米一粒仏七体

個人的備忘録です

祇園宵山回想

 さて、毎年恒例の夏の東京行が目前に迫って参りましたので、その前に先月の京都宵山観光の回想でも。
  本来なら、京都旅行から帰ってすぐに書くべきだったのですが、色々ばたばたしていて、遅れに遅れてしまいました。

 さて。
 京都の伝統祭事、祇園祭。『山鉾』と呼ばれる巨大な御輿のようなものを巡行させるのが習わしとのことですが、その前日晩の祭りを『宵山』と呼ぶようです。
 森見登美彦先生の小説『宵山万華鏡』はこの宵山が舞台となっていますが、祭好きの私としては是非一度見てみたいと思い立ち、ついでに森見登美彦先生の作品の舞台も少々巡りつつ、京都観光に繰り出してみました。

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 京阪電車祇園四条駅を降り立つと、すぐに鴨川が。
 現在アニメが放送中の『有頂天家族』などの舞台となっている場所ですね。
 まずはこの近辺の禅寺、建仁寺を訪ねてみました。

 

 風神雷神図屏風で有名な古刹ですが、法堂の創建800年記念の『双龍図』の天井画など、私好みの素敵な禅寺でした。
 特に、禅庭が素晴らしく、暫し正座してぼんやりと風景を楽しんでしまいました。

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 一生懸命にスケッチブックに庭の様子をデッサンしていた外人さんがいたのが印象的でした。
 やっぱり、こういうお庭は正座をしてゆっくり眺めるに限ります。時間のある時ならば、半日ばかり縁側に座していたいところですね。

 その後、てくてくと鴨川沿いを歩き、賀茂川と高野川の合流点、俗に言う『鴨川デルタ』まで上っていきました。
 『四畳半神話体系』の下鴨幽水荘があったり、狸の下鴨一族が居を構えている辺りですね。

 折角なので、下鴨神社に参拝することにしました。
 由緒正しき縁結びの神様です。私にも良縁を運んで下さるでしょうか?

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 下鴨神社の表参道はとても気持ちのよい森になっていて、これまた素敵な御神木があったりします。
 その後適当に哲学の道辺りを散策したりして、いよいよ本番の宵山に向かいました。

 陽が落ち、道路が歩行者に解放されるにつれ、増えていく人、人、人。
 八坂神社の辺りから、四条通りを烏丸通りと交わる辺りまで進むにつれ、巨大な山鉾が姿を現しました。

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 正直、私は山鉾を御輿の延長線上のものと思っていましたので、この大きさは想定外です。
 一番最初に出会う山鉾『長刀鉾』はビルの数階にまで及ぶ高さで、圧倒されてしまいました。


 夜が深まるにつれ、山鉾の提灯は輝きを増し、方々でチキリン太鼓の音が鳴り響き、何とも言えない不思議な雰囲気が醸し出されていきます。
 折角なので、全三十三台の山鉾を全部この目に収めてやろうと歩きだしましたが、人ごみに揉まれて中々先に進めません。

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 函谷鉾。
 前掛けは重要文化財です。

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 伯牙山鉾。
 何だか人参のような形です。

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 岩戸山鉾。
 この鉾には、中に上げてもらうことができました。

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 鉾の中からの様子です。
 チキリン太鼓が鳴り響き、とても不思議な感覚で下を見下ろすことができました。

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 蟷螂山鉾。
 内側のカマキリのカラクリ人形が動いているのがユーモラスでした。

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 船鉾。
 文字通り、船の形をした鉾です。
 この船鉾の前では、浴衣を着た女の子たちが、『船鉾ちまきいかがですか~、お守りちまきいかがですか~』
 と、京都弁での独特の節回しをつけて、船鉾ちまき販売の口上を唄っていました。
 あんまりにも可愛らしかったので、私も一つ購入。

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 歩き回ったので、ジンベエが着崩れしてくたくたですw
 このちまき販売の口上は、『他ではでません、今宵限り~』など、鉾ごとで異なっていて、これが伝統なんだな~、と面白く思いました。
 

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  菊水山鉾。
 この鉾も隣の建物から中に入って観覧することができたようですが、余りに人が並んでいたので断念。

 

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 夜の長刀鉾は壮観です!

