Music Bar 〜 音の系譜・第5夜「矢野顕子×くるり」

WOWOW の放送を録画してもらったのをやっと観た。
公開録画も参加していたのだけど、その当時(8月?)ははてなをお休みしてたので、ミクシで適当にメモっていた。今読み返したら、放映観た印象とそんなに違っていなかったので貼っておく。

  • あとね、きのうは WOWOW の公録で矢野顕子 with くるりを観て来ましたよー。抽選での招待制だったのだけど、マイミクさんのご厚意で関係者席に入れていただいて、本当にありがたいったらなかった。すごくすごくいいイベントだったので。
  • 矢野顕子は頭からお尻までずっといて、そこにレイ・ハラカミ岸田繁(単体)、またはくるり(今のツアーの編成=コーラス隊3名とサポートドラム、ギター&オルガンの総勢7名編成)(アッコちゃんからは「大くるり」と呼ばれていた)がやって来たり帰って行ったり。全部で何曲やったのかな、12〜3曲くらい?
  • どれも非常にスリリングで張り詰めていて、音楽というかうたというかの持つ独特の力に溢れていて、しかしながら終始和やかで楽しそうで、実に素晴らしい演奏が立て続けでした。本当に、惜しい、みたいな気持ちになった曲が1曲もなかった。これはすごいことです。
  • 中でも特に印象的だった曲についていくつか。
  • 1曲目、ヤノカミによる「おおきいあい」。すっごい久しぶりに聴いた気がする! と思いながら、リアルタイムにこの曲を聴いていた頃(学生でした)(その時点で既にリリース直後ではなかった)のことが皮膚にきゅーっとよみがえってくるかんじ。ハラカミさんとアレンジしている曲はどれもなんだか、パーカッシブじゃない割りに、すごくビートを感じさせるものに聴こえるのだけど、この曲はシーケンサーでループしてるみたいな大きなグルーブが出ていて、そこに乗っかるヴォーカルもオリジナルに比べると跳ねる感じになっていて、でも大げさに跳ねるんじゃなくてすごく慎み深い感じに跳ねていて、それがなんというか…わたしも齢を取ったし、アッコちゃんも齢を取って、でもそれは劣化とは限らず、単純な変化として扱える部分もあって、そういう「移ろった」感じがえらい気持ちよく届いてしまって、とにかく嬉しくて幸せでしあわせで、しょっぱなからメロンメロンになってしまった。
  • ヤノカミの曲はどれも、曲の最中にちゃんと戦っている感じが。互いのペースをぶつけ合っているようで、非常にスリリングで物騒な匂いがするのがえらい面白かった。「Night Train Home」なんてどきどきしたよ。NHK ホールでくるりを伴ったさとがえるコンサートを観たのは2004年、あのときにハラカミさんもふらりとステージに現れて何曲か演奏していた、そのときのことを思い出していた。この曲が生まれたばかりだったあの頃。わたしはあの日に、生まれて初めて生でくるりを観たんだった。
  • その後、ヤノカミ+岸田くんで「ばらの花」。この曲もやっぱり、3年前に「本邦初公開のアレンジ」と言って演奏していたなあ。あの日も、この曲についてはアッコちゃんは珍しく立ちヴォーカルで奇矯なおどりを踊っていて、釣られてやはりふなふなとおかしな動きを見せていた岸田くんを指差して、わたしはひとり、「岸田ダンス!」と心の中で快哉を上げていた。きのうはまったくもってデジャヴ。笑った。
  • ヤノカミバージョンの「ばらの花」は、なんだかビートがとても難しい。途中、ハラカミさんが心配そうにアッコちゃんの背中をぐーっとねめつけているシーンがあって、ヴォーカルが入りにくい箇所だったんだと思うけど、でも、アッコちゃんは岸田くんを伴って、いともあっさりと歌っている感じがしてめちゃくちゃ格好よかった。丁寧に丁寧に、じっくりと声のトーンまでをコントロールして自分のメロディと言葉とを歌う岸田くんに、奔放なアッコちゃんのフレーズが重なって、ハモっていたかと思えば分離して別々の旋律を奏で、かと思えば高低が入れ替わってまたハモって…みたいな、とても自在で豊かなデュエット(って言わない?)でした。ハラカミさんが挑戦的につっかかってくるのを、うた2人で撃退、みたいな。うう、格好良かったなああああ…(ぽわわん。
  • あと、くるりと矢野さん、という構成でやった2曲が強烈だった。「Baby I love you」と「ブレーメン」。
  • 「Baby」はある種の日和ソングとして捉える向きがくるりファンにはあるようで、確かにストレートなラブソングだし、流麗でクセのないメロディーやアレンジの、どうした岸田? というような王道ぽい曲ではあったと思う。「NIKKI」の時期のくるりをよく象徴している曲というか。
