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理系弁護士の日常

2013-08-05

電子出版での出版社の権利

 文化審議会の著作権分科会出版関連小委員会では、本年5月13日より、電子出版に関連する出版社の権利について集中的に議論を重ね、7月29日の第6回の会議により、電子出版権の創設の方向が固まったと報道されています。

 電子出版における出版社の権利が議論となったのは、平成22年の「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」(総務省文部科学省経済産業省の三省合同開催)に遡ります。同年の6月の報告には、「オープン型電子出版環境の実現」も含まれていました。この懇談会報告を受け、文化庁では、平成22年末に、「電子書籍の流通と利用円滑化に関する検討会議」

http://www.bunka.go.jp/bunkashingikai/kondankaitou/denshishoseki/

を発足させました。当該検討会議の翌平成23年末の報告には、「出版物の権利処理の円滑化に関する事項」及び「出版社の権利付与に関する事項」が盛り込まれ、制度的対応を含めた早急な検討を行うことが必要との判断が示されました。その背景には、今後、電子書籍が急速に普及すると予測されること、その際、電子書籍の違法コピー(典型的には、海賊版)への対策(具体的には、出版社による差止請求権の行使)が必要であるという判断がありました。

 

 その一方、平成24年には、文化審議会での審議とは別に、議員勉強会として「印刷文化・電子文化の基盤整備に関する勉強会」(いわゆる中川勉強会)が発足しました。中川勉強会は、議員立法を視野に入れたものでした。同年6月には、平成24年6月に中間まとめとして、出版社の権利として著作者隣接権を創設するという提言に至ります。

 しかし、著作者隣接権の創設については、実効性に疑問が呈されるともに、著作者の意思によることなく、出版社が出版によって自動的に権利を取得することに対する批判もあったところです(日経連の意見として、http://www.keidanren.or.jp/policy/2013/016.html)。

 

 そもそも、電子的な海賊版に対する差止請求は、契約によって(つまり、著作者が出版社に対し著作財産権(の一部)を譲渡することによって)、現在の法制度でも可能です(NBL999号の中山先生の論文)。中山先生が指摘されているとおり、一つのコンテンツに重畳的に権利が存在するという状況は、コンテンツの流通の妨げになるおそれがあります。新たな著作隣接権の創設にも、同じ批判が当てはまります。しかも、国内での著作隣接権を創設しても、海外の海賊版に対する有効な権利行使は困難です。

 このような批判を受け、平成25年4月、中山先生ほか5名の私的研究会が、4つの選択肢の提言をまとめ、公開しました。その内容は、

 契約による処理(立法なし)

 ライセンシーに差止請求権の付与

 出版権の拡張(サブライセンスを含む。)

 著作隣接権の創設

でした。これらのうち、中川勉強会のい悗糧稟修肋綉のとおりであり、,篭罰Δ悩て颪箸稜Ъ韻示されていました。については、他の法領域との整合が問われます。したがって、現実的な対応は、い任后

 出版権は、著作権法79条から88条に、出版社の権利として規定されています。その特徴は、複製権者と出版社の間の設定契約により生じるという点にあります。つまり、著作権の帰属は変わることなく、契約により、出版社に物権的権利が生じます。権利の帰属そのものは変わらないという点で、出版権は、特許の専用実施権と共通します。

 ただし、現行法では、出版権の対象が「その(注:複製権の対象となる)著作物を文書又は図画として出版する」ことに限られおり、電子書籍は対象外です。今回の法改正は、その対象を、電子的な「特定の版面」(印刷物でのページのレイアウトに対応します。)に拡張することを目指しています。


 出版権の拡張スキーム(ぁ砲任癲契約スキーム( 砲任癲⇔湘事者の合意が必要であるという点では変わりません。むしろ契約スキーム( 砲諒が、きめ細やかな対応が可能です。

 中山先生もNBLで言及されているとおり、理系の学術雑誌では、投稿の際、投稿のフォームに著作権譲渡条項があり、そのフォームにサインすることにより、著作権は出版団体(学会が出版する雑誌では学会、商業的な出版社が出版する雑誌では、出版社)に譲渡されます。

 もっとも、一部の権利は、研究者に留保されています。典型的な例は、一定の少部数について、複製及び頒布の権限は、研究者の下に残ります。その理由は、自らの成果を研究者のコミュニティーに知らせる手段として、別刷り(伝統的には、物理的なリプリントですが、今後はPDFなど電子媒体も増えていきます。)の頒布は欠かせないためです。さらに、雑誌によっては、一定期間経過後には、研究者が論文を自らのウェブサイトに公開することを許諾していることもあります。

 このように、契約による場合、当事者は、著作権の譲渡か否かという二者択一ではなく、細かな調整が可能です。学術雑誌の場合、雑誌間の競争があり、価値ある成果の投稿を集めてインパクトファクターを増やすという動機があります。そのためには、研究者が一方的に不利な条項を持ち出すことは躊躇されます。そこで、雑誌によって、様々な工夫が生まれる余地があります。

(注:なお、理系の学術雑誌は、単に論文を掲載するだけでなく、成果の格付けの役割も果たしています。有力な雑誌に掲載されるほど、重要な成果と評価されやすいという事情があります。その一方、一般的な書籍や雑誌は、純粋にコンテンツを提供することを目的としています。この点で、理系の学術雑誌には特殊な要素があります。)


 それにもかかわらず、あえて出版権という特殊なメニューを用意することに、どのような意味があるのでしょうか。

 すべての条件を契約に委ねる場合、自由度が大きい(大きすぎる)ため、両当事者の主張に隔たりが大きく、合意に至り難いということも生じます。それと比較して、国が標準的なメニューを提示するのであれば、当事者の合意が得られやすいかもしれません。

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