ウイルスと生物の変化

先日ウイルスを使って遺伝子を導入するという話を書いたところですが、ちょうどこんなニュースが報道されました。

ヒトゲノムに4000万年前のウイルス遺伝子、阪大が発見

ヒトの全遺伝情報(ゲノム)のなかに、人類の祖先が4000万年以上前に感染したとみられるウイルスの遺伝子の一部が取り込まれていることを、大阪大学(Osaka University)などの研究チームが発見した。7日の英科学誌ネイチャー(Nature)で発表された。

 このウイルスは1970年代に発見された「ボルナウイルス」で、動物の脳に感染しやすい。ヒトの疾患との関係や感染経路ははっきりしていない。

 大阪大学の朝長啓造(Keizo Tomonaga)准教授らのチームは、ヒトや類人猿、ゾウ、有袋類やげっ歯類など哺乳類のDNAを比較分析した結果、さまざまな動物で、ボルナウイルスの遺伝子配列の一部が組み込まれていることを発見した。ヒトのゲノムのなかでは数か所で見つかった。

 ヒトゲノムの8%がウイルスに由来する遺伝子と言われるが、これまで脊椎(せきつい)動物のゲノム内に遺伝子が組み込まれることが知られていたのはレトロウイルスだけだった。

 ボルナウイルスの遺伝子の一部が組み込まれたことで起きた遺伝子変異はあったのか、遺伝病の原因あるいは病気の予防になっているのではないかなど、今回の発見は今後、活発な議論を呼びそうだ。

記事中にもあるレトロウイルスは遺伝子導入に以前からよく使われているウイルスですが、ボルナウイルスというのは初めて聞きました。動物の脳に感染しやすいそうですが、4000万年以上前の感染したウイルス由来の遺伝子が世代を超えて受け継がれているということは、おそらく生殖細胞にも感染するのでしょう。


神経系の細胞に遺伝子を導入するために使われているウイルスとしては、単純ヘルペスウイルスなどがありますが、このボルナウイルスというのも遺伝子導入に用いられるようになるかもしれませんね。


それはさておき、ウイルスで動物が変化したり進化したりという話はSF等ではよくあります。有名どころでは「バイオハザード」ですが、個人的には「レリック」とその続編の「地底大戦 レリック2」がお勧めです。

レリック〈上〉 (扶桑社ミステリー)

レリック〈上〉 (扶桑社ミステリー)

地底大戦―レリック 2 (上) (扶桑社ミステリー)

地底大戦―レリック 2 (上) (扶桑社ミステリー)

地底大戦―レリック 2 (下) (扶桑社ミステリー)

地底大戦―レリック 2 (下) (扶桑社ミステリー)

ちなみに、「レリック」は映画化もされていますが、映画の方は単なるB級ホラーという印象でしたので、お勧めしません(笑)。



バイオハザード」や「レリック」では既に成体になっている動物(人間)がウイルスによって怪物になるわけですが、実際にはこういった可能性は極めて低いでしょう。人間の細胞は60兆個もあるので、これらの細胞全てに遺伝子を入れることは現実的には不可能です。あえて可能性を挙げるとすれば、ホルモンのような他の細胞に影響を与えるものを作り出すための遺伝子が持ち込まれた場合は、遺伝子が導入された細胞がごく一部であっても個体に大きな変化をもたらす可能性があります。


一方、既に成体になっている動物を怪物に変化させるのではなく、ウイルスを使って生物の進化に干渉するというストーリーのものもあります。かなり昔にNHKで放送していた「ジーンダイバー」がそうですね。当時はまだ小学生でしたが、この作品が私の進路に干渉した結果、今の私があるように思われます。

ジーンダイバー DVD-BOX

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進化に干渉するという場合は、生殖細胞1個にしか遺伝子が導入できなかった場合でも、その細胞から子供ができれば、その子供の細胞は全て新しく導入された遺伝子を持っていることになるため、比較的現実にありえます。実際、レトロウイルスや記事のボルナウイルスなどはそうやって生物の進化に影響を与えてきたのでしょう。(もちろん、実際にはアニメと違って誰かの意図によって進化に影響を与えてきたわけではありませんが)


それにしても、「ジーンダイバー」も、その前に放送していた「恐竜惑星」もそうでしたが、子供向けのアニメでずいぶんと難しい話をしていたものです。テレビ局では「視聴者はバカだと思って番組を作れ」みたいに指導されるという話も聞いたことがあるのですが。・・・しかし今にして思うと、あのアニメで動物への遺伝子導入に使われていたウイルスの形が、月面着陸機のような形状だった気がするんですよね。私の知る限り、月面着陸機のような形状をしているのは細菌に感染するウイルスであるバクテリオファージの一部で、動物に感染するウイルスはたいてい手毬のようなつまらない形をしていたと思います。