それをどちらかが拒否してあくまで結審を求めるとすれば、それ以降の争点の多さによって決まってきます」このようにマリオは理解しています。
なお、海賊ソフト等の制作禁止を規定した不正競争防止法違反ですと分かりませんが、著作権侵害は(禁固などの)実刑のない法律違反だと伺っています。

                                                                                                                                              • -

http://www.koma.ne.jp/joyful/joyful.cgi
http://www.koma.ne.jp/joyful/joyful.cgi

結局、延期(期日取消し?欠席?…?)だったのか、まさか裁判所の掲示ミス?
もしかして単純に非公開期日だっとか?まった専門さんも聞き落としていた?


ところで、最後のマリオ氏の発言はよくわかりません。
その前の発言。わざとなのか、なんなのかわかりませんが、
民事上の被告と、刑事被告人は別で、これはあくまで民事です。
親告罪なので、告訴して、起訴されないかぎり、刑事被告人にはなりえません。
したがって、「実刑判決の日程は、スケジュール的に、いつ頃になるのでしょうか?」に対して、
代理人の弁護士に浴びせられる質問で一番多いのがこれ」というのはさっぱり意味不明です。
法律を普通に知っている人はこういう勘違いはないと思うので、一番多いということはないですね。
一方で若い勧告とかいっていて、民事と刑事の混同甚だしいですね。
また、仮に著作権法違反で起訴されたとして、「実刑がない」といいきることはできません。
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/0403/30/news038.html
 http://pcweb.mycom.co.jp/news/2004/03/30/017.html
きわめて悪質な海賊版事件なので、今回の事件で仮に著作権侵害で起訴されて、有罪だとしても、
同様にはならないでしょうけど…。
さらに「(禁固などの)実刑のない」ということからすれば、「実刑」の意味も勘違いしているような気がします。
実刑というのは、執行猶予のない有罪判決をいうので、禁固でも執行猶予がつけば実刑ではないです。
ちなみに、刑事事件とのしての著作権法は、懲役、罰金であって、禁固はありません。
基本概念を理解せずに、著作権違反だ、といってみても、
(たとえそれが正しくても)一般に向けのアピールとしても説得力は低くなってしまいます。
注意された方がいいのでは?


と書いてマリオ氏の発言をまっていると、

Re: 今日は第二回口頭弁論なので... ? - 2005/07/28(Thu) 21:04 No.8348
なるほど・・。しかし延期にしろ、前日にキャンセル?(そんなの無理ですよね?)にしろマリオ氏も知らなかったというのはおかしいですね・・

                                                                                                                                              • -

Re: 今日は第二回口頭弁論なので... xxx - 2005/07/28(Thu) 22:48 No.8351
結構いい加減な話ですなぁ・・。確か記者会見までして開始した訴訟なのに。もうどうでもいいんですかね(既に目的を達したから?いや達しなかったからかな?)。

                                                                                                                                              • -

Re: 今日は第二回口頭弁論なので... かわさき - 2005/07/29(Fri) 00:59 No.8353
双方とも当事者が出席せず、弁護士としては書面を提出すれば事足りるというケースなら、法廷を使う必要がないため上記のような結果となったということもありうることでしょう。
民事の法廷ではよくある話ですし、最初と最後以外は、出廷しても交互に裁判官に呼ばれて個別に話をすすめて双方の言い分を聞くという方法もあるようです。

