石牟礼道子『苦海浄土』 第六章とんとん村 より。 足尾への眼差し。


「すこしもこなれない日本資本主義とやらをなんとなくのみくだす。わが下層細民たちの、心の底にある唄をのみくだす。それから、故郷を。
 それはごつごつ咽喉にひっかかる。それから、足尾鉱毒事件について調べだす。谷中村農民のひとり、ひとりの最期について思いをめぐらせる。それらをいっしょくたにして更に丸ごとのみこみ、それから……。
 茫々として、わたくし自身が年月と化す。」