  • でも、先月、戸田でくるりのツアーの初日を観たとき、コーラス隊を入れてのこの曲が、やっぱりすごく感動的だったんだよね。ホールの音響で、ホールの照明の光量で、タイトなニャッキーのドラムで、その日のライブが始まってからずっとコーラス隊にコーラスを任せて歌ってなかった佐藤くんがこの曲で初めてコーラスを取って…分厚い人声による和音の美しさはなんだか、後光が差すような感じだった。あの演奏を聴いて、この曲のあるべき姿をやっと見たような気持ちに勝手になっていたんだけど。
  • 今回はそこに+矢野顕子ですからねえ。6人の声が重なるサビでも、ぽーんと前に飛び出ることができるアッコちゃんの声の力ったらなく、ピアノの押し引きも緩急自在。ギターソロのように旋律が振られていないのに、アッコちゃんのピアノが前に出る瞬間があって、力強いバッキングが胸にキまくった。
  • 思えば、フルバンド編成に乗っかる矢野顕子は久々に観たのだよ。彼女自身もそういうようなことを言っていて、「大勢でやるのが久しぶりで楽しい」「大きな音でね!」ってにっかーって笑っていたっけ。岸田くんが「すみません、デカい音で」と恐縮すると、「なんでえ? 気持ちいいよー?」ときょとんとしていたアッコちゃんがまぶしかったなあ。
  • 若い頃、フルバンドの中の音の駆け引きを、高速で駆け抜けてぶっちぎるような、そういうアグレッシブなピアノを弾いていたように記憶しているのです。今は、自分の呼吸の速度で歩いて、歌っていることが許されているし、それを志向している人だと思うけど、アドレナリンが出まくっている場での彼女のピアノの音の輝きも実に素晴らしく懐かしくて、こういう場がもっとあればよいのに、ってちょっと思った。
  • そしたら、「あぁ…やっぱいいわぁ、なんか…矢野さんに(くるりに)入ってほしいくらいですね」と岸田くんがぽわわん、と口走ったら「入るう?」と笑顔のアッコちゃん、それを見て岸田くんは「いやいやそんなん、全世界で20万人くらいを敵に廻すことになりますから」って失笑していて、アッコちゃんといると岸田くんは随分常識人に思えるから面白いよなーと改めて。
  • 会うのは久しぶりじゃないけど、一緒に演奏するのは久しぶりなんだよね、なんて、にこにこ喋り合う2人は「また一緒に曲書きたいねえ」「書きたいっすねえ」って言い合っていて、すごく微笑ましかったなあ。親子ほども年が違うのに、姉弟みたいな感じなんだもの。
  • この2人については、2人がそうやって思っていてくれれば絶対に、またそういう機会が来るんだろうなあ、って信じることができる人たちだ。マーケティング的な効果を計算しての競作、とか、一方的に目にかけられて断れなくて競作、とか、社交辞令で、とか、そういうのを案じる余地が一切ないから、手放しで信じていられるというか。勿論、この言葉を聴かなくても、また絶対どこかで再会して2人の音楽を作るのだろうと勝手に思い込んでいる部分があったけど、それでもやっぱり、こうやって言葉で聴くと嬉しかった。ものすごく。
  • それで、最後にね、矢野顕子+大くるりで「ブレーメン」を演ったのです。曲紹介の時点で「うひゃすごい」とか変な声を上げてしまったんだけど、音が鳴った瞬間からは、もう一切の言葉が出なかった。
  • あの曲って、音楽のもつ力をうたっている曲なんだと思う。異国の地で不遇の死を遂げた少年の、落雷で黒焦げになったクローゼットからこぼれたオルゴールのメロディ、その旋律が街の人々の心を躍らせ、少年の魂を故郷に連れて還る…っていう。どこにいても、いつでも、どんなコンディションであっても気持ちの片隅を離れないふるさとへの憧憬。そういうのがにじんで、えもいわれぬサウダージが濃厚に染み出してくる名曲なのですが、そこに加わったアッコちゃんのピアノがねえ、もう。
  • 女性的で、強くて逞しくて、とても堂々とした、力のあるピアノを乗せていた気がします。メロディの持つ力を損なわないように、へんな方向に捻じ曲げたりしないように、細心の注意を払って弾かれているバッキングが、あの民謡のような旋律にキラキラしたものを加えていてねえ。まっすぐだったなあ。泣くような余地がないくらい、まっすぐ、どーん、と来た。
  • 最後に、曲調が変わるところ。ブレイクでニャッキーが「ハッ」と叫んでからの各楽器の拮抗が素晴らしく、短いながらも濃厚な音のぶつかり合いだった。更に16ビートのシンコペーションに展開するところののびやかさに、矢野顕子のピアノが乗っかったらなんか、すごいことになっていた。鳥が飛んでるみたいな…翼をひと掻きして、その力でしばらく飛ぶ、みたいな、平泳ぎしてるときの手を掻いた後のけのび状態、みたいな、そういう流体力学的なのびやさかでした。
  • 音楽っていうのは、本当にうつくしくてつよいものですね。嵐嵐とうわごとのように騒いで、嵐のアルバムはクオリティテラタカスとにやけている昨今でしたが、あれは音楽ではあるけれども「音楽だけ」の音楽ではなく、「音楽」そのもののちからというのはこういうものだったなあ…と久しぶりに強烈に思い出しました。
  • 幸せな音と時間をありがとう。ありがとう。