                                                                                                                                              • -

Re: 今日は第二回口頭弁論なので... TN - 2005/07/29(Fri) 01:23 No.8354
ひどいと思う第1点
>米長被告の著作権侵害の罪による実刑判決の日程は、スケジュール的に、いつ頃になるのでしょうか?(YY 2005/07/27 13:01 No.8324)
に対し、
>記者会見や公判が終わりますと、代理人の弁護士に浴びせられる質問で一番多いのがこれですね。
と応じて
>・・・通常ですと半年以内には和解勧告が出ると思います。それをどちらかが拒否してあくまで結審を求めるとすれば、それ以降の争点の多さによって決まってきます」このようにマリオは理解しています。
なお、海賊ソフト等の制作禁止を規定した不正競争防止法違反ですと分かりませんが、著作権侵害は(禁固などの)実刑のない法律違反だと伺っています。(マリオ 2005/07/27 13:17 No.8325)
と回答。
民事訴訟では罰金も「実刑判決」もある筈ないのに、それがあるような故意または無知による書き込みに対し、「実刑のない法律違反だと伺っています」と応じてる。マリオ氏が「実刑ではなく罰金刑」なんて思ってるとしたら、「あなた、金銭請求の民事訴訟を起こしてるんじゃないの」と呆れるし、刑事事件でなく民事事件であることを承知の上でのことだとしたら、YY氏に輪をかけて読み人を迷わすひどい書き込みです。
ひどいと思う第2点
刑事事件と仮定していうならば、著作権侵害不正競争防止法違反も、3年以下の懲役又は300万円以下の罰金です。上記の「・・・と伺っています」とは、誰からそんないい加減な話を「伺った」のでしょうか。
ひどいと思う第3点(ただし推測)
第1回口頭弁論で、「弁論準備手続」をすることになり、その期日が7月26日だったのではないでしょうか。弁論準備手続は、争点の整理などをやるもので、口頭弁論と違い非公開です。もしもそうだったとすれば、「次回の口頭弁論は」なんて説明したり、そのような書き込みを放置しておいて、人に裁判所まで無駄足をさせるというのはひどい話です。代理人と本人との間の意思疎通不足が招いた事態といわざるをえません。
ただし、これはあくまでも仮定の、「もしもそうだったとすれば」の話です。いずれにしても、マリオ氏にはもう事情がお分かりの筈です(まった専門さんたちを困らせながら、2日経っても代理人から事情を聞いてないとすればこれもひどい話)。

とあった。TN氏の発言に同意。

追記:

Re: 今日は第二回口頭弁論なので... マリオ - 2005/07/29(Fri) 11:39 No.8361
仕事している合間ですので走り書きで失礼します。
前回弁論の最後に裁判長が「次回は7月26日午後3時から準備会で」と宣言したのだそうです。
この準備会というのは非公開だそうですから、TNさんのおっしゃる、「弁論準備手続」のことだと思います。
こうした詳しい事情を知らない私は、前回どおりの方法で裁判が行われると思い込んでおりました。無知によりご迷惑をおかけし誠に申し訳ございません。

だそうで、やっぱり非公開期日。


さて、どこまで彼の言葉を信用していいのかは疑問ですが、
どうやら争点は、同一部分の著作物性(創作性)ということのようです。
http://www.koma.ne.jp/mario/の2005年6月21日(火)には、

初公判
米長氏の著作権侵害によって被った損害を賠償請求した訴訟の第一回公判(民事では口頭弁論と言うそうです)が東京地裁で行われた。
これに先だって米長氏側から答弁書が提出されていたが、写真にあるようにこちらが主張する経過やソフトの同一性をほとんど認めている。
最大の反論は「セミナー21には創作性がない。よって著作権が存在しないので侵害はしていない」という趣旨。
こういう主張が通ると、すべての入門本やソフトは著作権が存在せず、海賊版フリーという革命的な判決が出ることになるが果たして……
詳しくは左メニューに『米長永世棋聖からの答弁書』という項目を作ったたので、興味のある方はそちらをどうぞ。

書面主義
生まれて初めて裁判に臨んだ。
裁判官は3人。内裁判長も含め2人が女性で、原告側が提出した訴状と資料として『セミナー21』と『みんなの将棋』の同一画面を40図(20対)ほど添付しておき、被告側も答弁書には「ほぼ同一内容であることは認める」と明記してあったのだが、裁判長は「資料のどれとどれが同一で、どれが創作性のある部分なのかをはっきりさせてください」と原告側の代理人に注文をつけていた。
閉廷後担当弁護士に解説をしてもらったところによると、「図面(盤面配置図)にどのような意味があるのか、にわかには理解できない感じでしたね。日本の裁判所は書面主義ですし、ソフトに収録された文言に重点を置いてなるべく多く文書化していただけますか」とのこと。はいはい。

とあります。
この点は、答弁書に関して以前に書いたのでそちらを参照ください。
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050630/1120062959
繰り返しになりますが、ちょっとこの原告は著作物とは何かという本質的な部分はわかっていないな、
という感じはします。
実際難しいところなんですけど、総論を創作性云々を感覚としてでも、体感していないうというのは、
立証していく上でしんどいように思います。
その点を理解していないと、単にソフトを文書化しただけで、創作性のある部分の同一性の有無について、
伝わらない、ということになってしまいかねません。
自分で調べることが可能な筆者だって、原告の主張がよくわからないのだから、
弁論であらわれたことをもとに判断する裁判所がどれだけ原告の主張を理解するか、
弁護士さんがうまくフォローしないといけないように思います。