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 四条傘鉾。
 小さめながら、ユーモラスな形をした鉾です。

 

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 橋弁慶山鉾。
 武蔵坊弁慶と牛若丸の人形が設置してあります。

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 そのほか、名前が分からなくなってしまった鉾の写真も沢山ありました。

 全部の鉾を見て回ろう、と意気込んでみましたが、何十万という人の訪れるなかでは無謀な試み、20台程の鉾の見物で、お腹いっぱいになってしまいました。
 
 露店は見たことも無い数が立ち並び、あちこちで様々なイベントが行われていました。
 珍しいものでは、カポエイラの実演などもあり、すっかり魅入ってしまいました。

 駆け足で紹介しましたが、宵山、パワフルで幻想的で、最高に素敵なお祭りでした!
 次は、昼の山鉾巡行まで見物に行けたら、と欲張りなことを思ってしまいます。

 

軍艦島日帰り旅行。

 先週末、廃墟好きのメッカ、長崎の軍艦島へと日帰り旅行に行って参りました。
 その直前に台風4号が九州に接近しており、悪天候による直前のツアー中止もあり得たのですが、有難いことにこの台風4号、九州に近付く前にあっさりと熱帯性低気圧へと変わり、当日は暑くもなく雨も降らない絶好の観光日和に恵まれました。
 長崎は同じ九州圏内、どうして今まで軍艦島ぐらいまで足を延ばさなかったのだろう、と今更ながら首を捻っていますが、運よく格安の日帰りツアーがあったので、思いきって楽しんでみることにしました。

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 長崎の街並みです。
 坂道だらけの素敵な街で、あちこちに階段がずらりと並び、急な斜面の遥か上までずらりと家が並んでいる景色は何だかジブリチック。
 今回の軍艦島ツアーとは別に、またゆっくり一人で心行くまで歩きまわってみたいと思える私好みの素敵な街でした。

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 お昼御飯。
 早朝の集合で、長崎に着いたのは昼前なのですが、 長崎を一望できるホテルで昼食をとり、それから軍艦島に乗り込むというツアーの計らいです。
 長崎和牛と蒸しアワビが中々の美味。この後の海鮮鍋の絶品でした。

 

 

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 クルーザーから撮った軍艦島です。
 正式名称は端島ですが、横から見たシルエットが軍艦に似ているので、軍艦島と呼ばれているそうです。

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 上陸してみると、期待通りの素敵な廃墟。
  この、人工物が自然物に浸食されていく構図というのが大好きだったりします。

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 ベルトコンベアー跡、それから学校の体育館跡です。
 ぐちゃぐちゃに崩落するのではなく、昔の形を偲ばせる面影が残っているというのが素敵ですね。

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 この軍艦島、世界遺産への申請中だそうですが、大きな台風などに見舞われたら、完全に壊れてしまうかもしれない部分も沢山あるそうです。
 勿体無いので、できるだけ長く残って欲しいですね。

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 軍艦島の風景は幾度も写真なので目にしたのですが、この草木に侵されていく様を間近で見ることができるのは、やっぱり現地だけの特権ですよね。

 

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 本当は、崩れた建物の中に入って、思う存分に散策して廻りたいところですが、当然の話、どこの建物も崩落の危険が高く、周囲の安全なルートから眺めることしかできませんでした。

 

 

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 でも、こんな吹き抜けになった建物をみると、入ってみたくなるのが性というものですw
 


 長年行きたかった軍艦島を楽しめて、大満足の一日でした。
 ただ、やっぱりツアーで周るというのは今一性に合わなかったので、また今度ゆっくりした時に長崎中を観光して、それから軍艦島も気ままに見て回ればな、などと思っています。
 手持ちのデジカメで適当にシャッターを切って撮った写真ですが、余りに下手糞なものばかりだったので、もう少しちゃんとしたカメラを用意して、立ち入れない遠景の様子も撮ることができたらなー、などとも考えています。

 ツアーの帰りの休憩地点で寄ったカステラセンターの、チーズカステラとブルーベリーカステラをもふもふと食べながら、次の旅行の予定を考えています。
 次に遠出するのは、やっぱり夏のアレでしょうか?
 



