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理系弁護士の日常

2015-08-07

間接占有者に対する債務名義の間接強制

 かつては、間接強制は、他の手段がない場合にのみ許されるとの立場から(間接強制の補充性)、作為又は不作為債務で代替執行によりえないものに限り、間接強制が認められていました(民事執行法172条)。

 しかし、平成15年の民事執行法の改正(平成15年改正法)により、一部の強制執行について、債権者の選択により、間接強制も使用できるようになりました(民事執行法新173条1項;具体的には、不動産の引渡し及び明渡し、動産の引渡し、第三者が目的物を占有している場合でそのものを債務者に引き渡す義務を負っている場合の物の引渡し、代替執行)。直接強制の方が客観的にみてより有効であっても、債権者が間接強制を選択する限り、その選択が優先されます。

 もっとも、間接強制には、自ずと制約があります。間接強制は、債務者に心理的圧迫を加え、自ら作為を履行する(又は不作為を保持する)よう促す制度です。債務者が履行しようにも履行できない場合には、間接強制は適していません。平成15年改正前には(つまり、172条については)、中野先生の教科書では、以下の事例が挙げられていました。

・実行について第三者の協力を必要とするが容易にこれを得る見込みがない場合(会社より新株券の発行・交付をうけて債権者に引き渡すべき義務)

・債権者の側で特殊の設備をしなければ債務者としても実行できない場合(電力会社の送電義務)

・実行につき債務者の資力に不相応な多額の費用を必要とする場合

・債務者の意思を抑圧したのでは債務の本来の内容を実現できない場合(芸術的創作、学術的著作)

・現代の文化観念に反する場合(輸血をする義務)

 173条の間接強制についても、内在的な制約はあると解されています。しかし、その制約は、従前の172条と同じなのか、異なる判断基準が適用されるのか、必ずしも明確になっていません。その例として、建物収去土地明け渡しを命じた債務名義に関し、債務者以外の第三者が当該建物を占有しているという事案について、債権者が間接強制を申し立てることができるのか、類型化して議論された論文もあります(金融法務事情1972号)。

債務者が第三者し対しおよそ何も働きかけをすることができない場合には、間接強制には意味がありません。しかし、債務者単独で履行できなければ間接強制決定を発令しないという結論も、行き過ぎであるように思います。

 最決平成27年6月3日(平成26年(許)第37号)では、上記の点が争点となりました。事案の概要は、以下のとおりです。

 

 Xは、建物所有者(賃貸人)に対し、建物収去土地明渡しを、その賃借人であるY及び転借人であるZ1に対して建物退去土地明渡しを求める訴えを提起し(基本事件)、認容判決が確定しました。しかし、訴訟係属中に(占有移転禁止の仮処分の申立ては行われていない。)、Z1は、Z2との間で、賃貸借契約を締結しました(再転貸)。この契約は、基本事件でZ1が敗訴かつ判決確定の場合には、その日を以て終了するとの特約が付されていました。そして、Z2は、さらにZ3との間で、賃貸借契約を締結しました(再々転貸)。Z1は、Z2及びZ3に対し、基本事件の判決確定後、建物明渡しを求める訴えを提起しました(別件訴訟)。第1審決定の時点では、Z1は、別件訴訟の地裁では勝訴したものの、仮執行宣言は付されておらず、Z2及びZ3が高裁に控訴していました。この状況では、Z1は、Z2及びZ3を建物から退去させることはできませんでした。

 このような事実関係で、Xは、Yに対し、基本事件の確定判決を債務名義として(「本件債務名義」)、間接強制を申し立てました。

 地裁は、申立てを却下しました。その理由は、以下のとおりです。

・Xが、Z2及びZ3(原々決定の際の実際の占有者)に対し、直接、建物の明け渡しを求める債務名義を得ていない。

・Xは、建物について占有移転禁止又は処分禁止の仮処分の決定を得ていない。

 ところが、高裁は、原決定を取消し、間接強制を発令しました。その理由として、基本事件の確定判決は、Yを間接占有者、Z1を直接占有者として、建物退去土地明渡しを命じていることを挙げ、間接強制決定をする要件に欠けるところはないとされています。

 

 しかし、最高裁は、原決定(高裁の抗告審決定)を破棄、原々決定(地裁の第1審決定)に対する抗告を棄却し、結論として、間接強制はできないとした原々決定を支持しました。

 もっとも、最高裁がどのような根拠から間接強制の申立てを却下すべきと考えたのか、あまり明確ではありません。理由には、

・債務名義が間接占有者(注:Yは、間接占有者に当たります。)に対する建物退去土地明渡しの請求権を記載したものであること、

・建物の当初及び現時点での占有状況等記録から伺われる事実によれば、

とあるのみです。

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