また、2005年7月19日(火)には、

米長永世棋聖による著作権侵害裁判。
2度目の口頭弁論に向け、弁護士が「侵害された対象はソフトであるが、裁判官への説明のために極力書面化しましょう」ということで、初級編・中級編・上級編の収録内容をほとんどテキストファイル化し印刷した。
どれも240ページ程度の講座と問題・解答集であり、この1ヶ月で3冊の本を書いたような忙しさだった。
何とか提出期限の20日に間に合い、証拠資料として受理された。これは手元に残しておくための正式控えだが、被告や裁判官用として合計6セット必要で、和綴じ本の制作を手伝ってくれた弁護士事務所の職員さんにも感謝。

とあります。
単にテキストファイル化して印刷しただけでどれだけ裁判所が理解くれるのか、
そんな大量になれば読む方も大変です。
しかも「“ほぼ”同一」であることはそもそも争いがないわけで…。
その同一の部分が創作性があるという必要があるわけです。


以前に紹介した法律書に関する同裁判書の判決を見ると、
http://d.hatena.ne.jp/okeydokey/20050526/1117047990

東京地判平成17年5月17日平成15年(ワ)第12551号等著作権民事訴訟事件
http://courtdomino2.courts.go.jp/chizai.nsf/c617a99bb925a29449256795007fb7d1/a28ba7375312b52f4925700a002ad420?OpenDocument
(2) 本件における原告各文献及び被告各文献のような一般人向けの法律問題の解説書においては,それを記述するに当たって,関連する法令の内容や法律用語の意味を整理して説明し,法令又は判例・学説によって当然に導かれる一般的な法律解釈や実務の運用等に触れ,当該法律問題に関する見解を記述することが不可避である。
  既存の著作物とこれに依拠して創作された著作物との同一性を有する部分が法令や通達,判決や決定等である場合には,これらが著作権の目的となることができないとされている以上(著作権法13条1ないし3号参照),複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。そして,同一性を有する部分が法令の内容や法令又は判例・学説によって当然に導かれる事項である場合にも,表現それ自体でない部分において同一性を有するにすぎず,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。
  また,手続の流れや法令の内容等を法令の規定に従って図示することはアイデアであり,一定の工夫が必要ではあるが,これを独自の観点から分類し整理要約したなどの個性的表現がされている場合は格別,法令の内容に従って整理したにすぎない図表については,誰が作成しても同じような表現にならざるを得ない。よって,図表において同一性を有する部分が単に法令の内容を整理したにすぎないものである場合にも,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。そのように解さなければ,ある者が手続の流れ等を図示した後は,他の者が同じ手続の流れ等を法令の規定に従って図示すること自体を禁じることになりかねないからである。
  さらに,同一性を有する部分が,ある法律問題に関する筆者の見解又は一般的な見解である場合は,思想ないしアイデアにおいて同一性を有するにすぎず,思想又は感情を創作的に表現した部分において同一性を有するとはいえないから,一般の法律書等に記載されていない独自の観点からそれを説明する上で普通に用いられる表現にとらわれずに論じている場合は格別,複製にも翻案にも当たらないと解すべきである。けだし,ある法律問題についての見解自体は著作権法上保護されるべき表現とはいえず,これと同じ見解を表明することが著作権法上禁止されるいわれはないからである。
  そして,ある法律問題について,関連する法令の内容や法律用語の意味を説明し,一般的な法律解釈や実務の運用に触れる際には,確立した法律用語をあらかじめ定義された用法で使用し,法令又は判例・学説によって当然に導かれる一般的な法律解釈を説明しなければならないという表現上の制約がある。そのゆえに,これらの事項について,条文の順序にとらわれず,独自の観点から分類し普通に用いることのない表現を用いて整理要約したなど表現上の格別の工夫がある場合はともかく,法令の内容等を法令の規定の順序に従い,簡潔に要約し,法令の文言又は一般の法律書等に記載されているような,それを説明する上で普通に用いられる法律用語の定義を用いて説明する場合には,誰が作成しても同じような表現にならざるを得ず,このようなものは,結局,筆者の個性が表れているとはいえないから,著作権法によって保護される著作物としての創作性を認めることはできないというべきである。よって,上記のように表現上の創作性がない部分において同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらない。
  他方,表現上の制約がある中で,一定以上のまとまりを持って,記述の順序を含め具体的表現において同一である場合には,複製権侵害に当たる場合があると解すべきである。すなわち,創作性の幅が小さい場合であっても,他に異なる表現があり得るにもかかわらず,同一性を有する表現が一定以上の分量にわたる場合には,複製権侵害に当たるというべきである。
 本件において著作権侵害を判断するに当たっては,これらの観点から検討する必要がある。