 

 

 

居合刀の修理。

 稽古で愛用している居合刀が、使いすぎと、私の腕が未熟なせいで段々と鞘の方が痛んで参りました。
 抜きつけの繰り返しで鞘の内側が擦り減り、鯉口が緩んでいるのと、抜きつけの負担が重なったせいで、鞘に罅が入ってしまいました。
 

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 鞘に入った罅です。これを放置しておくと、鯉口が緩くなるのみならず、罅が広がって、最後には鞘が二つに割れてしまいます。

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 鯉口が擦り減って緩くなった部分には、朴の木の板を削って内側に貼り付けました。

 難しいのは、鞘の罅の方です。
 先生に修理法を習い、自分でもできそうなので、道具の修理も武道家の嗜みということで、自分で修理に挑戦してみることにします。
 と、言っても、そう難しい作業ではありませんでした。

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 切れない頑丈な糸が必要とのことなので、手芸店に行って、革工芸用の糸を買い込んできました。色は鞘の色合いに合わせています。
 それを、鯉口の方のから、ぎゅっ、ぎゅっと罅割れが広がらないように締め付けながら、鞘に巻きつけていきます。
 

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 最初は糸の方をまわしていましたが、鞘の方を回転させた方が楽で確実でした。
 結構根気のいる作業でしたが、鯉口から栗形まで、みっちりと巻きつけていきます。

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 巻きつけ完了。
 最後に糸を引きつけ、解けないように結び合わせます。
 稽古中にほどけてしまう可能性もありますが、その時はその時で。

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 最後に、ばらけないように、糸の上から接着剤を塗りつけて固めて完成です。
 もう少し、糸の色合いは暗い方が良かったかな?
 
 稽古を繰り返していくと、段々刀も痛んでくるのは避けられませんが、やっぱり、正しい方法で丁寧に抜くと、刀の磨耗もぐっと少なくなります。
 まだ抜きつけに力が入ることも多いので、肩の力を抜いて、鞘引きを意識して一本一本丁寧に抜くように心がけていきたいですね。

 

連休と盆栽いじり。

 五月の連休を利用して、母方の実家の佐伯の田舎に帰省して参りました。
 廃屋寸前の家の手入れと周辺の草刈り、裏山での筍掘りなど、所謂野良仕事ばかりです。
 山の崩れた部分に、小さな杉や南天、庭に植えていたピラカンサの実生などがニョキニョキと芽を出していました。
 こんな所で大木に育たれても困るし、行く行くは刈ってしまうしかないので、掘りかえって、盆栽に仕立ててみることにしました。
 針金掛けも枝も整えていないので、盆栽と呼ぶのもおこがましく、盆栽鉢に寄せ植えにしてみた、と呼ぶのが正しいでしょうか?

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 ラピュタ兵の鉢にピラカンサを植え込んでみました。
 この鉢、形状的に排水性が悪いせいか、以前植えていたイワヒバの育ちが悪く植え換えたので、とりあえず当面はこのピラカンサを楽しんでみることにします。
 二股に分かれた木を頭の左側に植え付け、同じ方向に枝を伸ばしてみました。

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 余った杉や南天などを小庭風に植え付けてみました。
 ちょっとした小石や苔などを張り付けてみましたが、きちんとつくでしょうか?

