不法行為

 民法の勉強を始めたころ、不法行為は、謎の分野でした(いまでもそうですが)。
 何せ、契約と比較すると、条文の数が少ない。民法709−724条で全ての事案に対処できるのか、疑問がわく。その中でも、709条の比重が大きい。この条文は、あまりに抽象的に過ぎるのではないか。要件として、①故意又は過失、②権利又は保護されるべき利益の侵害、③損害の発生、④相当因果関係、⑤損害額というが、権利(③)と損害(④)は一緒ではないか、損害の発生(③)は、即、損害額(⑤)ではないか、保護されるべきか否か(②)と過失(①)を区別しなくてもよいのではないか。相当因果関係(④)は、条文のどこに書いてあるのか。共同不法行為について、各自に不法行為の成立を要求するなら、共同不法行為の条項を置く意味があるのか。
 このような疑問は脇に置いておいても、試験の問題を解く分には差し障りがないため、とりあえず放置していました。内田先生の教科書の説明には納得させられる箇所が多かったのですが、判例とは異なる立場であるらしいといわれるので、深く考えることなく済ましていました。
 その後、平井先生の本を読み、最近の学説も踏まえた概説書を読むと、不法行為学の現状が混沌としていて、上記の疑問を簡単に解決できるわけではないこともわかってきました。
 各種の不法行為を統一的に解釈するか、類型化するかについて学者の立場が分かれているようですが、個人的には、類型化せざるを得ないように思っています。物理では、一つの理論が様々な顔をして現れているので、統一的な理解ができますが、法律の場合、様々な事象を「不法行為」という枠で括っているだけです。一つの理論に収束させるということは、もともと無理があるのではないでしょうか。