一人の画家&エッセイストの真摯な夢から育った人々の「もてなし」の場〜ヴィラデスト・ガーデンファームアンドワイナリー訪問

千曲川を真下に望む東信地方の一角に、単なる物見せでは無く「真面目に遊びに興じる『大人』(←実年齢というより、精神年齢がという意味。念のため。)」がおもてなしを求め、多くの方々で賑わうのが玉村豊男氏が自ら興した「ヴィラデスト・ガーデンファームアンドワイナリー」さんです。(以下、「ヴィラデストさん」と略させて頂きます。)
設立の経緯は『花摘む人 ヴィラデスト・ワイナリーができるまで』(新潮社:刊)を初めとする玉村氏の数々の著書、そして『長野県のワイン』(山本博:著、ワイン王国:刊)に詳しく書かれていますのでそちらを参照して頂くとして、農園を「経営」することから創められ、その過程においてワインも取り込んで行ったという位置づけです。(「ガーデンファームアンドワイナリー」とあるように、あくまでファームが主体。)花摘む人
よって、ヴィラデストさんの存在意義とは、ワインをひたすら売らんがためのワイナリーでは無く、生活の糧としつつも本当の意味での道楽を独り占めするのでは無く人々に分け隔てなく(←ココがポイントです。)提供し、地元にも還元する姿勢を具現化させたものなのです。それ故に「妥協なき本物志向」でお料理やワインが提供されることから、ハッタリやごまかしとは無縁の丁寧な造り手さんがワインに携わることになったのは自明の理です。

そのキーマンが、栽培・醸造を統括するチーフの小西超(こにしとおる)氏。京都出身で大学農学部修士を経て大手の酒造会社に就職後、ワイン部門で実践を積んで縁あって個人での手腕が試されるミニワイナリーでの職を選択した静かな語り口ながらも気骨の人です。
今回は醸造担当の従業員によるワイナリーツアーへまずは参加。限られたスペースを有効に活用するために、ワイン醸造用の器具はコンパクトでキャスター付きの物となっており、またその施設や器具はきちんと手入れが行き届いています。そして、ワインと共にイタリアでは親しまれるお酒、グラッパ*1も製造しており、その蒸留設備は本場イタリア仕込みの本格派。伊達ではありません。そして、ツアー後小西氏にワインとグラッパの話を中心に伺いました。
(追記:2008.4.27)
脚注*1でのグラッパの解説に補足を加えました。

  • 栽培

ここ東信はワイン用ブドウの産地として脚光を浴びています。日照時間が長く山梨よりも降水量が少ないこの地域はもともと生食用の巨峰の産地でしたが、ワイン用ブドウに適した地域(日照時間・降水量はじめ、最高気温と最低気温の差が大きい点からも。)であることから、マンズさんやメルシャンさんが近年開墾を進めつつあります。浅間・湯の丸山が季節風を遮ってくれるので凍害にも悩まされることが少ないです。
標高が850mと近所のマンズさん(小諸ワイナリー)やメルシャンさんの「マリコ・ヴィンヤード」(共に、500mぐらい)よりも高い所なので幾分冷涼ですが、日当たりは南向きなので良好。どちらかというと早〜中熟系のブドウに向いています。よってシャルドネ(9月下旬〜10月半ばが収穫)とメルロ(10月半ば〜下旬が収穫・共に山梨より1月遅い。)をメインに品種を絞り、少量ですがピノ・ノワールソーヴィニョン・ブランも植栽してワインの試作にも挑戦中。また、試裁レベルではカベルネ・フランやシラー、マルベックなどの栽培も手掛けているとのこと。
恵まれた地域故に、ワイン用ブドウのレベルに関しては糖度20度をコンスタントに超え、酸度も7[単位:g/L]台と申し分ないものですが、それでもこのレベルに甘んじること無くよりレベルの高いブドウを求め試行錯誤は続いています。

特別凝った設備に頼らずクラシカルかつシンプルな「弄り回さない」志向の小西氏は、白(シャルドネ)では搾汁→樽発酵*2&熟成(樽内シュールー・リー)→澱引き後瓶詰めと、赤(メルロ)では木桶発酵→樽熟成→澱引き後瓶詰めといったオーソドックスな造りで果実味を主体とした造りに徹しています。優れた栽培条件だからこそブドウの味わいを損ねない方向性に落ち着くのは当然のことで、こういったやり方がこの東御市の風土を生かしたワインになるとは小西氏の弁。でも、クラシカルかつシンプルなのを粗雑と勘違いするのでは無く、まさに人柄が出た丁寧な造りであることは味わえば一目瞭然です。
その丁寧な造りは、度数のきついグラッパが、非常にまろやかな口当たりかつ芳醇な薫りであることからも伺えます。いがっらぽさやいやみな臭さが無い所に反映されていることがすぐに分かりました。
ちなみにワインの試飲は「もてなし」の場の主体である併設のカフェにて農園産の食材を用いた料理と共に味わうシステムになっています。もちろん、カラフェやボトルによる注文も出来ます。今回は某雑誌でも掲載された「ヴィニュロンズリザーブシャルドネ(2005)」を試飲しました。
○「ヴィニュロンズリザーブシャルドネ(2005)」
淡黄色の澄み切ったワインで程よいとろみがあります。グラスを口に近づけた瞬間に洋梨や桃のような薫り(しかも品生がありかつ芳醇な)が沸き立ってきます。口に含むとクリアですが出しゃばら無い程度の酸が広がりややパンの風味がします(シュール・リーに基づく)。薫り・風味共に上品なのは樽発酵ならではのもので、それによって果実味(しかも、元々果実由来のボディーが備わっている。)ので完成度は高く、調和も取れているので、インパクトの強さよりも食事と共に楽しむことを主眼に入れたワインと言えるでしょう。凝らない造りにも好感が持てます。(ちなみに、小生シャルドネに関しては樽発酵モノが好きです。)