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 杉の実生の小苗を使った小品盆栽です。若い杉は歯が尖っているので、もう少し育ってほしいものですね。左側の苗は井戸端から、右側の苗は道端から掘ってみました。

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 去年二本の銀杏の実生小苗をロンギヌスの槍のように捻ってみましたが、今年も非常に元気です。
 半ばノリに任せてこんなことをしてみましたが、どうしようか思案中です。


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 毎年春恒例の苗木市で買った、五葉松の実生小苗です。素人の私が無思慮に生やしたり引いてきたりしたものと違って、美しい樹形をしています。どう育てるかゆっくり考えていきたいと思います。

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 去年から使い途がなく、イワヒバを詰め込んだりしていた槇の節ですが、セッコクを買って植え付けてみました。これが本来の正当な使い途です。
 ドリルで穴をあけて針金を通し、アケビの棚に吊るしてみました。
 日当たりも柔らかで良い場所だとは思いますが、夏になるとイラガが発生するので、そのうち場所を変えねばなりません。

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 アケビの葉を見ると、大きなクロアゲハが。風流なので一枚撮ってみました。

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 庭で育てているカモミールです。今年は豊作で取りきれないぐらいの花が咲いています。苦労して大量に摘んでも、ハーブティにするとポット一杯分もならないのが悲しいところです。


 さてさて、田舎から掘りたての苗を適当に植え付けてみましたが、果たしてきちんと着くでしょうか?
 杉や南天は固い岩盤の部分に生えていたのをやや強引に掘り採ったので、大部根を傷めてしまった感があり、水やりが悪ければ全滅もありうるかな、などと思っています。
 ロボット兵の鉢に植えたピラカンサぐらいは着いて欲しいですね。
 どれも、田舎で雑草同然に大量に生えてきているものなので、もし枯らしたとしても惜しくなく、私のような素人の練習にはもってこいかな、と思っています。
 勿論、苦労して植え付けたものが簡単に枯れてしまうのは悲しいので、元気に育ってくれれるのが一番なのですが、さてさて、どうなるでしょう?

 

「聾の形」と「琴浦さん」~コミュニケーション不全キャラ~

 今巷で話題になっている週刊マガジン12号の読み切り「聾の形」、興味があったので久々にマガジンを購入して読んでみましたが、噂になるには十分の面白さでした。 賛否両論だの何だの言われていますが、私は前情報を殆ど無しで読んだせいか、満足に楽しめましたし、感想を聞かれたら、面白かった、と人に勧められます。
 感想とも考察ともつかないものを、とりとめもなく書いてみることにしましょう。

 ヒロインの少女が聖人過ぎてリアリティが無い、という批判を沢山も読みましたが、私は寧ろ抑圧と不安から「いい子」としてしか振る舞えなくなっていて、それが終盤の主人公と殴り合いの喧嘩をしたシーンで解放されたように読みとれ、聖人過ぎる、という批判は的外れであるように感じました。
(勿論、エンターテイメントと供されるための相応の美化、身も蓋も無い言い方をすれば、『萌えキャラ』としてのキャラ造形をされていますが、それは目くじらを立てるような問題ではないと思っています)


 少し気になったのは、「この読後感は最近どっかで味わったことがあるぞ」というもやもや感で、少し考えて、「ああ、これは『琴浦さん』の一、二話を視聴した後と同じ感覚だと思い当たりました。
 『琴浦さん』を知らない方に大雑把に説明すると、他人の心が読める超能力者の女の子が、コミュニケーションに苦心しながらも、親しい友人達を増やしていくストーリーの、WEB漫画原作のテレビアニメです。
 この主人公の琴浦春香は、聾唖者のある意味正反対、他人には聞こえない筈のものが聞こえる体質なのですが、これは上手に使えば、人間関係を自在にコントロールすることもできる強大な能力です。ですが、主人公は対人関係を上手く理解できなかった幼少期に自分の能力が原因で他人を傷つけたことを恥じ、他人を避け、いじめの対象にまでなります。
 「聾の形」の主人公は社会で明確に定義された聾唖者ですが、「琴浦さん」は、ファンタジー寄りな世界設定での、限りなく脱臭化された形での障害者であると解釈できるのではないかと私は思っています。

 非常に不謹慎なことだと考えていますが、『障害者萌え』という萌え属性が存在します。『障害者萌え』を求める心理効果は、『障碍がある(弱者である)ヒロインを主人公が支える』という物語によって、自己有用性を認められた存在としての自分を、もしくは理想化された強者としての自分をロールプレイしたいというものであり、その是非は兎も角、非常に理解・共感しやすいものだと考えています。

