永井豪「バイオレンスジャック」黄金都市編と蛭田達也「コータローまかりとおる!」D地区編

永井豪の「バイオレンスジャック」黄金都市編と、蛭田達也の「コータローまかりとおる!」D地区編は、フィクション・エンターテイメント作品の傑作である。構成の巧みさ、展開の面白さ、キャラクターの魅力等、娯楽映画の傑作と比べても遜色ない完成度をもっている。
また、どちらも長期化した作品中の第三部にあたるという共通点がある。
バイオレンスジャック」 週刊少年マガジン講談社)連載
 第一部 東京滅亡編(関東地獄地震編)
 第二部 関東スラム街編
 第三部 黄金都市編
・このあと時期をおいて、月刊少年マガジン講談社)、週刊漫画ゴラク日本文芸社)で長期連載される。

コータローまかりとおる!」 週刊少年マガジン講談社)連載
 第一部 *関連サイトでは、コータロー参上編と記載されているが、個人的には蛇骨会編と呼びたい。
 第二部 クララ姫編
 第三部 D地区編(Dブロック編)
・この後も同誌で長期連載される。

個人的には、両作とも第三部以降クオリティがかなりさがったと思う。
月刊少年マガジン版の「バイオレンスジャック」は、ワンパターン化したテレビ時代劇みたいだったし、漫画ゴラク版はそれなりに楽しめたが、週刊少年マガジン版と比較すればものたりない。特に絵の魅力・迫力は比べようもない。月刊少年マガジン版は、絵の方は週刊少年マガジン版と比べても遜色ないが、ストーリーは漫画ゴラク版よりも下だった。私自身は漫画ゴラク版と週刊少年マガジン版は似て非なるもの、まったく別ものと(勝手に)考えているので、漫画ゴラク版を週刊少年マガジン版の続編とは考えていない。物議をかもした漫画ゴラク版の最終回も、自分の好きだった週刊少年マガジン版とは別の作品としてとらえていたので、とくに怒りもなくこんなものかとながめていた(ただし、「これやっちゃうの」とびっくりしたのは確か。ちなみに最終回に向けての伏線は終盤すでにみられていたけど、当時の自分があのラストを予想していたか今となっては不明)。私にとっての「バイオレンスジャック」は、週刊連載とともに終了した、傑作になるはずだった作品として未完のままであり続けている。

コータローまかりとおる!」の方は、面白いことは面白かったけど、構成(脚本)に緻密さがなくなった。第三部までは、よくできた映画のようにきっちりと脚本を練り上げたうえで作られていた(実際に事前にプロットを細かく設計した上で作っていたかは不明だが)。だが、第四部の中盤以降は先の展開を細かく決めず、勢いにまかせて作品を描いていたように思う。上手さがあるから飽きさせずに読ませることができたが、第三部のような、オープニングからエンディングまで見事に計算された完成度の高い作品と比較すると気の抜けた炭酸飲料のような味気なさだった。

バイオレンスジャック」は最初に単行本化された際、黄金都市編が収録されなかったのは何故なんだろう。売れ行きがよくなかったのでこのエピソードを刊行する前に単行本化が中止されたのだろうか(週刊連載が終了してから、月刊連載が始まるまでに2年位、間があいていたそうである)。
黄金都市編がはじめて単行本化されたのは、80年代のKCスペシャル版の筈である(私は、1985年1月10日発行の第1刷版をもっている)。
関連サイトを調べてみたら、作者があらためて別の結末のものを書きたいと思っていたために、単行本化が見送られたという意見をみつけた。