としており、必ずしも同一には論じられないが、ある程度参考になろう。
また、

(3) 原告は,自ら原告各文献を別紙対照表1ないし3記載の各番号に記載された各部分に分けた上,個々の原告各表現における文章ないし図表が著作物に当たり,被告各表現がそれぞれこれを侵害する旨主張するところ,いかなる単位で著作権侵害を主張するかは原告の処分権の範囲内の事項ということができる。

だそうなので、創作性のあるどの部分に付いて同一性があるのか、しっかり主張する必要があるようです。
印刷しただけではどうなの?あとは弁護士がするかもしれんけど…。

文字・活字文化振興法が公布・施行

官報目次
 平成17年7月29日付(号外 第171号)

                                                                                                                                              • -

〔法  律〕
○文字・活字文化振興法(九一) ……… 12

国立印刷局官報(平成17年7月29日付(号外 第171号))※〜2005.8.5朝まで
 http://kanpou.npb.go.jp/20050729/20050729g00171/20050729g001710000f.html
衆議院/議案審議経過情報
 http://www.shugiin.go.jp/itdb_gian.nsf/html/gian/keika/1D9AF1A.htm


この法律について、思うところ。

(目的)
第一条 この法律は、文字・活字文化が、人類が長い歴史の中で蓄積してきた知識及び知恵の継承及び向上、豊かな人間性の涵(かん)養並びに健全な民主主義の発達に欠くことのできないものであることにかんがみ、文字・活字文化の振興に関する基本理念を定め、並びに国及び地方公共団体の責務を明らかにするとともに、文字・活字文化の振興に関する必要な事項を定めることにより、我が国における文字・活字文化の振興に関する施策の総合的な推進を図り、もって知的で心豊かな国民生活及び活力ある社会の実現に寄与することを目的とする。


(定義)
第二条 この法律において「文字・活字文化」とは、活字その他の文字を用いて表現されたもの(以下この条において「文章」という。)を読み、及び書くことを中心として行われる精神的な活動、出版活動その他の文章を人に提供するための活動並びに出版物その他のこれらの活動の文化的所産をいう。

まず、確認しておくことは、究極的な目的は「知的で心豊かな国民生活及び活力ある社会の実現に寄与すること」。
具体的な施策はこの目的に合致するものでなければならない。
そして、この法律の名宛人は、「国及び地方公共団体」である。
それにしても、「人類が長い歴史の中で蓄積してきた知識及び知恵の継承及び向上、
豊かな人間性の涵養並びに健全な民主主義の発達に欠くことのできないものである」というのは、
何も文字・活字文化に限ったものではなく、表現活動一般であるように思うのだが…。
それゆえ、先日の船橋西図書館焚書事件最高裁判決は、19条・21条を根拠に「違法」としたのでは?
船橋西図書館焚書事件最高裁判決(2) - 言いたい放題
このような価値は法律を待つまでもなく、国・地方公共団体の責務として、ある程度要求されているといえる。
ある程度というのは、最高裁判決が「図書館」であることを強調したから。
今までいかに表現の自由の価値というものを意識していなかったということがわかる。
自由権的側面が軽視されている現状からすれば、
行政に対して表現の自由・知る権利に寄与する措置をとるべき責務を規定したことには意義があるといえるが、
本当にそこに主眼があったのかというと、きっと違うのだろうけど…。
とはいえ、法文上の目的規定はそうである。この目的規定に合致するように読む必要がある。


さて、この目的規定を実現するための基本理念が、

(基本理念)
第三条 文字・活字文化の振興に関する施策の推進は、すべての国民が、その自主性を尊重されつつ、生涯にわたり、地域、学校、家庭その他の様々な場において、居住する地域、身体的な条件その他の要因にかかわらず、等しく豊かな文字・活字文化の恵沢を享受できる環境を整備することを旨として、行われなければならない。
2 文字・活字文化の振興に当たっては、国語が日本文化の基盤であることに十分配慮されなければならない。
3 学校教育においては、すべての国民が文字・活字文化の恵沢を享受することができるようにするため、その教育の課程の全体を通じて、読む力及び書く力並びにこれらの力を基礎とする言語に関する能力(以下「言語力」という。)の涵養に十分配慮されなければならない。