 コミュニケーション不全キャラも萌えキャラとして多数存在しますが、その本質としては障害者萌えと同じで、他人に興味の無い、孤高な、若しくは孤独な存在のヒロインに認められる特別な存在としての自分をロールプレイしたい、という欲求を満たすために存在するキャラ・物語類型です。

 「聾の形」や「琴浦さん」のイジメシーンなどを見て、「ああ、僕だったら彼女をイジメたりせず、救いの手を差し伸べてあげるのに、そしたら僕は彼女にとっての特別な存在に・・・・・・」など考えてしまうような方は、ある意味一番これらの物語を楽しめるのではないでしょうか。

 「聾の形」での、非常にリアリティのあるスクールカーストの描写やイジメの描写は多くの書評で高く評価されていますし、私も素晴らしいと絶賛致します。でも、それ以上に私が評価したいのは、安易な和解へと軟着陸させずに、聾唖者のヒロインとイジメの主犯だった主人公との、殴り合いの描写を入れたことです。このシーンが入ることによって『障害者=心が純粋、健常者=心が不純』という、ありきたりな物語類型を破壊して、障害者健常者という枠を超えて、初めて二人が同じ土俵で対峙できた、ということを表現できていると感じています。
  喧嘩のシーンの最後のコマのヒロインの顔のアップ、その口許が少しだけ楽しそうに口角が上がっているのが印象的できした。その次のコマ、喧嘩の事後のシーンでは、主人公が暴力を振った男子として担任教師に首筋を掴まれ、ヒロインがイジメを受けた少女として母親に肩を抱かれているのも、当人同士の感情はどうあれ、社会は無条件にそう判断してしまうことを暗示しているように思えます。

 琴浦さんもそうでしたが、イジメを題材に使う物語には、当然のようにイジメを行う『悪役』が登場します。琴浦さんでは、イジメ問題は悪役の少女と和解を行うことで早期解決します。『聾の形』における悪役が一体誰か、というのは難しい問題ですが、イジメを率先した行った主人公、参加したクラスメイト、傍観した教師、どれも加害者という立場から見れば悪役であるように見えます。ですが、ヒロインの少女がクラス全体の足を引っ張り、快適だった自分達の生活空間を侵害された主人公を始めとするイジメの加害者達にも、十分にも同情の余地があります。(私はイジメ問題は、加害者だけでなく、被害者にも原因があるケースが多いという説を支持しています)主人公は物語中盤から、ヒロインに代わってイジメの被害者になりますが、これも主人公の因果応報的な面が強いでしょう。
 漫画として、どのキャラクターが一番読者から見て憎たらしく描写されているかはされおきます。私がこの物語の悪役と呼ぶに相応しい存在の一つに感じているのは、作品内ではあまり描写されてない、『ヒロインの親』です。
 ヒロインの普通小学校の生活は、結論から言えば破局で終わりました。その原因を作ったのは紛れもなく、困難を承知でヒロインを普通の学校に通わせたヒロインの親でしょう。
 (勿論、ヒロインが普通の学校に行ってみたい、と親に強くねだったのかもしれませんし、物語の主題が聾唖者と健常者の間のコミュニケーションの困難さなので、そもヒロインが転入してこなければ物語が始まりません。現実には親が体裁を保つために障害児を普通校に通わせることによって生じた悲劇も多いですが、この作品で私がヒロインの親が悪役だと主張するのは、単に『こいつが悪い』と指さすに足る悪役が居れば安心するという私のエゴです)


 『琴浦さん』はイジメ問題が解決し、主人公とヒロインのラブコメを中心とした物語に移っています。「聾の形」の二人のこの先が気になる! という声もちらほら聞こえますし、私も同意できるものはあるのですが、この物語は61pの短編で過不足無く終わっていますので、連載化などされないことを願っています。
 やっぱり、この漫画で一番心に残ったのは、クライマックスの主人公とヒロインが殴り合いの喧嘩をするシーンです。障害者を弱者として描写する作品が多い中、障害者を対等の相手として対峙することへの象徴的なシーンだと思っています。

