寡黙で繊細な音盤たち このページをアンテナに追加 RSSフィード

2005-09-21 肋骨盤 このエントリーを含むブックマーク

omay_yad2005-09-21

■数年前に衛星チャンネルで坂田明ロシアにソ連時代にレントゲン写真に溝を切った闇レコードを探索に行った番組が放映されたらしい。番組ではそれを「肋骨盤」と呼んでいた。レントゲンの骨写真が音溝の支持体になっているからである。社会主義国には検閲制度がある。この特殊レコードは、当局に内緒で西側の音楽を入手した者が地下製作し闇市で売っていたものである。当時、ソ連ではカセットテープよりレコード・プレイヤーの方が普及していた。現地の人は「Rock on Bone」あるいは「Rock on X ray」と呼んでいたそうだ。確かに紛れもないレントゲン写真である。7インチサイズに丸くハサミで切ってあり、送り溝もある。ちょうどソノシートのような感じで薄くペラペラしている。この盤は驚くべきことに、何と地震計にレコーダーを繋げ、ターンテーブルで回しながら溝を切っていったらしいのだ。骨画像は顎を下から頭頂部めがけて撮影したもので左右対称の頭蓋骨である。上下顎の歯がくっきりと写っている。センターホールが鼻骨のど真ん中、その上の盤3分の1は闇である。よく見るとレーベル部に赤マジックで下のように書かれている。

「ARIZONA R  URIAH HEEP -75-」

ARIZONA Rは闇レーベルだろうか。75年のユーライア・ヒープといったら『幻想への回帰』の頃である。音溝の間隔にはムラがありまさしく手作り盤。ターンテーブルにセットすると円周部が激しく波打つので恐る恐る途中の溝に針を落とす。しかし聞こえてきたのはポーランド語の歌。ロカビリー調の古臭いビート・バンドの音だ。恐らく凄いという噂だけがあったヒープの音盤だと偽って売られていたものだろう。現地人の話によると、肋骨盤を売った者は西側の音楽を持っていた件と闇売買行為の二重の罪で逮捕、投獄されたという。医者が小遣い稼ぎで患者のレントゲン写真を売りさばき、勤務時間後の公的機関あるいは技術者が地下室でこれを作り、怪しいブローカーが外套に隠し、若者がいくらかのルーブルかカペイカを瞬速で渡したりしたのだろうか。誰にも知らぬまま閉じられてしまった大国の理不尽な現実と民衆の音楽への渇望が、ここに化石のように残されている。ちょっと前までロシア国内の古本屋には多数存在したらしい肋骨盤だが、見向きもされないのでほとんど捨てられてしまったようで現在は全く見かけないそうだ。■