…あ、なんか最後に書いてるな、当時、一瞬ものすごく嵐に気持ちを持ってゆかれていましたの。今は、タレントとして好感を持っている、という程度の温度です。余談余談。
今回、放映で観て改めて思ったのは、「おおきいあい」のビート感がすごくて、曲の入りは隙間だらけだったのに、知らぬ間に何十分の一、みたいな繊細な符点がいっぱいついたうたとピアノが電子音にガンガン乗っかって、非常なグルーブを生んでいた、ということ。つまり上で書いてるようなことなんだけどね。
あと、「ブレーメン」がホントによくって、聴き直してもたまらなくって。わたしは公録の後、しばらくの間は、「ブレーメン」を聴くとピアノが頭の中になっていたもんだった。アッコちゃんのピアノの力のすごさをちょっと思い知らされた1曲だったんだよなあ。
アッコちゃんもくるりも一緒にやっているアメリカ人ドラマー、クリフ・アーモンドは、「日本語が分からないので、歌詞を分かっているはずがないのに、分かっているとしか思えないようなドラムを叩く」って、岸田くんもアッコちゃんも別々の機会に言っているのを聴いた(読んだ)ことがあるんだけど、アッコちゃんのピアノも、何というか、「ブレーメン」のうたの世界を、あの場にいた誰よりも理解して物語っていたように聴こえたのだった。
くるりが今年の夏に地元・京都で主催した京都音楽博覧会で発売した BREMEN Tシャツのバックプリントには、

Wataridori fly away forward boy's hometown "Kyoto".

とプリントされている。あのうたの指し示す、少年の魂が還るべき街に、岸田くんは京都を重ねている訳で、その京都でのみやこ音楽祭に矢野さんを誘って、彼女も毎年招待に応じていて、そこにある思い思いの思いとかがちゃんと胸に届くような、そういう豊かさがみっちり詰まったピアノの音で、あの曲をよりいっそう「あるべき姿」に近づけていた、そーいうちょっとした奇跡ぽい演奏だったなー、と、そんな風に、改めて堪能して楽しんだ、というお話。
えと、WOWOW ってリピート放送あるんでしたっけか?? あのね、見逃した方はもう、リピートの機会には是非に是非に是非に。今年のみやこ音楽祭に行った友達は、去年のアッコちゃんの弾き語りの強烈さが鮮明すぎて、イマイチ yanokami西部講堂を楽しめなかったと言っていたのだけど、この「音の系譜」の yanokami は冴まくっててものすごかったし、まあるい雰囲気でふんわり嬉しそうに笑い合う、演奏中の岸田くんとアッコちゃんの表情を見るだけでも、双方のファンにとっては非常にいい気持ちになる番組だと思うのです。
この嬉しさのまま、あさってにはくるりのオーケストラセット@パシフィコ横浜、次の土曜にはアッコちゃんのさとがえる w/yanokami だ。やあ嬉しいなあ。楽しみでぐずぐずと体の芯が崩れるってもんだ。えへへ。

週末にガンダムの2本目を…借りたんだけど、1時間くらいのところで音が! 映像が! DVD に傷がついてたみたいでしたのね…しょんぼり。来週末は忙しそうだから見られないかなー。再来週かなー、ってもう年末だよね…年を越すのかな…(ぼんやり。
これを買わなきゃ。

hon-nin vol.05

hon-nin vol.05

サブカルみないで現実みろよ」
わっはっはっはっ、ごもっとも!
週末、恋人がこれを買っていたので横からチラチラ覗いていた。
このマンガを読め!〈2008〉

このマンガを読め!〈2008〉

あら、表紙画像が出ない…江口寿史だったんですけども、ランキング、1位は「海街diary 1 蝉時雨のやむ頃」だった。「このマンガがすごい!2008」でも確か2位。すごいや吉田秋生。「ラヴァーズ・キス (小学館文庫)」が吉田マンガで一番好きなわたしには嬉しい傾向だなあと思ったんだけど、「毎日かあさん4 出戻り編」も評価する人が多くて、ああ、と思った。そうだな、鴨ちゃんの話はほんとうに泣けた。泣かそうとしてないのに泣けて、だからものすごくつらかった。
松尾さんが、そういえば、電車かなんかで読んで泣けて困った、みたいなブログを書いてたなあっていうのも思い出した。松尾さんのブログを見ていれば、次の hon-nin に誰が参加するのが分かるような気がした。