 あと、障害者をテーマに扱った漫画で、私が印象に残っているものには、18禁のポルノ漫画ですが、『ラブイズブラインド』という短編があります。これは、視覚障害者の中年の男に恋した未成年の少女が、自分の年齢を詐って恋人関係となり、肉体関係を結び、最後には、男は少女に、未成年であることに気付いていながら、関係を止められなかったことを詫び、愛してくれたことへの礼を言って警察に自首をする、というストーリーの、障害者が加害者となる形の珍しい物語です。
 短編のポルノ漫画でしたが、ラストシーンの、自分を対等な者として扱ってくれたことに対して、泣きながら少女に礼を言う男の姿がとても印象的でした。

 

 何だかんだで、私は障害者を、=弱者=自分のエゴを満たしてくれる存在、という等号の連鎖で繋いでいくことへの、嫌悪感を覚えます。『琴浦さん』をラブ コメディとして楽しみながらも、そんな嫌悪を覚えることも何度かありました。(物語後半に入って、ヒロインの琴浦さんは弱者という属性を脱ぎ棄てて、対等 な人間関係を築きつつあります。物語のクライマックスは1、2話だと感じていますが、現在の展開には安心感を覚えています)
 障害者を萌え対象として消費する物語よりも、この「聾の形」のように、コミュニケーションの形を模索する物語の方が好感が持てるようです。
 とは言え、何だかんだで萌えは強し。この漫画もヒロインの西宮さんが可愛らしく描かれていたからでこその評価でしょう。萌えるな、なんて言う気は毛頭ありませんし、萌えの狭間にこの漫画のような素敵なメッセージを挟んでくれる漫画が、これからも沢山読めるといいな、と結んでおきます。

 

 

追記:聾唖者の登場する漫画では、すぐにバガボンドを連想しましたが、あちらはほとんど迷いなく、剣(肉体言語)=コミュニケーションと割り切っていますね。 

 

追記:柄にもなく長々と書きつづってしまいましたが、この漫画を読んで胸に溜ったものを吐き出したくなって筆をとりました。私と同じ思いの方は多いらしく、聾の形のレビューがあちこちに飛び交ったいます。

 語りたくなる作品、というのは私にとって名作の欠かせない条件ですので、それだけこの漫画は名作に呼ぶに値するでしょう。

大阪旅行記

 さて、所用あって先週の木曜から大阪に行って参りました。
 ついでに大阪在住の弟と久闊を叙し、折角の休日を利用をして、短いながら関西を遊び倒すことにしました。

  1. 商店街で買い物。
     関西でよくイメージとして浮かぶのは、朝の連続ドラマのロケ地です。我が大分も稀にはあるのですが、連ドラの舞台率No.1は圧倒的に関西圏、特に大阪で、大阪の商店街と聞くと、よく過去の連ドラを思い出します。
     弟の住む千林にも、千林商店街という立派な商店街がありますが、そこが正に私の抱いている大阪の商店街のイメージにぴったりのところで、犬と鍋をリヤカーに積んで、豚軟骨の煮込み(私の大好物)を売りに来てるおっちゃんとかがいて、大いに発奮して食材を買い込んでしまいました。特に嬉しかったのが、夕方から値切り始める魚屋さんで、鱈の切り身と、トレイにたっぷりの白子をたったの600円で売ってくれました。ちなみに白子は豆腐屋で売っていた生湯葉と一緒に、湯通ししてポン酢で頂きました。

