大木あまり「シリーズ自句自解1 ベスト100」P70

 飛火野の草萌え髪の伸びにけり


 草萌えの頃の飛火野を歩いた。命あるすべての物が生の息吹を漲らせる春。春に髪の毛が伸びると感じるのも、ごく自然のことなのだと納得した。そこで、万葉の歌人額田王気どりで詠んだ。他にも地霊の力を借りて〈草萌えに鹿の激しきながれかな〉〈池ひとつおぼろに据ゑて大和なり〉などの句を作ったが、このプリミティブで、妖しげな揚句に愛着がある。美的なものに惹かれるが、奇異なものが好きなのだ。 (『火のいろに』)