である。
1項は、ぱっと読んだ印象、法律による再販売価格維持制度の継続を要請?なんて思ってしまう。
(実際そうらしいけど。
 http://banraidou.seesaa.net/article/2898894.htmlhttp://www.jbpa.or.jp/giinkon-apl.htm参照。)
しかし、この条文を素直に読めば、あらゆる著作物(出版物)をあらゆる地で手にいれることができる、
ということが要請されているということになる。
では、再販売価格維持制度によりそれが実現されているのか?
どこでも同じ価格でしか手にいれられないことによって、それが実現されるのか?
だれもが、同じ価格で入手できることがなぜ文化の向上に大きく貢献するのか?
結局は再販売価格維持制度の合理性の議論ということになり、
この規定により、直ちに維持するべき、という結論にはならないように思う。
筆者は、国民が出版物を手にするという意味においては、価格が安くなるほうがいいように思うが。
それとも、この法律は、国民は出版物を購入するのではなく、
図書館を整備して(7条)、借りてたくさん読んでください、っていうことか。
その7条。

(地域における文字・活字文化の振興)
第七条 市町村は、図書館奉仕に対する住民の需要に適切に対応できるようにするため、必要な数の公立図書館を設置し、及び適切に配置するよう努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、公立図書館が住民に対して適切な図書館奉仕を提供することができるよう、司書の充実等の人的体制の整備、図書館資料の充実、情報化の推進等の物的条件の整備その他の公立図書館の運営の改善及び向上のために必要な施策を講ずるものとする。
3 国及び地方公共団体は、大学その他の教育機関が行う図書館の一般公衆への開放、文字・活字文化に係る公開講座の開設その他の地域における文字・活字文化の振興に貢献する活動を促進するため、必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
4 前三項に定めるもののほか、国及び地方公共団体は、地域における文字・活字文化の振興を図るため、文字・活字文化の振興に資する活動を行う民間団体の支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

個人的には国立国会図書館所蔵の資料へのアクセスが容易になれば、それでいいんですけど。
素直に読めば、本法は著作権保護強化的性質よりも、アクセスを容易にすることを実現するために、
(図書館について)権利制限を広く認めるべき、という方向が導かれるように思います。
“物理的に”著作物(出版物)を保護することは必要でしょうけど…。

(学術的出版物の普及)
第十条 国は、学術的出版物の普及が一般に困難であることにかんがみ、学術研究の成果についての出版の支援その他の必要な施策を講ずるものとする。

普及が困難なのは、出版者側に普及させる気がないから?需要がないから?高すぎて売れないから?
理由によって対策は異なると思うが、
単に普及すればいいのであれば、出版者が全国の図書館に寄贈すればいい。
また、ここでは必ずしも雑誌・書籍形態での出版である必要はないのだから、
政策的には国が電子出版物の図書館を整備すれば、アクセスは簡単にできる。
ちなみに、経済的満足を得つつ、普及させるというのは難しい。
国が一括して買い上げて、全国の公共図書館に配置するか?
出版支援もいいけど、恣意的にすれば、表現の自由の侵害だし。
結局は、受けたい人が容易に受けれれば、それが普及なのであるから、
需要に応じて、適切な出版形態が採られればいいだけのように思う。


ところで、この規定が版面権を企図しているということだが、
そうだとすれば、かえって出版物上の著作物の普及が阻害され、
文化の発展、文字・活字“文化の振興”は阻害されてしまうように思う。
権利の創設、保護が文化の発展になるという安易な考え方はやめるべきである。
基本的に権利の創設は、財産的インセンティブになるだけで、その保護を強化することは、
一方で、国民の著作物享受を阻害することになる、ということを理解する必要があるように思う。
出版物が普及しないのに、版面権などという制約がつけばより普及しなくなる。
(出版権は出版されないものを出版することに寄与しても、出版物の普及には寄与しない。)
この文言から、版面権を導く余地はないし、
むしろ「知的で心豊かな国民生活及び活力ある社会の実現」という目的に反するように思う。

 (文字・活字文化の日
第十一条 国民の間に広く文字・活字文化についての関心と理解を深めるようにするため、文字・活字文化の日を設ける。
2 文字・活字文化の日は、十月二十七日とする。
3 国及び地方公共団体は、文字・活字文化の日には、その趣旨にふさわしい行事が実施されるよう努めるものとする。

なぜに10月27日?読書週間初日だかららしい。
http://dic.yahoo.co.jp/tribute/2005/07/26/2.html
今後この日が何曜であっても、図書館休館日になることはない?
むしろ開館してイベントするべきだろうし。
実際にどういう行事がなされるのか、楽しみですね。

附 則
 この法律は、公布の日から施行する。

今日から施行されたのに、文科省サイトではいまいち伝わっていません。
議員立法なので行政はやるきなし?責務不履行です。
もっとも、あえて国民にアピールする必要はないのかもしれません。
基本的には、国民による行政への要求ですから。
そういう意味では立法措置が一義的要求でないということになります。