「からなる」が他の要件を排除するか、クレーム解釈とサポート要件とはコインの表と裏か、実施化の要件とサポート要件との関係

 東京地判平成26年10月9日(平成24年(ワ)第15612号)は、興味深い論点を含んでいます。

1 「からなる」は日本でどのように解釈されるのか

 アメリカでは、comprising …(を含む)は、他の要素が共存してもよく、consisting of…(からなる)は、他の要素の存在を排除していると説明されています。つまり、クレームがcomprising A and Bでは、被疑侵害品にCを添加しても、侵害の成否に影響を及ぼしませんが、クレームがconsisting of A and Bでは、被疑侵害品に有意なCを添加すると、非侵害となってしまいます。
 
アメリカでは、このようなプラクティスが広く知られたという状況の下、出願人がクレームをドラフトしています。したがって、consisting ofでクレームをドラフトしておきながら、後になって、他の要素が共存してもよいという主張は、許されません。

 もっとも、日本の場合、そのようなプラクティスが確立しているとまではいえないように思います。そこで、「からなる」のクレーム文言がどのように解釈されるのかが論点として残っています。
 この点は、かつて、大阪地裁の判決がありましたが、今回の裁判例でも争われました。

 クレームは、以下のとおりです。

A  質量百分率(%)に基づいて(以下,%と表記する)Ni:1.0〜
4.5%,
B  Si:0.2〜1.2%を含有し,
C  残部がCuおよび不可避的不純物から成る銅合金からなり,
D  表面に66〜184MPaの圧縮残留応力が存在し,
E  表面の最大谷深さ(以下,Rvと表記する)が0.5μm以下であり,
F  圧延方向に平行な断面を鏡面研磨後に,47°ボーメの塩化第二鉄溶
液で2分間エッチング後,観察面において観察される直径4μm以上
の介在物が86個/mm2以下であることを特徴とする
G  Cu−Ni−Si系合金部材

 構成要件Cに「から成る銅合金」とあります。

 対象製品には、スズ及び亜鉛が含まれていました。そこで、被告は、対象製品は「Cu,Ni,Si及び不可避的不純物から成る銅合金」ではない、と主張しました。
 しかし、裁判所は、被告の主張を排斥しています。その理由は、明細書中にスズ及び亜鉛のうどんの記載があること、従属項でスズ及び亜鉛を含む態様をクレームしていることにあります。

 以上のとおり、現時点では、日本の侵害裁判所では、「からなる」か「ふくむ」かという形式的な違いよりも、明細書も考慮した実質的な観点から、判断がなされるといえそうです。

2 クレーム解釈(技術的範囲の確定)とサポート要件

 キルビー判決以降、クレームを特許性のある範囲に限定的に解釈するのではなく、端的に無効とすれば足りる、との見解が有力になってきています。
 しかし、クレーム文言の解釈として許容される範囲であれば、明細書を参酌して適切にクレームを解釈し、非侵害との結論を導くことは許されるべきです。もっとも、どこまでが解釈として許容されるのか、どこからが解釈ではなく訂正なのかは、難しい問題です。

 特に、クレーム解釈とサポート要件との関係は、しばしば問題となるところです。明細書を参酌してクレームを解釈するという事例では、しばしば、サポート要件を充足する範囲に狭めてクレームを解釈するということも起きます(特に、機能的クレームの場合)。両者の思考回路は、一致することもあります。

 この事案では、構成要件Fの「直径4μm以上の介在物が86個/mm2以下」に関し、被告が、「サポート要件の観点を加味して解釈するならば,「86個/m㎡以下」とは,「86個/m㎡以下であって,かつ,およそ86個/m㎡」を意味する」と主張しました。
 なお、この「直径4μm以上の介在物」(つまり、金属間化合物の粗大な析出物)は、合金の強度に寄与せず、さらに、曲げ加工性、エッチング性、メッキ性を低下させ、疲労寿命を低下させることになっています(本件明細書)。したがって、この粗大な介在物は、発明の課題解決手段を構成します。

 しかし、被告の主張は、クレーム解釈としては、やや無理があります。「86個/mm2以下」という文言は、数値での規定ですので、解釈の介在する余地は小さいのです。
 裁判所も、被告の主張を排斥しました。

3 実施可能要件とサポート要件

 上記の侵害論の被告主張が排斥されても、記載要件による無効論は、別途の問題として残ります。裁判所は、クレームは広く維持したものの、記載要件違反により特許は無効と判断しました。
 裁判所は、サポート要件ではなく、実施可能要件不適合を根拠としています。この判断は、正当であると考えます。
 本件明細書の記載が正しいとすると、「直径4μm以上の介在物」を減らすほど、疲労寿命は向上します。したがって、「直径4μm以上の介在物」の濃度を減らすことにより、課題が解決する(疲労寿命が向上する)ことは理解できます。よって、クレームはサポート要件に適合します。
 もっとも、実施可能要件は、別の問題です。対象製品は、「直径4μm以上の介在物」がほとんど存在しないものであったようです。そして、「直径4μm以上の介在物」が実質的に存在しない物の製造方法は、本件明細書には記載されておらず、技術常識でもありませんでした。したがって、このような物は、出願日当時、当業者が製造することができなかったものです。このような事情の下では、サポート要件よりも、実施可能要件が適切です。