オンデザインの暮らし

オンデザインの日々や、暮らしの中での発見 を紹介しています

崖のある家

崖のある家


東京都文京区本郷
東京の中心部にあって、坂や斜面地が多い土地

半分以上が斜面の敷地に建つ住宅の計画




「昔とはいつかと聞かれると口ごもってしまうが、急なこの地形ははるか昔からずっとそのままなのだろうと思う。勝手な仮定であるが。」


「長い歴史の中で、この急な崖地の上には、いろいろな建物が建ってきただろう。けれど、崖地に生えるエンジュや柿の木のそびえ立つ高さからして、この崖地には何十年、下手すれば何百年もの間、誰の手が触れていないということがわかる。
崖地は土地の記憶を強くもち、様変わりが多い東京本郷の土地の歴史を唯一受け継ぎつづけている。」


「あるとき、この崖地とその上の一部に境界線が引かれ、新たな土地の記憶を刻もうとするときがきた。」

「できあがったのは、崖と平地が半分半分の土地。
記憶を残しているその半分は、そこに生えているいくつもの樹木と一緒に、いつまでもそのままで残しておきたいと強く思う。」

「そこに家が建つ。」


「ところで、家と呼ばれる部分の範囲はどこからどこまでなのだろう。
建築に普段どっぷり浸かっていても、死角にありすぎてあまり考えたことがなかった。
家の中で起こること。人が歩いて、暮らして、とどまって。
そう考えると物理的に行動できる範囲のことを言うのが一般解であるような気がする。
それは建築用語的にいう『建築面積』『延べ床面積』という言葉で語られるような、数値で表すことができる『実数』である。」


「家ーすなわち住まい手の活動の範囲は、数値で表される場所以外にも表出してくることは以前からも感じていた。
「建物の内側も外側も。人の活動はシームレスにつながっている」
建物の内側が数値化することができる『実数』だとすると、外側は実数化できない『虚数』であり、虚の場所にこそ人の活動が露出してくると以前から頭の中でぐるぐると考えていた。」

「建物を建てられない場所、もしくは建物を建てたくない場所は、家の虚の部分とし、意識の中で、できるだけ家の中に包括していたい。
それは敷地とは全く違う場所にある都市の中の一角だったりもするし、この崖のように歴史を持った壊したくない場所だったりもする。」


「そんななことを考えながらこの敷地に戻って来た。」

「この敷地では、物理的に建てることができる部分は半分である。
敷地の半分である崖地には、現実的に建物を建てることが難しいという理由もあったが、何よりも崖の現状を残すこと自体が歴史を残すことだと強く感じた。」



「この崖地を家の一部として包括するために、床を崖方向に延長するのではなく、屋根だけを崖方向に延長することにした。
この行為によって、同じ面積の住宅で感じるよりもより遠くに視覚や距離感が延長される。
意識の上では数値化されない虚の部分が実際の大きさの2倍以上、いや見える範囲どこまでも住宅を拡張している。」




寝室



ガレージルーム



リビングダイニング



現在、計画進行中


いねやま+やない