死者の短剣 惑わし(ロイス・マクマスター・ビジョルド)

五神教シリーズと同じく、ビジョルドの構築したファンタジー世界が堪能できる。
しかし、あくまでも序章である、と信じたい。

なぜなら、1巻は、地の民の娘フォーンが、「悪鬼」を退治する技を伝える湖の民の男ダグと、「悪鬼」に襲われた事件を通して知りあり、その結果、民族の違いを越えて結婚しようとする物語としかいえないからだ!
さらに、まだダグの民に、この結婚を認められるというアイテムも残っているのだ。
私はファンタジー・ハーレクインも大好きだが、本の1/3以上が結婚の承諾を得るために割かれているという事実がイタイ。

早く、悪鬼に死を教えて葬り去るという力を秘めた「死者の短剣」の物語を読みたいのだが、このままでは「歳の差結婚物語」で「惑わされ」。
うがーっ

死者の短剣 惑わし (創元推理文庫)

死者の短剣 惑わし (創元推理文庫)

グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉

ミステリは日本ものが好きだけど、SFとファンタジーは海外のものが好き。
という傾向があり、日本作家のSFはほとんど読まないんだけど、この作品には衝撃を受けた。

ゲストが来なくなったヴァーチャル世界のAIたちが、自分自身とこの世界「夏の区界」の存在を賭けて、正体不明の敵と戦う一夜の攻防が描かれている。

キャラクター造形、世界の構成、AIの在り方、どれをとっても、繊細で品がある内容になっている。
それでいて、物語が進むにつれて、残虐さとかエロティシズムとか、そういう日本の作品が得意とする部分が前に出てくる。
力技が多いアメリカSFとは(日本SF作品では、栗本薫とか平井和正しか読んだことなかったので)、明らかに違う。

借りて読まなきゃ、絶対に手にしなかっただけに、読めてよかった。

グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワ文庫JA)

女悪魔の任務(魔法の国ザンス19巻)(ピアズ・アンソニィ)

作者は女悪魔メトリアが大好きなんだろうなぁ。
 
17巻で人間と結婚して魂を得た女悪魔メトリアが19巻の主役。
なんとかして、コウノトリを呼びたい(子供が欲しい)という思いから、大活躍する。
18巻では魂と共に良心を得てしまったメトリアからこぼれ出た悪魔らしい部分を受け持つ半身メンティアがメインキャラクターの一人として大活躍したので、このスローな刊行ペースでも、メトリアのことだけは状況を把握できている。
 
主役が既婚者なので、ザンスに付きもののボーイミーツガールの要素があるのか心配だったが、一応、あった。
ナーガのナーダ王女なんだけど、なんだか、すごいやっつけ仕事な気がする・・・
さらに弟ドルフ王子に比べて非常に永い春を過ごしているアイビィとグレイのカップルを多少取り上げているが、その取り扱い方がすごい適当。
振り返ってみると、3人の人格が同居する女悪魔メトリアの葛藤と、遵法と正義と義務と良心を熱く議論するという法廷シーンがメインで、登場キャラクターは多いのに、印象に残る役割をしたサブキャラクターがいなかった。
 

女悪魔の任務 (ハヤカワ文庫 FT ア 1-19)

女悪魔の任務 (ハヤカワ文庫 FT ア 1-19)

ドレスデン・ファイル2(ジム・ブッチャー)

電話帳に「魔法使い」と掲載しているハリー・ドレスデンが主役の現代ものハードボイルドのファンタジー
ハリーは細身長身を黒づくめのくたびれた私立探偵風の格好をし、女難の雰囲気が漂い、気の強い女性に、古風な騎士道精神を発揮しては、当の本人から「そんなこと頼んでない」と怒られるという状態。

ハリーに協力を依頼するカリーン・マーフィ主任(警察の特殊捜査係の係長)が、素敵。
150cmの小柄な体ながら、犯罪への怒りに燃えるエネルギッシュな女性、というかおばさん。
ハリーとマーフィの関係は、叔母と甥、みたいな関係。
ハリーが「魔法使いの目」で観たマーフィの姿は、まさに闘う守護天使だったというエピソードも良かった。
ちょっとした行き違い(というかハリーの騎士道精神)でケンカも良くするが、熱い信頼と友情に結ばれた相棒という感じがいい。
二人は、前作(魔物を召喚するモグリの魔術師に関わる事件)で、最後、大ゲンカしてしまったところで終わり気になっていたのだが、2巻を全部使って、ようやくしっくり来る。

2巻は狼人間に関わる事件。
ウェアウルフライカンスロープ、ヘクセンヴォルフ、ルー・ガルーとヨーロッパ各地の狼人間の種類を羅列したら、それぞれが登場してきたあたり、親切。
魅力的な、あるいは悪党の狼人間たちが次々と登場し、ハリーをボロボロにしていく。

いつだって限界に挑戦というのも、このシリーズの特徴かも。

ドレスデン・ファイル 2 〔狂った月〕 (ハヤカワ文庫 FT フ 14-2)

ドレスデン・ファイル 2 〔狂った月〕 (ハヤカワ文庫 FT フ 14-2)