  2. 日本橋をぶらぶら。
     難波~日本橋の辺りを、ぶらつきながら大量の古本や漫画を買い込みました。地元は古書店が貧弱で、中々目当てのものが見つからない&専門的な本は買い取ってくれない、という二重苦なので、持ち帰りの苦労を顧みず大量の本を買い込みました。ブックオフみたいなチェーンの古書店じゃなくて、専門書も取り扱ってくれる本物の古書店も沢山あるのが印象的でした。嬉しかったのが、今週分と先週分の漫画週刊誌を叩き売りしていてくれたこと。立ち読みする手間が省けました。
  3. 道頓堀で食い倒れ
     折角大阪に来たんだから、道頓堀で美味しいものでも食べ歩くことに。ご当地のラーメンを食べるのは習慣のようなものなので、人気の醤油ラーメン金久衛門をお昼に食べて、それからトルコアイスやたこ焼き(善し悪しは解らないので、私の好きなglobeのFACESPLACESを流していた店で買いました)を買い食いしたり、日本橋の本屋をひやかしたりして一日遊び倒しました。
     夜は串カツの「だるま」辺りでも食べて帰ろうか、と弟と相談しながら道頓堀を歩いていたら、串カツなら是非うちに来てください! というキャッチのお姉さんが現れて、少し大通りからは離れていませんが味は名店にも負けませんから! という熱意に絆されて、(本音を言うと探すのも有名店で並んで食べるのも面倒になっていたので)、案内をしてもらって串カツを食べることにしました。味は良かったのですが、肝心の店名を酒で失念してしまったのが残念です。

  4. 兵庫県立美術館「フィンランドのくらしとデザイン展」
     日曜日、フェリーが出港する六甲アイランドに近い兵庫県立美術館へ、「フィンランドのくらしとデザイン展」を鑑賞に行くことに。

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     兵庫県立美術館の屋上に座すマスコット、美カエル(みかえる)君です。
     この美術館は初めてではありませんが、面白い企画が多い私好みの美術館です。今回の企画、「フィンランドのくらしとデザイン-ムーミンが住む森の生活」も、北欧デザインが好きな私には大満足な内容でした。

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     各種デザインや、エーロ・ヤルネフェルトなどの風景画も素晴らしかったですが、私が一番心惹かれたのは、アクセリ・ガレン=カレラの一連の作品、特に大カレワラ神話を題材にした神話画、その中でも、恐らくこの展覧会の中でも目玉の一つと思われる、《ヴァイナミョイネンとアイノ》が最高でした。ヴァイナミョイネンから逃れて入水自殺しようとするアイノの楽しげとも言える表情が、いつまでも胸に残ります。
     マリメッコなどのスオミの有名なデザイン・プロダクションの作品は、紹介に留まらず販売もされていたのですが、予算の関係で断念。もう少し資産が有ればと悔やまれるところです。

  5. オチ
     私の旅行には大抵オチとなるイベントがつきます。
     フィンランド展を鑑賞した後、大学時代の友人と会って、ネパールカレー「PUJA」でナンのお代わりを何度も繰り返しながら昼食を摂り、三ノ宮を中心にぶらぶら歩きまわったり、ポートアイランドでUCC博物館なるものを見学してコーヒーを飲んだりして、いざ帰路に着こうとした瞬間、重大なことが発覚。私の利用しているさんふらわあパールは、出港が行き19:20、帰り19:50なのですが、日曜は19:00だったのです。大急ぎで六甲アイランドに向かうも後の祭。
     途方に暮れながらとりあえず住吉駅に戻って財布の中を確認すると、中は船賃ぎりぎり。豪遊が祟って、電車を乗り継いで大分まで帰還するにはぎり運賃が足りなかったのです。しかも、運悪くカードの類を忘れていて、現金でやりくりする以外に手はありません。みどりの窓口のお姉さんに泣きついて、残りの現金をカウントしながら、これだけの運賃で何とか本日中に大分に帰る手段はありませんか、と尋ねると、姫路まわりで少し遠回りにはなるも、手持ち予算でギリ帰れるルートを提示してくれ、態々それを印刷して持たせてくれました。
     この、住吉駅のお姉さんには感謝してもしたりません。


    何だかんだハプニングもありましたが、住吉駅のみどりの窓口のお姉さんのお陰で無事、大分に帰還することができました。買い込み過ぎた書籍を持ち歩いたせいで疲労困憊でしたが、結果オーライ。楽しい関西旅行でした、と括っておきます。 