さて、前置きでは総論、本題ではワインを中心に記して来ましたが、食そのものが大量消費の波に覆われる中、今後のあり方の選択肢の一つとして明解な答えを描き出しているのがヴィラデストさんと云えるでしょう。経済的に成熟した社会では、過去のような一律同調・大量生産の近視眼的ビジネスから、周囲との協調と個性を両立しつつ・永続的な循環を図るビジネスへと転換していく必要があります。そういった意味で、業界外より参入し一から興すことが出来たのは(結果的にかもしれないが)玉村氏の先見の明があったといえますし、そこを支える生半可ではない食に対する知識の裏付けがあったからと言えるでしょう。そして、ネームバリューに胡坐を書くのではなく、自身もカウンターに立ち、一従業員として目配せを欠かせないその姿がとても印象に残りました。
単なるワイナリーやレストラン、あるいは「憩い」や「癒し」というありきたりのキャッチフレーズでは片づけられないのが、ヴィラデストさん。それこそが、玉村豊男氏の本気度を表している。小生はそう断言します。ワインファンは勿論の事、本当の行楽を味わいたい『大人』にこそ是非足を運んで欲しいと思います。
(栽培・醸造担当の小西様始め、関係者の皆様にはいろいろとお世話になりました。改めて厚く御礼申し上げます。)

*1:粕取りブランデーと称されるように、発酵後の赤ワインの絞りかす(ブドウの粒がつぶれた状態だが、種や果皮にアルコール分が残っている。)を加熱蒸留したものを正確にはグラッパと称します。一方、絞る前の醪(もろみ)の状態で蒸留したものをウーバと称します。イタリアではワイナリーから絞りかすを集めて作る専門の立派な業者が成立している。詳しくは、小西氏による詳細な解説がPDFファイルでヴィラデストさんの製品紹介Webページにて掲載されています。

*2:温度管理の出来る密閉式ステンレスタンクが出来る以前は密閉容器が木樽でしたので、これがクラシカルなやり方です。ただ、温度管理や微生物汚染の懸念があって昔は美味しいワインを造るケースが限られていました。今では冷涼な貯蔵庫や樽の管理の技術が進歩したので「温故知新」で却ってそのよさが見直されて来ています。(つまり、果実味と熟成のバランスを持たせかつ丁寧な造りでとても上品なワインとして、樽発酵は、品種に拠ってはその良さを発揮してくれます。典型例がシャルドネ。)

白馬に三名の“女将”が参上〜白馬ラ・ネージュ東館『北アルプス春の味覚のフランス料理 avec 日本を代表する女性ヴィニュロンのワインたち』参加記

本日のメインイベントはこちら。滅多に揃う機会が少ない御三方が白馬にお目見えになると聴き、「こりゃ行かねば損!」という訳で行って参りました。
もちろんイベントそのものも楽しみですが、料理とそれに合わせるワイン、何が出てくるかが楽しみです。
さて、今回は三名の“女将”

が登場。日本ワインを早くから関心を持ち、実際にレストランにて扱って来たマネージャーの吉田浩之氏が在籍するラ・ネージュ東館ならではのイベントです。ここ数年は定期的に(年2回のペースで)日本ワイン関係のイベントが開催されており、また常時レストランのリストにも日本ワインを積極的に取り入れています。ちなみに、長野県白馬村は関西からのお客さんも多く、関西出身の小生としては嬉しく思いましたね。(支配人さんも関西出身です。)
今回、メインのコースには
(食前酒)
○キザンワイン白(2006)
○ソレイユ・クラシック白(2007)
(前菜)
○ソレイユ プティ・ポワゼ(2006)
(魚料理)
○キザンセレクション シャルドネ(2005)→ワイナリーでは売り切れ
(肉料理)
○シャトータケダ・赤(2004)→ワイナリーでは売り切れ
が登場。それから、各社ごとにフリーテイスティングでは何と三名の“女将”が直に説明して下さるという凝った志向。これだけのサーヴィスは本当にお得でワイナリーの御三方とラ・ネージュさんに大感謝です。
それでは、頂いたワインを各社毎に振り返りましょう。
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