ドレスデン・ファイル3(ジム・ブッチャー)

第3巻のゲストはヴァンパイアと妖精の女王と悪霊。
妖精といっても、第1巻に出てきた甘いミルクが好物の小妖精レベルではなくて、敵のヴァンパイアの女男爵と同列の恐ろしさと厄介さと狡猾さを併せ持つボスキャラですが。
今後も登場して、ハリーを困らせることは間違いない。

今回、警官マーフィはあまり活躍せず、教会に属する騎士・マイケルが相棒。
大工の作業着の上に、白いマントと、神から与えられた力がある3本の剣の1つ(アモーラチウス)を手にした気のいい大男。
マイケルのことは、読み終えるまで1巻に出てきた白の評議会(魔法使いの組合みたいなもの)から派遣されて、ハリーを監視していた石頭のモーガン(魔法使い)と混同し、いつの間に仲良くなったのか不思議だった。
別人でなっとく。
信仰篤い大柄な騎士、の典型のような良き夫・良き父を地で行くマイケルとの掛け合いは、ハリーとマーフィに比べると、ハリーが強気。
マイケルの妻チャリティには、ハリーは太刀打ち出来ないが。
敵のヴァンパイア(赤の王室)の派閥とは異なる白の王室に属するヴァンパイア・トーマス(人との混血かもしれない?)の美しく、気まぐれで、憎めないキャラクターも、ヴァンパイア好き女子には、たまらない典型的なキャラクターだ。
マイケルとトーマスと、名前も性格も全くひねりがない2人が、今回ハリーの戦いをサポートする。

ハリーの恋人で新聞記者であるスーザンの職業意識は、前作以上にムカつくがそれが伏線となり、ハリーとスーザンの関係の変化が、この作品のポイントになった。
今後、どうなるのか、という苦々しいエンディングへとつながってしまった。

ハリーの母親の謎と、スーザンとの行く末。
どちらも、今はいい方向に向かうとは思えない2点が、次へ持ち越されました。

ドレスデン・ファイル3―血塗られた墓― (ハヤカワ文庫FT)

ドレスデン・ファイル3―血塗られた墓― (ハヤカワ文庫FT)

テメレア戦記1(ナオミ・ノヴィク)

アン・マキャフリーの「パーンの竜騎士」好きにはたまりませんね。
 
時代は、皇帝ナポレオンが世界征服に向けて張り切っている頃。
空軍が保有するドラゴンが少ないために、英国はフランスに苦戦を強いられている。
英国海軍の将校ローレンスは、捕虜にしたフランス艦に乗せられていた卵のドラゴンに選ばれたことによって、海軍将校の地位もこれまでの人生計画もすべて捨て、歳が行き過ぎた新米の(ドラゴンの)飛行士として、空軍に所属することになった。

ドラゴンはパートナーに忠実な愛情を傾ける、というところは、パートナーとのみテレパシーで会話するパーンの竜騎士のドラゴンと同様。
あるいは、エラゴンとも。
でも、海軍で一定の地位についていた堅物(イギリス紳士)のローレンスが、貴重な種類のドラゴンをたまたま手に入れた状態で、自由闊達な雰囲気の空軍でがんばる姿は、少年少女が主役の前述2シリーズとは違う大人好みの味わいがある。
ドラゴンのテメレアは、ローレンスが辟易するような超難解な学術書を朗読させるのが好みというインテリジェンスと、ローレンスに示す子犬のような愛らしさと忠実さが同居していて、なぜだか、心がきゅーーーっとします。
ツボです。
テメレアがフランスとの戦いに参加すると、ドラゴンの空中戦が繰り広げられる。
ただし、ドラゴンには多くのクルーが同乗しているので、竜とその騎士、というより、飛行船とそのクルーというチームワークの戦いになっているところも、才能はあっても我慢を知らない若者がドラゴンにまたがるケースと違う。

エラゴンとテメレア戦記は、どちらも、同じデビュー作。
作者の年齢がそのまま、主人公を含む登場人物たちの精神年齢に対応しているのが、わかりやすい。
テメレア戦記のほうがじっくり読めて好みです。

テメレア戦記〈1〉気高き王家の翼

テメレア戦記〈1〉気高き王家の翼

●セブンスタワー 1(ガース・ニクス)

太陽がなく、サンストーンの輝きだが光を与える不思議な世界が舞台。
氷原にそびえたつ7つの塔の中で育った少年タルが、突然、父を失い、世の中から見捨てられ(役人のいじめを思い出すだけで、腹が立つ)、塔の外へと放り出されてしまう。
しかし、塔の外には、タルの全く知らない人々が暮らす世界があったのだ。

1巻ということで不幸な少年タルが、パワフルな少女ミラと出会う、というところまでが書かれている。
しかし、タワーの中の不可思議なルールや、スピリシャドウという謎の生き物(ちょっとライラの冒険のダイモンを思い出したけど)の全貌がつかめない。
どうやら、タルの不幸な冒険は、この世界の謎を解き明かすことも含まれるようだが。
(図書館には3巻までしかない)

セブンスタワー〈1〉光と影

セブンスタワー〈1〉光と影