球体関節人形製作記(その2)

 もそもそと独学で製作を続けてきた球体関節人形ですが、とりあえず一通りの部品が揃い、胴体と顔の大まかな骨格が出来上がって形になると、

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「やってみたら、思ったよりできるもんじゃん!」
 なんて、軽薄な感想を抱いたりもしましたが、私の大きな思い上がりでした。
 球体関節人形の、球体関節人形たる所以。
 人形の、球関節の部分こそが真に難しい部分で、四苦八苦しながら格闘中です。

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 膝関節部分と、股関節球。

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 肩関節部分と、肘と手首の独立関節球。
 これらの関節球とその受けの部分が、きっちりと過不足なく嵌まり込んで、滑らかに動くような関節にするためには、何度も微調整や削り込みの試行錯誤が必要で、随分苦労させられました。
 特に、股関節球は、球自体の精度が今一つ良くないので、股関節部分にしっかりと嵌り込むまで、かなりの削り込みが必要でした。
 もう、こんなに削っちゃっていいの!? というぐらい削っても、まだまだ削り方が足りなくて、球の方も綺麗な玉に近づける為に紙やすりで削ったりと、サンディング作業にかなりの手間をとられました。

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 関節作業の合間に作った、手足の指の部分も、かなりの難しさでした。
 不器用なもので、何度も指を折ってしまったりしながら、肉付けした当初はグローブのような形だった指を、女の子の指らしく整えていくのは、難しいながらも楽しい作業でした。
 参考にしたのが私の胼胝だらけの指だったせいか、あまり女の子の指らしくならなかったのが少し残念です。
 

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 逆に、簡単で楽しかったのは眼球作りです。
 虹彩の大雑把な形を作図して、瞳孔や虹彩の滲みなどを書きこみ、絵具で彩色。
 その後、適宜拡大コピーをして、切り取り、
 家具の滑り止めなどに使うピットクッションに貼り付け、
 手芸用品の紐の端を留める、ループエンドに嵌め込みます。

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 こんな大雑把なやり方でも、結構本物の眼球っぽく見えるのが、面白いところです。

 ただ、私の人形に目を入れると、どうも睨みつけているような表情になってしまうので、瞼周りを改良しなければいけません。
 個人的にはツリ目の女の子が好きなので、猫のような可愛らしい目にしたいところです。

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 何とか、一通りの関節の組み込みが終わったので、一度ゴム紐を通して、完成後にどうなるかの仮組みをしてみることにします。
 今までバラバラの部品だったものが繋がって、人型に仕上げていくこの作業には、正直、興奮を隠せませんでした!

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 球体関節人形さやかちゃん(仮名)、大地に立つ!

 素人の仕事で、関節の噛み合わせも、作業しながら、これは拙いなあ、と思う部分が幾つもあったので、支え無しでの直立は無理だろうと考えていたのですが、少し足をずらすことによって、なんとか自立してくれました!
 左足の方が少し長いので、足首と、股関節球周りをもう暫く削りこんで、もっと自然な形で直立できるようにしなければいけないようです。

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 まだ、後頭部を閉じていないので、完成時にはもう少し後ろ重心になるでしょうか?
 まだ髪も目も無いので、リトルグレイのような感じですねw
 これから、もう一度分解して、各関節の微調整と、左右非対称の部分の削りなおし、それから細部の作り込みです。
 顔、耳、手足の指、などなど、女の子のチャームポイントとしての部分がどこも不細工なので、仕上げまでにもう少し美人さんに仕上げてあげたいですね。
 ド素人が背伸びして色々と無理をしてみましたが、最後にもう一踏ん張りして、胸部に関節球を仕込んでみたいと思います。
 ハンス・ベルメールではありませんが、やっぱり、球体関節人形のチャームポイントは、腹胸部の大きな関節球だと思いますので。
 それが済んだら、いよいよ表面の仕上げと彩色です!
 さてさて、今年中に仕上げることができるでしょうか……?